「あー、私の代わりにミスティアに付き合ってくれてたのか、悪いな」
「いや別にいいんですけど……ねぇ妹紅さん」
古屋の中には入らずに外で話をする。
この際だから聞いておきたい、ずっとモヤモヤしてるのは無理。
「この竹林の中に、何がいるの?」
「なんでそんなこと聞くんだよ。そりゃ人の一人や二人いるんじゃないか?広いし」
「でも迷いの竹林って呼ばれるような場所にただの人間いないよね?いるなら妖怪とかその類でしょ」
一瞬だけ妹紅さんに睨みつけられたような気がしたけど、直ぐに視線を竹林の方へ向けられる。
「慧音に何か言われたか?」
「まあそうだけど。言いたくないなら言わなくてもいいけど……」
「………」
誰しも、聞かれたくないことの一つや二つくらいあるだろう、私は今それを無理矢理聞こうとしている。
人にやられて嫌なことはしてはいけないっていうけど、まあ私めっちゃやってるよねうん。
「いいよ、話すよ」
「あ、いいんだ」
「どうせお前が知ったところで……な」
うーん、そう言われると気になっちゃうなー。
「慧音にもいつか話しておきたいと思ってたんだ。どうせそのうち聞かれるだろうしな。お前には練習相手になってもらうよ、その代わり慧音には言うなよ?」
「あ、はい。言わないっす、絶対」
私がそう言うと、妹紅さんはその場に座り込んで下を向きながら話し始めた。
「私が不死身だってことはもう聞いてるか?」
「うん、まあ軽く」
「どうせなんで不死身なのか、どう言う種族なのかとかが気になってるんだろ、分かるぞ」
「何故分かる……?」
「顔」
顔かー、顔ならしょうがないなー。
「私はもともとただの人間の子供だった。まあ貴族の生まれだったけど」
「あー……藤原ってのはやっぱり…」
「ん?なんか言ったか?」
「いや別に?」
あ、凄い私のことを訝しげに見てる、凄い怪しんでる。
「えーと、続きをどうぞ」
目を逸らしながら話の続きを促す、そんなに凝視するなよ……初めて遭遇した時も凝視してきたなこの人。
「あー、それでな。私の父親がある姫様に一目惚れしたわけだ」
「一目惚れ……あれ奥さんは?」
「呆れてたよ」
絶対常習犯だっただろその人、すげえ度胸だなおい。それとも昔じゃそう言うの普通だったのかな……?割とあり得る。
「で、その姫様は色んな貴族の男から求婚されるがのらりくらりとかわし続ける、そんな奴に私の父親も躍起になる。それでまあ、色んなことやらかし続けて段々娘の私のことも気にかけないようになってな。ひどい時は八つ当たりみたいなのされたな」
最低だな!とはいえ現代でも虐待って無くならなかったし、まあ昔から人間って生き物はそう言うやつなんだろう。親を選べないからな、子供は。
「そして私は、父親がおかしくなったのはあの姫様のせいだと思ってそいつを恨み始める。とはいえただの小娘ができることなんてなかったんだけどな」
自嘲気味な笑みを浮かべる妹紅さん、昔の自分を顧みて何か呆れているような感じだ。
「ある時姫様が奇妙なこと言い始めてな、月に帰らなきゃいけないとか抜かし始めたんだ。まあどうやら本当だったらしいが」
………月ぃ?
あー、そう言うことね、大体分かったわ。
「で、わたしの父含めその姫様に惚れてた貴族とかは全員姫様を守ろうとした。でもまあ、あれは凄かったよ」
「あれ?」
「あぁ、なんてったって私のいた町が一夜にして更地になったんだからな」
「えー……」
なんだろう、更地ってなんだろう。そのままの意味?
「その姫様を連れ戻しにきた連中がなんかしたんだろうな。あの光景は今でも覚えてるよ」
「なんでそんなことに…」
「さぁ?でもその時の私にも理解できることはあった、その姫様は、私の父親や他の貴族を、自分が逃げるための犠牲にしたんだってな」
「ちょ、ちょっとストップ」
逃げた?月の人から?まあこの際輝夜姫が実在してたってことは置いておいて、逃げた?
つまり輝夜姫は月は帰っていないってことだ。
おかしいな…私の記憶じゃ、竹取物語は輝夜姫は普通に月へ帰って、特に血が流れたとかじゃなかったはずなんだけど……私の記憶間違ってた?
正史はそっちなの?輝夜姫は逃げて、貴族たちはみんな死んで、町も更地になったと?そっちなの?諸説ありなの?
「んぐぅ……何が何だか…」
「続けていいか?」
「あ、はい」
「と言ってもまあ、ここから先は別に話すこともないんだが。なんやかんやで奇跡的に生きてた私は、なんやかんやで姫様が残してた不死身になる薬を飲んで、なんやかんやでこの土地に辿り着き、なんやかんやでこの竹林の先にいる姫様をずっと気にかけてるってわけだ」
「は、はあ、なるほど?」
一気に話があやふやになったな……なんやかんや多くない?
てか本当にこの竹林に輝夜姫いるのかい、びっくりだわ。あ、やっぱり別にそんなに驚いてなかったわ、なんとなく察してたわ。
「まだその姫様のことは…?」
「恨んでるよ、時々殺し合いをするほどさ」
こ、ころしあい………?殺し合いって時々するものだっけ?
……まさか輝夜姫も不死身?そもそも竹の中に入ってて一瞬で成長したって話があるからね、あと月の人らしい。まあ普通の人間どころか妖怪でもないだろう。
「は、はあ………あーつまり、この竹林の奥には輝夜姫がいると」
「………なんで名前知ってるんだ」
「あっやべ」
口が滑ったぜ……
「えっとー、その輝夜姫?の童話みたいな?」
「………」
「いやー、あのー……」
「……まあ、聞かないでおくが」
はい優しい。
「この竹林は実質、あいつの隠れ家として存在してるようなもんだ。変な術とか使ってさらに迷いやすくしてるみたいだしな」
いやあの、それを普通に突破して殺し合いする妹紅さんはいったいなんなんですかね?
「でもなんでわざわざそんな所に?」
「月の奴らから逃げてるらしいぞ、なんでも月でなんかやらかして地球に追放されて、それで戻るのも嫌になったから従者つれて逃げたらしい」
あー、さっき逃げるうんたらって言ってたなあ……というか、私の知ってる童話って一体なんなんだ。
「さ、私からはもう特に話すことないぞ。つまらない話で悪かったな」
「何をどうしたら今のがつまらない話に…?まあ大変でしたねー……一つ聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「その…不死身になって後悔とかは……?」
なんでそんなことを聞く?って言ってるような目で見られる。いや、私が勝手にそう思ってるだけかもしれないけどさ。
「後悔ねえ…」
不死身ってことは、絶対に死ねないってこと。ただ老いて死ぬことがない不老不死とは違う。まあ妖怪にも寿命はあるらしいけど、妖怪って人間からの恐怖とかいろいろ関係するからよくわからん。
「まだ後悔を感じるのは早いって、勝手に自分で思ってるよ。まだ自分で納得できてないんだ。あいつのこと、許せないしな。少なくともこの気持ちがどうにかなるまでは、後悔なんて無駄だろうさ」
この人にとって友人って言えるのは慧音さんだけなんだろう。昔の出来事に縛られたまま、今日までずっと引きずってる。
私も同じようなものか。
あの日、あの人を失ってから、心に空いた穴を埋める方法を見つけられずに、そんな自分が嫌になってこんなところまで来ている。
あの時ああしていれば、こうしていれば。考えるほどそんなことが浮かんでくる。そんな後悔を吐き出し切れずにずっと自分の中で抱えている。
妹紅さんもそうなんだろう、自分のした選択で後悔するのが怖いから、誰かを恨むことによってその気持ちから逃げている。
もちろん、私とこの人じゃ悲しみの気持ちとかの規模が違いすぎるだろう。でも気持ちに折り合いがつけられていないって点では同じなのかも知れない。
「どうした、急に黙り込んで」
「あ、いやなんでもない」
「そうか。……さ、中で慧音をずっと待たせてるのもなんだし、中に入ろうか」
慧音さん、普通に妹紅さんの家に泊まったな……私も泊まったけど。
もうすぐ日も暮れるから、せっかくだし泊まって行けよ、と妹紅さんに言われ、まあ夜は危ないからと自分で納得し、家のなかで宙に浮いたまま寝た。
寝る場所を選ばないのは特技と言えるかな?いや宙に浮いてるだけなんだけどさ。
ちなみに二人からすごい変な目で見られた、本当にそのまま寝るの?マジで?って顔だった。
だって三人もいたら場所が結構狭くなるんだもんここ……
「それじゃ一旦お別れだな、また来るよ妹紅。毛糸も、またいつでも訪ねてきてくれ」
「おう、またな」
「慧音さんさよならー」
夜が明けてから、慧音さんは家へ帰った。
「お前は帰らないのか?」
「あー、えーと、まあ」
「あそうか、幻想郷のいろんなところ回ってるのか」
フッ…忘れてたわ。
というか、帰る家がないのよね……家がなくなった。まあ家があっても帰ってないとは思うけど。
「いろんなところって言っても、まだ湖と妖怪の山くらいしか……あ、地底もか」
「地底行ったことあるのか?」
あ、いらんこと言った。
「ま、まあ。事故というかなんというか」
あれは事故だよ事故。え?二回目はほぼ自分の意思だっただろって?さあてなんのことやら。
「お前、まだ若いだろうに、なんか凄いな」
「はは…」
よくよく考えたら太陽の畑も行ってたわ。あ、人里にも入ったことあるな……あれ?わたし結構いろんな場所行ってね……?
「次どこ行こ……」
「そうだな…幻想郷自体そこまで広いわけじゃあない。まあ行くとしたら魔法の森だけど……」
「魔法の森ってどんなところ?」
「なんかこう、気持ち悪い茸が気持ち悪い粉を撒き散らしてる場所」
うん、妹紅さんはその森が嫌いなんだね、よくわかった。
「その粉のせいで人間は近づくことすらできないらしい。妖怪とかならいけるみたいだが、あまり居心地は良いとは言えないな…」
「つまり吸わなきゃいいと……?」
要するに息しなきゃいいんでしょ。
妖力とか霊力とかいう、明らかに非科学的なものが存在しているここにおいても、酸素っていうものは存在している。たとえ妖怪だろうが、呼吸をさせないようにして窒息させれば殺すことができる。つまり呼吸は妖怪にとっても絶対に必要なことってわけだ、多分。
その点は今の私も変わらない、だけども息をせずとも生きることはできる。
そう、毛玉状態ならね。
あの状態、口はもう完全にお飾りで存在価値がゼロに等しい。喋れないし、動かないし、息もできないし。
つまり呼吸器官が毛玉にはないってと。あってもせいぜい皮膚呼吸、いや毛呼吸だな、うん。
てことは、そのきのこがだす胞子かな?毛玉状態ならそれを無視して、吸わずに魔法の森に近づくことが可能ってわけだ。
毛玉最強!毛玉こそが完璧な存在!毛玉は生物の頂点!これが真理!
「いや、本当に行くつもりか?」
「そーですけど?」
「あ、そう……まあ好きにしたらいいと思うが…」
そもそも!魔法の森だよ?魔法だよ?みんな大好き魔法だよ?
妖術とか呪術とか、そんな胡散臭いものじゃない、魔法だよ?
属性を司りカタカナで呪文が表記されることが多く、長ったらしい厨二病拗らせまくった詠唱がついてくる魔法だよ?興味あるに決まってるでしょーが!
てか、気分悪くなる胞子を撒き散らすきのこのどの辺が魔法なの?そもそもこの世界における魔法って私の知ってる魔法と絶対違うよね?日本だもんね、ここ。
きのこを魔法って言い張るのはなんで?なにをどう見たら魔法って思うの?
まあ答えの出ない質問を心の中でしてたってしょうがないわけでね。
「あ、それで慧音さんには話したの?あれ」
「あー、いやまだだ。………そんな目で見るなよ、同じような長話を何回もするのめんどくさいんだぞ。まあ次会った時には話すつもりだよ」
まあ他人のことにあんまり口出すのも良くないのはわかってるけど。
「それじゃ、私もそろそろ行くよ」
「そうか。また生きて会えたらいいな。最も、お前みたいな奴が死ぬことなんてそうそうないと思うけどな」
「いや結構死にかけた経験あるんだけど。あとそういう言い方しないで、怖いから、本当に死んだらどうすんの」
……なんでそんな可哀想な奴を見る目で見られなきゃいけない?
「とにかくさようなら!」
「あ、あぁ。じゃあなー」
そうして私は妹紅さんの元を去り、魔法の森へと向かった。
「あ、魔法の森は反対方向なー」
「はいUターンしまーす」
そういや方向聞いてなかったわ。
今度こそ、私は魔法の森へ向かって進みだした。
進みだし……進み……あれ。
なんか……足りない……あっ。
「忘れ物したあ!」
「………」