毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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死んでからその人について新しく知るって本当にあった毛玉

「まず謝らせてくれ。すまなかった」

「………?」

 

なんだ、幻聴か?

今なんて言ったんだ……えーと、住まい無かった?

家ないのかな?あ、でも過去形ってことは今はあるのか。そうかそうか。

 

いやいやいやいや。

 

「こ、こちらこそ腕を…」

「いやそれはいいと言っただろう。それに、寧ろ謝るのはこちらだ。君は四肢が無くなっているんだから」

 

まあ簡単に生えるんだけど………とりあえず右足は生えた。左足は現在再生中。

せめて腕が使えないと服は着れないので、まだ全裸だ。いやー、こうも長い時間全裸でいると、初めてこの体を手に入れた時のことを思い出すなあ。いやー懐かしい懐かしい。もう自分の年齢とかよくわからんが。

 

「私は昨日までずっと、君のことを弱く、小さな存在だと思っていた」

 

私はさっきまでずっとあなたのことを私を敵意剥き出しで睨みつける戦闘狂だと思ってた。

 

「だが戦ってみて分かった。君は弱くないし、その心は強い。私は、君が紫様の友人に相応しくないものだと勘違いしていた」

 

うん、紫さんと友達になった覚えはちっともないんだが?さては藍さんあんたちょっとズレてるな?

まあここまで言われて悪い気はしないけど……心は強いってなに?あ、思考停止して脳筋するその度胸は認めてやるって意味か。

 

「もし良ければ、私とも友人になってくれないか?」

「は、はあ?」

 

今なんて?

 

「何せ、身の回りの実力者が自分より強いか弱いかのどちらかしかいなかったんだ。同じくらいの強さの者に、私は初めて会ったんだ。お詫びもしたいしな」

「は、はあ……ま、まあ別に…」

「良いって。よかったわね藍」

「紫様はその状態のまま喋るのやめてください」

「しょうがないじゃない。眠いんだもの」

 

そういう割には寝てない……

あと私絶対藍さんより弱い……私は瀕死で藍さんは腕一本取れただけだし。

急に物腰柔らかくなって怖い、すごく怖い。急に友達になろうとかいうあたり私と正反対で怖い。具体的にいうと私が陰で藍さんが陽で怖い。

 

………帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

「あー意外とサイズぴったりぃ……」

 

藍さんはなんだっけ。ちぇんだっけ?橙とかいう人の面倒見るとか言ってどっか行った。

それから結構経って、手足がやっと生えてきたので服を着た。

 

「あぁそうそう、落ち着いて話したいとか言っておいてしてないわね」

「………」

「なんであからさまに嫌そうな顔するのよ」

「もう帰れるかと……」

「ここどこか分からないでしょう?」

 

くっ、はめられた。

確かにここどこかわからんけども!私をぼこしてきた狐女とその主人と会話はしたくねえ!怖いもん!

 

「……えーと、話って、なにを」

「ちょっとした世間話よ」

「はぁ…」

 

世間話をするのに貴方は布団に入ったままなんですね?とは言えんかった。だがしかし、少しだけ藍さんの気持ちがわかった気がする。

 

「博麗って、聞いたことあるかしら」

「博麗……?」

 

博麗……ある……聞いたことはあるけどなんだっけ……

 

「じゃあ博麗神社は?」

「神社?………あ、あれですか。あのめっちゃ高いとこにあるやつ」

「……まあそうね、高いと言えば高いわね」

 

昔地霊殿で読んだ書物にそんな感じの名前が載ってたような……よく覚えてたな私。

 

「それじゃあ博麗の巫女は?」

「巫女?……そりゃ神社なんだから巫女さんくらいいると思うんですけど」

「博麗の巫女ってね、妖怪退治を生業にしてるのよ」

 

え?なに、この世界の巫女って武闘派なの?

 

「妖怪退治においてその右に出る者はいない、とさえ言われるほどの実力を持っている」

「それはまあ凄いですけど……」

 

会ったことも聞いたこともないなぁ……私は妖怪退治するやべー奴ってのは基本りんさん、ってイメージだったし。

聞く噂もりんさんばっかりだったなあ。まあほぼ首狩り族みたいなもんだったからなあの人。下手な妖怪より妖怪してた気がする。

 

「その博麗の巫女がね、数年前に新しく代替わりしたんだけど、その前の代っていなかったのよ」

「いなかった?博麗の巫女が?」

「えぇ。いつも代替わりの時期になると、博麗の巫女の素質を持った人間の子供を拉致して修行をつけさせるんだけど」

 

うん、とりあえず色々言わせてもらおう。もちろん心の中で。

 

いやいやあんた妖怪だよね?なんでそんなにその博麗の巫女に詳しいの?なんであんたが代替わりさせてんの?なんであんたが新しい巫女作ってんの?今拉致って言ったよね?拉致ったの?え?

 

「見つからなかったと」

「そうねぇ……見つからなかったというか、遅れたというか」

「……まあ詳しいことは聞きませんけど。そっか、私が博麗の巫女に会わなかったのって、ちょうどその時にいなかったってことなのか」

「そうなるわね」

 

ラッキー!もしそんな人類の頂点に立ってそうな奴と戦って生きてる気がしないからね!いやーいなくてよかった!

 

「本来なら博麗の巫女は妖怪への抑止力となるから、いなかったら軽く妖怪と人間、または妖怪同士の激しい争いとか起こってもおかしくなかったんだけど……」

「……なんで私見るんです」

「貴方が山の戦い鎮めたようなものだしねぇ」

「私が?」

 

そんなことした覚えが………ん?まてよ、なんか思い出しそう。

あー、あ、あっあっあ!

 

「あーはいはいあれかぁ!いやでも結局あれ最後持っていったのルーミアさんだったしなぁ……」

「そのルーミアを退治するのも本当なら博麗の巫女の仕事なんだけど」

 

私とりんさんがなんか好き勝手やったなあ!だっていないんだからいいじゃん!

 

「その点貴方には感謝してるわよ?勿論貴方は意図せずにでしょうけど、その行動は博麗の巫女の穴埋めをしてくれたようなものだから」

 

それ、どちらかというと私じゃなくてりんさんなんじゃ……

 

「あの人間も、貴方と一緒に色々やってくれたわね」

「……知ってたんですか」

「勿論よ。あれほどの力を持った存在、この私が見逃すわけないじゃない」

 

布団に入った状態でキメ顔で言われた。

うん、布団から出てください。

 

でもまあ、確かにあの人もあの力の代償に寿命縮めてるみたいな感じだったなあ。

 

「そうそう、その彼女なんだけどね」

「はい」

「私が拉致出来なかった子なのよね」

「ひょ?」

「だから、彼女は博麗の巫女の素質を持ってたってわけ」

「………ひょ?」

「少し待ちましょうか」

 

・・・・・・ひょ?

あ、あー、なるほど……そうだったのか……確かにそう考えれば色々と……

 

「博麗の素質って、まあ言ってしまえば人間の身には過ぎた力なのよ。使わなければどうと言うことはないんだけどね。博麗の巫女になるために修行をしたら、代償云々も無くなるんだけど」

 

りんさんはなんかよくわからんがめっちゃ強かったし。

 

「どうしてその時りんさんを拉致出来なかったんですか」

「まあ単純に私が忙しかったってのと……そうね、忙しかったわね。もちろん他に様々な要因が重なった結果ではあったけれど。主に彼女を取り巻く環境がね」

 

確か迫害されてたんだっけか。

まあ博麗の巫女がいないってことは、それは要するに人間の守護者がいないってことだろうし、人間がギスギスするのも仕方ないといえば仕方なかったんだろうな。

 

「一回無理やり拉致したのよ?ただなんか全力で拒否されてね……既に妖怪への憎悪が芽生えていたから。私っていう存在が気に入らなかったんでしょうね。逃げられたわ」

 

あの人は……意外と周りに流されやすいタイプだったのかもなあ。

私と会うまでは人里の人間の憎悪を、そのまま自分のものと勘違いしていたような気もする。

 

「その素質だけなら歴代最強の巫女とかになれたかもしれないのだけれど。まあ発見するのが遅かったのがいけなかったんでしょうね……強制することはできないから仕方なく新しい素質を持った人間の子供が現れるまで待つことにしたのよ」

 

話はそれで終わりのようだった。

………いや思考が追いつきません!世間話とか言っておいてとんでもないことカミングアウトされた気がするんだけど!?いやされたな!気がするんじゃなくて、とんでもないことカミングアウトされたんだわ!

世間話ってなんだっけ……

 

でも‥なるほど納得はいったなぁ。

その博麗の力ってのを無理やり引き出したからりんさんはあんなのになったんだろう。ついでに周りの人間にも迫害されて……

 

まあこのことを考えるのはもうよそう。もう何年も前の話だ。

あれ?何十年だっけ?私今何年生きてるっけ?私自身老いないし、幻想郷自体も外との交流があまりないせいで今が何年なのか分からない。はーん………時間感覚がとうとうおかしくなってきたなあ。

 

「紫さん、一ついいですか」

「いいわよ」

「私ってどういう種族なんですか」

「毛玉でしょ?」

「いやそうですけどね?」

 

今更自分言うのもなんだけど、私絶対もう毛玉じゃない。

今までいろんな毛玉見てきたけど、私みたいに髪の毛もじゃもじゃの体持ってるやついねえもん!

 

「ほら、私って明らかに普通の毛玉じゃないじゃないですか。だったらもう毛玉とは別の何かなんじゃないかなって」

「そうねぇ………」

 

布団を被り直して目を閉じて考え事を始めた紫さん。ねえそれ寝てないよね、考えてるんだよね。

 

「貴方って正直もう妖怪だから」

「あ、やっぱり?」

「毛玉って精霊で、妖精とよく似た存在なのに、貴方は妖力を持っているから……明確な違いを言えば、普通の毛玉は精霊で、貴方は妖怪だってことかしら」

 

…つまり私は妖怪毛玉と?

 

「まあ毛玉じゃないとは言えど、毛玉によく似た存在だと思うわよ」

 

…つまり私は毛玉のそっくりさんと?

 

「結局私はなんで妖力と霊力を……」

「その答えはもう薄々勘づいてるじゃないの?」

「え?」

 

んー?

特に…ないです。

いや無くはないですけどね?

 

「もしそれが本当だったら私は……」

「まあそれは今考えてもどうにかなる話じゃないわ。妖怪の寿命は長いんだし、ゆっくり時間をかけて解決すればいいのよ」

「…そうですね」

 

それが本当だとして、今の私にできることはないからなあ。

あと紫さんはなんでか知ってるんですね!?どうせ聞いても教えてくれないだろうから聞かないけど!

 

 

 

「私は私……でしたっけ」

「んー?」

「以前私に言ったことです」

「そんなこと言ったかしら」

 

覚えてないかあ。

確か前に、人間としての私と毛玉しての私どっちもうんたらかんたら……うん私も覚えてなかったぜ!

なんかすっげえ意味深なこと言われたような覚えが……まあ向こうが覚えてないしまあいいか。

 

「ってか、私そろそろ帰らないと……」

「そうね……あの魔法使いも心配しているようだし」

 

プライベートもクソもねえな!一体いつどこで人の私生活覗いてるんだこの人は……

わざわざアリスさんに連絡入れてくれるほど今の紫さんはやる気なさそう、つまり私は数日間行方不明のような状態。

うん、早く帰らんといかんやんけ。世間話してる時間ないやんけ。

 

「ちょっと待って、これだけ渡しておくわ」

「はい?」

 

なんか空間の隙間に手を突っ込んでゴソゴソしてる紫さん。ねえそれほんとなんなの?空間系の能力者なの?妖怪って空間系の魔法使えるの?もうよくわかんないよ私。

 

「はいこれ」

「これは……?」

 

なんか植物の種みたいなの渡された。

なんすかこれ。呪われてそう。植えたら食人植物生えてきそう。

 

「なんだっけ。異国で適当に盗んできた野菜の種だったような……よく分からないけどあげるわ」

「へぇ……」

 

それってつまりトマトとかトマトとかトマトとかトマトですか?それともトマトなんですか?

トマトの種どんなんか知らんけど。

 

「貴方の記憶の中に私の見たことない食べ物とかたくさんあったから、この中に入ってるかもしれないわね」

「本当にトマトだったらすっげぇ嬉しい……けど記憶見られてるのに衝撃。いつどうやって見てるんですか」

「貴方が寝てる間にこう………ね」

 

本当にプライベートもクソもねえや。

 

「あ、でも最近は見てないわよ」

「もう興味無くなったからでしょ」

「よくわかったわね」

 

腹立つ……種くれて感謝してるけど勝手に記憶覗かれて腹立つ……結局なんなんだこの人。

なんの妖怪かも分からないし、能力がどんなのなのかも知らないし、よくよく考えてなんの種かよくわからんし、何考えてるかよくわからんし、なんか冬眠するし、なんか強いし、なんか強い式神いるし、なんか妖怪の賢者とか言われてるし。

まるで謎が美人の皮と服着て歩いてるような人だ。

 

「あ、そろそろ帰る?どこに出るか眠いから正確な位置は決められないけど、森の周辺くらいまでは絞り込めるわよ」

「そうですね……あ、でも」

「いいわよ藍には何も言わなくて。貴方も自分を丸焼きにした相手とは話しづらいでしょう?」

 

ならば何故止めてくれなかった。

でもそろそろ帰らないと……アリスさんにぶん殴られそう。いや、ぶん殴られるですんだらいい方だな。最悪私自身が人形に……そんな恐ろしいことする人じゃないか。

 

「それじゃあさようなら。また会いましょう」

「あ、はい。また」

 

出来ることならもう二度と会いたくないです。

 

 

 

 

 

一瞬の浮遊感と共に周囲の景色が一変した。とりあえず森じゃないことはわかるけど……

 

「な……」

「な?」

 

なんか声が聞こえたのでその方向に振り向く。

 

「お前はこの前の…」

「あらやだ、また会っちゃった」

 

振り向けばそこにはいつかの陰陽師。

 

よし、あのクソアマいつかぶん殴ってやる。


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