「あ、本当に来た。椛の言った通りでしたね」
「当たり前でしょう。柊木さんのような足の臭い小心者に山を裏切るようなことはできないって」
「俺の足は臭くない」
事前に椛に伝えられていた場所に来ると、予想していた二人が待ち構えていた。いや、本当はもっと人数がいると思ってたが。
「小心者なのは否定しないんですね……まあいいです。さっそく話を始めましょう。椛、向こうの様子は?」
「変わりなし、今のところは柊木さんが言ってた通りになってます」
「良かった。じゃあこの後の予定も変えずに済みそうですね」
楠からは作戦の開始する刻とその内容を伝えられている。まあその全てをこいつらに横流ししてるわけだが。
「大丈夫ですか柊木さん。こう、目が虚ですよ」
「いつもだろ」
「確かに。ごめんなさい間者のようなことさせてしまって。本当は——」
「いやいいって、あいつが俺に勝手に話してきただけだ。上が放った本当の間者の方はどうなってる?」
「帰ってきてないです。大方、捕らえられたか始末されたかでしょう。まあこちら側も向こうの放った奴らは全員縛ってるので、同じようなものでしょう」
一体いつになったら平和になるんだこの山は。
……いや、平和になったらなったで暇だの何だの愚痴をこぼすんだろうが俺は。
……この戦いが終わった後に、愚痴を聞いてくれるやつがいるのかね…
「…いって!急に何だよ!」
「棒で腹を突いただけでしょうが。その陰気な顔鬱陶しいのでやめてください気分が悪くなる。何を考えているのかは想像に難くないですが、こっちにつくって決めたのなら気を引き締めてください」
「……あぁ、そうだな。悪かった」
「お、珍しく椛が柊木さんにまともなことを言った」
「私はいつもまともなことしか言ってませんが?」
やれやれ、こっちはこんなに憂鬱だって言うのにこいつらは随分と元気なようで。その元気を分けて欲しい。
「……動き出しました」
椛が壁の向こうを見ながら呟いた、どうやら敵が動き出したらしい。
「時間通りですね……では私はさっさと本隊に伝達してきます。まあ私がわざわざ伝えなくても把握してるでしょうが」
そう言って文は姿を消した。
あの速さならここから本隊のいる場所まではすぐに着くだろう、そもそも鴉天狗ってのは大体飛ぶのが早い。
「じゃあ私たちも行きますよ、その臭い足頑張って動かしてください」
「言われなくとも腹はもう括ってるさ」
「誰もそんな心配してませんが、これだから足臭は」
「何も言わないからな」
駆け出した椛に追従する。
「はぁ…」
あー行きたくねー、戦いたくねー、知ってるやつと特にあいつと顔合わせたくねー…まあどうせ会うことになるだろうが。
「なあ椛」
「……なんですか、喋ってる余裕あるならもっと速く足を動かしてください」
「お前は誰のためにわざわざこんなことしてるんだ」
俺以外の奴が考えていること。
こいつは今回こそ山についているが、別に上への忠誠心とかそんなものはなかったはずだ。まあそんなものある奴見たことないが。
なら、今何のためにこいつは戦いに行こうとしているのか。
「くだらない質問ですね。そりゃ別に現状に特に不満がないからですよ」
「不満?」
「毎日同じことをしていつまでも平和な日常を過ごす。私の憧れですね。まあ生まれてからずっと憧れてますが未だに実現せず」
「…意外だな。てっきり俺はお前のとこを血を求めて戦う戦闘狂みたいなやつかと」
過去のことを振り返る。
こいつは俺なんかより強い、というかまともにやり合って勝てる気がしない。まあ鍛錬とかしてる奴としてない奴の差だろうが。
結構血の気の多い発言だってするからそう言うやつかと思ってた。
「他の妖怪から仕掛けられずともこんな下らない内輪揉めが起きるんです、いつ死ぬかわからない。死なないように努力するのはおかしいことですか?」
「お前そんなこと考えてたのか…………本当に?」
「喉掻っ捌きますよ」
走りながら器用に俺の首に刃を突き立てるんじゃない。
「もうすぐ本隊と合流します。まもなく交戦を始めるでしょう、死にたくなければ後ろで補助でもしておいてください」
「できればそうしてるけどな。白狼天狗がそんな簡単な仕事やらしてもらえるわけないからなぁ」
現状に不満……か。
あいつも何かしら気に入らないことがあったのだろう、そうでなければこんなことに加担しない。
あいつの目から見て、俺はさぞ現状に不満があるように見えたことだろう。確かに不満はあるが、それを理由にわざわざ争いを起こすかって言われたらそうじゃない。
まあ、どっち側にいても戦うことは変わらないんだけどな。
本隊に合流したが、なんとも言えない緊張感に包まれていた。まあこの状況で普段と変わらない気持ちで入れるやつなんていないと思うが。
裏切った奴らが自分の知り合いのやつだっているだろう、俺だって気落ちしている。
あたりを見回すと河童もいた。
あの長い筒……確か狙撃銃とか言ったか。遠くから敵に鉛の球をぶち込むのに特化している銃らしい。
河童を見ていると、見覚えのある顔がいた。
以前起こった小規模な反乱をほぼ一人で食い止めたやつ……確か紫寺間るりとか言ったか。
「ににっにととりさんか帰っていいっですか」
「落ち着け、尋常なくらい震えてる」
「ふふふるえるに決まっててててててててて」
「頑張れ、この戦いで生き残ったら一ヶ月間ずっと引きこもってていいから」
「死ぬ気で生き残ります。引きこもれない世を変えます」
死ぬ気で生き残るってなんだ…?
上からの合図で戦いは始まった。
山を登ってくる敵と、山を降っていくこちら。
勢いだけで言えばこっちの方があって有利だが…….
「ぐうっ」
隣にいたやつが血を吹き出して倒れる。
鴉天狗が飛んできて、倒れたやつを前線から引き剥がしている。
相手が銃やらなんやらを持ってきてるのは大体予想していた。河童が裏切ったのかは知らないが、武器が流出しているのはまあ当然だろう。
河童の技術が天狗に渡ることはほぼない。特に武器とかに関しては。
あれらは河童の集団中だけのもので、天狗で銃を扱える奴はほぼいない。まあ相手も入念に準備を進めてきたってことだろう。
鴉天狗の中でも一際早いやつが射手を仕留めていくが、逆に返り討ちにあってる奴もいる。
「柊木さん右に逸れたほうがいいですよ」
「は?——ふぉあっ!?」
危ない、顔のすぐ横を弾丸が掠めていった。
「そんなに無理して前に進んだら危険です、止まってください」
「悪い、待ち合わせしてるんだ。後ろは頼んだ」
「はい?ちょっと、柊木さん!」
後ろで叫ぶ椛を置いてさらに前に突き進む。
「あーもう邪魔!」
後ろで椛が敵を蹂躙している音がする。やっぱりあいつおかしいって。
進む先にいる邪魔な奴だけを切り捨て、他を無視し山を降っていった。
着いた、そしてやっぱりいた。
俺があっち側に加担するときは、あいつがそこで待ってると言ってた場所。
他の奴は全員戦いに出ていると言うのに、そいつだけはそこで、俺のことを待っていた。
「なあ柊木、なんでこっちに来なかった」
「あ?」
「お前だって今のこの山が大好きってわけじゃないだろう、むしろ嫌いなはずだ。なら何故変革を拒む。何故自ら変えようとしないんだ」
「逆に聞く、お前はこの山のどこが気に入らない」
「この山の妖怪としての誇りを失っているからだ」
「誇り?」
楠は、普段俺に話しかけてくるような真っ直ぐな目で俺のことを見てくる。
「お前も知ってるだろう。この山の長である天魔が妖怪の賢者に屈服したことを。情けないと思わないか?遥か昔からあるこの妖怪の山がたかが一人の妖怪に負けたんだぞ?」
「だからなんだって言うんだ。俺たち下っ端には関係ないことだろう。そんなことでお前たちはこんなことを起こしたっていうのか」
「あぁそうだ。せっかく鬼の支配から逃れられたというのに、今度は妖怪の賢者に支配されるんだ。到底許せない」
「………」
「俺たちは妖怪としての矜持を取り戻さなければならない。そのために俺たちは、腑抜けた上の奴らに代わってこの妖怪の山を——」
「くだらね…」
耐えきれずに吐いてしまった言葉に楠の動きが止まった。
俺には鬼がいたころの記憶はない。
「矜持とか……別にそんなのもの無くたって生きていけるだろう。自分より強いものに従って何が悪い。少なくとも、俺たち天狗はそうやって生きてきたんだろう?今更何を言い出す。鬼がいた時は萎縮して引っ込んでたくせに、一回自由になったらそれか。相手が鬼じゃなかったらそれか?くだらねーよ」
確かに天狗には傲慢な奴も多いが、少なくともこいつはそうじゃない。
矜持なんていう、俺にとってくだらない物を、こいつが大事にしていたってことを俺は今初めて知った…
「……お前はそうは思わないのか」
相変わらず真っ直ぐ、しかし低い声で聞く柊木。
「わかるだろ、お前なら。俺には天狗の誇りとかそんなものは全くない。そんなくだらない物を持ってる余裕があるのが羨ましいなあ」
「……ははっ、そうだよな、お前はそういう奴だよなあ…」
呆れと諦めが混じったような声で話す楠。
「ようやく分かった、俺とお前は分かり合えない。俺は誇りを取り戻すって言ってんのにお前は必要ないって言ってるんだ、これは何を言ってもこっち側には引き込めそうにないなあ」
「最初から分かってたろ?」
「まあな…ま、俺もお前のそういうところが好きで仲良くしてたんだが」
「そんな奴に情報渡すなんて、馬鹿なことしたもんだな」
「お前を信頼してたからやったんだが……ま、俺の考えが甘かったよ」
お互いに剣を引き抜く。
「最後に一つだけ聞かせてくれ」
「あ?」
楠が俺に質問してくる。
「俺っていう友人は、お前がこっち側に来るきっかけにはなり得ない存在だったのか?俺じゃ駄目だったのか?」
「そうだ」
「あー、はははっ。残念だよ」
心底残念そうに笑う楠を、俺は冷たい目で見つめる。
何も言わずに俺たちは斬り合いを始めた。
「思い返したらお前とこうやってやり合うのは初めてだなあ柊木!」
「お前が誘ってきたのを俺が片っ端から突っぱねてたからな」
「そういえばそうだ!」
声でかい、随分と元気そうだ。
こいつとこんな風に戦うことになるって知ってたら、そういう誘いにもちょっとくらいは乗ってたかもしれないな。
接近を許し繰り出された斬り上げを、無理に体を捻って回避する。そこに俺の胸を狙った突きが来るが、腕を硬くして弾き、剣を振るって後ろに退かせる。
「ったく…まともにやり合ってたら俺勝てねえじゃねえか」
「日頃からちゃんと訓練してたらこうはならなかったのにな!」
「それはそうだけどよ!」
またもや接近を許し、連撃を受け流し続けることに精一杯でなかなかこっちが攻めに転じられない。
そりゃあそうだ、あっちはこの戦いに向けて日頃から訓練してるんだから。対して俺はどうだ、毎日暇だ暇だと愚痴を吐いてただけだ。
何を俺は今になって後悔してるんだか。
「ぐっ…」
「これは友人としての助言だが、お前は戦いに向いてない。今剣を下ろせばこれ以上攻撃はしない。元からお前を殺す気はないしな」
「随分と優しいじゃねえか、そんな甘いこと言ってて山を変えることなんてできると思ってんのか」
「甘いのはお前だよ、さっきから何だその攻撃は。本当に戦う気あるのか?顔見知りとも戦えないような奴は戦うのをやめろ」
何だこいつうるせえ!すげえ鬱陶しい!腹立つ!
「お前が俺を語ってんじゃねえよ!」
「それは悪かったなあ!」
剣を弾かれ胸を斬られる。なんとか硬質化して防ぐが体を削られて、硬質化を解いた途端に血が滲み出てきた。
「いって…この野郎……」
「そう睨むな。ただでさえ目つき悪いのに」
「はぁ…」
さて、どうしたものかね……
「さあどうする?このままやっても俺が勝つ。俺もお前とは戦いたくないんだ。もうこんなことやめないか?」
「お前がこっちきて裏切りの罪償うなら考えてやるよ」
「ま、そうだよなあ……」
楠の動きが加速した。
「がふっ…」
とうとう疲労が溜まり膝をつく。
口から血が出てきた。
体の至る所を斬りつけられている。放っておいても死にはしないが、もうまともに戦えはしないだろう。
「あーいてて……まあ俺もお前に完勝できるとは思ってなかったけどな」
そう言う割には随分と元気そうじゃねえか。
「さてお前ももう動けないだろ。これで決着がついたな。いやー、本当はお前と一対一でやり合って勝てるかちょっと心配だったんだが。ほっとしたよ。さて、向こうの奴らはどうなってるかなあ」
「ふぅ………お前馬鹿だな」
この状況から突然罵られ、こっちを向く楠。
「あのなぁ……いつ俺が一対一で戦うって言ったよ」
どん、という何かが破裂したような音がした。
楠の肩から血が噴き出す。
「柊木お前っ——」
驚きと嫌悪の混ざった顔で俺の名前を呼ぶ楠、そんなあいつの腹から剣が突き出してきた。
「わざわざ手を煩わさないでください」
「あー悪い、俺弱いから」
倒れた楠を無視して剣を引き抜きこちらへ寄ってくる椛。そしてその拳が振り上げられた。
「いって!!」
「一人で勝手に突っ込んで血だらけになるとか本格的に阿保です」
「あーすまん、本当に悪かった、だからもう叩かないで」
「お前、最初からこうやって…」
腹を剣が貫いたって言うのに割と元気そうに喋る楠。
「いや?特に何も考えてなかったが。こいつは勝手に来ただけだ」
遠くの方を見つめると、紫の髪の長い筒を持った女がいる。めっちゃ震えてるなあ。
確かあいつ、さっきもいた河童の……まあいいか。
とりあえず立ち上がり、楠の元へ寄る。
楠も体を起こすが、まあなんとも痛々しい姿だ。どうせこいつなら放っておいても死なんだろ。
楠の首に剣を突き立てる。
「ま、待てよ。お前と俺は友人だろ?俺もお前の命を取るつもりはなかったんだ。待ってくれよ」
「……はあぁ……」
手の力を抜き、剣を地面に落とした。
「柊木さん何やって——」
近づこうとする椛を手で静止する。
ゆっくりと楠に歩み寄り、腰を落として肩に手を置いて話しかける。
「確かに俺とお前は友人だな」
「あ、あぁ」
「友人だったら殺すわけにはいかないなあ?」
「そ、そうだよな」
不安そうな表情で俺をみる楠。
「じゃあ…」
「ちょ……」
拳を硬くし、ありったけの妖力を込めて顔を思いっきりぶん殴ってやった。
顔面から血を吐き出しながら体が吹っ飛んで落下し、地面を転がって木に衝突した。
「これで絶交だ」
流石にもう、あいつが動き出す気配はなかった。
「うわ痛そう…」
「っふぅぅぅぅ。……よし、すっきりした。椛、本隊の方はどうなってる」
「え、このまま進めるんですか…?えーと………」
困惑しながら遠くの方を見つめる椛。俺も今気分が何かこう、変な感じだ。
突然椛顰めっ面を浮かべる。
「えー…」
「なんだどうした」
「天魔様出てきてるんですけど……」
「なんで?」
その後、自ら前線へと赴いてきた天魔によって戦いは即座に終了、妖怪の山側の快勝となった。
天魔はその後大天狗によりいろいろ問い詰められたらしいが、「暇だったから。文句言ってると吹っ飛ばす」と大天狗達に言い放ったことは下っ端の間でも話題になっている。
流石は現妖怪の山の長、やることが違う。
結局あの人一人で戦局が一変したんだ、もうあの人だけでいいんじゃないかな。
そう考えたら反逆を起こした奴らは勝ち目がなかったわけで、まあなんとも哀れな奴らだ。
ちなみに俺は重傷判定されて五日前から自分の部屋で休養を取らされている。
そう、五日前から。
「おかしい……絶対おかしい……」
既に傷は完治している。元からそこまで大きな怪我はしていない。本来ならばさっさと働かされて山の修繕作業やらなんやらをしているはずだ。なのに何故俺は自室に引きこもっている。
「………」
嫌な予感がする……
そう思った瞬間、俺の部屋の扉が勢いよく開かれた。
「こんばんは柊木さああん!椛と一緒にお見舞いにきましたよおお!」
「おいここ女は立ち入り禁止だぞ!」
「そうですよ文さん、ここにいたら足の臭いが移ります」
「臭くないわ!鼻つまむのやめろ!この前河童に無理言って消臭剤作ってもらったんだぞ!臭いわけねえだろ!」
「ふむ……確かにきゅうり臭いですね」
だよな!ずっと思ってた!きゅうりみたいな匂いするって!
「とは言ってもですね柊木さん、今は柊木さん以外ここに男はいませんよ?」
「それはそうだろうが………あー察した。俺に五日間も休養取らせたのお前らだな」
「いやー、なんのことだかさっぱりですね〜、ねっ椛」
「まあ辛気臭い顔で仕事されるのが腹立つので心の整理のための時間をあげたまでです。感謝してください」
「あれ〜?椛なんで言っちゃってるの〜?」
こいつら…人の部屋の入り口でやかましい…
「で、何の用だよ。もう休みは終わりだから働けってか?」
「そんなまさか。まああれですよ、祝勝会というか、なんというか。そんな感じの宴会です。毛糸さん風に言うならぱーりないってやつですね」
「あぁ、あの意味のわからない言葉……」
「とりあえず、勝利を祝ってるので柊木さんを呼びにきたってことです」
はぁ、要するに後始末が終わったってことか。
まあもとよりそこまで山は荒らされていなかったようだし、裏切り者の粛清とかが粗方片付いたってことなんだろう。
楠が首を斬られたってのは三日前に聞いた。
別に俺があの場で斬らなかったってだけで、そうなることは分かりきっていたし、驚きはない。
ただまあ、愚痴を吐く相手がいなくなるのが心残りだな。
「はいはい、とりあえず行きますよ」
そのあと、せめて着替えさせろと言ったのに高速で引き摺られて連れて行かれた。一回とんでもない不幸に見舞われればいいと思う。
「にとりさあん…なんであたしまで来なきゃいけなかったんです…?」
「なに、嫌だった?」
「嫌に決まってるでしょおお、あたしは部屋の中で一人でぱーりぃしたかったんですう」
「口調うつってるうつってる」
「知らないんですか、ぱーりぃって祭りって意味なんですよ。毛糸さん言ってました」
「いや知らんわ」
隣が随分とやかましい……
そう思っていると反対側に文がやってくる。
「隣いいですか?」
「帰れ」
「酷くないです?」
「一回翼がもげればいいと思う」
「酷いですね」
お前の方が酷いと思う。
「随分辛気臭い顔で呑んでるじゃないですか。もしかしてご友人のこと引きずってます?」
「帰れよ」
「この流れでまだ言いますか?ちょっとくらい話に付き合ってくださいよ」
「帰れよ」
「帰りません」
だろうなぁ…
「とりあえず反逆起こした中枢人物はふん縛ったそうなので、これで暫く山には平和が訪れそうです」
「あぁそう」
「でも平和な世の中だと何かとつまらないじゃないですか?」
「あぁそう」
「そこでですね、ちょっと幻想郷のことを色々調べて、面白おかしく書いて世に広めようと思うんですよ」
「あぁそう」
「まず最初に足の臭い白狼天狗について書いて良いですか?」
「羽もぐぞ」
「だれも貴方のこととは言ってないですがねえ?」
「帰れよ」
俺の足は臭くない…臭くないっ。
「これでも柊木さんのこと心配してるんですよ?」
「俺とお前、そんなに仲良くない」
「椛の友達は私の友達です」
「何その理論。あと椛とも別に仲良くない」
「じゃあ椛の同僚は私の同僚です」
「あぁそう」
あー…なんかもう疲れた。帰りたい。
周りを見てみるとまあ…賑やかだ。あそこにいる奴なんて半裸で踊り狂ってる、ちょっと一回怒られればいいと思う。
「全くよお……」
「あ、どうしました?」
「どうもこうも、なんで馬鹿な友人を持ったんだ俺は。てかなんであいつあんなに馬鹿だったんだ。天魔一人で壊滅させられるような規模の集団で本当に勝ち目あると思ってたのか。あー思ってたんだろうなあ馬鹿だから。あー馬鹿らしい」
「あ、酒回ってますね。ずっと黙々と呑んでたから」
「俺も馬鹿だよ。薄々気づいてたはずだろあいつのことにはさあ、それを何で見て見ぬ振りしてだらだらと友人続けてたんだよ馬鹿。さっさと縁切ってたらこんなめんどくさいことならなかったのによお」
ずっと黙って酒を呑んでいた柊木さんが突然饒舌になる。
思い起こしてみれば相当な量呑んでたから、やっと酔ってきたって感じだろうか。まあ椛なら同じ量呑もうものなら吐き散らしてるだろうけど。
「つか上も上だよなあ?」
「あ、はい、そうですね」
「そもそも反乱分子なんて事が起こる前に全部片付けておけよ。とあうかそんなもの生み出すな、ちゃんと統治しろ。大体行動が遅いんだよ。明確な証拠がないから動けないって……天魔が一人でめちゃくちゃにしてるんだらそんなもの必要ないだろ。さっさと動けさっさと無能が」
「わかりますよーその気持ち。私も常々思ってました」
「で俺は他人に迷惑かけるし……俺生きてる意味あんの?無いだろ」
「柊木さんがいなくなったら誰が毛糸さんから預かったもの返すんです?」
「あいつもあいつだよ、何故俺に預けた。そこが理解できない。信用とかもう知らんわ、迷惑かけるな毬藻が。そもそもな——」
めちゃくちゃ文句言ってる…
「あ、俺愚痴垂れてる」
「………あれ?今笑いました?」
「笑ってない」
「いやいや笑いましたよね?珍しい、いつも顰めっ面してるのに。もう一回さっきの顔してくださいよ」
「断る」
「してください、書き留めて椛に見せるので」
「絶対しない」
愚痴垂れる相手、いたな。