毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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引きこもり河童の日常

あたしって、なんなのだろう。

何のためにここに存在して、大したこともせず過ごしているのだろう。

生き物は皆、何かを成し遂げるために生きている。

虫や動物、植物はその種を繁栄させるため。

ならあたしは、何のために………何かをしたいっていう欲がない。

なにもしたくない、なにも考えずにただただ時間を浪費していたい。

だけど、そんな自分じゃ駄目だということも思っている。

 

なら、あたしは何がしたいのか、何を成し遂げたいのか。

 

その理由が見つからないから、今日もつまらない一日を過ごす。

このままだと駄目だという思いを無視して。

 

 

 

 

「………いい引きこもり日和だなぁ」

 

季節もよく、外にいても不快感のない気温、そんな日こそ部屋の中に引きこもるのが良い。

昔のこんな日に、誰かにこのことを言ったら変な目で見られた。

あのころは馬鹿だったなと、自分でも思い出すたびに思う。

まだ見知らぬ他人との関係を築きたいとか、思ってて………

 

「あー!ぁー……」

 

床に頭を打ちつけてあの頃の自分を嘆く。

本当に馬鹿、阿保、価値なしの屑。

あーあ………

もうやだ自分に嫌気がさす、寝たい、そのまま溶けたい。

そんなことを毎朝考えながらも、外に出るのは…

 

「るりー、起床時間だ起きて働けー」

 

声をかけてくれる人がいるから………

 

「今行きますぅ……」

 

 

 

 

「いやー、やっぱりよく考えてみても変わったよねるりって」

「そうですか?」

 

私なんて今も昔も人見知りの引きこもりだと思うけど………

 

「だって最初の頃なんて、私が声かけるだけで奇声をあげて泡吹いてたじゃん」

「えー……そんなことありましたっけ」

「気絶してたから覚えてないんだろうさ。それにしても酷かったよあの頃は」

「うっ」

「日の光浴びただけで体が焼けるー、とか言って気絶してたし」

「うっ」

「誰かと目が合うだけで、そんな目であたしを見ないでーとか」

「うぅ…もういいじゃないですか!今は良くなったんだから!」

「いーやどっこいどっこいだね」

 

そんなはずは………確かにちょっとしたことに叫んだらするけど、昔よりは良くなってる筈……

 

「……そういえば、ずっと聞きそびれてたんですけどいいです?」

「なーに急に」

「にとりさんは、なんであたしなんかに構ってくれるんですか?」

「今更だなぁ」

 

あたしみたいなやつ、放っておいてくれてもよかったはずなんだ。

事実、あたしに初めて静かに声をかけてくれたのはにとりさんが初めてだった、そこからあたしはいろいろと変わっていった。

にとりさんには感謝している、ただ、なぜそんなにあたしのことを気にかけてくれるのか疑問に思った。

 

「そうだなぁ………はっきり言って、許せなかったんだよ」

「え、許されてなかったんですかあたし」

「当たり前だろう?河童ってのは、一度夢中になったら気が済むまでそのことに没頭するやつだと私は思ってるんだ。私の知ってる奴はみんなそう。だけどるりは違う、そもそも夢中になることを探そうとすらしないし、偶然見つけても自分の中でしまっているだけ。そんな河童らしくないやつを、その時の私は許せなかったんだ」

「なんかごめんなさい」

「本当だよ、あの時何回毒殺しようと思ったことが」

 

・・・え?

 

「……いや冗談だって」

「本気でしたよね?いま凄く遠くの方を見つめてましたよね!?」

「はっはっは」

「なんですかその笑い!ここわいんですけど!」

「そんなことよりほら、早くあのもじてぃーってやつもう一個作ってくれよ」

「そんなことってなんですか!」

「地下」

「作りますっ!!」

 

やだ………閉ざされた空間なのにどこにでも人がいるあの空間は嫌だ…絶対にもう行きたくない………

 

「うぅ………そういえば、別に文字なくてよくないですか?」

「何言ってるんだ、文字がなかったらもじてぃーじゃないってあいつも言ってたじゃないか」

「言ってましたかそんなこと?」

「大体!文字がなかったらなんて呼べばいいんだ!」

「それは………てぃー?」

「てぃーってなんだよ!」

「ちょ落ち着いてください!どうでもいいじゃないですかそんなこと!」

「地下送りにするぞ!」

「理不尽!!」

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ、はー………」

「え………どうしたんですか。死にかけてますけど」

「えあぁ、そ、その声は……あ、あばし———」

「犬走、あと椛でいいです」

「も、椛さん、どうしてこ、こんなところに」

「いやこっちが聞きたいんですけど。何があったんですか」

「えっと……毎日の作業による負担が一気に出ちゃったのかな………普段はこんなことないんですけど……」

「そう見たいですね、叫ぶ元気もない、と」

 

あたし、そんなに毎日叫んでる?確かにさっきは驚いたものの、しんどくて声が出なかったけど……

 

「というか、どうしてこんなところに?天狗の寮の近くなんですけど」

「はぁ……多分、疲れて、それでも頑張って作業場から帰ろうとして………転げ回って今に至ると……」

「あー、じゃあ私さっさと帰った方がいいですかね。あんまり喋ってると負担になるんじゃないですか」

「そ、それは……まぁ、そうなんですけど」

「じゃあそれでは」

 

あっ………行っちゃった………

本当にこのまま転がって帰ろうかな………いやでも流石に無理があるよね……どうしよ……

あれ、誰かあたしのこと見てる?

椛さん……何故見てるんです。

 

「送っていきますね」

「……ありがとうございます…」

 

 

 

 

「ありがとうございますぅ……もう帰れるくらいには回復したので、ここで」

「そうですか、よいしょ」

 

あ、やっぱり体重い。

 

「なんか……凄いですね、そんなになるのに頑張って毎日……」

「はぁ……こんなのになる自分が情けないとは思ってるんですけど………やっぱり毎日人のいるところにいるといろいろ……ずっと我慢してたからこんなのになっちゃうんですかね…申し訳ないです」

「まぁ、あそこで死体になって発見されても困るんで」

 

いや流石に死んでるとは………野良妖怪に襲われたらあり得るけど。

あ、考えたら足が震えて……い、いや、これ以上迷惑をかけるわけには………

 

「椛さんも何かあったんですか?」

「え?なんのことです?」

「その、疲れた顔してたから……違いましたかね」

「……そんな性格なのに、人の顔みてそういうことはわかるんですね」

 

顔なんてそんなにみていない。

声の感じとか、気配とか、動き方でそうかなって思っただけなんだけど。

人の顔なんてそんなに見れるわけがないし………今もずっと足元見てるし。

 

「まぁ、河童には関係ない、というか関わって欲しくないことなんですけど……そうですね。面倒事に巻き込まれないように気をつけてとしか……」

「えっと、どういうことです?」

「知ったら気絶しそうなんで言いません」

「え?……ちょ、ちょっと!一体なんなんですか!?こ、怖いんですけどお!?あ!行かないでくださいよおおおおお!!」

「叫ぶ元気あるなら大丈夫そうですね、じゃあ」

 

あ、あぁ。

今夜は寝れそうにない、なぁ………

 

 

 

 

と思ってたらめちゃくちゃぐっすり眠れた。

昼過ぎになるまでぐっすり眠れた、昨日そんなに疲れてたのかあたし………帰ってきたらにとりさんに死人の顔してるって言われたし、その顔を沢山の人に見られたし、溶けてなくなりたい………あっ死にそう。

 

「おーいるりー、聞こえてるかー、生きる屍になったのかー、埋めるぞー」

「………あ、にとりさん。どうも」

「どうもじゃなくてさー、変だよ?驚かしても叫ばないし、呼び掛けても反応しないし……よく考えたらいつもが変だったねごめん、全然普通だった」

「えー………凄い失礼なんですけど……すみません、なんか疲れてるみたいで……」

「疲れてるのはいつものこと………んー、まぁいいや、今日休んでていいよ」

「………え?今なんて」

 

おかしいな、耳までおかしくなったのかな。

少しでも働かないって言ったら地下労働という言葉をチラつかせて無理やり言うことを聞かせるにとりさんが、休んでていいって……

 

「や、ややややすすんでて、ていいっていいったんでぃすか」

「そうだけど、大丈夫?」

「あ、ああ、あああまずい!まずいですよおおおお!!にと、にとりさんがおかしくあああ!!」

「え、え………私はいたって普通だけど?」

「あば、あばばばばばばぼぼぼぼびべ」

「あぁ、うん………じゃあ休んでなよ、うん」

「滅ぶんだ………この世の全てが滅んで消え去るんだ………ぴぎゃ」

 

 

 

 

「っは!!………あ、あれ。確かにとりさんが……」

 

……まさか、気絶してた?

な、なんで、どうして……まぁいいや。

なんか今日は休みもらったような気がするし、ゆっくりしよー……

 

 

時々休憩しながら、にとりさんに頼まれてる例のあれを作る。

河童としての仕事じゃなくて、にとりさんからの個人的な頼みだからこれを仕事にするのは許されない、だから今日でできるだけ進めておきたい。

もちろん文字は無しで………あれのどこがいいんだろうか。

毛糸さんが何考えてるのか全くわからない、胡瓜ってやったあたしもあたしだけど。

 

毛糸さん………あたしが初めてまともに話すことができた相手。

なんで話すことができたのかは自分でもわからない。

頭がもじゃもじゃしてるからかもしれないし、あたしみたいに周囲からずれているからかもしれない。

少し怖いと思う時はあるけど、近くにいたくないとは思わない。

できればもっと会いたいけど、それはきっとあたしだけが思っている。

あの人はあたしみたいに話せる相手が少ししかいないわけじゃないし、自分の居場所を自分で作っている。

あたしは会いたいけど、向こうはそこまでじゃないだろうからなぁ……唯一あたしの考えを肯定してくれた人だけど、別に毛糸さんが引きこもりってわけじゃないから。

でもあたしが今こうやって外に出れてるのは毛糸さんのおかげだと思う。あの人が無理やり扉を開けてくれたから………

 

「ぅうん、頭痛い……」

 

何も考えずに、あたま空っぽにしよう。

せっかく休みなんだ、やることだけやってあとは自由に過ごそう。

 

「そういえば……椛さんが言ってたあれって結局どういうことだったんだろう」

 

思い出してよかった、あれってきっと、数年前のあの戦争みたいなやつが起きるってことなのかな。

………だとしたらまずいよね……でもそうだとして、なんであたしなんかに……他の河童には知らされてない?だとしたら知らせた方が……いやいや、そんな危険そうなことがあるのなら普通みんなに晒されてるよね。

あたしが引きこもってて知らないだけだ、うん。

けどもし本当にそれに巻き込まれたらあたしはどうすれば………

駄目だ駄目だ、あたま空っぽにしようって思ったばかりなのに。

久しぶりにこういう日があると調子が狂うなぁ………

 

天狗の人って怖いし、河童なんて弱い妖怪だし……でもきっと、椛さんがああいう風に言ったのは、きっと臆病な河童を怖がらせないためとか、そういう理由だ。

きっと私が何もしなくても解決する、引きこもりの人見知りにできることなんて、そう多くないのだから。

でも、もしあたしの失いたくないものが失われたら……辛い、考えただけでも辛すぎる。

あたしは、一人が好きだけど一人じゃ生きられない。

 

引きこもりたいって言ってるくせに、他者との関わりを求めているあたしは一体……何がしたいんだろう。

 

前の戦争の時から最近まで、平和じゃなくなってきてるからなぁ、平和じゃないの嫌だなぁ。

なんでみんなそんなに争いたいのだろう、なんでそこまで傷つきたいのだろう、あたしにはわからない。

わからないけど、きっといつか、そういうことをやらなきゃいけない時が来るのは、わかってる。

わかってるけど……

 

「嫌だなー………」

 

 

 

 

「来ましたか椛、柊木さんと私でだいぶ先に話進めておきましたよ」

「それはいいんですけど……今日は特に警戒しなければいけないのに、柊木さんなんで先に上がってるんですか」

「眠かったから」

「ちっ………」

「すみませんでした」

「まぁまぁ。それで、どうでした?」

「多分明日ですね、夜が明ける頃に始まるんじゃないですか」

「早いな、じゃあ俺寝るわ」

「まぁ待ってください、椛、誰にも言ってませんよね?」

「もちろ………」

 

言ってしまった………

 

「………誰に言ったんです?」

「河童に一人……あの引きこもりの」

「あー、まー、いいんじゃねえの。多分言いふらしたりとかしないだろうし、向こう側でもないだろ」

「………やっぱり、今からでも言えないんですか?」

「無理です。何せ上に報告するにも確かな証拠がないですし、上にも敵がいるのはわかってますから」

「そんなことはわかってますけど……」

「不確定情報じゃ先に行動できないってことだ」

 

裏切り者、か…

 

 

 

 

 

なにが……いったい…

どうして、こんなことに……

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