毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉は何かに支えられて浮いている

「なにか喋ったらどうです、そこで寝てないで」

「………」

 

察してよ、落ち込んでんの。

 

「いや、そう言われても」

「………」

「まぁ考えてることはわかりますけど…」

 

じゃあいいじゃん。

 

「聞くには聞きますけど、まずは自分の口で喋ってください」

「……ぇ」

「まずは自分の口で吐き出してみることです、私が代弁して話を聞いてもなにも変わりません。黙ってるのと口から吐き出すのでは随分違いますよ」

 

えー………はぁ………

 

「…辛いことがあったけど喋る元気もないので心を読んでください」

「そうきましたか……まぁいいでしょう」

 

やったー。

 

「あなたは目の前で二人の友人を無くして、それをまだ引きずってるということですね」

 

…まぁ一人は姿変わって生きてるけどね。

 

「心中お察しします」

「………」

 

え、それだけ?

もっとこう…なんか言ってくれないの?

 

「人の心の中に入るのは趣味じゃないので」

「………」

「励ましの言葉とか求められましても……とりあえず、はやく立ち直ってください。妖怪とは精神に比重を置いている存在、貴方といえど例外ではないはず。その状態が長く続くとどんどん弱っていきますよ」

 

わかってるよ………わかってるけどさぁ。

なんかこう……さ、こう………ね。

気力というか、活力とか湧かなくてさ、ただただ後悔ばっかりでさ。

 

「過ぎたことはしょうがないと割り切ってください」

「割り切れたらこんなとこまで来てないよ………」

「はぁ……結構面倒くさいんですね、貴方」

 

そうだよ構って欲しいんだよ。

誰かに相談する勇気もなくて、どうすればいいか考えた結果、さとりんに心を読んでもらうという結論に至った。

 

「弱気ですね、あなたの友人なら誰でも話を聞いてくれるでしょうに。……まあ、そんな顔してたら誰でも心配で話しかけてくれるでしょうけど」

「話すにも話せないよ………」

 

ただまぁ、心配かけてるのは間違い無いし、チルノは知らないけど大ちゃんはきっとある程度察してくれているだろう。

 

「……こんな姿、あんまり見せたく無いしさ」

「……なら、その刀を捨てましょう」

「へ?」

 

えー……これりんさんの形見なのに……

 

「形見っていうのは貴方の場合辛いことを思い出させるものでしかありません。さっきからその刀を見るたびに落ち込んでますし、目の届かない場所に置いたらどうですか」

「………いや、まぁ、一理ある」

「まぁそんなことする気ないのはわかってますけど」

 

満足するまで私はこれを肌身離さず持ってやる、いつかりんさんにあったときに、汚えんだよ毛屑がって言われかねないけど。

 

「地底って、あの世に繋がってんの?」

「だとしたらどうします?」

「いや、どうにも」

「そうですか」

 

私がやってることは、あの二人の選択を否定するのと同じことだ。

あの二人が自ら終わることを求めていたのに、私はそれを認められなかった、許せなかった。

そんな私をまた、私は許せない。

 

「やるせないよ………」

「無理しなくてもいいです、時間が経てば、慣れますよ」

「自分でもそう思うよ、そうであればいいなと」

「まぁ、辛いのはわかりますよ、私も似たような経験ありますし」

「……どんな?」

「話すほどのことでもありません」

 

うむ………

まぁ私はわざわざさとりんに話を聞いて、って会いにきてるからなぁ、迷惑かなぁ?

 

「迷惑じゃない、といえば嘘になりますけど」

「帰りまーす」

「まぁ、話聞くくらいならいつでも聞きますよ」

「さとりん………」

「貴方の友人は、彼女達以外にもいるんですよ?」

 

あー………心にしみるぅ………元気100倍だわ。

まぁ0のものを100倍しても0なんだけどね。

 

「どうしますか?ここにいてしばらく休むのも構いませんし、地上に出て現実と向き合うのもいいと思いますよ」

「そだね……その言い方だと、ここにいると現実逃避してるみたいになってなーい?」

「だってそうじゃないですか」

「………じゃあね」

「はい、さようなら」

 

 

さとりんの部屋を出てそのまま出口へと歩いていく。

一歩進むたびに嫌な気分になるけどまぁ、我慢しよう。

 

「しーろまーりさん」

「うわっしょい!?な、なんだこいしか、びっくりさせるなよ死ぬかと思ったよ」

「貧弱だね」

「そうですよ」

 

背後から突然こいしに話しかけられる。

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃんとの話し聞いてたけどさ、死んじゃったのってあの黒い髪の刀持ってたお姉さん?」

「んまぁそうだけど………ん?」

「やっぱりそうなんだ……残念だね」

 

あれ、まって。

なんでこいしがりんさんのこと知ってんの?なんで?え?怖いんですけど、え?えっえ?えー?

 

「なな、なんでこいしがあの人のこと知ってんの?」

「え?だってよくしろまりさんの家に来るじゃない」

 

ぇあ、え?

 

「私の家、知ってんの?」

「うん、よく遊びにいくよ?」

 

は、はー、そ、そそゆことねぇ。

確かこいしは他人から認識されなくなるんだっけ、そういう感じだっけ。

それで私とりんさんが会ってるところを見てたと………よく気づかれないね?りんさんに。

 

「とりあえず私が言えることは一つだけ」

「ふぇ?」

「しろまりさんに、そんな顔は似合わないよ」

 

そう言ってこいしは去っていってしまった。

………そんなに私って、しけた顔してる?

 

 

 

 

「ふむふむ、なるほどなるほど。つまりあれですね、毛糸さんは何かがあって落ち込んでるんですね、そして何日も家で引きこもってると」

「そうなんです。あの人のことだから何日か放って置いたら寂しくなって出てくるかと思ってたんですけど……」

「全然出てこないんだぞ、きっと死んでるんだな」

「いや流石にそれはないでしょうけど……なんでそんなに落ち込んでるのかわかりますか?」

「多分、あれだと思うんですけど………」

 

大妖精が示した先は、湖のすぐそばに作られた墓のようなものだった。

 

「あれは………もしかして妖怪狩りさんのですかね」

「なにがあったのか詳しくは知らないんですけど、ここ数日一回も姿を見せていなくて……流石に心配に」

 

まぁ、彼女がそこまで落ち込むと言うことは、ろくなお別れの仕方はしていないと言うことだろう。

地底の穴からふわふわ浮く謎の物体が目撃されて、一応何をしてきたのかを聞きにきただけだったけど………

 

「よし、私に任せてください。あの方を引き摺り出してやりますよ」

 

まず扉を開けようとしてみる。

だけど何かで押さえつけられているのか、引いても押しても動かない。

隙間から覗いてみると、中は見えなかったが冷気が漏れ出ているのはわかった、恐らく氷漬けにして完全に塞いでいるのだろう。

 

「となればいつものように上から…」

 

屋根をぶち抜いて無理やりお邪魔しますをしようと思ったけど、よくよくみると屋根の一部分だけ鉄板のようなもので補強されている。

思い出してみると、私がいつも突っ込んでいる場所だった。

 

「ふむ……かなり対策をしてきていますね、この調子だと壁を壊して無理やり入っても中になんらかの罠がありそう…」

 

よし、作戦変更、二人の妖精の元にもどる。

 

「入れそうではありますが、無理やり入ってもこちらが危険に晒される羽目になりそうです」

「どれだけ落ち込んでるんだ、あのまりも」

「あ、それはどうだったんですか?」

「それって…あぁ。試しに毬藻ーって、チルノちゃんに叫んでもらったんですけど反応なくて」

「なんですって……あの毬藻と聞いただけで理不尽に怒ると有名な毛糸さんがその言葉を無視するなんて……相当塞ぎこんでますね」

 

これは由々しき事態…いざと言う時に毛糸さんを頼れない。

 

「よし、なんらかの策を講じてくるので一旦山へ戻ります」

「別に放っておいてもいいと思うけどなー」

「でもやっぱり心配だよ」

 

いろいろな方法を考えながら、疲れない程度の速度で山へと帰っていった。

 

 

 

 

「えっと……なんですか、これ」

「名付けるならば『あれ、焼き魚の良い匂いがするぞ?』作戦です」

「…ばかなのか?」

「河童から借りてきた、七輪でしたっけ?それとそこの湖で一番美味しそうな魚を持ってきました。ちなみに魚はわかさぎ姫さんの提供です」

 

さっそく火をつけて魚を乗せて、扇子で仰ぎ始める。

 

「ほらー、毛糸さーん。大好きな焼き魚ですよー、良い匂いがしますよー」

 

しばらく待ってみるけど、反応はなかった。

壁に所々穴が開いているので、そこから匂いは入っていくはずなのに…

 

「何故……これほどまでに美味しそうな匂いがしていると言うのに…私の全身全霊をかけて火加減を調節して美味しくなるように焼き上げているのに何故……」

「ばかだ」

「えっと、文さん、さすがにそれは無理が…」

「いや、諦めないことが大事なんですよ。外に出ていないと言うことは食料をもまともに無いはず。何度か家にお邪魔してますけど、不味そうな干し肉くらいしかありませんでした。いつか、いつか出てくるはず…」

「あむ」

 

根気よく焼き魚の匂いを家に送り続け…って、あむ?

 

「あ!ちょっとルーミアさん!これ食べちゃダメなやつです!」

「うま」

「いやうま、じゃなくて」

「しょうがない、ルーミアだもの、ね大ちゃん」

「まぁそうだね…」

「ね大ちゃん、ルーミアさんをちょっと抑えててくれませんか?」

「ね大ちゃんってなんですか」

 

新しい魚を乗せて準備をしていると、誰かの視線を感じた。

家の方をよくみてみると、壁の隙間から毛糸さんと思われる人がこちらを覗いていた。

 

「見てください二人とも!毛糸さんが興味を示しましたよ!やはりこの「『あれ、焼き魚の良い匂いがするぞ?』作戦は成功です!」

「いや絶対違うと思うんですけど」

「どっちかっていうとルーミアを気にしてるんじゃないかな?」

「何故そう思うんですチルノちゃん」

「なんとなく」

 

ふむ……正直悔しいですが、毛糸さんはルーミアさんを気にしているという方が合ってるでしょうね。

となれば…

 

「ルーミアさん、あの家の前に立って毛糸さんの名前呼んでくれません?」

「なんでー?」

「やってくれたら魚あげます」

「やる」

 

よし成功、ルーミアさんはふわふわと飛びながら扉の前に立った。

 

「けーてー」

「なんか違う」

「けーとー」

「こう、もうちょっと」

「けいとー」

 

何回も微妙に間違えたあと、最後の呼びかけで毛糸さんが扉を開けて出てきた。

 

「毛糸さんこーんにーちはー、美味しい焼き魚がありますよー、みんなで食べましょー」

「たべるー」

 

そう言ったのはルーミアさん。

毛糸さんは扉の前で突っ立ったままだ。

 

「毛糸さーん?どーしたんですかー、なくなっちゃいますよー」

「よこせー」

「………ぃ」

 

毛糸さんが何かを呟いたが、声が小さくて聞き取れなかった。

 

「すいませーん、もう一回お願いできますかー」

「やかましいんじゃボケがあああ!!」

 

怒られた。

 

「もうちょっと頑張って呼びかけてくれたら出るよ!?流石の私も出るよ!?確かにお腹空いてたもん!でもさ!お前ら途中で焼き魚焼き始めるじゃん!出るに出れないでしょーが!あのタイミングで出ていったら完全に焼き魚に釣られたみたいになるでしょうが!ふざけるのも大概にせえよほんまぁ!そりゃ引きこもってる私だって心配かけてたよ!?でも焼き魚ってなんだよ!『あれ、焼き魚良い匂いがするぞ?』作戦ってなんだよ!提供わかさぎ姫ってなんだよ!舐めてるじゃん!完全に舐めきってるじゃん!そんなんで、わーい焼き魚おいしそー、って出ていけるわけないでしょうが!こちとら落ち込んでんですよ!?それなのにまぁお前らは人を煽るわ煽るわ!私を気遣ってくれてんのは分かるけど焼き魚はないでしょうがあああああ!!」

「………」

「ぜぇ…ぜぇ…」

「あ、終わりました?」

「………ぅん」

「じゃあこっちにきてみんなで焼き魚食べましょー」

 

 

 

 

「塩ないの?」

「醤油なら」

「何故醤油あって塩ないの」

「好みですかね」

「取ってきてよ」

「取りに帰ったら働かされるので嫌です」

「サボってんのかい」

 

んぅ……焼き魚旨し。

 

「焼き加減じゃちょうどいいっすね」

「どうもー」

 

焦げたやつを食べて舌を火傷したチルノと、それを見て慌てる大ちゃん。

 

「どーです?」

「…どーってなに」

「数日引きこもって、気持ちに踏ん切りはつきましたか?」

「………んー…まー…自分では、つけたつもりだけどね」

「ならよかったです」

 

まぁ踏ん切り自体は少し前にできてたけど。

こう、構ってオーラを出してたから、家から出ずにこう、構って欲しかったからなぁ。

 

「どうせこの先も何も考えずに友達増やそうとか思ってるんでしょ?」

「え、何バカにしてんのそれは」

「そうじゃなくてですね、人間に限らず妖怪でも、全ての種族は終わりというものがいつか来ます。貴方の知り合いがそうなる覚悟は出来ているんですか?」

 

まぁ………なんとも言えないなぁ。

 

「私みたいなやつが考えたってどうせ無駄だよ、やりたいことやって、満足するか後悔するか。それはその時になってみないとわからないや」

「そうですか、ならいつか、何かあって引きこもった時には家の前でまた魚焼いてあげますよ」

「……そだね」


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