さーてっとー。
荷物は必要最低限、それと河童の便利そうな奴で、服装は至って普通、さすがに見知らぬ土地に行くのに文字T着る勇気はない。
会話が可能で友好的な妖怪か人間に会えたら良いなあと思いつつ、毛玉状態で移動を続ける。
さすがに風に身を任せて脱力モードする勇気はない、だって幻想郷の外に出ちゃう可能性あるし。
さすがにまだそんなとこまで行こうとは思わない。
ひとまずは慧音さんのところ行きたいなー、幻想郷って人里が大体中心らしいし、そこからなら基本何処へでも行きやすいだろう。
と、思ってたのが数分前でー。
いきなりさ、嵐くるとかさ、おっかしいよねえ!
決意したのに足止め食らうのが一番カッコ悪いし腹立つんだよこんちくしょー。
岩場の雨風から逃れられそうな場所を捜して、毛玉状態でめっちゃちっちゃくなってなんとか濡れずに済んでいる。
雨が流れてきそうなところは氷で塞いだ、なんか溶けた水がかかりそうな気がするけどまあ多分大丈夫、根拠はない。
めっちゃ狭くて動けないけど、まあ大丈夫だろう。
雨が降ると湿度高くなって、なんか毛玉の状態だと浮くのにほんの少しだけ霊力を消費するようになるんだよね。
移動自体にそこまで影響はないけど、私自身雨が嫌いだし、降った後のジメジメとした雰囲気もあまり好きじゃない。
どうせ雨降ってたら移動できないし、風も吹いてるからな……雨が止むまで移動はできなさそうだ。
りんさんの刀は結局柊木さんに預けてきた、理由はなんか知り合いの中で1番まともに扱ってくれそうだったから。
文は根本的になんか信用できないし、椛はなんか酔った勢いでへし折られそうだし。
地底のさとりんに預けに行くのも、わざわざそんなことでなぁ…って感じだし、消去法だよ消去法。
柊木さんもなんか快く請け負ってくれたし、大切に保管しといてねって念を押しまくった。
こんなこと考えてる時点で未練たらたらなんだよなぁ……未練をすっぱり断ち切れる人はすごいようん。
ふー………あー暇だったあ!雨止むまで本当にやることがなくって、ただただ暇だった。
今度からはすぐに雨宿りができそうな場所を探そう、あんな狭いところだと数時間もいたら頭がおかしくなる。
上を見て歩こうね、雲行きが怪しかったら雨宿りできそうなところを探そうね。
「………ふん!」
ぐはぅ……
唐突に自分の腹をぶん殴った、いたい、めちゃいたーい。
なんで急に殴ったかって……なんとなく後悔しかけたから。
悪い癖だよ、自分では決心したつもりでも実際全然そんなことない。
そんな気持ちを抑えて、やろうと思ったことをやらなきゃいかないわけだけど。
いやー、一人は寂しいなぁ…孤独だなぁ………
寂しかったので、急ぎました。
もう慧音さんの家の前だよ、やればできるな私、やれば出来る子だな私。
いざ家の前に立つとなんか緊張してくるなぁ……幽香さんほど頻繁に会わないし、急に押し掛けられたら向こうも迷惑だろうし……まあずっと家の前で待機してるわけにもいかないな。
「すみませーん!毛糸でーす!」
ノックをして、中から返事が返ってくるのを待つ。
三分後………
まさかの留守!?
留守かぁ………そっかぁ………そりゃそうだよね、急に会いに行った時にいるなんてのも都合よすぎだもんね……
「はぁ……どうしようこれ」
流石に帰るっていう選択肢は存在しないし……かといってここで帰ってくるのずっと待ってるわけにもいかないし……
勝手に中にお邪魔する?
あ、論外だった、知り合いには日常的に侵入してくるやついるけどあれ非常識だった…
とりあえず今日は一旦ここから離れて夜を越せそうな場所を探して寝泊りして、明日来ようか。
「なんかついてないなぁ……んぁ?」
目があった、女の人と。
白く長い髪で、普通の人間とは違う気配。
見ただけでわかる、人間じゃない。
そして目があっただけでわかる。
すごく…….不審者を見る目で見られてる。
「………」
「………」
凄い目で私のこと凝視してくるんだけど、何この人。
いや、向こうのほうが何このもじゃもじゃなんだろうけど、実際私は不審者なんだけれども。
構図は蛇に睨まれたカエルのそれだ、一歩も動けない。
別に威圧されてるわけでもなく、恐怖を感じているわけでもないんだけど、こう、目があった瞬間から動けない、気まずくて。
瞬きすらできない、てことで目が痛い、大丈夫?瞬きは許される?やるよ?いいの?
あ、許された。
こっちが目を逸らしても構わず見つめてくる、なんなのこの人マージで。
いやだから、私がなんなのこのもじゃもじゃなんだけど………
二分後
「…….…」
「………」
五分後
「………」
「………」
いや……流石に長くない?よくそんなに私のこと見つめ続けられるね?私なら無理だよ、実際もう下向いたり上向いたりしてるもん。
なに?何を求められてるの?私は何をすればいいの?何をすればこの空間から抜け出せるの?
誰だよまずは慧音さんのところ行こうって言ったやつ!
見つけたらただじゃおかねえぞ!
まあ落ち着こうそーしよう。
多分この人は、私がここにいた数分の間に私を見つけて凝視してきたってことは、多分ここにもともと用があったとかそういう感じだろう。
ってことは多分慧音さんの知り合いで、私のことは知らなかったから急にもじゃもじゃが慧音さんの家の前で現れて驚いているのだろう。
あってる…かなあ?
「あの…」
意を決して話しかけてみる。
大丈夫、多分慧音さんの友人とかだったら話は通じるまともな人だろう、多分、きっと。
「えっと……すみません帰りますね」
話しかけても顔色一つ変わらないじゃん、なんなのこの人。
実はこの人はただの人形で、私は生きてもない人形にびくびく怯えてた、とか…。
あーーー、帰ろ。
「待てよ」
「あ、はい、なんでしょう」
し、喋った……
落ち着いた口調だ、話はできそう。
「名前は?」
「え?あ…えっと…白珠毛糸です」
「やっぱりか」
やっぱり?
あー、慧音さんに私の名前だけ教えてもらってたとか?
「慧音になにか用か?」
「え?あ、いや、大したことじゃないんで」
「そう言うなよ、さっきは悪かったな」
んー、思ってたより遥かに友好的?
なんというか、こう、強者特有の隙のない感じはあるけど、こっちが怯えるほどのプレッシャーは感じない。
「えっと……少し話したいことがあったと言いますか、相談したいことと言いますか」
「そうか。まあ大体分かった、生憎だが慧音は今は他の場所にいる、案内してやるからついてこい」
「え?あ、ありがとうございます」
「その話し方やめてくれないか?」
いや、そうは言われてもなあ…
「んー…まあ分かったよ、えっと…」
「藤原妹紅だ、まあ私のことは移動しながら話すよ。早く行こう」
なんか凄く友好的で逆に疑ってしまいそうになるけど、多分悪い人じゃないだろうからありがたく案内を受ける。
「流石に驚いたよ、友人の家の前に変な頭のやつがいたから」
「よく言われる」
「それに服が汚れてるしな」
「んあ?あー、色々あったんだよ、うん」
藤原妹紅、とりあえず妹紅さんと呼ぼう。
藤原ってことは、藤原氏となんか繋がりあるのかな?いやでも普通の人間じゃないだろうし。
妖怪…って感じもしないんだよなあ。
まあ歴史に詳しくない私が考えてもしょうがないんだろうけどさ。
「慧音さんとはどういう関係?」
「こっちが聞きたいくらいなんだけどな。まあただの友人だよ」
「へぇ……私はまあ、知り合い」
「そうか」
聞いてる限りではかなり慧音さんと親しそうだ。
友人と言っていたから、まあそういう付き合いなんだろう、少なくとも私と慧音さんはそういう関係じゃないけど。
「で、慧音から聞いたが本当に毛玉なのか?」
「まあ、一応」
「本当に?」
「ほんと」
すごい疑ってきたので、一度毛玉状態になって証拠として見せる。
「あ、本当に毛玉だ」
「まあこの姿だと頭がもじゃもじゃなだけだし…」
「悪かったな疑って。私の知ってる毛玉って浮いて、風に流されてはちょっとしたことで消滅してる奴だったからさ。そういう毛玉もいるんだな」
「まあ多分私が相当異質なだけだと」
私は私で結構妹紅さんのことを観察してるつもりだろうけど、向こうは質問してる以上に私のことを観察してそうだ。
多分、慧音さんが事前に私のことを話してくれてなかったら攻撃されてたんじゃないかなあ、って。
まあ絶対白いもじゃもじゃって言われてるだろうな!
妹紅さんの気配というか、近くにいて感じるのは、かなり妖怪に近い存在なんじゃないかなと。
その妖怪っぽさの中に人間のような感じも混じって、さらにそこに何か別の要素があるような………
よぐわがんね。
「一つ疑問なのがさ、どうやったら毛玉がそんな力を手に入れることができるのかなって」
「………えっと、これ?」
急に話しかけられて理解が遅れたけど、多分私の中にある妖力の事を言われているのだろう。そう思い体から妖力を少しだけ放出する。
「それ。普通の妖怪が持っていい力じゃない。人のような体を持っていなかった奴が、そういう風な身体を持つこと自体は珍しくないが、明らかにおかしい。身体に釣り合ってない力だ」
「これもまあ、色々とありまして……まあ、私の力ではないよ。他の人から取ったというか、なんというか……」
そもそも私由来の力なんてほぼ、というか全くない。
私が何かをできるようになったのは、チルノの霊力を吸収してから。それ以前は本当に何もできなかった。
というか、隠してたつもりだったんだけどよく分かったなぁ……やっぱり強い人なんだろうか。
「まあいい、悪いやつじゃなさそうだしな」
「一目見ただけでそれ?ありがたいけど」
「一目っていうか、ずっと見てたけどな」
「まあ、うん。そっすね」
「なあ」
「なんでしょうか」
「お前の種族って、寿命ってどのくらいなんだ?」
「はい?あ、えっと……自分でもよくわからないけど、まあ歳はとらないんじゃないかな」
「そうか」
なんで急にそんなこと………不老不死なんて、この世界じゃ大して珍しいものでもないだろう。
妖怪やその類の存在であればほぼ不老不死みたいなもんだろうし、なんで私のことなんか………
「そういうそっちは?人間ではないみたいだけど」
「あー、そうだな……また後でいいかな、もうすぐ着く」
「あ、やっと?」
結構長かった。
いや、長いっていうか、妹紅さんがめっちゃ駆け足になったり飛び上がったりするから、時間で言ったらそんなにだと思うけど。
それでここは………竹林?
竹林の中へと続く道にちょっとした家がある。
「あれ、私の家な」
「え、あ、ふーん?」
………今は無き私の家と見比べてしまう。
すげえ!私の家より小さいのに私の家よりずっと家してる!
「中に慧音さんが?」
「あぁ、ちょうど私の家に来てたんだよ」
「へぇ……じゃなんで妹紅さんは慧音さんの家に?」
「やり忘れた用事があったらしくてな、せっかく来てくれたから、代わりに私が行ってたんだよ、大した用事じゃなかったからな。……まあお前と遭遇したおかげで結構時間かかったが」
「……すみませんでした」
「あーいや、気にしないでくれ」
自分の身なりをすこし整える。
もうすでに服とか色々汚れちゃってるんだけど、人と会う時ってこういうの気になるじゃん、いろいろと手遅れだけど。
妹紅さんが扉を開けて中へと入ったので、私もそれに続く。
中には慧音さんが静かに座って待っていた。
「遅かったじゃないか、何かあった……って、毛糸じゃないか」
「あ、どうも。久しぶりです」
「やっぱり知り合いだったか」
慧音さんと目があった。
すぐに目線を逸らしたけど挨拶はした、うん。
「元気なようでなによりだ、それと妹紅、大丈夫だったか?」
「あぁ、別に火は消し忘れてなかったよ、ちゃんと消えてた」
「そうか、よかった。悪いな、行かせてしまって」
ほーん……慧音さんは心配性なのかな?
ま、私にはもう失う物、というより失う家なんてないんだけどね!ははっ!
「で、毛糸は何故ここに?」
「慧音の家の前でこんな身なりで突っ立ってたからさ、話聞いたら慧音に用事があるって言うから連れてきた」
「あっやっぱり汚いですよねぇ………ちょっと外行って汚れ落としきます、別に急ぎの用事でもないので」
「わかった、待っておく」
っていうのはまあ、口実なんだけど……
外に出て服を叩いて汚れを落とす。
「………なんだろこの感じ」
周囲の竹林になにか変なものを感じる。
それが何かって言われてもまあ、答えられないんだけど………
まるで何かを隠してるような、行手を阻むような……なんか不穏な感じがする。
まあ私が竹林を見慣れてないだけなのかも知れないし、もともと竹林ってそんな感じなのかも。
というかこの世界で初めて竹をみたような………
私は!キノコ派だ!
………
さーてと、服の汚れ落ちたかなあ?