毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉はにょろにょろしたものが苦手らしい

「なるほど……それで私に…」

「そんなに大したことじゃないんですけど……まあ」

 

とりあえず話をして、いろいろ伝えてみた。

自分の今まで生きてきて起きた、いろいろなこと、そう遠くないけど、どこか知らない場所へ行ってみたいということ。

後それと、聞かれたからりんさんのことも。

 

「そんなに長いこと生きていないだろうに、もうそんなに濃い人生送ってるのか。それで旅みたいなことするって、凄いな」

「濃い…?」

 

濃い人生………

濃いも何も、この世界の普通の人生がわからないからなあ………そもそも私は人じゃないというのは置いておいて。

まあ確かに、前世での普通の感覚で言ったらまあ、比べ物にならないくらい濃いだろうけど。

 

「しかしどこかと言われてもな………妖怪という存在がいる以上、どこへ行っても危険は付き纏うからな…」

「別に、ただ適当な場所を言ってくれたらいいんです。私この幻想郷って未だにどんなところか理解できてないから」

 

妖怪の山も、いまだに道に迷いかけることあるからね、全然土地勘がない。

なんなら、ちょっと木が生えてるとこいくだけで迷うことも……あれ、私って方向音痴?

 

「幻想郷はどこも過酷だからなあ、他の土地に比べたら良いところなのは間違いないけど、なにせ安全って言い切れる場所が人里くらいしかない。もちろん、そんなところに私たちみたいなやつは普通に入ることはできない。妖怪の山だと天狗たちがいて組織を作ってるし、迷いの竹林はその名の通り、正しい道を知らなきゃ絶対に迷う。魔法の森なんかは瘴気なんてのがあるからな。確実に安全って言い切れる場所はないな」

 

まあ、知ってた。

そもそもの話、たぶん湖の辺りがそれなりに安全な方だと思う。

幻想郷って言っても、バカ広いってほどじゃないだろうから行ける場所も限られてくる。

 

「妹紅さんは昔はどの辺に?」

「あー、そうだな……放浪してるうちにここへ来て………居心地がいいからここに止まってるって感じだな」

 

今、言葉を選んだ。

居心地がいいと思ってるのはそうだろうけど、まあそれだけじゃないのだろう。

なにか、人には言いたくない別の理由…まあ知り合ったばかりの私に話したくないことなんてたくさんあるだろう。

変なこと考えるのはよそう。

 

「この迷いの竹林って、なんで迷いの竹林って言うんですか?」

「単に一度入ったら本当に出られなくなるからかな。私も一度入ったが、妹紅がいなかったら出るのにどのくらいかかっていたことか」

 

どんだけ迷うねん、どんな構造してんだろこの竹林、それはそれで気になる。

 

「というか、妹紅さんは竹林の中は普通に行けるんだ」

「まあな、中は入って食料とか調達することも多いしな」

 

何度も出入りしてたら道がわかるようになるのだろうか。

そもそもこの竹林のなかって何か建物とかないのかな?そんな迷うような場所に建物作るって相当な物好きな気がするけど。

 

「この竹林のなかって建物あるんですか?そんなところに人も妖怪もいる気がしないんですけど」

「なくはないな」

 

え、あるんだ。

 

「ただまあ、あまり知らない方がいい相手だ」

「慧音さんはその人たちのこと知ってるんですか?」

「いや、私というよりは妹紅が………」

「そうだな」

 

妹紅さんの気配が変わった。

うん、やっぱりなんか抱えてるなこの人。

もちろんそれに関わる気なんて少しもないけど、なにがあったのか気になるのはしょうがないと思う。

 

「あーすまない、ちょっと用事思い出したから行ってくる」

「…そうか」

 

妹紅さんは逃げるようにして去っていった。

こんな時さとりんならなに考えてるかわかるから、私みたいなモヤモヤ抱えなくていいんだろうなぁ………

 

「妹紅はな、不死身なんだ」

「不死身?それだったらただ単に寿命が無いのと一緒じゃ……」

「いや違う、死なないんだよ、本当に」

「………?」

 

慧音さんの言ってる意味がわからず首を傾げてしまう。

不死身って………

 

「不老不死と何か違いが?」

「…これは私の勝手な解釈だが、私は不老不死とはただ単に寿命がないのだと思っている。年老いて死ぬことはないが、外傷によって致命傷を負えば死ぬことはあると思っている」

「…その言い方だと妹紅さんの不死身って」

「あぁ、死なないんだよ、なにをしても。本人曰く、例え体を引き裂かれようが燃やされて灰にされようが、絶対に再生して死なないらしい」

 

どういう種族なんだ一体。

絶対に死なないって、本当に?死んだことないだけじゃ?

でも灰にされても元に戻って死なないって言うってことは、つまりそれに近いようなことになったってことだよね。

それで………

 

「ってか、そんな話私にして良かったんです?」

「構わないさ、私が勝手に言ったことだから、聞かなかったことにしてくれても良い。妹紅はまあ、多分良い顔はしないだろうが」

 

そりゃまあそうだろう、自分の触れられたくないことを勝手に言われたら悪い気分にもなる、私だって嫌だ。

 

「そういえば慧音さん、人里とはどうなんです?なにか進展とかは」

「残念だが、なにも変わってない。いや、少しは変わったかな、一部の人にだけだが受け入れられたような気がするよ。まあ私の単なる思い込みかもしれないが」

「まあ、そりゃそんなに早く変わらないですよね」

 

人間って私たちみたいなやつのことどう思ってるんだろうなあ。

いや、私はそんなに人間と会わないから存在すら知られてるか怪しいけど、慧音さんのことはどう思っているのだろう。

人間卒業してそれなりに経つから、もう人間の気持ちとかわかんない。

それ以前に、時代も違うんだから、私が生きてた頃の思想なんて……そもそも私前世の記憶ないし、自分のこともよくわからんし。

 

慧音さんと妹紅さんはどうやって知り合ったのだろう。

興味あるっちゃあるけど、そんなこと聞くのもなあ、妹紅さんの知らないところでもう既に重大なこと知っちゃってるし。

 

 

 

何も話すことがなくなって、めっちゃ静かになって私が耐えきれなくなったから外に出てきた。

なんだろう、湖の方とは空気が違うなあ。

湖の方はなんでかわからないけど妖精が多いし、妖怪の山には妖怪が多かったけど、この竹林はなんかこう、すごくモヤモヤっとする。

漂ってるものが違うのかな、妖精がたくさんあると霊力の気配がするし、妖怪がたくさんいると妖力の気配が濃くなる。

そういえば魔力とかもあるのだろうか、魔法の森っていうくらいなんだから。

魔法使いとかいるのかな?この時代の魔法がどんな感じのものを指すのかわからないけど。

魔法の森に行ったら魔力吸収して魔法使えるようになるとか……ないかなあ?ないよねぇ……

あと妖怪の山が遠い、凄い遠い。

 

竹林……竹…竹ねえ。

竹って何に使うっけ、籠とかには使えるだろうけど、河童からそういう類のものはすでにもらってるしなあ……

 

竹といえばあれだ、えーっと………たけ、竹取物語だろう。

えーあれだ、おじいさんとおばあさんが……あれ?おばあさん出てきたっけ?

えあー、なんか光る竹を切ったら中にちっちゃい女の子がいましたーって話だ。

それでなんやかんやあって、輝夜姫って呼ばれたその女の子は月へ帰りましたよーって話だ。

この物語うろ覚えになるって、大丈夫か私の記憶力。

 

 

まあこんな世界だから、輝夜姫が実在してるとしても、多分月にいるんだろう。

となると、月に生物が存在しているってわけで………考えても無駄だね、うん。

 

 

あー暇だなあ、暇だなあ………暇だぁ……

どのくらい暇かっていうとリリース初期からやりこんでるスマホゲーのやり込みすぎてアップデートを待つことしかできなくなっている状態になってる人くらい暇だあ。

なんかこう、起こらないかなあ…この竹林爆発したりしないかなあ‥燃えたりしないかなあ?もーえーろーよー。

 

「あー暇だー」

「あのー」

「暇だなあ…空から女の子でも降ってこないかなあ」

「あのー、聞こえてる?」

「もしくは急にキュ○べぇ現れて契約してよとか言ってきたり」

「あれ、聞こえてないのかな?」

「いや、それはそれでいやだな、うん。死ぬしかないじゃない」

「あの!聞こえてる!?」

「あーあ、なんでも良いからなんか起こってくれないかなあ。そらから隕石落ちてきて新種のポ○モン現れたりしないかなぁ」

「ふぅ………」

「あーーー…」

「あのおおおおお!!」

「うるせええええええええええええっ!!」

「えぇ…」

 

 

 

 

「急に耳元で叫ばれたらビックリするでしょうが!」

「え……えぇ?納得できない」

「ほら、謝りなさいよ。耳元で叫んですみませんでしたって謝りなさいよ」

「えー………す、すみませんでした?」

 

なんで疑問形なんですかね?あとこいつめんどくさそうだからとりあえず謝っとけって思ってただろ、わかるぞ。

だって自覚してるから。

 

「で、おたく誰」

「えっと…妹紅さん知らないかな?あの人に用があって」

「いや誰だよって。身元を明かしなさいよ」

「あ、えっと。ミスティア・ローレライ。夜雀の妖怪だよ」

 

目の前の背中に翼を生やした妖怪は、ミス、ミスチ、ミスジ……

 

「ごめん名前もう一回言って」

「えー…ミスティア・ローレライ」

 

ミスティア・ローレライっていうらしい。

 

「でミスティア?妹紅さんに何の用?まあ今いないんだけどさ」

「そうなんだ。ちょっと竹が足りなくなったから切るのを手伝ってもらおうかと思ったんだけど…」

「何に使うん?」

 

あ、なんかミスティアの目が変わった。

なんかあれだ、自分の得意な分野の話になった瞬間の目をしてる。

よくぞ聞いてくれた!とか言いそう。

 

「よくぞ聞いてくれました!」

「ほら言った」

「え?何が?」

「いいよ続けなよ」

「えっと…こほん。私はね、屋台をするのが夢なんだ」

「屋台?」

 

屋台って何?祭りとかでするやつ?それとも移動式屋台のこと?移動式かな、移動式っぽいよね。

 

「私って、見ての通り鳥の妖怪でしょ?」

「うん」

「だからさ、この世界から焼き鳥を撲滅したいの」

「うん…?」

「でね、屋台をしてみんなに八目鰻を食べさせて、焼き鳥をやめさせたいの」

「うーん?」

 

………つまりどういうことだってばよ。

あ、わかった。

鶏肉より八目鰻の方が美味しいからみんな八目鰻を食べようねってことだろそうなんだろ。

やつめうなぎってなに?

 

「先に断っておく」

「え」

「私はうなぎが苦手だ!」

「え…?」

 

そして私は焼き鳥が好きだッ!!

とは言わないでおくっ!

流石にね、そんなこと言わないよね、文の前なら言うけど、カラスおいぴいって。

 

「そ、そんな…一回食べてみてよ!絶対好きになるから!」

「うん、無理。うなぎはなんかこう、無理なんだよ私」

 

私はにょろにょろしたものが苦手なんだ。

会ったら逃げ出すほど無理ってわけじゃないけど、蛇とかうなぎとか無理でござる。

忘れもしないあの日を、真っ二つに切断されたミミズを直視したあの日を。

あ、今全身の毛逆立った、寒気した。

 

「や、焼き鳥は食べないよね…?」

「………」

「ね、ねえ!何か言ってよ!目を合わせてよ!」

 

やれやれだぜ。

 

「竹を切るの?私でよかったら手伝うけど」

「え……できるの?」

「失礼な、竹を切るくらい素手でもできるわ、どっちかって言うと折るだけ……ダメでした」

「早くない?できる言ったんだからもうちょっと頑張りなよ」

「ダメです、これ私の骨より硬いって」

 

というか、これを妹紅さんは素手でやるの?マジ?なんか道具とか使わないの?そりゃ、妖力とか使えば私でもできると思うけどさ。

 

「ここの竹林、時々獰猛な妖怪が出てきたり罠があったりして危ないから、いつも妹紅さんに頼んでるんだ」

「罠?てことは絶対中に誰かいるな…」

 

果たしてその罠が、獣を捕獲するためのものか、人間や妖怪をあーしたりこーしたりするためのものか。

怖いなぁ……妙に人の手が入ってる自然って怖いなぁ。

 

「あー……何か他に困ってることある?できることあるなら手伝うけど」

「そんな、今日会ったばかりの人に付き合わせられないよ」

「え?不審な白いもじゃもじゃとは関わりたくないって?」

「言ってないけど?」

「誰がス○モだこるあ!」

「言ってない!」

 

最近私のことをまりもって呼ぶ人もすっかりいなくなっちゃって。

そもそもこんな時代にどれだけまりもが認知されてるのかわからないし、なんでチルノはまりもを知ってたんだろうね。

 

「妖怪の山の河童に知り合いがいるからさ、何か作って欲しいも」

「河童!?本当!?」

「おっは食い気味」

「え、えっと、じゃあ色々お願いできる?ずっと妖怪の山に行きたかったんだけど、行こうとした時に争いか何かが起こってて、それでずっといけなくて……」

「覚えられる範囲でなら。まあ次行くかわからないんだけどさ」

「ありがとう!まずは………」

 

 

 

 

「よろしくねー!」

「あいよー」

 

言うだけ言って帰ってったよあいつ。

 

 

「ん?あれミスティア来てたのか?」

「あ妹紅さん。ミスティアは竹を………あ」

 

あいつ……竹のことを完全に忘れてやがる。

鳥頭かな?


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