「うわぁ……」
何あれ……きゅうりの銅像あるんだけど………しかもめっちゃ精巧に作られてるんだけど……技術の無駄遣いってあーゆーのを言うんだろうね。
「はっ、そのもじゃ頭は!」
「ハッ、その声は!」
「盟友じゃないか!」
「ニトリーノ3世じゃないか!」
「違う」
「あっはい」
河童の集落に着いて早々ににとりんを発見……って、何この匂い!
「ねえきゅうりの匂いするんだけど!?」
「よくわかったね!これは新商品のきゅうり香水!つけると半日はきゅうりの匂いが付いて離れないよ!」
「要らねえ!そしてこっちにかけてこようとするな!会って早々にきゅうりの匂いつけてくんな!」
「よいではないか!」
「よくないわ!」
うわっ当たっちった!うわぁ………きゅうりの匂いするぅ……
「まあこの場所自体きゅうり臭いから今更か…」
「いやあ、こんなに素晴らしい発明なのに何故か河童の間でしか流行らないんだよねぇ。不思議だなぁ」
「何も言わんぞ私は」
久しぶりとか言う間もなくきゅうりの匂いつけられたよ……なんなのこいつ……いや昔からこうだったっけ…?
「で、あのきゅうりの銅像何?」
「さぁ?気付いたら建ってたよ」
銅像建ててどうすんの?崇めんの?偶像崇拝なの?きゅうりをとうとう神格化したの?
「ここはしばらく見ない間に随分変わったなぁ……」
全体的に建物がデカくなってる。そして工場みたいなのがやたらと多くなっている。もはや河童の集落というより工業地帯だ。
「電灯あるし……うわぁ噴水だ…しかも中心にきゅうり置かれてるよ…どこ見てもきゅうりあるよぉ……」
「なんだきゅうりは嫌いかい?あんなにきゅうりって書かれた服着てたのに」
「あれ燃えたわ」
「燃やしたの?」
「いや、私ごと丸焼きにされた」
「だが安心したまえ!在庫は十分あるぞ!」
「なんで在庫あるの?」
うわよく見たらきゅうりの文字T…というか、もはやきゅうりが描かれてるシャツ着てる河童いるよ!
「最近では品種改良が進んでね。三日に一回収穫できるようになってきたんだ」
「お前達は一体どこへ向かおうとしているんだ……」
三日に一回ってなに?化け物すぎるだろ!普通の土地なら栄養分吸われまくって作物育たないようになるんじゃ……あ、ここ妖怪の山だったわ。全く普通の土地じゃなかったわ。
「真面目な話すると、山での争いがめっきり無くなって、兵器の研究や生産が止まっててね。その分みんな好きなことし始めたんだよ」
「その結果が銅像?」
「そういうこと」
もしかしたら河童は如何なる種族よりもヤベーのかもしれない………
「でもまあ、兵器開発されまくって多種族に戦争仕掛けるよりは全然いいか……」
「自分で言うのもなんだけど、基本河童は臆病だからね。そういうことは好まないのさ」
「それはまあ、見てれば分かるけど………」
特にるりとか……
「そうだ、るりは?死んだ?」
「うん、死んだよ」
「そっか、よかったよかった」
「全くだね」
ふぅ………いや、なんでやねん。
「で、どこいんの?」
「いつもの所だけど……まあ毛糸がいない間に色々構造変わってるし、案内するよ」
「よろしくー」
まあ、天狗の居たところより変化が激しくて、見た目だけなら完全に別の集落だし、案内なかったら迷う自信ある。
まあぶっちゃけここの構造とか覚えてないけど。
「昨日文達に会ってきたんだけどさ、この山なんかあったの?」
「うん、まあね。ちょっと過激な思想してる奴らを処刑しただけだよ」
「だけとは……まあ、それからは平和ってことね」
「そ。調子乗って変な銅像作るくらいにはね」
自覚あったんだ……
「そっちこそ、ずっとどこに行ってたんだい?あまりに連絡無さすぎてもう死んだかと思ってたよ。どこで何してたんだい?」
「まあ、ちょっといろいろ……そんなに面白い話ないよ?」
「さっき丸焼きにされたって言ってなかったっけ?」
「言ったね。いやー、あの時はキツかったなあ。あれ以降しばらくの間炎を見るのが怖くってね……」
「何があったか知らないけど、大変だったんだね……あ、着いたよ」
にとりんが指差した方向を見ると、そこには私が最後にここに来た頃と変わらない、きゅうりが乗った豆腐型の建築物が建っていた。
「あの頃は面白い形だなあくらいにしか思わなかったけど……今見るとなかなかに気が狂ってんなあ」
「ここも建て替えたかったんだけどね?なんせるりが引きこもれる部屋が無くなるのが嫌って喚いて……」
「いいそうだなぁ」
確か私の寝泊まりしてた部屋は1番端で……あ、まだ空いてるんだ。
で、その隣がるりの部屋………
「中にいるの?」
「いなかったら連れてこないでしょ」
「確かに」
扉の前に立ってとりあえずノック……うん、返事がない。
「おーいるりー。毛糸だぞー」
「毛糸さんだぞー、私が来たぞー」
「……おかしいな、中にはいるはずなんだけど……返事がないのはあんまりないんだけどな」
「よしこじ開けるね」
「あ、ちょっと!」
足に妖力込めて扉を蹴った。
扉がバキッと音を立てて飛ぶのと同時に私は身を捻って、飛んできた矢を避けた。
「フッ、同じ轍を踏む私じゃないグハァッ!銃弾だと……」
「あーだから言ったのに。危ないよって」
いや、言われてないです。
あーまた服に穴あいちゃったよー。
「おいるりー、防衛機構は不慮の事故を招くから外しておけって前も言っただろう?」
「扉を蹴破ってくる方が悪いでしょお!?あたし悪くないです!」
「まったく……私じゃなかったら死んでるぞ」
「なななな、なんで平気そうな顔してるんですか!もしかして再生能力保持者!?」
「うん、正解」
というか、似たようなやりとりを昔もしたような気がするんだけど……
「久しぶりに会った人に鉛玉ぶち込むなんて……なんて非常識なんだ」
「扉を蹴破ってくる方が非常識だと思います!」
「いや、どっちも非常識だろ……毛糸、大丈夫かい?」
「まあ私には矢とかの刺さるタイプの方が効くからな。銃弾如き再生に1秒もかからん。バリスタつけて出直してこい」
「言ってることおかしいぞ盟友」
「炸裂弾の方がよかったかなぁ……」
「死人出るぞるり」
炸裂弾かー、死にはしないけど、ここで放ったら部屋も大変なことになるんじゃないかな。
「とりあえず久しぶり、るり」
「………誰ですか?」
「いや、毛糸だけど」
「え、死んでなかったんですか!?」
「え、死んでることになってたの!?」
「成仏!成仏してくださいいいいいいい!!」
「いや死んでないって……いてっ、物投げてくんな祟るぞ!」
「ひいいいぃぃっ!」
あいも変わらず元気なことで……
「助けてくださいにとりさぁん!」
「いや、もう知らん」
「そんなぁ!」
「とうとうツッコミ放棄したか」
とりあえずるりを部屋の外に引き摺り出して会話を可能にしたい……いや、どう考えても部屋から出したらもっとパニックになるな。
もっといい方法を……
「とりあえず落ち着くまで殴るね」
「あ、あばばばばばば……ぴっ…」
あ、気絶した。やっぱり脅すのが1番早いね!
「えー、いいなぁ。暗い森の中にずっと引きこもってたなんて」
「引きこもってはない」
「で、なんで急に戻ってきたんだい?」
「同居人がしばらく出かけるっていうから、特にやることもないし一旦帰ろうかなと」
「湖の方には?もう言ったんですか?にとりさんから逃れようと毛糸さんの家に行ったら、跡形も無くなってて散々な目に遭ったんですけど…」
「いやそれは知らんわ、どう考えても私関係ないだろ。湖にはまた明日行こうかと思ってる。そうそう、ちょっと色々道具貸してくれない?最低限寝泊まりできる場所は作っておきたいし」
「あぁ、それなら後で箱に入れて持ってくるよ」
うーむ……寝泊まりできる場所とは言ってるものの、ちゃんとした家を作りたいと思っている私がいるのも事実。だがしかし、どうせ作ったところでまた一ヶ月後には森に帰るから………まあ明日考えよ…
「それにしても、妖怪って本当に見た目変わらんのな……具体的に何年会わなかったかは知らないけど、みんな何一つ変わらんもの」
「あ、あたし髪の毛伸びましたよ」
「うん、それは伸びるだろ。あと知らん」
「まあ妖怪だからね、寿命が長いし変化も少ないさ。そういう毛糸も全然変わってないよ?」
「今変わってないだけで、数年前とかとんでもないことになってたんだよなぁ……」
あー、思い出しただけで頭を床にぶつけたくなる………アリスさんによって髪の毛の色変えられたり、ストレートにされたり、地面に着くまで長くされたり、さらに天然パーマを強烈にされたり………なんなの?私の髪の毛への執着なんなの?
「一体どうなってたのか気になるけど……まあ、聞かないでおくよ」
「どうせあれでしょう?髪の毛全部抜けたとか」
「よしるり表出ろ、その紫毛全部むしり取ってやる」
「ひっ……って、どうせそんなこと言ってやらないんでしょう?あたし知ってますからね。いつも同じようなこと言って……あ、待って髪の毛掴まないで!いたいいたいですってえええええ!」
「よく喚く河童だぜ……」
にとりんに宥められ、仕方なく髪の毛から手を離してやった。
「うぅ……なんか昔より暴力的になってる気がしますぅ…」
「大丈夫だるり、盟友は昔からこうだ」
あれだね、幽香さんに慧音さんに妹紅さんにアリスさんに紫さんに藍さん、あんまり馬鹿やれる相手じゃない人ばっかと合ってたから、その反動がきてるかもしれない。
「あぁー、なんかあれだ、実家に帰ってきた感じあるわー」
「ここあたしの部屋なんですけど。勝手に実家にしないでください」
「よいではないかよいではないか……」
「よくないですけど!?」
「まあまあるり、この新作のきゅうり粉末でも吸って落ち着けよ」
「ちょっと待てや、きゅうり粉末ってなんやねん」
「読んで字の如くだけど」
「ありがとうございますにとりさん、すぅ…はぁー……」
いや………完全に薬キメてんじゃん!かくせーざいだよ!こかいんだよ!まりふぁなだよ!薬物詳しくねえけど!
流石にきゅうり吸って落ち着くのは引くわー……
「あー落ち着いた」
「河童こえー……河童ときゅうりの関係性こえー……」
「河童ときゅうりは切っても切れない、というか切ったら死ぬ関係だからね」
「依存しまくりじゃん……いや、今更だけども」
きゅうりきゅうりって……そもそもきゅうりってなんだっけ……
「安心しろ盟友、ちゃんときゅうり以外の研究も河童は行っているぞ」
「きゅうりとその他の比率どのくらい」
「半分半分だな!」
「半分きゅうりなんかい!意味わかんね!」
全国のきゅうり愛好家の皆さん、ごめんない。私、きゅうりってマヨネーズつけて食べるやつ以外を美味しいって思ったことないの。
「はぁ……で、きゅうり以外ってどんなの?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれましたね……」
「なんでにとりんじゃなくてお前が反応するんだおい」
部屋の机にあった………なにその、なにそのキメラみたいな人形。
河童と鴉天狗と白狼天狗とその他の天狗が混じってるぞおい。
「これは一見すると至って普通の人形ですが、後頭部を押すと……」
キメラ人形の後頭部がるりによって押された瞬間、口が開いて中から銃口が飛び出してきた。
「このように銃口が現れます!ちなみにさっき毛糸さんを撃ったのもこの子です!」
「ねえにとりぃん、兵器開発しないんじゃなかったっけえ?」
「個人でやる分には勝手だしー」
「さ、毛糸さん感想をどうぞ!」
「あ?感想?」
……………うむ。
「私の知り合いがどれだけ人形作るの上手いかよくわかった」
「えー、そこー?」
「そりゃあお前さ、人形の方から銃口出ただけで、どういう反応したら正解になるんだよ」
「ちゃんと格納できるのに……」
「どーでもいいー」
「ついでに腕から刃物も出てくるんですよ?」
「お前は人形使った暗殺でもするつもりか?」
さっきはああ言ったけど、アリスさんと比べてるりの人形の出来が劣っているわけではない。ただ単に、センスの問題である。
そういうキメラがお好みで?
人形を作る腕ならアリスさんに匹敵するかもしれないのに……ま、あの人は人形操る方が本命だけど。
「ふっふっふっ」
「どうしたお値段相当」
「どうせならお値段以下でぼったくってやるさ」
「最低じゃねーか」
「私が密かに開発していたこれを見ろ!」
「………ただの拳銃なんだけど」
「ただの拳銃と侮ることなかれ、これの真の機能を見たらきっと驚きで悶絶することだろう……」
な、なんだ、この圧倒的な自信は……それほどの驚きがその拳銃に隠されているというのか………というか、私の方に銃口向けるのやめて、怖いから。
「刮目せよ!」
にとりんが引き金を引くと、そこから出たのは銃弾ではなく
黒い液体だった。
「なんと!醤油が出る!」
「ぐわああああ目があああああああ!!」