必死に攻撃を避け続ける。
デカい口叩いたけど私にはルーミアを倒す度胸もないし実力もない。
ひたすら、急所に当たるのだけを避けて反撃のチャンスを伺う。
「本気出せよ毛糸!お前はそんなもんじゃないだろ!」
「るっせ!」
全身に妖力を込めてルーミアの拳を受け止め反撃に一撃入れる。
当たるには当たったけどそのまま反撃を顔に食らって体が宙に浮く。妖力を放出して吹っ飛ぶ方向を変えてルーミアに接近、体を回転させて思いっきり蹴りを入れて妖力弾と氷を放ち続ける。
だけど当たってない、一瞬で私の真横に回り込んで胸を貫こうとする。
毛玉になって回避して、すぐに戻って至近距離で妖力弾を浴びせる。
妖力弾を無視してルーミアは攻撃してくるけど、妖力の障壁で受け止めてそのまま一旦距離を取る。
「あぁ、やっぱりあたしの見込み通りだ。随分成長してるじゃないか」
「あんたは私のなんなんだよ、何目線の感想なんだよそれは」
ルーミアの体が闇に包まれた。
昼間の方のルーミアが時々やるやつだ、だけど規模が違う。
あれはせいぜい自分の体を覆う程度だったけど、今のルーミアは私たちの周辺を全て闇で覆った。
完全に真っ暗で何も見えない、月明かりも頼りにできない。
どうにかしないと——
「遅い」
体が全部宙に浮いた、そして急に思考が加速し今の私の状況を理解させようとしてくる。
急に浮いたけど吹っ飛ばされた感覚はしない、つまり足を全部やられた、そして腕も多分全部吹っ飛んだ。
つまり今の私は手足が全くない状態で、胴体と頭だけが浮いている状態。
背後から寒気が迫ってくる、一回反応が遅れただけでこれだ。
「……は?」
「間抜けな声出してんじゃないよ」
腕で背後からの攻撃を受け止め、そのまま腕を掴んで背負い投げ、地面へ叩きつける。
同時に妖力を腕から溢れるくらいに込めてルーミアを殴った、だけど一瞬で反撃をもらった。
周囲の闇が消えていき、ルーミアの姿が見えるようになった。
「おかしいよなぁ、確かにお前の手足もぎ取ったはずなんだがな」
「へー、気のせいじゃない?」
「なるほど…過剰に妖力を消費することで一瞬で傷を治したか」
「へー、そーなんだー」
当たりだ。
さっきのあの瞬間、体にある全ての妖力を手足に回して再生した。
普通に再生するより数倍多く妖力を消費したけど、あのままじゃやられていた。
ただまぁ、妖力はまだまだある。
ここ数年、ずーっとのんびりしてきた、たまに戦ったりはしたけど、それこそ死闘というのは一度もしていない。
だからその間にも妖力は常に私の中に溜まり続けていた。
何もしていなくても勝手に最大量は増えていった、その妖力をここで全部使い切る。
そうじゃないと勝てない。
「私だってそれなり強くなってきたんだ、数年前といっしょにするな」
「してないさ、妖力の使い方もろくにわかってなかった奴がよくここまで成り上がってきたもんだ」
そうかもしれない。
でも、ここまで生きてこれた理由は、ルーミアがいたからだ。
ルーミアがいたから私はここにいる、私の恩人の中にはルーミア、あんたも入っている。
だから、できればずっとこのまま過ごしていたかった、こんな戦いなんてしないまま、ずっと。
でもそれは叶わなかった、ルーミアは人を殺す妖怪で、それを私が止めることはできない。
出来るのはこうやって戦って、どっちが先に死ぬかを決めることだけだ。
わかってるけど、嫌になる。
ルーミアが私が動かないのに痺れを切らしたのか、自分から私へと突っ込んでくる。
難しいことは、悲しいことは、考えるのをやめた。
今を生きることだけを考える、りんさんを生かすことだけを考える。
霊力を使って氷壁を作り、それをたやすく砕いてきた私に攻撃したところに妖力を収縮させてレーザーを放つ。
勢いよく吹っ飛んでいくルーミアに止めどなく妖力弾を放ち続ける。
私がそんなことを続けていると、向こうも大量に妖力弾を撒いてきた。
そしてそれは私の妖力弾を擦り抜けて直接こっちに飛んできた。
「おかしいよそれっ!」
やっぱり技術が違う。
私の妖力弾を全部擦り抜けてくる時点でおかしいし、弾道を曲げてきている、どうやったらできんのそれ。
前方に障壁を張り妖力弾を防ぐ。
最後の一発を防いだ時に障壁が割れて、衝撃が伝わって体が後ろにのけぞった。
そして急に視界が回転し、地面へと顔を擦り付ける。
「はやっ」
思わず口からその言葉が出たときには既に私の後ろにまたルーミアが回り込んでいた。
頭を狙ってくる攻撃を毛玉になってかわし、妖力を腕に収縮させて思いっきり放った。
爆発音が周囲に響き渡り、私の視界が真っ白になった。
数秒経ち目を開けると右腕が吹き飛んでいた、奥の方には倒れているルーミア。
過剰に妖力を詰め込んで、私の腕が衝撃に耐えきれずに爆ぜてしまった。
「りんさんは……どこに」
急に霊力と妖力を一気に消費したせいで目眩がする。
あたりを見渡してやっとりんさんの姿を見つけると、そっちの方へ歩いて行く。
「———!」
なにか……言って…
その時、体が勝手に動いて右に傾いた。
脇腹を腕が通り過ぎて行く。
「まだ終わりじゃないぞ」
「まじで…」
さっきのを食らってもまだ元気そうに動いているルーミア。
頭が働かない、体が動かない。
ルーミアの攻撃が直撃しそうになって、私は目を閉じた。
でも、攻撃が当たるより先に私の体が地面へ倒れた。
「ぼーっとしてんじゃねえぞ、毛糸」
「りん、さん」
「まだ動けるか……人間!」
途端に頭が冴えて行く。
そして冷や汗が大量に出る、さっきまでは完全に思考がやられていた、りんさんが防いでくれなかったら完全に死んでた。
りんさんがルーミアの腕を跳ね除け刀で斬りつけようとするが、ルーミアはそれを簡単に防ぐ。
その間に私は体を浮かして霊力を放出してルーミアへ突っ込み蹴りを入れて吹っ飛ばす。
「もう私もお前も持たない、死ぬ気で決めないと先に死ぬぞ」
「りんさん……あんたは無茶しちゃ」
「私が無茶しなきゃお前が先に死ぬだろうが!」
「ご、ごめん」
「これでさっきの分はおあいこだ。まぁそんなもの気にする前に死ぬと思うが…」
「とりあえず、ルーミアをなんとかしないと…」
「お前がやってた間に少しは回復した、お前も休むか?」
「まさか……いくよりんさん」
二人揃ってルーミアへ距離を詰める。
ルーミアは何故かこれ以上ないほど嬉しそうな表情をしている。
何故そんな顔をするのかわからないけど、私達が殺し合ってるているのは変わらない。
無駄な思考はやめて目の前のことに集中しないと。
再生させた両腕で氷を放つ、妖力は回復のためにも取っておきたい。
けど氷なんかでは意味がなかったらしく、ルーミアが腕を一振りさせただけで氷を全て吹き飛ばした。
そのわずかな隙に距離を詰めて攻撃するりんさん、だけどその攻撃は全く当たらない。
やっぱり、回復したとか言ってたけど、ルーミアと戦うくらいまでには全然なってない。
「終わりにしてやるよ」
ルーミアが刀を受け止めてりんさんの息の根を止めようとする。
まずい。
全速力でルーミアとりんさんの間に割って入り、私が代わりに受け止めようとする。
私ならよほどのことがない限り死なない。
そう思っていたけど、ルーミアには見透かされていたらしい。
私の心臓目掛けてその手を伸ばしてきた。
完全に避けれない、でも攻撃されてからでも反撃すれば……
「なっ…」
りんさんが私の体を押して、その体でルーミアの攻撃をくらった。
一瞬、頭が真っ白になったけど、私の方へ投げられた真っ黒な刀を見て正気に戻る。
霊力を放出し体の向きを変え、刀を手に持った。
そしていつもりんさんがやっているように、私のありったけの霊力と妖力を込める。
真っ黒な刀身を白い妖力と霊力が包み込み、何も考えずに振ったそれはルーミアの体を斬った。
「なんで………今の防がなかったんだよ」
その場に倒れ込んだルーミアを見下ろして聞く。
せめて腕で防御しようとするとか、そういうことはできたはずだ。
それなのに今、ルーミアは何もせずに、ただ私の一撃を受けた。
「最初からそのつもりだったからだよ」
「え?」
ルーミアが自嘲気味の笑みを浮かべて私を真っ直ぐ見据えてくる。
「お前みたいなやつは良い、世がどんな風に変わっても適応できる、頭が柔らかいからな」
「どういう意味だよ」
「封印が解けたとき、昼間の記憶も全部頭の中に入ってきた。そして理解したんだよ、私はこの先の時代に相応しく無い」
その言葉の意味を考えているうちにルーミアが話を続けていく。
「あたしが封印されたのは、まぁ数えちゃいないが相当昔だ。その頃は今とは全く妖怪ってやつが違かった。みんな相手を殺し、自分が生き残ることしか考えていない、あたしみたいな奴らがわんさかいた。そんな時に私は封印された、昼間のあの姿になった」
傷口から血が出て行くのにも構わず、ただ一方的に喋り続ける。
「そして時代は変わっていった。妖怪は妖怪たちで己の集落を作り、随分人間らしい生き方をするようになった。なんなら、妖怪狩りと人外が仲良くやってるときた。そしてあたしは思ったんだよ、この先の時代、人間と妖怪が殺し合わなくなる時代が来るってな。つまりだ、人間を殺すことしか考えちゃいないような奴は時代の流れに押しつぶされる。生憎、あたしって奴は殺して喰う、それしかできない、だからそんなやつは」
「この世界に相応しくないって……そう言いたいのか」
「あぁ、そうだ」
なんだよそれ………二人とも最初っから死ぬ気だったってことか?
「お前たちが殺したのはあくまでこの私だ、あっちのあたしじゃない。この封印は完全に解けたわけじゃない、単に私の力がこれを上回っただけだ。死にかけて力が衰えれば勝手にまた私を封印する」
「それで…この先ずっとあのままでいるって言うのか」
「かもしれないな」
なんで……なんでだよ。
やらせない気持ちが沢山心から湧き出て来る、どうしようもない、何かしたいけどもう手遅れ。
本人が望んでいたことなら私は止めない、けれど虚しい。
「さ、言いたいことは大方言ったしお別れだ」
そう言ったルーミアの姿が段々半透明になっていく。
「また、生きてたらまた会おう、毛糸」
「………そう、だね」
悲しい表情をして、ルーミアの姿は消えた。
残ったのは小さい少女の体のみ。
寝息を静かに立てながら寝ている。
「……そいつが、そんなこと考えてたなんてな」
「……りんさん」
私とルーミアのやり取りをずっと黙って聞いてきたりんさんが口を開いた。
「悪いが、私もお前とお別れしなきゃいけない」
「………うん」
「……おい、そんな顔するなって言っただろ」
「無理」
顔が歪む。
止めたいけど、止まらない、勝手に体が動く。
「私は………まぁ、満足だったよ、この人生」
「………」
「そいつの言ったように、私は殺すことしか出来なかった。だが、そんな私を変えたのはお前だ。お前に会ってから、私っていう存在が変わったように感じる」
「柄にもないことばっか言うなよ……」
「死際なんだ、言いたいこと全部言わないと気が済まないだろ」
りんさんも……そんな表情をするのか。
「私が今まで生きてきて、まぁ短かったけど、お前に会ってからの人生が私にとって一番濃かった。悪かったな、勝手に行って」
「謝るなよ…」
「嬉しいよ、最期に看取ってもらえるのがお前で」
「………」
あぁ、そうだ。
この人は最初から、私に会う前からずっと死に場所を探していたんだ。
友達面してたけど、私はりんさんのこと全然理解してなかった。
「……お前が気負う必要はないさ。どっちにしろ遅かれ早かれこうなってたさ」
「……じゃあ、わざわざ戦わなくても、何もしないでゆっくり生きててくれたらよかったのに」
「言ったろ、私は戦うことでしか自分の価値を示せない。ただ生きてたってなんの価値もないんだよ」
「誰にとっての価値だよそれは、私はそんなの求めてない」
「私にとっての価値さ。後悔はしてない」
結局私はこの人に、戦うこと以外の価値を見い出せてあげられなかったってことだ、友達とか思ってた自分を殴ってやりたい。
りんさんが仰向けに寝そべり夜空を眺める、
「どうやら、お喋りできるのもここまで、みたいだ」
「りんさん…」
「私にとっての大事なものは、お前だけ、だからさ。失いたくなかったんだよ、お前を」
そんなことは知らない、私はあなたを失いたくなかったんだよ。
「だから、そんな顔をするなって。いいんだよ……これで」
「よくないよ…」
「私は向こうで待ってる…お前が来るのをな。せいぜい長生きしろよ、毛糸」
幾分もの時間が経ち、私はようやく口を開いた。
「…………うん。また、会おう、りんさん」
それでも、もう、返事が返って来ることはなかった。