ドンドンと、扉を叩く音がする。
うるさいな………そんなに叩いたら扉が壊れちゃうでしょうが……ってか眠い、眠すぎてもう………ねむ。
「おら、客人だぞおら、あーけーろーよー」
なんだよ……りんさん?あ、眠い。
眠いしいいや、ほっとけ。流石に寝てる奴の家に強引に入っては来ないだろ……ねむぅ…てか今何時。
「そっちがその気ならいいだろう………おらあさっさと出ろや糞毬藻おおお!!」
「ちょ、あおああああ!?扉が!私の家の扉がっ!あと毬藻じゃない!」
「どうでもいいわ糞毛玉」
「今の私はただの毛玉を既に超えた!今の私は!ケサランパサランだっ!!」
「よし起きたな、外でろ」
「………」
「あのさりんさん。髪の毛掴んで引っ張るのはよしなさいよケサランパサランにそんなことしていいと思ってるの?幸運が訪れなくなるよ?いいの?超絶不幸体質になるよ?」
「ただの毛の集合体が調子に乗るな。あと寝すぎだ」
「りんさんが寝なさすぎなんだよ」
「妖怪が人間より長く寝るのかお前。私は昨日から寝てないけどな」
「人間やめてるじゃん、あと私は妖怪じゃない、多分。ってかそれより何の用ー?私今日は一日中寝るって決めてたんだけど」
「嘘つけ」
「なぜバレた」
自宅から浮いた状態で髪の毛を引っ張られてすいーっとどこかへ拉致られていく。
抵抗、というか毛玉になれば私の毛根は助かるだろうけど逆に酷いことされそうなのでこのままにしておこう。
というか家の扉直したい。
なんやかんや良く壊されるから予備の扉ががあるんですよこれが、それをつけるだけで修復できる。
「なんでみんな私のおうち壊すん?」
「壊し甲斐があるから……かな」
「?え、え?」
「少し用がある、付き合え」
「えっ………」
「おい、変なこと考えてるだろ刺すぞ」
「すみませんでした」
日本語って難しいねー。
そうこうしてるうちに既に湖、じゃなくて霧の湖までやってきた。
遠くの方に大ちゃんとチルノ、その他モブ妖精がいるのがわかる。
「ん?あれは……毛糸さん?なにやってるんだろう…」
「あ、お前は!」
「あぁん?」
「………大ちゃん帰ろうよ」
す、すげえ、あのチルノをにらみつけて退散させるとは、さすがりんさん、火の鳥並みの眼光。
あと何気に大ちゃんに白い目で見られた、責任とってね。
「最近よく妖精に絡まれるんだが。私のことが怖くないのかね」
「まぁ妖精と妖怪は違う生き物だし、私みたいにりんさんを見る目が違うんだろうさ。先に言っとくけど私は妖怪じゃない」
「妖力あるくせにか?」
「これにはね、私にもわからないこう、すごく不思議なことが関わってるんだよ、うん」
「不思議なのはお前の頭だろ」
「ほらそうやってすぐ人の頭に口出すー。りんさんだって人間要素見た目だけでしょうが。蹴るだけで木をへし折る人間なんて私知りません」
「私は人間だ、誰がなんと言おうとな」
人間ねぇ…
そっか………私は人間じゃないよね、誰がなんと言おうと。
人間と人間じゃない奴が絡んでるなんて、普通ならあり得ないんだろうなぁ。
最も、私もりんさんも、人間から浮いて、妖から浮いてる同士だからこうやって絡んでるのかもしれないけど。
「別に人間は妖怪と仲良くしちゃいけんなんていう決まりは無いと思うけどなー、まぁお互いが憎み合ってる時点でそもそも仲良くならんのだろうけど」
「私とお前が仲がいいのかは知らないが、まぁそうだろうな。そもそも寿命が違う、生き方も違う。考えるだけ無駄だな」
「いつかそんな時代が来たらいいのにねー」
「少なくとも私が生きてる間は確実に無理だな」
悲しいけど、事実なんだろうなー。
もう人間とか妖怪とか、そういう概念すら馬鹿らしく思えてくる。
一度毛玉になって拘束を解き、自分で浮いて歩く。
「で、どこ行くん?流石に行先くらい言ってよ」
「最近派手にやってる奴がいてな、何回も逃げられてるんだよ、お前暇だろ?手伝え」
「私武闘派じゃないのにー。暇は事実だけど………話は通じそうにないの?殺すのはちょっとアレなんだけど」
「無理だな、そもそも人喰い妖怪だ、どうしようもない。知性もないようだしな」
そういえば、山の天狗とかは人喰いじゃないのか………いやでも、なんかで、天狗は子供をさらってくるとか聞いたような……うーん?
「まぁいいけど……りんさんが何回も逃げられるって珍しいね」
「ま、お前にはわからんだろうが私も歳とってきてるからな」
「何歳?」
「知ってどうすんだ」
「別に」
体が追いつかなくなってきたとかなら、こういうことするのも程々にしておいた方がいいと思うんだけどな。
まぁそういう風なこと既に何回か言ってるけど、全部無視されてるから言っても無駄なんだろう、本人がやりたいって言ってること止めるのも無理だし。
「そっちはどうなんだ、あの後も何度かあそこの化け物に会いに行ってるんだろう?」
「化け物いうのやめたげて、というかなぜ知っている」
「見てるから」
「どこでぇ?」
あの後も、幽香さんには何ヶ月に一回くらいは会いに行ってる気がする。
私の一年の感覚が既に狂ってるので合ってるかはわからないけど。
「まぁ、ちょっと話するだけだよ?種とか少しもらって育てるけど」
「それだけじゃないだろ、見てたらわかるぞ」
「だからいつどこで見てるのさ。まぁ妖力の使い方とか、教えてもらうこともないこともないけど」
幽香さんの妖力は、私みたいな毛屑が持つには大きすぎる、だからといって手放すこともできないし、私に必要な力なのも事実だ。
だからせめて、ちゃんとした使い方を知っておきたい。
私なんてまだ生まれて数年、人間の子供より若い、前世の記憶もろくにないし知らないこともまだまだ多い。
そういうことを知っておくのも兼ねて、幽香さんに会いに行ってる。
「今度りんさんも行ってみる?いい人だよ」
「私に死ねってか、いいぞ受けて立とうじゃないか」
「なんでそうなるん?まぁいいや、どうせ来ないし」
というより、慣れたっちゃ慣れたけど、ルーミアさんも紫さんも幽香さんも地底であった鬼の人もりんさんも、オーラがやばいんだよ?
私いっつも気配がやばいとかオーラがやばいとかばっかり言ってるけど、こればっかりは事実だし怖いからしょうがない。
私も幽香さんと同じ妖力を持ってるから、それっぽいのなら出せるのかもしれないけど。
「りんさんて空飛べないの?いっつも地に足つけてるけど」
「飛べるには飛べるが……あれだ、見つかるだろ。先にこっちが見つけた方が楽だし早く終わるしな」
「まぁ確かに」
ふと気になってりんさんの歩き方をみてみると、あったばかりの頃と比べて威勢がないというか、落ち着いているような気がする。
まぁ妖精を見かけるたびに斬りにいってたころに比べたら遥かに落ち着いてるけど。
私が命をかけて話し合いしたおかげだな、うん。
「あとその服なんだよ」
「はい?」
「文字書いてんだろ、なんだよ」
「なにって、文字Tですよ?」
「は?」
「ん?」
「あぁ……そういう…」
「なんか変なこと考えてない?違うからね?いや、あってるのかもしれないけど」
変な服着てるのは事実だけど、自覚してるだけ私はマシな方だと思うよ?世の中には威風堂々とか書いておいてそれをカッコいいって思ってる残念な人がいるんだから。
「前から思ってたけどさ、その刀好きだよね。あった時からずっと使ってるし。気に入ってるの?つか壊れたりしないの」
「特別頑丈でいい素材使ってるからな、あと壊さないように使ってるんだよ。黒いのはあれだ、黒いというより月明かりに照らされないってとこだな。夜は見えづらいだろ」
「うん、見えづらいおかげで危うく私の膝から下が全部さよならしそうになったけどね」
「いいだろ、どうせ生えるんだから」
「よくないし、あれ私いっつも我慢してるけどめっちゃ気持ち悪いからね?こう、傷のところがぐぢゅぐちゅってなるからね」
まぁそのおかげでなんとか今も五体満足なんですけどね。
確か普通の妖怪なら、取れた手足とかもなにかしらでくっつけて結構な間放っておいたらくっつくんじゃなかった?
完全に欠損したら種族によって生えてくる生えてこないが変わるとかなんとか。
まぁ私には関係ない話だけど。
「一つ試したいんだが、身体を横に半分に切られたら治るのか?先に死ぬのか?」
「えー?さすがに先に死ぬんじゃない?」
「案外生きてると思うけどな、試そう」
「絶対断る。っておい近づいてくるな!それ以上近づいてきたら帰るよ私!」
「ちっ」
こわ、怖いんですけど、マジの舌打ちだったんですけど。
というかそんなに私に一緒に来て欲しいの?そういうこと?つまり……
「謝ります、すみませんでした、だから指をこっちに向けないでください」
「ってことはやっぱり変なこと考えてたな、腹立つから蹴るわ」
「ちょっ、いって!もう!そういう暴力的な思考よくないと思うな私っ!」
「お前が変なこと考えるから悪いんだろ」
だからなんで思考読んでくるんですか……
「そっち行った!」
もはや言葉にならないくらいめちゃくちゃな見た目をした怪物を見つけて交戦、動きが速くてなかなか仕留められない、さすがりんさんから何回も逃げてるだけあるな。
「おら死ねえ!」
りんさんの刀が怪物の胴体を真っ二つにする。
「こんなキモい見た目してるなんて聞いてなかったよ!?」
「言ってないからな!」
怪物の体が真っ二つになり死んだと思ったけど、下半身はそのままで、上半身が瞬く間に全身元どおりになった。
「お前と同じ感じか。やっぱり斬っても生きてるだろ」
「こんな奴と一緒にしないでくれる!?」
なるほど、傷を負っても回復するんじゃあ仕留め切れないってわけか。
これが私とやりあってきた人目線かな?こりゃ鬱陶しいわ。
逃げられないということを理解したのか、まっすぐこっちに向かってくる怪物。
霊力で冷気を操って氷を生成し、地面から尖った氷を怪物の体に刺す。
だけどその体はさっきよりも硬くなっていて、氷をそのまま砕いていった。
「うそん!硬くなるとか聞いてないし!」
「そいつ喋らんからな」
妖力を使って障壁を張り、突進を受け止める。
なかなかの衝撃が腕にくる、障壁はヒビ一つ入ってないけど私の体ごと後ろへと下がる。
私が受け止めてる間にりんさんが怪物の頭に刀を刺した。
「やったか」
「いやだからそれやってないやつ!」
お約束のように、刀が頭を貫通しているのに暴れまわる怪物、どうなってんのそれ、さすがに私でも死ぬよ。
そしてあの硬い体をスパスパ斬ってたりんさんもまぁ、技術が高いんでしょうねえ。
私なんてこうやって妖力込めて弾飛ばすか殴るか氷出すかくらいしかできないのにさ。
「おい!お前もっと派手なことしろよ!」
「無理いうなよ!あんたと違ってこっちはちゃんと死に対して恐怖あるの!今も足がガックガクして震えてんの!」
「いいからなんかしろ!いつまで経っても終わらん!」
そんなこと言ったってしょうがないじゃないか……
口からなんか変な液体を飛ばしてくる怪物、まるでとんでもない強さの酸みたいな感じのやつ飛ばしてきよる、真面目にクリーチャーじゃんもうやだ帰りたい。
「りんさん今の当たんないようにね!多分普通に腕とか取れるから!」
そう伝えている間に狙いを定めてきた怪物が液体を飛ばしてきた。
咄嗟に足から氷を生やして物理的に壁を作る、まだ妖力でバリアを張るのは咄嗟にはできない。
防いだと思ったけどあまりにも強力すぎて、氷の壁を普通に貫通してきた。
ギリギリ当たらなかったけどめっちゃ危なかった。
「どんな口してるんだよ……あ、服についた」
「人に忠告してる暇があるんなら自分のことに気を遣ってろ!」
「そういうあんたはこっち見ながら腕蹴り飛ばしてずいぶん余裕そうですね畜生!服に穴空いたじゃん!ぜってぇ許さねえ!」
両手を向けて妖力を集中、妖力弾をひたすらに撃ち続ける。
さすがの威力で、怪物の体をどんどん肉片にして弾き飛ばしている、それでも再生力の方が勝ってるけど。
「おい!私の刀壊れんだろうが!まだ刺さってんだろ!」
「じゃあさっさと抜けよ!このままあいつの妖力消費させて再生できないようにしてやるから!」
一番的の大きい胴体を打ち続けて妖力を消費させる。
私が体を高速で直すのに妖力を使うんだから、あの怪物にとっても一緒だろう。
現に最初は私の弾を無視してそのまま突っ込んでこようとしてたけど、今は嫌がっているように見える。
まあ限界のない再生なんてやばいだけだからね、ルーミアさんか幽香さん連れてこよう。
「とか考えてるうちに私の妖力も減ってるんだけどね!今のうちに!」
私がそういうと、一気に怪物に駆け寄り、私が放ってる弾を全てかわして刀を怪物の頭から抜いたりんさん。
あれよけるの?すごっ、こわ。
「終わりだ化け物が」
私は妖力弾の放出を止め、りんさんが霊力を込めた一撃をその頭に放ち首を飛ばす、そしてその頭を瞬く間に細切れにした。
「いやそうなるとは思ってなかった……」
「妖力が少なくなって再生力が落ちてる間にばらしとかないと、こういう奴は人間一人食うだけで元気になりやがるからな」
「まぁそれはともかく、お疲れりんさん、いぇーい」
「………」
「い、いぇー……どしたのさ」
返り血のついたまま、ただ自分の手を見つめるりんさん、いつもならさっさと帰るぞって言ってるとこなんだけど。
「なんでもない、先帰っとけ」
「えー……まぁここ臭いしわかったよ、じゃあね」
怪物の死体を見つめて立ち尽くすりんさんを見ながら家へと帰った。
やっとどっかいったか………
「ふぅ…」
軽くため息を吐いて腰を下ろす。
今回だけでだいぶ疲労が溜まっている、それに腕も落ちてきた。
今はもう治ったが、腕が震えるようになった。
こりゃ持ってあと数年ってとこかね………