「っとと…あーぶないあぶない。花踏みそうだった」
まあ故意じゃなけりゃ笑って許してくれると思うけど………どっちかって言うとあの人はわざと花を踏んで楽しんでる奴を殺しにいくからなあ………それだけ幽香さんにとって花ってのは大事なんだってことだろう。
「うむ。ここは今日も辺り一面にひまわりが咲いておる!………季節関係無しに咲かせるのは幽香さん的にはオーケーなのかねぇ」
幽香さんとてサイコパスじゃない。花を摘んで遊んだり、そういう奴は別に気にしない。ダメなのはまあ………わざと花を踏み潰して幽香さんを煽るやつかな。
実際そんな奴を私は一回見たことあるし。
哀れな奴だったよ、四肢をもがれ臓物を体外に撒き散らして最後は極太レーザーで消し炭にされた。
ふむ……ここに初めてきた時にも不思議に思ったけど、この花畑の至る所にある宙に浮かんでいる光の球。これあれだね、幽香さんの妖力だね。これ使って花を年中咲かしてるのかな。
よくよく考えて、大妖怪の妖力がその辺に浮きまくってるって怖くね。
でもその辺に普通に妖精が普通に飛んでたらするんだよね…不思議だ。命知らずな奴が多い。あ、でも妖精は死んでも復活するんだったか。
なんでも妖精は自然のうんたらかんたら………じゃあ毛玉ってなんだよ。
というか私は精霊なの?妖怪なの?なんなの?いやまあ、たぶん妖怪だろうけどさ!周りからも完全に妖怪扱いされてるしさ!
紫さんなら私のことなんか知ってそうだけど……ぶっちゃけ一回会ったことがある程度じゃ聞く気にならない。
そうこうしてるうちに幽香さんの家が近づいてきた。
「いらっしゃい。少しひさしぶりかしら」
「そうですね、まあちょっと色々あって……」
実際、前に会ったのはりんさんが死ぬ前の時だ。あのあとしばらく落ち込んでたし、なかなか会う気も起きなかった。
「今日は何しに?」
「茶葉貰いに」
「茶葉?」
「アリスさんって知ってます?」
「あぁ、あの子。そう、なるほど」
名前を言っただけで全てを理解したようで……
「貴方も飲んでるの?」
「えぇまあ」
「じゃあ多めに渡しておくわね。あとせっかくだから飲んでいきなさい」
「じゃあお言葉に甘えて」
幽香さんがお茶を入れに奥へと引っ込んだ。
飲んだことはあるんだよ、幽香さんのお茶。でも前に飲んだ時は、なんかこう、今ほど……特に何も思わなかった。
だが今の私は違う!今の私はアリスさんとの完璧なるティータイムを毎朝過ごしている!今の私なら幽香さんの入れた真の紅茶の味が……!
「クッソうまい」
「気に入ってくれたようで何よりだわ」
「クッソうまい」
「…良かったわね」
「クッソうまい」
「……大丈夫?」
ハッ、今脳みそがおかしくなっていた。ような気がしたけど割と平常運転だった。
「いやでも、なんで淹れ方一つでこうも味が……」
「そういうものよ」
「そういうものっすか」
あれね、アリスさんも相当だけど幽香さんもやばいね。うん、やばい。
そして紅茶を飲む幽香さんというこの光景もね、やばい。
なんでみんなこんな優雅な振る舞いができるの?私の知り合いにそんな奴………ちょっと考えたけどやっぱりいないって。なに?紅茶飲んだら自然と優雅な振る舞いができるようにでもなるの?いや、私は絶対無理だからそうじゃ無いな。
でも今この瞬間はG R E A T・T E A・T I M E、なぜなら幽香さんという存在の圧が強いから。
私が緊張してたならそれはP E R F E C T・T E A・T I M Eとなりえない。
………私の頭大丈夫か?パーフェクトとかグレートとかうるさいな私。
「ねえ、今更なんだけど一ついいかしら?」
「いいですよ?」
「貴方にとって私ってどう言う存在なの?」
「…………」
…………んー…………………んー?んー…………
んんんんん。んんんんんんんんんんんんん!!
「んー………どういう………どういう……」
「そこまで悩ませる気はなかったのだけれど……」
「いやえっと、自分で言うのもなんだけど、私たちの関係って大分複雑じゃないですか」
「まあ、そうね」
本来なら私と幽香さんが会うことなんてほぼほぼなかったはずだ。なんか変な風に攫われなかったら、私はこんなところに来ていない。さらに言うと、そこで何故か妖力を手にしていなかったら私はここを何度も訪れていない。
ってか幽香さんの妖力なかったら生きてる自信ない。
同じ力を持っているとはいえ。親子とか兄弟とかの血縁じゃない。
「………友達?」
「はい、私のことを友達って言ったのは貴方が初めてよ」
「ふぉ?」
「他の私の知っている人からすれば、私はただの知り合いだから」
「いや、まあ、ええと、うーん、うん」
この人花が友達みたいなところあるし………いやでも寂しがりなのは知ってるし………んー。
「こう、私が仲良くなりたいと思っても絶対相手が距離を取ってくるのよ。まあ、しょうがないことだとは思っているのだけれど」
「はぁ……まあなんせ幽香さん、色々と噂が………」
風見幽香は強い奴との戦いを好む、とか。太陽の畑に近づいた奴を容赦なく殺す、とか。
まあめっちゃ恐れられてるな。
「噂……色々あるわよね、私の噂。強い人と戦うことは嫌いじゃないんだけど」
「えっ」
幽香さんも戦闘狂だったのか…………
「あくまで体を動かすのに丁度いいってだけよ。自分で言うのもなんだけど、私くらいの強さになると同等に戦える相手が限られてくるから」
強者としての自覚をしっかりとお持ちのようで!
いやでもまあ………運動する相手が強い人って限られたらそうなのかも。
ま、幽香さんにとっては自分に危険が及ぶ戦いも運動の一環に過ぎないってことね。理解理解。
…ごめんやっぱり理解できない。
「まあ納得はしましたけど………でも花を傷つけた末路とかの噂とかはめっちゃ有名ですよね」
「まあ嘘じゃないからね。あれは悪意のある奴が悪いのよ」
そういって容赦なく消し炭にするあたりその辺の妖怪とは格が違えや。
「幽香さん、幽香さん」
「何?」
「私今妖力の扱い方の練習をしてるんですよ」
「うん」
「幽香さんって花を操れるじゃないですか」
「そうね」
「何かコツってあります?」
「無いわ」
「おーっと予想外の答え」
コツ無いんかい!
「気づいたらできるようになってたし」
ナチュラルボーンフラワーマスターだったんか!
「強いて言うなら花の気持ちを理解することかしら」
ごめんそれできない!
「それと花に自分の真摯な気持ちを伝えることも大事だと思うわ」
結局気持ちかい!
「まあ教えられることは特に無いわね」
はいそうですかどうもありがとうございました!
「まあ貴方は毛玉だから、できないのも当然だと思うわ」
「幽香さんって結局どういう種族?」
「さあ?」
「oh……」
もう適当に花の妖怪でいいよね、うんそうしよう。
……なんでただの花の妖怪がこんなに強いんだろうな。
「妖力の使い方なんて学んでどうするのよ」
「ここまで色々あったんですよ。変な化物妖怪どもと戦ったりで何度命の危険を感じたことか」
「本当に?」
「……へ?」
「本当に感じたことあるの?」
「はぁ?」
そりゃもちろん、思いっきり吹っ飛ばされて長い間気絶したり妖力すっからかんになるまで戦ったり……一歩間違えてたら死んでたかもしれないことなんてたくさんあった。
「命の危険を感じたって言うなら、もっと行動が慎重になるのよ」
「慎重?」
「自分では気づいていないだろうけど。貴方、どこかで自分は死なないって慢心してるわ」
むぅ…なんで戦ってるとこ見たことない幽香さんにそんなこと言われるんだよ。
「そんなつもりは…」
「どうせ自分は身体の一部が吹っ飛んでもすぐに再生できるから、とか考えてるからよ。身体を一瞬で消し炭にされるような攻撃をされたらどうするつもりなの?」
「それは…」
そんな攻撃滅多に……いやできそうな人が目の前にいるな。
「まず敵がどんなことをしてくるのか、考えるってことを貴方はしていない。まず自分の体で受けてどんなものか見極めようとしている。違うかしら」
「おっしゃる通りで」
「それじゃ駄目なのよ。一番いいのは無傷で勝つこと。相手が再生を妨害してくるような術を持っていればどうする?確かに貴方のその再生力は戦いにおいては初見殺しのようなものだけれど、知っている相手なら対策は必ずしてくる」
「おっしゃる通りでぇ…」
もちろん私もそんなことは考えたことある。
一つのことに執着するようなやり方はダメだ、いろんなことを想定するべき。ただ残念なことに、私にはそんな想像力がない。未だに妖力とか霊力とかもよくわからん。
「別に嫌がらせで言ってるんじゃないわ。貴方を心配して言ってるの」
「心配しなくてもそんな簡単に私は…」
「いや死ぬわ、今のままだとなんでもないところで死ぬわよ」
あー、さとりんにも似たようなこと言われたわ。
そんなに私………そんなにぃ?
「まあ心には留めておくけど…」
「それ絶対忘れる奴よね」
「そそ、そんなことないっすよ」
「はぁ……」
ため息つかれてお茶飲まれた………
そんな急に変われと言われても変われるはずがない。まだ私は生きてきた年数が浅いし、この世界のこともあまり知らないし………
できることなら平和な生活送りたいの、私だって。でもなんでこう、変なことにばっか巻き込まれるかなあ。
「今日最初に会った時から思っていたのだけれど」
「はい?なんですか」
「なんか………前会った時と変わったわね」
「……んー?そんなことないと思いますけど」
確かにりんさん死んで心情的には色々あったけど………変わったのなんてそのくらいだしな。
「なんで言えばいいのかしら……こう、なんていうか……」
「そんなに表現できない変化?」
「何か変わったのよ」
「何かって………」
「無意識のうちに何かが変わってるんだと思うけど………何が変わったのかしら」
そんなあやふやな変化は変化に入らないと思います!
「……まあ不確定なことは言わないほうが良いわね」
「何それ気になるなあ……」
どうせ教えてくれないし、私が考えても分かんないし………
私自身気になることがないわけじゃ無い。
あの日魔法の森で見た幻覚、もう一人の自分。それが何か私に関係あるのか……とか。
まあたかが幻覚だしね、気にするだけ無駄か。
「そうだ、ちょっと待っててくれるかしら」
「はい待ちますけど」
数分後、席を立った幽香さんが戻ってきた。
「これあげるわ、肌身離さず身につけておきなさい」
「強制?」
「当たり前じゃ無い」
「うっす」
強引に渡されたのは白い花、
………白い花?なんで白い花?つかなんで花?つかこの花……
「何この花……」
「心配だからその花持っておきなさい。そのうち役に立つ日が来るわ」
「えぇ……こんな、えぇ……」
こんなもの貰っても……なんか困ります!
こんな……こんな幽香さんの妖力バカみたいに詰まってる花もらっても困る!
「返して良いです?」
「私が必死にそれに力を込めたのに受け取らないっていうの?」
「謹んで頂戴させていただきまする」
圧が……圧がすげえ……
けど…まあ、私を心配してくれてるってことなんだろう。こんな花持ってどないすんねん、とは思うが。
いやほんと、何この花。実質爆弾なんだけど?
でも手に取ってよーく確かめないとわからないくらいには妖力が隠されてる。
いや、この量の妖力をここまで隠すことができるとか、なんなんだこの人。化け物か?化け物だったわ。
「ねえ、貴方は自分が何者か考えたことはある?」
「今日そんな感じの話多く無いですか?そりゃあ考えたことはあるけど、分かんないですよ。毛玉がこんなのになるなんて」
「でしょうねぇ…」
そうですが?
私だって幾度となく自分の存在について色々と考えたことあるけど、いつも結論は『分からん知らん考えるのやーめた』だからね。
私についての謎なんて挙げたらキリがない。私は謎の塊のような存在だ。
そもそも生まれた時代違うし、多分転生してるし、なんか妖力と霊力持ってるし、体もあるし、なんか毛玉だし、頭もじゃもじゃだし、よく何かの角に足の小指ぶつけるし、なんか変な妖怪によく目をつけられるし、変な猪に懐かれるし…………
考えれば考えるほど私って奴がよく分からなくなる。
「でもなんだって急にそんなことを?」
「特にこれといった理由はないんだけど………例えば、八雲紫や私みたいな存在は同種がいないのよ」
「そりゃそうでしょうよ……あんたらみたいなのがいっぱいいたらこの世界終わってますって」
「だから貴方もそうなんじゃないかと思って」
「私も?」
いやいや、私は毛玉ってはっきりわかってるんだけど。
「種族が変わるってことも絶対ないわけじゃないわ。もちろん稀なんだけど、そもそも貴方っていう存在が稀でしょう?」
「ソッスネ」
「ただの毛玉に他者の霊力や妖力が入り込んでしまった結果、毛玉ではない別の存在になってしまったと、私は考えるわ」
んー……それっぽい、か?
確かに私はただ元は毛玉で、毛玉の姿になれるってだけで、もしかしたら全然毛玉じゃないのかもしれない。
そもそも毛玉は明確な意思を持っていないらしい。魂みたいな、そういう奴はあるけど思考したりはしない。
だが私は気づいた時には既にテンパってたし、普通の毛玉なら持っているはずの霊力すら最初はなかった。
まあ、最初っから毛玉と同じ点なんて見た目くらいだったってことか。今もほぼ人間体で生活してるから毛玉要素かけらもないし。
「もちろんこれはただの仮説に過ぎないけれど」
「そんな感じはしますけどねぇ………」
私っていう存在………
あり?そういやアリスさん私のことを調べてくれるうんたらかんたら言ってなかったっけ?
……ま、いいか。