毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉の奇妙な1日

外はまだ少し暗い、どうやら早めに起きてしまったらしい。

こう、普通のベッドで寝るのが初めて………ではないか。とりあえず、毛玉になってからって考えたら久々で、あんまり深く寝れなかったらしい。

それに加えて変な夢まで見た。

 

こう、復讐に囚われたキノコが様々な友人や尊敬する人物に支えられて、過去を乗り越えて大陸を統一する王道な………

 

何言ってんだ私、何考えてんだ私、どんな夢見てんだ就寝中の私ィ!大丈夫?頭にキノコ生えてない?パラサイトされてない?パ○セクトみたいにならない?

 

寝れなかったとは言っても、昨日の寝る前の時点ではまだ若干キノコの影響か気分が悪かったけど……まあ、今はいつも通りって感じだ。

改めて部屋を見渡してみる。

昨日少し掃除したけど、少し埃っぽい。

片付けを手伝ってとアリスさんに言われたものの、結局あの人が人形を操って邪魔な物を部屋の外に放り出したり、ゴミを片付けてくれたりと………ま、私必要なかったね。

 

……昨日何も食べずに寝てしまったせいで腹が減っている、喉も渇いている。

そもそもこんな森の中に食べれるものがあるのか少し疑問ではあるんだけども……というか、この家から出る勇気がないなあ。

早く体を起こして活動を始めるかぁ………

 

にしてもなんでベッドがあるんだろうなあ。明らかに時代にあってないし………幽香さんも似たようなものだったし、幻想郷ではこういうもんなんだろう。

 

 

 

 

 

「あら、起きたの。おはよう」

「アリスさんおはようございます。起きてたんだ」

「まあそうね。私もなんか気分が落ち着かなくて」

 

でしょうね、こんな怪しいもじゃもじゃを家に泊めてるんだからね!アリスさんも正気の沙汰じゃないよね。

 

「紅茶、淹れるわね」

「あ、はい。…え?紅茶?」

「知らないの?」

「いや、知ってるけど………」

 

朝から紅茶って、優雅すぎない……?

あと時代的にもおかしくないかな……いや、紅茶の歴史なんてそんなもん全く知らんけど。

まあアリスさんは時代を先取りしているってことで………あ、待てよ?大分前の話だけど、幽香さんも紅茶飲んでたような………

そもそもこの幻想郷って土地でそんな疑問抱いても無駄だよね、無駄無駄。

 

 

 

「あ、美味しい」

「そう、よかったわ」

 

私は紅茶ってあんまり好きじゃなかったと思うんだけど、アリスさんが淹れてくれたのは引くほど飲みやすい。なんなのこれ。

アリスさん淹れるのめっちゃ上手……

 

あとね、視界が物凄い素敵。美しい。

アリスさんの飲み方が綺麗すぎる、絵になりすぎてる。

こう見たらアリスさんめっちゃ美人だし、それに加えて朝からの紅茶でしょ?そして紅茶がめっちゃ美味い。

さらになんだこの茶器!めっちゃオシャレ!

なんだこの………何この貴族空間!

 

アリスさんって、名前とか暮らしとかから考えて西欧出身だったらするのかな……聞く勇気はないけど。

 

「………さて。まずしなければならないことがあるわね」

「な、なんでしょうそれは」

「この森での生き方をあなたに教える」

 

い、生き方………ですと。

 

「あなた、確か昨日生まれて十年程と言っていたわね」

「あー、言った」

「じゃあ妖力や霊力の使い方は?」

「使い方……使い方かぁ………ぶっちゃけ多分下手です」

「でしょうね」

 

はい傷ついたよー、私の心を抉ったよー。

でしょうね、って………そうだけれども。

 

「まず第一に。あなた程の妖力があればこの森では問題なく動くことができるわ」

「……そうなの?確かにアリスさんは結構へっちゃららしいけど」

「私の場合慣れね」

 

慣れでいけるんだ…

 

「まず、その意図的に妖力を引っ込めるのをやめなさい」

「え?あ、あぁ。こうかな」

「そう。それでいいわ」

 

妖力を引っ込める。まあつまり妖力が漏れ出るのを出来るだけ抑えるってこと。

正直なんか垂れ流してるのあんまり好きじゃないし、幽香さんの妖力強すぎて変な妖怪に絡まれるのも嫌だから普段からあんまり出さないようにしてるんだけど………それがダメだったか。

 

「そうしていれば、まあ余程なことがない限りは森のきのこの影響を受けない」

「え、なんで」

「確かにこの森のきのこは、様々な症状を引き起こす瘴気や胞子を撒き散らしているわ。でもそれは、きのこから出る魔力によって出来ている。胞子に魔法が掛かっていると言ってもいいかもしれないわね」

「………それで?」

「妖力を出していれば、きのこの魔力を勝手に跳ね返すから影響を受けないってことよ」

 

はーん。そういうことだったのかー…

でもアリスさんは慣れなんだよね……要するに耐性がついてるってことなんだろうけど。

 

「言っておくけど、こんな適当な方法でいけるのは、あなたが長生きした妖怪みたいな強い妖力を持っているからよ。並大抵の妖怪では精々症状を緩和する程度だから」

「そりゃあ幽香さんのだからなあ……あっやべ」

「………」

 

紅茶を片手に持って私のことを見つめた状態でアリスさんが止まってしまった。

口を滑らしたなぁ……幽香さん、なんか有名だからなあ………

 

「……そう、あの風見幽香の………」

 

バレちった。

いや、別に隠すつもりはなかったけどね。

 

「少し彼女のものとは違っているように思えるけど………あなたの中に存在しているうちに性質が変わったのかな」

「多分そう…かな」

 

以前幽香さんに改めて会ったときとも、私の妖力と幽香さんの妖力はとても似ていたが、わずかに違うようにも感じた。

というか、アリスさんは幽香さんとも知り合いなのか?一方的に知っているだけって場合あるけど。

 

「そう考えると本当に恐ろしいわね、あなた……」

「そんなに?」

「風見幽香と言えば、全力を出せば山の一角を吹き飛ばすことも容易いと言われているのよ……」

「そんなに!?」

 

あれ……私がどれだけ頑張ってもそこまでの威力出せる自信ないけど。

 

「私には無理…」

「妖力の扱い方の違いかしら。同じ力でも、力を持つ側の扱い方、力量によって出来ることなんて簡単に変わるから」

「つまり若造の私には無理と……」

「ちゃんと扱い方を覚えれば大丈夫よ。魔法だってまず魔力の使い方をマスターするところから始まるもの」

「そうかねぇ………ん?」

 

あれ、今アリスさん………

 

「マスターする……って言った?」

「…?言ったけど」

 

絶対この人日本の人じゃないよねえ!?マスターって日本語ないもんねえ!?

 

「いやあの、じゃあ……マジック、って意味わかる?」

「こっちの言葉でなら大体魔法……あぁ、なるほど」

「さ、流石にびっくりした……英語を………」

 

正直マスターする、なんて使い方は昔の人はしてなかったと思うけど。でもマスターってのは確実に横文字だ。

使い方に関してはまあ、あれだ。

幻想郷でそんなこと気にしてたら頭がおかしくなるってことだな!

 

「私もあまり他人と会話する機会はなかったけど……そう、あなたはこの言葉の意味が……」

「わかる…わかるよ……別に英語は得意じゃないけど……」

「そ、そこまで動揺すること?」

 

動揺するよ!だって…だって今まで誰にも通じなかったんだよ!?一人でずーっと寂しく現代語喋ってたんだよ!?周りからおかしな言葉を扱うやつって思われてたよ!?

それを今この魔法の森の中で、理解してくれる人が現れて……

 

泣きそう。

 

「あいむべりーはっぴぃー……」

「そ、そう。それは良かったわね……」

「泣くわ」

「えぇ………」

 

 

 

 

 

「えっと……」

「ごめん、急に変な発作起こしてごめん」

「いやいいのよ、気持ちはわかるから…」

 

その顔は分かってないって感じの顔だぜ。

 

「でも逆に気になるわね。あなたの言葉通りならまだその体を得て十年程度。たったそれだけの期間にこの言語を知ることがあったの?」

「いやあの、私が変な生まれ方しただけなんで気にせんでくだせえ」

「そう…そういうなら聞かないでおくわ」

 

そうか……私の頭の年齢は前世プラス十年ってとこなのか。

 

「アリスさんアリスさん」

「何?」

「その人形ってどういう仕組みで動いてんの?」

「あぁ、まず人形を作って…魔力の糸を繋いで自分の思考と繋げて……説明が複雑になるわね、これ」

「そうすか……まあ要するに魔法でなんやかんやしてるんだ」

「まあそうね」

 

魔法すごー、魔法すご。

人形師とかなんかカッコいいよね……人形と糸使えるんだもんね、カッコいいなアリスさん。

 

「………よし。じゃあ今日の活動を始めましょうか」

「活動……つっても私やることない…」

「そうね…別に私も人形使っていろいろしてるから、手伝ってもらうこともあまり………とりあえず散策にでも出てみたら?とりあえずこの森に慣れるのが先でしょう」

「散策かぁ……そうしようかな」

「決まりね。じゃあ私は魔法の研究進めておくから、暗くなる前には帰ってくるのよ」

「あっはい」

 

暗くなる前には帰ってくる……

あれこの人親かな!?

 

 

 

 

 

「………特に異常なし!」

 

早速アリスさんの家を出て散策を始めたけど、特に気分が悪くなったり幻覚が見えるとかの症状はない。

妖力出してるだけでいいとか楽勝だなぁ……幽香さん様々だ。

 

こうやって落ち着いて森を見渡してみると、すっげえ毒々しいキノコから神秘的なキノコまでいろいろある。

てかキノコしかなくね…?もはやこれは魔法の森ではなくキノコの森ではないのだろうか。

 

まあキノコが生えてるのもあって、めっちゃ湿度高い。流石に霧の湖にいるときよりはマシだけど、ここは暗いしジメジメしてて居心地悪すぎる。

特に毛玉にはね。

 

「あ、動物発見」

 

わーかわいいリスだー。

なんで結構過酷なこの環境にリスがいるんだ…?あれか、この森で生まれたなら耐性持ってて当然ってことか。

 

わーあっちには毒々しい色した猪がいるー。

……猪かぁ…

私結構猪との遭遇率高いんだよね………前いた場所で猪見かけたら嬉々として狩って捌いてたけど、流石にこんな森にいる猪はちょっと………

 

「で案の定突進してくるし」

 

とりあえずいつもみたいに1メートルくらいの高さまで浮かんで安全を………なんだと!?

 

「ぐっふぉお……まさか跳躍してくるとは……こいつ…できる」

 

これが魔法の森の生態系か……猪がぴょーん、と華麗にジャンプして私の腹にクリティカルヒットした。

 

「やるじゃねえか……いいだろう、この私がお前の相手をしてやろうじゃねえか…そしてお前をアリスさんに献上してやる」

「ぶふぉお!」

「うわ完全に豚の鳴き声だ。いっつもすぐに殺ってたから鳴き声ってあんまり聞かなかったなあそういや………よし、行くぞ魔法の森の猪!」

「ぶふぉおおおお!」

 

 

 

 

 

まだ全然暗くなっていないが、とりあえずアリスさんの家に帰ってきた。扉を開けると、またアリスさんが椅子に座って紅茶を飲んでいた。

相変わらず美しい………

アリスさんがこちらに気づく。

 

「あら、早かったのね………って、どうしたのそれ!?」

「友情を育んだ」

「ぶふぉお」

「はあ?」

 

いやー、ちょっと戯れてたらなんか可愛くなってきて、殺しちゃうのもなんかもったいないなあ、と。

持って帰ってきちゃったぜ!

 

「ごめん、全然理解できないんだけど」

「アリスさん……そうか、アリスさんはあんまり人と話すこともなかったから、友情やそういったものを感じたことがないのか」

「ぶふぉぶふぉ」

「え、なに。相槌打ってるのその猪?あとなんか腹立つわね」

 

こいつ意外と頭良いんだよなあ、私と一緒に来るか?という問いに対しての答えが、ぶふぉっ。である。

 

「……で、それどうするの?」

「………考えてなかった!」

「言っておくけど飼えないからね」

「ぶふぉ!?」

「どうして!このつぶらな瞳がみえないんですか!?」

「ぶ、ぶふぉおぉ……」

「いや知らないわよ………って本当につぶらな瞳ね!?」

 

やばい、この猪やっぱりやばい。なんか………愛くるしいなこいつ。

 

「非常食としてもダメっすか!?」

「それ食べれないわよ」

「ファ!?……そうなの?」

「ぶふぉ」

 

食べれない、という返事が返ってきた。気がする。

 

「そんな………」

「……ま、まあそんなに懐いてるならわざわざここで飼わなくてもあなたに会いに来るんじゃない?」

「……来てくれんの?」

「ぶふぉっ」

 

しょうがねえなあ、という返事が返ってきた。気がする。

 

「ぶふぉぶふぉ」

 

どうやらもう帰ってしまうらしい。

 

「元気でな……また遊ぼうな…」

「ぶふぉぶふぉお」

「この生意気な奴め」

「なんで会話が成り立ってるの………」

 

ぶっふぉ、と一言だけ告げた猪は森の中へと消えていってしまった。

 

「………あなた変わってるって言われない?」

「めっちゃ言われる」

「あぁ…やっぱり」

 

やっぱりってなんだよ。




なんか謎にキャラ付けされた猪くん……

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