「……改めて見ると……やっぱり霧薄くなってる?」
霧の湖にやってきた私。とりあえず墓が無事だということを確認したので、辺りの散策に出ている。
何度か来ていたけど、改めてちゃんと見てみると、妖精を以前より多く見かけるようになった気もするし、霧は少し薄くなっている。
もしや私がいなかったことが関係していたり……?まあそんなわけないか。
大ちゃんやチルノとは本当にしばらく会ってないな、遠目で見てたことはあるけど。
大ちゃんは顔を合わせても変な反応されないと思うけど……問題はチルノだ。
久しぶり、って言って「お前誰だ」とか帰ってきたらちょっと私の鋼のハートが砕かれかねない。忘れられてたとかちょっと泣く。ついでに言うと大ちゃんに忘れられてたらちょっと失踪してくる。
探してはいるけど、あの二人、なかなか見つからないんだよなぁ。他の妖精なら見つかるんだけど。
単に運が悪いのか、あの二人の住んでるところがもう変わってしまっているのか……考えてもわからんけど。
とりあえず、以前家があった洞穴に来てみた。
うん、まぁ……私の家があった痕跡は一つもなかったね。
そういえば、私の家が壊れた原因はなんだっけ……?
あー、なんか三人のバカ妖精だったような……まっ、壊したの私だけどね!原因はあいつらである。
「とりあえずここに小屋でも建てるか」
以前と同じ場所にすることに決めた私は、浮かして持ち運んでた荷物を下ろして、その中から一つの道具を取った。
「じゃーん、チェーンソー」
誰に紹介してるんだ私は。
私が今握っている機械は電動ノコギリ。あれ、電動ノコギリとチェーンソーって何が違うんだっけ?
………よし、よくわからんがにとりんから電動ノコギリって言われたし電動ノコギリってことにしておこう。
「じゃーん、電動ノコギリー」
だから誰に紹介してるんだ私は。
そしてなんかしばらく会わないうちに電動ノコギリ作ってる河童凄え!あいつらの技術力ちょっと頭おかしいんだけど。
しかも現代にあるようなちゃんとしたものだし……まあ、他の機械ほとんどネタ全振りみたいな奴だったけど。技術力の無駄遣い。
とりあえず電源オンにしてその辺の手頃な木を伐採する。
気分はどこぞの語尾がゾイの大王である。
あー、なんか家建てるのも久々だわー。今思えば家に妖力弾投げたあの頃は病んでたなー。今から建てるの小屋だけど。
ある程度木を伐採したら、いろいろこう、切ってですね……取り敢えず板にしてですね……
土台作って、梁とか用意して、板を敷いたり積んだりして、釘を打ち込んだ、空気の通り道も作って、屋根を作ったら……
「……違う、なんか足りねえんだ……何が足りないんだ……」
床も壁も小窓も屋根もあるというのに……なんだこの空虚感は……まるでグループのリーダーだけがいないような、この感覚は……これじゃ小屋なんて言えな………ハッ!扉か!
急いで適当な板を合わせて、持ってきたのに存在を忘れてた金具を付けて、できた扉を入り口に取り付けた。
改めて離れて見てみる。
「家だわ……これもう小屋でもなんでもないわ、家だわ。だって扉があるもん」
床と壁と屋根と扉があったら、それはもう小屋じゃねえ家だ。ついでに私のこれには小窓もある。
やべぇ…私才能あるかもしれん……6級建築士くらいなれるかも知れん……あるのか知らんけど……
「うん!ぶっちゃけ雨風凌げたらそれでいいしね!さ、散策さんさ…」
変なテンションのまま散策に行こうとして後ろを向いたら…
「oh……だ、大ちゃん……」
「………」
うわぁ……うわぁって感じの顔してるよ……そんな目でこっち見るなよ………
「………」
「………」
うん!この気まずさ懐かしいね!おうちかえりゅ!あ!おうちすぐ後ろだった!
「………あの、何から話せばいいか……」
「あー………」
ダメだ、変な再会のしかたしたせいでお互いに話を切り出せない。
なにか……何かきっかけを………
「おーい大ちゃーん、こんなとこに来て一体どうした…ん?あ、毛糸だ」
チルノォォォォ!!よかった、これで何とか話を……
「やーい、くそまりもー」
………は?
「んだてめえかき氷にされてえのか?」
「あ、はんのうした!ってことは自分がくそまりもってじかくしてるんだな!」
「あ゛あ゛ん゛!?上等だコラ!ここで会ったがウン年目!その羽もぎ取ってやらぁ!」
「やってみろよばーか!」
「やってやんよコルァ!」
「いや、あのちょっと………あー行っちゃったー……」
「チッ、あのやろうどこに………」
……アッ!やべえ、すっかり忘れてたけど私アイツと久しぶりに会ったんだった!なんで流れるようにキレてたんだ私は………勢いって恐ろしい。
……アッ!やべえ、すっかり大ちゃんのこと忘れてたぜ!戻ろ。
「あ、いたのね大ちゃん」
「いやもうほんと……変わらないですね」
「妖精の方が私は変わらないと思うんだけど………久しぶり」
チルノはどっかいったしもういいや。
「はい、久しぶりです。あ、先に言っておきますけど、チルノちゃんに久しぶりって言っても無駄ですよ」
「うん、何となくわかるわ」
そもそも、妖精は自然の精霊、いつから存在してたのかわからないけど、私と会わなかった期間なんてチルノからしたら大して気にしていないだろう。バカだし。
妖怪には老いて死ぬ妖怪もいる。だけど妖精に関しては老いないし死なない。
時間の感覚が人間や妖怪とはかけ離れているのだろう。
「時々湖のお墓に来てましたよね?」
「あ、バレてた?」
「ずっと綺麗でしたし」
だって放置したら祟られそうなんだもん。
正直、私が腰に刺してるりんさんの刀もいつ勝手に抜けるかわからなくてビクビクしてるんだけど。夜になったらカタカタ言ってるし。
墓に刀持ってったらりんさん蘇りそうな勢い。
「少し安心しました」
「なんで?」
「次会った時、人が変わったようになってたらどうしようかと……」
「ひでぶ」
「やーいくそざこまりもー!」
「貴様、後ろからとは卑怯な……」
まあチルノのことは置いといて、人が変わったようにかー……
人が変わるって、どうなったら変わるって言うんだろ。闇落ち?暗黒面に堕ちたら変わるってなる?
「まあさ、自分で言うのもなんだけど、私バカだから。思い詰めてるように見えても実際はくだらないこと考えてるだけだから」
「あ、それは知ってます」
「ぅん……」
「おい!むしするな!」
「はいはい、後で相手してやるから」
「子分のくせになまいきだぞ」
お前それよく覚えてるな?どのくらい前か覚えてないくらいには前の話なんだけど、実は記憶力めっちゃいいのか?
「せっかく会ったんですけど、特に話題とかないんですよね……すごく平和でした」
「平和だと話すことに悩むってのもなかなか……」
「あたい面白い話知ってるぞ!」
チルノが挙手して主張する。こいつの面白い話……やべぇ、しょうもないこと言い出す気しかしない。
「おん、言うだけ言うてみいや」
「この前湖に行ったらさ」
「うん」
「めちゃくちゃ大きいかえるがいた!」
「あっそ」
やべぇ……しょうもない……カエルて……
「あそこの岩くらいの大きさだったぞ」
「へー………いや、デカイな!?」
私の身長より高いぞあの岩……それ、もう妖怪なのでは……?自然界でそんな大きさのカエル存在したらヤバいんだけど……あ、ここ幻想郷だったわ。じゃああり得るな。
「というわけで、今からあたいはそいつを凍らしてこようと思う!」
「うんちょっと待とうか。どういうわけでそうなるのかな?話が飛躍しすぎだよ?面白い話からなんで大蛙を狩猟する話になってるのかな?」
「待ってろよかえるー!」
「お前が待てえ!」
「……また行っちゃった」
アイツ飛ぶの早くなってない…?
「着いたぞ!」
「あぁ、うん。帰ろっか」
「何言ってるんだ、ばかなのか」
「私はお前を心配して……」
その瞬間、ドスンと、何か重いものが足踏みをする音がした。
「なあチルノ……」
「なんだ」
「聞いてた話と違うんだけど……」
「なにが」
「想像の2倍デカイんだけど…」
現れたのは…そう、私が作ったあの完璧な家くらいの大きさのカエル。ついでに妖力も感じられる……はい妖怪ですありがとうございます。
「よし帰るぞチルノ」
「いやだ!帰らない!」
「お前あれだろ、前あれに負けたんだろ。やばいって、一回休みになるって」
「あたいがさいきょーになるために、あいつは絶対に倒さなきゃいけないんだ!」
こ、これは……チルノから並々ならぬ覚悟を感じる……
私がここを離れていた数十年の間に、チルノは成長を遂げたというのか……
今チルノは目の前の壁を乗り越えようとしている。ならば私は、それを見守ってやるべきなのではないだろうか
「……よし、わかった。じゃあ行ってこい!」
「うおおおおいくぞおおおお!」
勢いよく駆け出したチルノ、氷の槍を生成して射出、まず先手を取ってカエルに攻撃した。
結果……
「ぎゃっ」
カエルのぼやぼやとした腹に跳ね返され、そのまま流れるように舌に巻かれて捕食された。
うん……まあ……概ね予測通り。
「じゃないって!早く助けないとほんとに一回休みに……ん?」
おや?カエルの様子が……?
「ゲッ………ゲコッ……」
すっごい苦しんでるな………
カエルの体の動きが鈍くなっている。歩くのも苦しそうにしていると、とうとう躓いて倒れてしまった。
まさかこれは……
「ふっ……なしとげたぜ」
口の中から勝ち誇った表情をしたチルノが出てきた。
なるほど、体内から凍らせたのか……まあ、自分の体の中が凍ったら余程の化け物じゃない限り死ぬしね。
「どうだ見たかあたいの力!」
「うん、まあ、見てたけど……」
初っ端の攻撃を跳ね返されて、そのまま捕食され、なんとか体内を凍らせて倒したものの、本人はぬるぬるになっている。
正直言ってダサい、すごくダサい。
でもそのままそれを言うことはできない。
だって…
「ふん!」
めっちゃやり遂げた考えて出してるんだもの、めっちゃ嬉しそうなんだもの、めっちゃ褒めて欲しそうな顔でこっちを見てくるんだもの。
流石の私も、こんな顔をしている子ども相手に「ダサい」とは言えない。いや、生きてる年数だけみたら私の方がよっぽど子どもなんだろうけど。
とりあえず何か言わなければ……
「スゴク………カッコヨカッタデス」
「そうだろう!やっぱりあたいはさいきょーだってことだ」
何この……何この気持ち……
「よし、こいつを凍らせてみんなにみせよーっと」
「あぁ、うん………先に体洗った方がいいんじゃないかな……」
「やっと追いつい…うわチルノちゃんどうしたのそれ!?」
「めいよのふしょうってやつだぜ……」
「それはどうかな……」
こんなバカにやられてさぞ無念だろうなこのカエル。
というか、当然のようにカエルを氷漬けにするのね、見慣れてるけど酷いね。
「でも妖精にしては本当に強いんだよなぁ………流石、日頃から自分のことを最強最強と言ってるだけあるな」
それにしても、妖精は時間の感覚が違う、か。
私はかなり久しぶりって感じなんだけど、向こうは全然そんなことないって、結構寂しいんだけど。
まあ、数十年会ってなかったのにかなり久しぶりで済んだるあたり、私の時間感覚もかなり狂ってきてるんだろう。
「チルノちゃんとりあえず体洗った方がいいよ、すごく臭い」
「さいきょーは匂いなんて気にしない」
「いいから早く洗ってきて」
「ちぇっ」
うわぁ何にも変わんねー。
数十年経ってもチルノと大妖精の関係がこのまま変わってないってことは、もっと大昔からこんな調子だったのか?
「それはそうと毛糸!あたいと勝負しろ」
「ねえ急になんなの?叩くよ?」
「勝負しろ!」
「叩くよ?」
近寄ってきたチルノの頭を軽く叩く。
フッ、流石の私も、格下の妖精相手に本気で叩くほど落ちぶれては
…
「ぐはぅ……ボディーブローが来た……」
こいつ、その小さな体にどれだけの力を……あ!私の体が貧弱なだけだった!
「あたいがさいきょーになるために、お前は絶対に倒さなきゃいけないんだ!」
「ごめんほぼ同じ文をさっき聞いたんだけど。とにかく、やらないからね。もう激しいことはうんざりなんだよ」
「けっ、つまんねーの」
こいつなぁ………
大ちゃんを見ろよ!もはや呆れを通り越して微笑んで私達のことを達観してるぞ!
もうね、戦うってなんかやだよね。私戦闘狂じゃないし。スポーツとかならともかく、傷付け合いを軽い気持ちでしようとする奴は頭おかしいよね。傷付け合いって人外だとスポーツ感覚で行われてるの?
「このざこまりも」
「はいはい雑魚ス○モですよ……」
今さらその程度の煽りでキレる私ではない……おい大ちゃん、その目はなんだ。その生暖かい目はなんだ。
「成長……しましたね」
すっげぇムカついた。