毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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自分を一般毛玉だと信じてやまない毛玉

「はあ、はあ、はあ、ひいいいい!」

 

まずいってやばいって死んだって!

背後に氷の壁を作り出して投げられるお札を防ぐ。

 

絡まれちゃった、陰陽師。

 

 

 

 

 

ことは数分前に遡る。

不用意に人里に近づいた、陰陽師来た。以上!

 

 

 

 

「あー私のバカ私のバカ私のフゥッ!?」

「待て妖怪め!」

「待てと言われてはい待ちますって奴がどこにいるんだっての!」

 

大人しくアリスさんの家に引きこもってりゃよかったんだ!冬だし!寒いし!私の馬鹿め!

陰陽師の霊力を用いた攻撃は、妖力のような破壊力こそないが、妖怪への強い特攻がある。一回りんさんに対妖怪用のお札をペタッとされたことあるけど、その瞬間肉がどろどろに溶けてた。ついでに再生力も低下した。お札すげえ!

今は昼間だから森の中に身を隠しても簡単に見つかりそうだし……どーしよ!

 

「追ってくんなストーカーどもが」

 

霊力弾を作って適当にばら撒いて足止めを…

 

「緩いわ!」

 

簡単にかき消されましたとさ!

流石に霊力弾は手加減しすぎたか…でも下手にやって死なれるのも嫌だし。

ってかなんで私は勝つ前提で話してるんだよ!普通にあのお札に当たったら死にそうなんだって!

 

「ちょ、ちょーっと待て!人間を襲おうって気は全くないんだって!」

「ならば何故人里に近づいた」

「えーと…魔がさして」

 

うわ無言でお札投げてきた!

再び逃げて距離を取る。追ってくる陰陽師は3人、3人かぁ。お前らこんなか弱そうなもじゃもじゃによってたかって恥ずかしくないんか!おおん!?

 

さて、一番確実なのはこのままひたすら逃げること。

別に暗くなるまで逃げ続けてもいいんだけど、多分私の体力よりも気力がもたない。それに目的地もなく逃げ続けるのも行けないだろう。

 

霧の湖は……チルノや大ちゃんに会いたくないし下手したら妖精たちがやられかねないので却下。

妖怪の山は……なんとかしてくれそうだけど怒られそうなので却下。

魔法の森は……アリスさんにブチギレられそうなので却下。

迷いの竹林は……妹紅さんに殺されそうなので却下。

地底は……迷惑かけたくないので却下。

あれ詰んだ?

 

「おらかかってこいや変な服装の野郎ども!」

「本性を表したな妖怪め!」

 

3人揃って札を投げてくる。

もう手加減とか考えてる余裕ない。こっちも全力で行かないと。

お札を全てかき消せるほどの妖力を手にこめて奴らに………

 

 

「………あれ?」

 

 

どこここ。

 

 

 

 

 

 

周囲を見渡してみるが、人の気配のない家屋があるだけ。しかも山奥っぽい。

一応あの陰陽師達の精神攻撃的な何かとも疑ってみるが……どうにもそんな気配はない。本当に転移したような感じがする。

 

ここがどこかわからない以上下手に動くこともできないし……というかそもそもなんでこんな場所に居るのか…

 

「………ん?」

 

今何か物音が……誰かいるのかな?

 

「もしもーし、誰かいませんかー………」

 

誰かがいる感じはするんだけど………

いや、この感じは誰かがいると言うより獣のような……

キョロキョロしているとその気配の正体を見つけな。

 

「なんだ、猫か」

「ようこそマヨヒガへ」

「ふおおおお!?」

 

猫を見て安心していたところ、背後から話しかけられてびっくりする。なんでみんなすぐ人の背後をとるかな…びっくりするでしょーが!

 

「だ、誰だお前!」

「私は八雲藍、紫様の式だ」

 

しれっと背後に立ってしれっと自己紹介したよこいつ!しかもこいつ………めっちゃやべえ。

その辺の妖怪とは比べ物にならないくらいの圧力を感じる。正直言って圧力だけなら幽香さんに匹敵するかもしれない。

こ、こえぇ……

 

「え、えーと、紫さんの式、ですか。じゃあ私に何の用で…?」

「紫様はこのマヨヒガにある屋敷の中でとうみ……休息をとっていらっしゃる。そして紫様がお前を連れてくるように言いなされたので、私がお前を案内する、ということだ」

 

うん、今冬眠って言ったよね。え、なにあの人冬眠するの?マジで?

あとこの藍?って人私のこと時々睨んでくるんだけど……え、何なんか嫌われるようなことした?初対面なんだけどもう嫌われた?もしかして存在が嫌いなの?生きてることが罪なの?

謝るからその圧力かけてくるのやめて……

 

「着いてこい」

「はい」

 

 

 

マヨヒガ……マヨヒガ………どこかで聞いたような……なんかで読んだったか。

あ、思い出した。確かこう、迷った人が迷い込む家的な……でも周りに家いっぱいあるし。いや廃屋なんだけども。

そしてこの藍って人。すげえ九尾だ!初めて見た!逃げていいかな!?

あれ、九尾って確か相当やばかったよね?それをなんか使い魔的にしてる紫さんってやばくね?やばいよね?やばいわ。

そりゃあ凄い圧力なわけだよ………なんか知らないが若干の敵意すら感じる。どのくらい強いのかはわからないけど、敵意がある分紫さんや幽香さんよりもプレッシャーがやばい。

 

「ここだ」

「はい」

「入れ」

「はい…」

 

また睨まれた……怖えよ……

案内されたのは、他のボロボロの廃屋とは違ったちゃんと手入れの行き届いていそうな立派な屋敷。

扉を開けると凄い綺麗にされている廊下が続いていた。

 

「おおじゃましますす…」

「いらっしゃーい」

「ひいっ!?」

 

なんかナチュラルに返答が来たんだけど!?しかもこの声紫さんだよね!?え、こわ!何今から私処されるの!?

 

「早くこっちへ来なさないな」

「は、はいすぐ行きます!」

 

と、とりあえず靴脱げばいいかな……背中に突き刺さる藍さんの視線が辛い…!なんも喋らないし、めっちゃ険しい顔してるし…

 

「こっちこっちー」

「えっとどこ……あ、ここかな」

「いらっしゃい、毛糸」

「あ、紫さっ紫さん!?」

 

ふ、布団にインしている!すげえ妖気を垂れ流しながら気だるそうに横たわっている!

 

「連れてきてくれてありがとう藍、寝てるとスキマが安定しなくて」

「いえこの程度」

「………」

 

とんでもねえ力を持っている奴二人に挟まれている私、絶句。

布団でだらけているのとそれと普通に会話しているとんでもない妖怪二人に挟まれている私、絶句。

もはや言葉も出ない。

 

「お、おあおあっ」

「紫様……本当にこの者なのですか?」

「そうよ。まあ確かに見た目じゃ完全に萎縮してる可哀想なもじゃもじゃだけど、中身は割とちゃんとしてるわ」

「おっ……おっあおっおっっあ」

「ちゃんとしてるのよ、本当なのよ。だからそんな疑いの目で見ないであげて」

「しかし……」

 

藍さんからの視線が痛い……目からビームでも出てんの?実際出せそう。

ってか圧力に潰されてたらダメだ、聞くこと聞かないと。

 

「あの、本日はどういう用件で……」

「あー、えっとね。なんだっけ…」

「………」

「………はぁ…」

 

あ、やばい。背後からくる藍さんのため息で死にそう。

 

「あぁそうそう。その藍に会わせたかったってのと、一度落ち着いて貴方と話がしたくってね」

「は、はあ……それで……というか、さっきは危ないところを助けていただきありがとうございます」

「いいのよ。というか寧ろあのままだと危ないのは人間の方だったし」

 

否定できん!あの人間に向かって思いっきりイオ○ズンしようとしてたからね!

 

「紫様失礼ながら一つ」

「なーにー?」

「………その前に、とりあえず布団から出てはいかがでしょう」

「えー……」

 

私は一体何を見せられているんだ……ッ!

 

「はいはい出るわよ出ればいいんでしょ」

「………」

 

怖いっ、藍さんの出す気配が怖い。呆れが凄い……

 

「よいしょっと」

 

別に寝巻きで寝てるわけじゃないんだ……凄え服で寝てた……

 

「それで何か言いたいことあるの?藍」

「ふぅ……本当にこの者が話に聞いていた白珠毛糸なのですか?これはあまりにも………」

「あまりにも?」

「貧弱です」

「ぅん……」

 

出会って30分も経たずに罵倒された……

 

「私が想像して居たものとは程遠いのですが」

 

一体どんなものを想像してたんだ。

 

「私が想像していたのは、少なくとも私ごときを見て怯えるようなひ弱な存在ではありません」

 

初対面から敵意剥き出しで見られたらびくびく怯えるに決まってんでしょ?あと私ごときって何?私が今まで出会ってきた妖怪のトップ5くらいに入りそうなのに私ごときって何?

 

「それに、この者が鬼の四天王の星熊勇儀と対等に渡り合ったなどと……到底信じることはできません」

 

うん対等に渡り合ってないからね。確か私、ここぞってところで妖力枯らして気絶したからね。

 

「そもそも勝手に地底に出入りしているのが気に食わない」

「うぐっ……」

「でもあれは地底の妖怪たちも認可しているわよ?」

「であってもです」

 

地底に行ってるのは本当……私が悪いしなあ。

 

「そんなにこの子のこと嫌い?」

「はっきり言って、嫌いです」

「大して会話もしていないのに嫌われた……」

 

辛いです……

 

「そんなに言うなら一回戦ってみる?」

「!?」

「この者とですか?」

「それ以外に何があるのよ」

 

何を言っているんだこの人は!?私が!?この人と!?戦う!?はぁ!?発想の飛躍がちょっとおかしいなあ!

 

「ちょ、ちょっと待って紫さん」

「紫様と呼べ」

「はいはい一回落ち着いて藍」

「無理ですって!死にますって!この人と戦いなんてしたら間違いなく殺されますって!私はただの毛玉ですよ!?」

「大丈夫よ、貴方は強い。それなりには。きっと藍とも互角の勝負になる…と思うわ。貴方のその再生力と妖力なら善戦できる…はずよ」

 

全然安心できねえ!きっと、とか、はず、とか言うなよ!

そもそも藍さんだってきっと嫌に決まって………

 

「………」

 

わ、笑っている……ニヤついてる…怯える私を見て笑ったぞこの狐女!すっげえ見下された気分!

てか、え?もしかしてやる気なの?マジで?

 

「異存ありません」

「私は異存あるんだけど!」

「そうは言ってもねえ、貴方も藍に睨まれ続けるのは嫌でしょう?」

嫌だけども、それだけのために命を張れとおっしゃいますか!

 

「安心しなさい、きっと、藍さんも命までは取らないわ。そうよね?」

「善処します」

 

取られるやつだこれ……命持ってかれる奴だこれ……

 

「どうしてもやる気にならないって言うなら……そうね」

「えっなになに殺される!?」

「藍、今から言う言葉をそのままこの子に言って」

「は、はぁ」

 

紫さんが藍さんの耳元で何かを囁いている。

なんか嫌な予感が……

 

 

「では………この○○○○○○○○が」

「………!?」

「貴様のような○○○には○○○で○○○○○○だ」

「!?」

「だからお前は○○○○○○○なんだ」

「………」

「○○○○○○○○○○○」

 

………

 

「ぐはぁっ…………半分くらい言いがかりだけど半分くらい本当のことだった………」

「あら逆効果」

「ここで言い返さないあたり駄目ですねこいつは」

 

なんて……なんて酷いことを…今まで生きてきて一番酷いこと言われたわ!!

 

「ったくもう…やりゃあいいんですよね!?」

「あ、やる気になったみたいね。作戦成功」

 

あなたの作戦は私のこの毛玉程度の硬さしかないメンタルに爆弾ぶつけることだったの?

 

「じゃあ場所は用意してあげるから、一旦外に出ましょうか」

 

数分前まで布団の中でだるそうにしてたのに急に元気になり始めたな……というか冬眠ってなんだよ。

 

 

 

 

 

「準備出来ました」

「こっちも……でき……でき……まし……た」

「すでに戦う前から瀕死ね」

 

既にあの凍てつく視線で私の体力はゼロだ!お前ただの毛玉にそんな視線ぶつけんのか!

 

「それじゃあ始めるわよー」

 

どうでもいいけど、意外と紫さんって人間らしさあったんだな……

 

「……始め」

「うおっ」

 

結構距離は離れて居たはずなのに一瞬で私の目の前まで寄ってきた。斜め後ろに飛び退き飛んできた拳を回避する。

 

「……流石に今のは避けるか」

「ガチだ…ガチでタマ取りに来てるよ…」

 

とりあえず一旦距離を取りながら妖力弾をばら撒く。こうしておけばこっちへの進路を制限できるし、突っ切ってきても少しくらいはダメージと時間稼ぎは……

 

「全部消されたし……」

「妖力だけは一級品だが、扱いがなっていないな」

「それ本当に自分でもよくおもおっ!」

 

人が喋ってたのに容赦なく蹴りをしてきた。なんとかギリギリ躱したけど、なんか風まで飛んできた。

後ろに引いた途端レーザーの追撃、体を浮かして横に衝撃波を出して回避する。

 

「避けてばかりだな」

「う、うっせえ。受け止められるもんでもないんだから」

 

今度は向こうが妖力弾を飛ばしてきた、しかも私を追尾してくるやつを。

追尾弾ってなにどう言う原理…目の前に氷の壁をつくって防御、爆弾みたいな音がしたけど私の氷壁は無傷だ。硬いなおい。

氷の壁と爆発で向こうを見失ってしまった、早く相手を見つけなければならないと言うのに、周囲を見てもいない。

 

途端に寒気がする。嫌な予感がした私はその場を飛びのいた。

 

「ひえっ」

 

真上から変なのが突っ込んできた……煙の中にいたのは藍さんその人。

着地と共に大きな衝撃波が来て私の体勢が崩れる。その隙を見逃してはくれず、藍さんの頭の上から何か黒くて硬いものが振り下ろされる。

咄嗟に全身に妖力を回し、屈んで両手をクロスさせて防御した。

 

「おっも…そして金棒」

 

なんで金棒?まあそんなことは今どうでもいいか。

最初の一撃だけだ、この一撃だけしかしてこない。金棒を振り回すようなこともしない。

ただひたすらに、受け止めた私の体を押し潰そうとしてくる。

 

「ぐっ……」

 

なんとか体をずらして金棒から逃れようとするが、いかんせん重すぎる。下手に体を動かしたらそのまま潰れてしまいそうだ。

 

唐突に体が軽くなる。というか吹っ飛んだ。金棒を受け止めている私の横っ腹に弾をぶち込まれたらしい。妖力を全身に回していたというのに、腕は形が変わり腹の肉は抉れている。

 

「弱いな。それで紫様と友人などと、笑わせるな」

「はぁ…あーそういうことね完全に理解した」

 

藍さん、友達って思ってんのあなただけですよ。

要するにあれだな?私みてえなくそ雑魚毛玉が紫さんとつるんでるのが許せねえんだな?正直会った回数なんて全然ないからもしかしたら違うのかもしれないけど。

ともかくだ。もちろん私だってこのまま負けるのは嫌だし、せめて一矢くらいは報いたい。

腕と腹の傷を再生して立ち上がる。

 

「こっからは私も本気でいくんで」

「殺す気でこい」

 

まともな人間がそんな気持ちに簡単になれるわけないだろーが。

あ、人間じゃなかった。ただの毛玉だったわ、私。


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