「ねえちょっとこれ飲んでみてくれない?」
「なんすか急に」
外でイノシシと体動かしてたら突然アリスさんに変な液体を渡された。
「ねえこれ絶対変な奴だよね」
「そんなことないから」
「嫌だってなんか赤いよ?血みたいな色してるよ?」
「そんなことないから」
「ちゃんと私の目を見ていってくれない?」
「そんなこと……ないから」
「あるよね?そんなことあるよね?」
「良いから早く飲みなさいよ」
「……死なない?」
「死なない死なない」
コップに入れられたその赤い液体を意を決して飲み込む。フラスコじゃないんだなあ、とくだらないこと考えながら。
そして味は………少し苦かった。
「………あれ、なんともない?」
「よし、成功ね」
「結局何飲ませたん?」
「着色料」
「ん!?」
はい、と手鏡を向けられ、そこに映っていたのは………
髪の毛の赤くなった私の姿だった。
「ぎえぇああああ!!」
「うるさっ」
「私のっ、私のアイデンティティががががご」
「予想通り変色したわね」
「どんな予想通りいいいい!?」
「落ち着きなさい、1時間くらいで治るわよ」
「1時間も!?1分じゃなくて!?私の個性は!?」
「そのもじゃ頭があるじゃない」
「髪の色の方が重要なんですううう!!」
なんて酷いことを………
しかも毛玉状態の毛までちゃんと真っ赤になってたし……
これで緑になってたら森を燃やしてたかもしれない。私の髪が緑になったらス○モってそれ一番言われてるから、私に。
アリスさんの予想は外れて、実際は20分程度で治ったし。
「あ、もしかして私の再生力が薬の成分を分解したのか?」
「普通に私が配分間違えただけね」
「そっすか」
いやでも、口から薬飲んですぐに髪の色が変わるってどういう仕組みなの?どういう成分だったらそうなるの?魔法か何か?あ、ここ魔法の森だったわ。
「でもあなたがそんなに髪の色に拘るなんて思わなかったわ」
「いや拘るっていうか、単純にめっちゃ驚いただけですけれども……というか、なんで急に髪のことなんか」
「あなたの髪って切ってもすぐ元の長さに戻るんだったわよね?」
「うん」
「色変えたらどうなるのかなって」
「それだけ?」
「それだけ」
前もって説明してくれたらあんなに驚くことなかったのにさぁ……
「で、何かわかった?」
「何も」
「怒って良い?」
「だめ」
「はあ……」
全く………というか、何故急に薬品に手を出し始めたんだろ。今までは人形のうんたらかんたらばっかりやってたのになあ。
「はい次これ飲んで」
「また?次は何…」
「爪がめっちゃ伸びる薬」
「なんでぇ……まあ飲むけど」
また奇妙な色をした液体を飲み干す。
「………爪、伸びないんだけど」
「まあ爪が伸びるっていうのは嘘で、腹痛をおこす薬なんだけどね」
「は?」
「地獄を見たぜ……」
「驚いたわね……ちょっと腹痛がする程度のはずなのに気絶するほどの苦しみを感じるとは…」
「とうとう殺されるのかと思ったんだけど!?」
「解毒剤渡したじゃない」
「腹痛いのに飲めるか!」
うぅ気分悪りぃ………なんか私のこと実験台にしてない?いいのそんなことして。訴訟起こすよ?法廷で会うよ?
「多分あなた酒飲めないわよね」
「んあ?あー、まあそうっすね」
「じゃああれね。なるほど」
「勝手に納得しないで。私にも教えろよ体張ったんだから」
「あなた、毒とかの耐性が低いわ」
「ほーん……?」
確かに酒は飲めないけど……そうか、アルコールへの耐性が無いのか、そうかそうか。
だから腹が痛くなる薬もアリスさんが想定してたよりずっと効果があったと………考えたら腹立ってきた。
「ねえ流石に怒っていい?」
「ごめんなさい」
「謝られたら怒れないんだが!?」
「再生力が高いなら薬物への耐性はどうなのかと思って……まあこれであなたも自分のことを知れたからいいじゃ無い」
あのさぁ………
「じゃあ怒らないから嫌がらせさせて」
「………例えばどんな?」
「朝起きたら部屋に血だらけの私の腕が10本くらい吊り下がってる」
「もうしないって約束するからやめてね?」
「冗談冗談」
「ねえ私の目を見ていってくれる?」
「今日いい天気だねー」
「曇りだけど」
まあ実際そんなことしない、だってそんなに腕もぐの嫌だし。
まだ不快感の残る腹を抱えてながら部屋に戻ろうとすると、一体の人形に目が止まった。
「あれ……ねえアリスさん。これ私?」
「えぇ、そうね。勝手に作らせてもらったわ」
「それは別に全然良いけど。わーお、すっげえ髪の質感。本当にもじゃもじゃしてるよすごいね」
「まああなたの髪で作ったからね。……冗談よ。冗談だからその氷をしまって」
「嘘かホントかわからない発言するのやめて」
でも、はえぇ………
自分の体がデフォルメされて人形にされてるって変な気分だな。
でもアリスさんの人形って意外と細かいんだよね。同じ姿に見える人形でもよく見たら違うところがいっぱいあったり。
「あぁそうだアリスさん。糸どうなった?」
「糸…あぁあれね。ちゃんと見つけておいたわよ。経年劣化で使えるようにするにはちょっと時間かかるけど」
「そっか」
アリスさんは人形を操る時、魔力で作った糸を人形に通して操っているらしい。で、その魔力の糸が作れるようになるまで練習に使う糸があって、私はそれを借りようとしている。
「じゃあ私部屋に戻って寝るから。あぁ腹痛い」
「解毒剤飲めば良いのに」
「変なもの入ってそうだから飲まん!」
「流石に入ってないわよ…」
嘘言って腹が痛くなる薬飲ませた奴が言っても信用ねえからあ!
「あっそうだ。一つ聞くけど」
「んあ?なんです急に」
「あなた時々夜中に外に出て行ってるわよね」
「あ、バレてた?」
「そりゃああれだけ派手に転んだ音がしたら気付くわよ……で、何しに行ってるの?」
「あー………んー………」
「…まあ別に言いたくないなら言わなくて良いけど」
「そうしてくれるとありがたいです」
話しにくいというか……まあ今更なんだけど。
時々私は湖に行っている。チルノや大ちゃんと会わないような時間に。
何をしに行ってるかって、そりゃあ…墓参り?心配だからたまに湖に行って、私が建てたりんさんのお墓の様子を見に行っている。
チルノや他の妖精たちに荒らされてたらたまったもんじゃないし………それにあの墓の手入れを誰かにお願いするのは流石に気が引けたし……
我ながら、いつまでりんさんのこと引きずってるんだろうなあ。
チルノや大ちゃんと会いたくない理由はまあ、ブレそうだから?
結局はあそこは私にとって居心地が良いんだ。下手に顔を合わせて帰りたくなるのが嫌なので会わないようにしている。
寂しいといえば寂しいけど……まあ今生の別れじゃないし、私が会いたくなったら会いに行けば良いだけの話だ。
「どうしたの、しけた顔して」
「うおっアリスさん。何覗いてんの」
「いや、んーんーんーんーうるさかったから」
「え?私んーんー言ってた?」
「うん」
「んー……」
前世の私は一体どんな暮らしをしていたのだろうか。
親しい人との別れは経験したことがあったのか?自分の今のこの言葉にできない気持ちを感じたことはあったのか?
そもそもなんで前世の記憶がないんだろう。いや前世の記憶なんてないのが当たり前なんだろうが。転生の弊害…って言っても、自分のこと以外は割と記憶してるのに。
「何か悩みがあるなら相談に乗るわよ?」
「え?」
「ほら、私とあなたって、まあそれなりの時間一緒に過ごしてるじゃない。一緒に時間を過ごす仲間として、相談に乗るのは当然でしょう?」
「アリスさん……結構です」
「あっそ」
気持ちはありがたいけど、まあそんなに自分の事情を他の人に喋りたくはないかな。まあ前世の記憶があるってこと何人かに言っちゃってるけど。
「とりあえず言っておくけど、明日は朝から森の奥の方に行くわよ」
「そっすか。行ってらっしゃーい」
「いやあなたも行くのよ?」
「何故」
「必要なものがあるのよ。糸の手入れするの私なんだからそれくらい手伝って」
「うぃーす」
「うわくっせ!クソの臭いするんだけど!?」
「そういうきのこよ」
「どういうキノコ!?」
なんでキノコがこんな……でも虫とかが敵から身を守るために異臭を放つってのはよく聞く話だし…いやでもなんでキノコが?
「アリスさんが探してるものってこんなところにあんの?」
「違うけど」
「はあ?じゃあなんでこんなところ通ってんのさ」
「知らないわよ」
「はあー?何言って……まさか……アリスさんま」
「迷ってないわよ」
いやー、私が言い切る前に言ったってことは、自分も薄々迷ったと思っている証拠で…
「この森に何年住んでると思ってるのよ。私がそんな易々と迷うわけ」
「じゃあそのいろんなところに伸びてる魔力の糸は何」
「………」
「現在地特定しようとしてるよね?迷子になったから必死に今いる場所がどこかを特定しようとしてるよね」
「違うわよ」
「じゃあ何してんのさ」
「素人にはわからないことよ」
はあ……じゃあアリスさんが動くまで暇だし休憩しとくかぁ。
にしても魔法の森……やはりとんでもない魔境である。
何がやばいかってキノコがやばい。効果が色々ありすぎてる。アリスさんが私に飲ませた薬も大体キノコで作ったってんだから恐ろしや。
あと年中じめじめして暗く、虫が結構湧いている。
私虫苦手なんだよね……何をどうしても苦手なんだよね虫……何が無理かって、もう全てが無理なんだよね虫……
「アリスさんって虫大丈夫なん?」
「別に好きでも嫌いでもないけど」
「そっかあ……」
虫以外の生き物は基本いけるんだよ。虫がダメなんだよ虫が……でもこの森で生活するからには虫からは離れられないし……うーむ。
「殺虫剤早く作られねえかなあ…」
「あ、いけた」
「何が?」
「目的地の場所わかったからさっさと移動するわよ」
「やっぱり迷子なんじゃん」
「きのこの生え方が変わって感覚が狂っただけよ」
いやそれ迷子なんじゃ……?
「いや嘘だよね」
「嘘じゃないけど」
「いやいや…あ、これ夢か」
「残念現実よ」
「ならば幻覚……またキノコのせいで」
「この辺に幻覚作用のあるきのこは生えてないわね」
「じゃああの生き物はなんだよ!」
「きのこね」
「手足が生えて顔があるキノコってなんだよマタ○ゴか!」
アリスさんと茂みに隠れてひっそりと会話しているが……
なにあの……なにあれぇ……キノコに手と足が生えて顔がついてて……すげえ周りをキョロキョロしてるんだけど……
「あれキノコ?妖怪?どっち?」
「半茸」
「半妖みたいに言うなや。てかあれが本当に欲しかったやつ?」
「えぇ。見た目はああだけど魔法で使うのに便利なのよ。ちなみに外敵を見るとめっちゃうるさく叫び散らすわ」
「もはやどっかで見たマンドラゴラ。………で、どうすんの」
「あのきのこはちょっと不思議でね。こちらが気づかれずに不意の一撃でやらないと倒しても自然消滅してしまうの」
いやあ気づかれずにって言ってもどうすんだよ。
あ、わかった。
「私がここから爆破すればいいのね」
「まず妖力で気づかれるし、どちらにしろ木っ端微塵になるでしょうそれは……私一人でやってる時は入念に罠を仕掛けて一撃で屠るんだけど、今回はあなたがいるからね」
「やはり爆発で…」
「氷をあのキノコに突き刺して」
「……爆破」
「氷」
「うぃっす」
手に太めの氷の棘を作り出す。
あのキノコの硬さは知らないが、妖力を少し込めたら貫くことはできるだろう。
「アリスさん一つ問題が」
「何」
「多分当たらない」
「意地でも当てて」
「そう言われましても」
「あのキノコ希少種なのよ」
「そう言われましても………まあやるけどさあ」
私はノーコンなんだ!そんな高度な技術求められても無理です!
考えろ……考え………
「よし乱射するか」
「ちょっと待——」
「くらえっ」
さっきのトゲを十数本作り、背中を見せた動くキノコへと発射した。
私の可能な最高速度で打ち出した氷のトゲはキノコの周りを掠め、そのうちの一本がキノコの身体に穴を開けた。
「complete」
「危ないわね……外した氷の棘が木をへし折ってるんだけど…」
「てかキノコってどの部分使うの」
「基本は上の傘の部分…うわすごい穴……」
「思ってたよりあのキノコずっしりしてて柔らかかった。てか体液も出てないし本当にキノコだったのか……」
私が浮かせたキノコをアリスさんが人形で運ぶ。
「にしても魔法の森……本当に魔境。とうとう変なキノコまで現れたし……」
「早く慣れることね。他にもこの森にしかいないやつ沢山いるわよ」
「うげぇ……そう考えたらあのイノシシって癒しの方だったんだなって」
あいつなんだかんだ言ってちょっと可愛いんだよなあ……突進もじゃれあいの一つと考えたら……いやでもあの突進で骨が体から飛び出たことあるしやっぱ可愛くないや。危険危険。
「ところでそのキノコ何に使うの」
「髪の毛が禿げる魔法に。………嘘嘘冗談だからきのこに氷刺さないで」
「さーんにーいいーち」
「やめ、やめて!」