毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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「ため込む程度の能力」


引きこもり河童の災難な一日

今日はにとりさんが起こしに来なかった。

別にそういう日は大して珍しくない、にとりさんが忙しい日は大体そうだ。

でも今日は外の様子が違った。

いつもなら外は河童の喧騒に溢れている、今日も騒がしいと言えば騒がしかったけど、いつもと違う感じがした。

なにかこう、凄く怯えているような、恐怖の気配。

今までなら外のことを気にしなかったのに、自分は変わったなあなんて思っていたけど、だんだんその恐怖の気配が大きくなり始め、外で何か大変なことが起ころうとしているのがわかった。

あたしがわざわざ外に出なくても、誰かが解決してくれるだろう。

そうは思いつつも、何故か部屋の中にいる方が怖くなってきた。

何故怖くなったのかわからなかったけど、あたしはその時自分で部屋を出た。

 

 

部屋を出ると、ここの周りは大した変化はなかった。

ただ一つ、河童が全くいないことを除いて。

 

「……お、置いてかれた……?」

 

周りに人の気配が全くない。

大した変化はないと言ったけど、少し道が荒れていたり、建物の壁に傷が入っていたりしている。

 

寒気がする

 

「ふぎゃ」

 

後ろから飛んできた何かにぶつかり、顔面から地面に当たりそのまま転がってしまった。

 

「な、に、今の」

 

不意を突かれたのと頭をぶつけたのがあって酷く目眩がする。

 

「まだいたのか、河童」

「……だ、誰ですか」

「見て分からないか?白狼天狗だよ」

「白狼天狗………じゃ、じゃあ、ここで一体何があったのか知って…」

「……お前阿呆だな」

「な、なにを」

「ここを襲ったのは俺たちだ」

 

………っは

 

「すすみません、も、もう一回言ってもらえますか」

「はぁ………お前ら河童を襲撃したのは俺たちだ」

二回聞いたけどやっぱり意味がわからない。

 

「なんでそんなことを……河童は今まで、安全な暮らしと環境を条件に山の傘下に……」

「河童だけおかしいだろ、そんなこと」

「そ、それが理由で?」

「いーや?特に河童に恨みはない、ただまあ必要だったってだけだ」

「そんな理不尽な…」

「理不尽で結構、河童の事情なんて知らんわ。ほら行けよ、他のやつは向こうのほうに行ったぞ」

 

逃げろということだろうか。

………逃げよう、このままだとどっちにしろすぐに死にそうだ。

 

背中を向け、他の河童がいると言う方へ向かう。

 

 

でも、そう言うわけにはいかない………

 

懐から銃を取り出して素早く後ろの天狗を撃ち抜く。

あたしには衝撃が強く、少し体が後ろへ飛んでしまったけど、弾丸は勢いよく天狗の首を掠めていった。

 

「はぁ…はぁ……し、死んでないよね」

 

不意に首を弾丸が掠めていけば、首の肉も多少は抉れるし、衝撃とかで気を失うはずだ。

倒れている天狗がまだ生きてることを確認したら次の弾を装填して、また他の河童がいるって言う方向に走り出した。

なにが起こったのかはわからないけど、とんでもなく悪いことが起こってるのはわかった。

 

 

 

 

 

なにが……いったい…

どうして、こんなことに……

 

「るり!無事だったのか」

「………ぁ…にとりさん。……何があったんですか」

「私にもわからない。ただ聞いた話によれば、鴉天狗や白狼天狗たちが突然河童の集落を破壊し始めたって……るりはどこにいたんだ?探してもいなかったから心配したんだよ」

「すみません、まぁ大丈夫でした。死んだ人はいないんですか」

「わからない、何にせよみんな混乱してる、こんな状況じゃいる奴といない奴なんて全くわからないよ」

 

他の河童は怪我をしていたり、混乱していたり……よほど天狗に攻撃されたのが衝撃だったのかな。

 

「るりは大丈夫なのかい?」

「なにがです?」

「いや、こういう時真っ先に叫び散らしそうなのはるりだからさ」

「あぁ、まぁ。あたしは大丈夫ですよ。そんなことより、何があったのかわかりますか?ここに来る道で何回か天狗に襲われたんですけど」

「やっぱりなんかあったじゃないか。………その様子だと鉛玉をぶち込んでやったみたいだね」

 

全員急所は外した、みんな不意からの一撃だったから気絶してるだろう。基本頭に撃たなきゃ即死はしないだろうし。

 

「そんなことはいいんです、何があったかわかりますか?」

「そ、そうか。まぁ私なりにいろいろ考えたけど、多分天狗たちの謀反じゃないかな」

「謀反………天魔に何か不満が……」

「多分、最近出てきたあの八雲紫って人が気に入らないんじゃないかな」

「じゃあこんなことにする必要は?」

「ん……あの賢者に下るのが気に入らないんじゃないか。天狗の矜持がーって。気持ちはわかるけど無謀だよね、こんなことして。ああいう奴らは私たちとは違う次元にいるんだから」

 

もし本当にそういうことなら、全く持って馬鹿らしい。

関係のないやつを巻き込むな、自分たちだけでやってろ。

そんなつまらないことで………私の平穏な日々は壊されたの?

 

「ちょっと、どこへ行くんだ」

「にとりさん、武器庫ってどこですか」

「武器庫…ってお前、冗談だろ?」

「冗談だったらいいんですけどね、もう止まりそうにないです」

「どうしたんだよ、一体」

「怒ってるんですよ、あたし」

 

自分勝手な理由で弱者を傷つける奴らに。

下の奴らの面倒も見れないで偉そうにしてる奴らに。

何より、そんなことが起こってたっていうのに呑気に引きこもってた自分に。

 

「もうあたし、自分以外の奴のことなんてどうでもいいとは思えないんです」

「るり……」

「たとえ見知らぬ他人でも、それはあたしの一日を作る一人だって知ってるから、こんなあたしでも気にかけてくれる人がいるから。居場所があるんです、あたしには。それを守ろうとするのは当然ですよね」

「………あー、別に止めはしないけどさ。まぁ、そういうことか、大体分かったよ。私にお前を止める権利は無いからな。向こうのほうに、私が作って置いてる奴が保管してある、。行ってこいよ」

「…ありがとう、ございます」

 

 

 

 

自分でも、あんなことを思ってるとは思わなかった。

何故ってにとりさんに聞かれて、自然と言葉が口から出ていた。

あれがあたしの本心だったのだろうか、あれがあたしのやりたいことだったのだろうか。

何にせよ、ここに立ったからには自分の満足いくまでやるつもりだ。

 

何処かへ向かっている天狗の一行に向かって、榴弾砲を向けて発射する。

弾に気づいた何人かは回避行動をとったけど、何人かは巻き込まれた。

こちらに気づいた様子の天狗にさらに弾を発射する。

火薬の爆発と同時に飛び散る破片が身体に刺さり、爆発に巻き込まれた天狗は動かなくなる、そしてそこにまた爆発がやってくる。

こちらへ飛んでくる天狗には、親指くらいの大きさの弾を狙撃銃で撃ち飛べなくする。

撃ってる方にも衝撃はすごいけど、弾丸が大きい分殺傷能力が高い。

 

「貴様ああ!!」

 

何かを天狗たちが叫んでいる気がするけど、聞く余裕はない。

ただひたすらに弾をこめて撃ち続ける。

 

予めここを通るということは予測していて、そこより上を取るようにあたしは位置している。

空を飛んで無理やりこっちにこようとすれば、こっちから放たれる大量の矢に刺さる。

下から走ってこようとすれば、飛んでくる弾ら避けれても地面に埋め込められた地雷に爆破される。

 

下準備と位置取りだけは有利だ、逆にそれ以外は何も勝ってない。

数も、個人の力も、種族としての力も。

だから、最初から私一人で全滅できるなんて思っていない。

私がここで死ぬまで抵抗したところで、少しの時間稼ぎにしかならないだろう。

 

あたし達河童は虐げられるだけ虐げられて、あいつらは革命家気取りでこのまま攻撃を続けるのだろう。

それが気に食わない。

要するに、完全にあたしたち河童は天狗より下の存在だと思われているっていうことだ。

もちろん河童の方が優秀と言い張るつもりもないけど、奴らには大した力もない臆病な奴らと認識されている。

自分たちで独立して生活している河童を、奴らは自分たちの成し遂げようとしていることを有利に進めるための駒だとしか思っていない。

 

いくつもの攻撃を避けて、あたしに真っ直ぐに突っ込んでくる敵が現れた。

近づけばもう終わりと思っているのか、馬鹿みたいに真っ直ぐ突っ込んでいる。

背中に背負っていた散弾銃を向けて放つ。

耳を塞ぎたくなる大きな音と、体が飛ばされるような衝撃波と共に弾丸が放たれ、近づいてきた天狗の体にめり込んでいく。

一度来られると、それが一瞬でも弾丸の密度は下がる。

すぐに攻撃に戻ろうとするけど、すでに何人もあたしの首を狙いに飛んできている。

全部あたし一人でやってた攻撃だ、あたしがやらなかったら一気に攻撃の手は止まる。

一回分の球しか装填できない散弾銃は、弾を再装填している時間がないから使い捨てになる。

そのことがわかってたから何丁もってきているんだ。

近づいてくる天狗に、ただひたすらに弾を撃ち続ける。

衝撃で体が後ろに仰反りながら、新しいのに持ち替えて撃ち続ける。

どんどん身体に衝撃が蓄積されていく、負荷がどんどん溜まっていく。

でも止まらない、止まれない。

山の土がどんどん血を吸っていく、どんどん肉片が飛び立っていく。

 

「き、っつい」

 

何発撃った?何人落とした?残ってる奴は?

近場にあった散弾銃がもうなくなった、もう取りに行く暇もないし、負荷がたまりすぎている。

溜めきれなくなった衝撃を、手のひらから一気に前方の天狗たちに放出する。

一発の威力が高い散弾銃を撃つ時の、何回分もの衝撃が至近距離で放たれて、遠くの天狗も含め吹っ飛んでいった。

 

さっきのをやったっきり、もう頭が働かない、体が動かない。

天狗は全然減ってない、むしろ増えてるようにまで見えてくる。

 

「それで終わりか」

「はぁ………はぁ………」

 

背中に翼の生えた天狗がやってきて、何かを言いにきた。

 

「河童の分際でよくここまでやったものだ。だがここまでだな」

「はぁ……はぁ……ふぅ」

「やれ」

 

天狗が近くにいる人達に手を振り下ろして命令を下す。

でも、何秒経ってもあたしには何も起こらなかった。

 

「どうした、やれと言っている…な」

「すみませーん、嫌でーす」

「誰だ貴様……こいつをやれ!」

「すみませーん、もう全員やっちゃいましたー」

「な——」

 

翼の生えた天狗が殴られて、坂を転がり落ちていった。

天狗を殴った人をよく見ると、凄く見覚えがあった。

 

「大した怪我がなさそうで良かったよ」

「はぁ……にとり、さ…ぐへ」

「あ、気絶した。……まぁいいか。おーい、残ってる奴ちゃんと縛っとけよー」

 

 

 

 

「……ん、んー?」

「おぉ起きたか」

「………夢?」

「夢じゃないな、うん。丸一日寝てたみたいだぞ」

「……あ、目つき悪い人」

「酷いな」

 

この人さっきなんて言ってたっけ………あ。

 

「なに人の部屋に勝手に入ってるんですかあああああ!!」

「ちょ——ぐはっ!!」

 

は、しまった、思わず殴り飛ばしちゃった。

 

「だ、だだだいじょ、ぶです、か」

「泥みたいに寝てた直後にこれか、元気そうで何よりだ」

「……は、鼻血」

「あ、ほんとだ。それよりここお前の部屋じゃねえから」

「えっ」

「残念だったな、ここは部屋じゃなくて思いっきり屋外だ」

 

そういえば、異様に風通りがいいなと思ったら、頭上に輝く星空が。

 

「なにがあったか知らんだろうから教えてやぐばぁ」

「起きたかるり!よかったー!」

「あ、にとりさん」

「なんか骨折れた気がするんだが、今突き飛ばされて完全に骨がいった気がしたんだが」

「大した怪我もないのに丸一日寝込むなんて、なんて貧弱なんだお前は!」

「え、えーと?んー?」

 

つまり………どういう意味なんだろう。

 

「……あ、そうだ。なんであの時にとりさんが?」

「ふぅ。なんでってお前、さすがの私でもお前一人では行かせないに決まってるだろ?他の河童を説得して、お前が戦ってた奴らを後ろからこう、ちょんちょんしたんだよ。都合よく文たちが来たから簡単に行けたしね」

「じゃあ、みんな無事なんですか?」

「あぁ、みんな修復作業してるよ」

「そうですか………」

 

よかった……死にに行った甲斐があったってものだ………

 

「つまり、あたしが最後にやられそうになった人が…」

「最後の一人だったってわけだな。なんとかなってよかったよ」

「ここで引きこもりの君に残念なお知らせだ」

「な、なんですか急に。残念なお知らせ?」

「後ろを見たまえ」

「後ろ?」

 

目つきの悪い人に言われた通り後ろを見ると、建物の崩れた跡があった。

 

「これは……?」

「お前の家の跡」

 

………

 

「ぴぎゃああああああああああああ!!」

 

 

 

 

やれやれ、なんか知らないうちに敵勢力が半分近くまで減ってるわ、河童が果敢に立ち向かってるわ、地形は荒れに荒れてるわ………こうなるとは思わなかったなぁ。

 

「次は俺たちの番かね……?」


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