毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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寒さから逃れる毛玉

現在、私は地底へと通じる穴を自由落下している。

いやね、こんなに高い高度を自由落下できる機会なんてそうそうないよ。そろそろ地面に激突するの怖いから浮いてスピード抑えておくけど。

 

なぜ地底に来たのか、理由は簡単寒かったから。

そもそも今年はなんか冬が来るの早かったらしく、そこまで寒くない日でもレティさんとチルノが冷気撒き散らすせいで到底まともな生活送れず。

だったらもうついでだし地底に逃げようと、そういうことになった。

 

 

 

 

 

「あれ、こんな所に妖怪なんて珍しい」

「あ?あーどうも」

「はいどうも。……いや待って、確かどこかで会ったことあるよね?」

「ん?あったっけ」

 

暗くてよく見えないけど、金髪で全体的に茶色い髪の毛の人……

 

「あー、確かにどこかで会ったような……気が……」

「なんだっけ……思い出せない……そのもじゃ頭、どこかで見たような……」

「その逆さまで当然のように話しかけてくるの、どこかで見たような…」

 

あ、思い出した気がする。

 

「あれだ、蜘蛛の人だ!」

「確か勇儀に殴られて生きてた奴だ!」

「何故それを…」

「遠くから見てた」

 

やめろよ……あの人にいい思い出ないんだよやめろよ……

 

「確か名前は……や…ヤマメ?」

「そう、黒谷ヤマメ、確かあんたは毛玉だっけ」

「毛玉要素少ない毛玉ですどうも………」

「なんで急に暗く……?」

 

最近毛玉って名乗るのも気後れしてて………だって紫さんに毛玉によく似た存在って言われたし……それってもう毛玉じゃないって言われてるようなもんじゃん。

 

「毛糸ですどうも…」

「あ、あぁうん、そっか」

「で、ここで何してんの?」

「急に元気になったよ……何してるって、私ここに住んでるからなぁ」

「こんな縦穴に?」

「こんな縦穴に」

 

土蜘蛛って縦穴に住む生態でもあんの?

何回か地底に来るのにこの穴は通ってるけど、会ったのはこれで2回目。多分たまたま会わなかったんだろう。

 

「で、地底に何しにいくんだい?また鬼に絡まれて厄介な目に合うんじゃないの?」

「何回か来たことあるから流石に大丈夫……だと思う。何しに行くってのはまあ、久しぶりに行ってみようかなってのと、地上が寒すぎて」

「へー」

 

うん、聞いてるか聞いてないかわからないその反応やめようか。

 

「まあ私にはたいして関係ないけど、鬼にだけは気をつけるんだよ」

「そりゃ勿論」

 

ヤマメさんは上がっていったので、私は落下を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、到着」

 

うん!何もなかった!すごい何もなかった!何も起こらずに地霊殿に着いた!

道中パルスィさんに会ったけど、普通に挨拶しただけで終わったし、勇儀さんに出くわして詰んだと思ったけど普通に挨拶しただけで終わったし、なんだこの平和!

あと雪降ってた!地底なのに!不思議!地上と比べたら全然寒くないけど!

 

私が思ってたよりも、この世界はずっと平和だったみたいです。

 

なんか門の前に立ってた人に名前聞かれたので素直に答えたら、数分くらい待たされて中に入れてもらえた。

馬の耳生えてた。

 

 

 

そしてまあ、迷子になりつつなんとかさとりんの部屋の前まで来た。

 

……なんといって入ろう。普通にノック?それとも大声で名前を呼ぶ?いやいやそれは恥ずかしいな。久しぶりに会うんだからそれは流石にヤバいだろ、頭おかしくなったって思われるな、うん。ならばどうする?どうやって入る?それとなーく存在感示して「どうぞ」とか言ってもらう?どうしようか…

 

うん?なんか背後に気配が……

 

 

「どうも」

「あ、はいどうも」

「何扉の前で熟考してるんですか」

「………」

 

見てたなら言ってよもう!恥ずかしいじゃん!

 

「面白いなー、と思って」

「扉の前でそわそわしてるのずっと見てた?」

「見てました」

 

………もう知らん!

 

「アー、ドーモオヒサシブリデスサトリサン」

「口調どうしたんですか。あ、照れ隠し。なるほど」

「ウルセェ」

 

なんか横にある高そうな壺を自分の頭にぶつけたい。

 

「やってもいいけどちゃんと後始末してくださいね」

「やるのは止めないんだ……」

「とりあえずそこ退いてもらえますか。入れないので」

「あっはい」

 

さとりんに続いて私も中に入る。

部屋の中に入ったさとりんは、私の記憶にも残っている大きな机で作業を始めた。

 

「……その刀、まだ持ち歩いてるんですか?」

「あ、これ?いや別に。最近返してもらったんだけど、手元にないと紛失しそうで怖いから」

「そうですか。それで、寒いの嫌だったから地底に来たと……しょうもない理由ですね。ここにも雪降ってるのに」

「しょうもない言うなや」

 

あれ寒いを超えた寒いなんだもん。雪積もりすぎて私の家ほぼ埋まったからな?頭おかしいわ。

 

「それはそうと、毛糸さん、どこか変わりました?」

「あ、わかる?実は髪の毛の長さをとうとう操作することに成功して」

「そう言う話じゃないんで。気のせいでした。あと嘘は言わないでください」

 

バレたか……バレない方がおかしいか……

 

「とりあえずお燐を呼んで部屋に案内させるので、そこでゆっくりしておいてください」

「ん?別に私は……ハッ」

 

伝わる……伝わるぞさとりんの気持ちが……

仕事の邪魔だからどっか行け、あとで構ってやるからどっか行けって感じの目だ……いちいち言わせんなって顔だ……

 

「分かってくれたようでなにより」

「ご迷惑をおかけしてスミマセン……」

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだねー、確か毛糸だっけ?」

「……誰?」

「流石に傷つくんだけど……」

「冗談冗談、久しぶりー」

 

あの後部屋から出て待ってたらお燐がやってきた。

来客用の部屋に案内してくれるようなので着いていく。

 

「さとりんって忙しいんだね……」

「まあ立場的にはこの地底を取り仕切ってる人だからね。色々やることあるんだよ」

 

机の上に書類が束のように………紙ってこの時代から普通にあるんだよね。私はまともに紙をお目にかかったことないけどさ。

 

「鬼の消費した酒の量とか、鬼の壊した建物の数とか、その修繕費用とかその他もろもろをまとめてるからねー」

「ほぼ鬼やん」

「ほぼ鬼だねぇ」

 

鬼の恐ろしさはこの身で味わったからよーく知ってる。あいつらやべーんだもん、特に筋力。

今日来た時とか小指だけで岩を持ち上げてたからね、化け物もほどほどにしろ。

山の妖怪たちが鬼を恐れるのもよくわかる。あれが上司とかもう仕事やってらんねえよ。

 

「せっかくだし、何か面白い話でもしてよ」

「面白い話?」

「あたい、地上にはあんまり行かないからさ、地底にいても特に何もないんだよ」

「そっか。でもおもしろい話……妖怪の賢者の式神に丸焼きにされた話でもする?」

「今なんて?」

 

 

 

 

 

 

「あー、ちゃんとした部屋だー。綺麗な部屋だー」

 

あの後、藍さんに焼かれた話を詳しく話したらドン引きされた。なんでや話せって言ったの自分やろがい。

それはそうと、この部屋綺麗だ。なんだろう、ちゃんと部屋って感じがする。私の住んでた家とか、今の小屋とか、言ってしまえばボロ屋だし、アリスさんの家では狭い空き部屋だったしで、来客用のちゃんとした部屋にいるのが新鮮だ。

 

さて、ここでゆっくりしろとは言われたけど、特にすることがないんだよなあ。

 

ここ、太陽も月もないから時間もわからないし、どれくらい時間が経ったかもわからない。

 

うむ……暇である。

今頃アリスさんは何をしているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は………」

「どうした、鼻を摘んで」

「くしゃみを我慢しただけよ、気にしないで」

「大丈夫か?近頃おかしいくらいに寒いからな」

 

多分原因は湖の方にあるんでしょうけど……寒すぎて近寄る気も起きない。それに、寒さは今はどうでもいいし。

 

「とりあえず分かったことを整理しようか」

「そうね」

「まず分かっているのは、ここ数年、死んでいる妖怪が多くなってきていることだ」

「妖怪の動きが活発になってきたってのもあるでしょうけど、妖怪同士で争ったにしては数がおかしいわよね」

「あぁ」

 

一定の周期で妖怪が暴れ回るのは別におかしなことじゃない。だけど今回は少々勝手が違う。

 

「死んでいるのは妖怪ばかり」

「あぁ。人里にも確認しているが、人間で行方不明になっているものは例年と対して変わらないようだ」

「妖怪同士の争いがあるにせよ、人間を全く襲わないというのはおかしな話ね。まるで人間に興味がないかのよう」

 

ただ……やっているのは人ではない、これは確かだ。

妖怪にせよ人間にせよ、力を使えばその痕跡は必ず残る。妖力を使えば妖力の残滓、霊力を使えば霊力の残滓といったように。

 

「人間が妖怪を殺すには、武器を扱うか、陰陽師のように術を使うか。ほぼほぼこの二択だ。だが、今見つかっている妖怪の死体は全て、武器の類は用いられずにぐちゃぐちゃにされている」

「そして残っていた痕跡も妖力のみ。まあ妖怪の仕業と踏んで間違いないでしょうね」

 

人間には被害が出ていないと言うことは、人間には興味がなく、さらに殺す標的となっているのは妖怪。

 

「人間には実害がないし、むしろ妖怪の数が減っているから得にはなっているが……このままいけば、人間と妖怪の力や均衡が崩れてしまうかもしれない」

「まあ、この幻想郷にとっては大問題ね。これが続けば、妖怪の賢者か博麗の巫女が動くのも時間の問題な気もするけれど」

 

この騒動で殺されたであろう妖怪たちを見てきたけれど、誰もが悲痛な表情を浮かべたまま死んでいる。

恐怖、怒り、憎悪。

殺し方も、わざと苦しめるかのように。

 

「現状、私たちにはどうしようもないのが歯痒いな」

「えぇ。その妖怪が人間を襲ってくる可能性もなくは無い。このまま警戒を続けていきましょう」

「あぁ。……すまないな、こんなことになってしまって。元々はこんな話になる予定じゃなかったのだが……」

「いいのよ、私にも無関係じゃ無いし、このまま付き合うわ」

「あぁ、本当にありがとう」

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……改めて見るとすっげえ黒いなこの刀……」

 

恐る恐る刀を抜いてみて、刀身を眺めてみる。

なんというか、禍々しい……

本当に、刀身が黒いだけで模様が入ってるわけでも無いんだけど……そもそも刀っていう武器だからか、それとも数多の妖怪を屠ってきた得物だからか、本能的に恐怖すら感じる。

よくこんなもの柊木さんは預かっててくれてたな……ありがたやありがたや。

 

 

少し昔のことを思い出してみる。

 

 

私にできた唯一の人間の友達。いや、向こうは本当にそう思っててくれてたかは分からないけどさ。

でもあれから結構経った今でも、未だに人間とまともな交友関係築けてないんだからまぁ……相当特殊な人だったよ、りんさんは。

 

あれから数十年。まあ、もし生きてたとしてもおばあさんになってるんじゃ無いかな。この時代の平均寿命とか考えたらまあ死んでると思うけど

 

まあ短い付き合いだったけどなかなかに楽しかったのは事実だ。

迫害されてたとか、実は博麗の巫女の素質持ってたとか、色々クセのある人だったけど、それなりに仲良くしてたと思う。

 

あの人の死に方は、まあ正直私はどうかと思ったけど、本人が満足そうだったんで何も言うことはない。

 

ルーミアさんとも色々あったけど、あの人はルーミアとして今も普通にいるし、そのうちひょこっと帰ってきそうだ。

りんさんもルーミアさんも、それ以外の方法を知らなかったってだけで、もっと他にやりようはあったんじゃ無いかと思う。

まあ二人とも、まともに会話が出来る時点で全然いい人じゃないかと私は思う。

結論、この世界はよく死にかけるけどなんだかんだ生きてるし優しい。

 

りんさんの刀を鞘に収める。

まあこんな物騒なもの持ち歩いてたら1000%怪しまれるから、結構隠しながらなんだけどさ。やっぱり、今私の住んでる小屋とかに置きっぱなしにすると、そのまま無くなりそうでどうも落ち着かない。

 

「しかしながら……ちょーっと中二心くすぐられるんだけど……」

 

そもそも刀自体結構来るんだよね……あと黒いし。まあその黒い理由も夜中に見づらくなるからなんだけど。

 

そしてりんさんの太刀筋も美しかった。まあ打ち合いとかする気のない殺意マックスの剣筋だったんだけどさ。

この黒いのも、ふつうの鉄じゃない何か特別な金属が使われてるとか……カタカタ動くのも妖刀って感じがして……

 

あーあ、本人生きてるうちに聞いときゃよかったかなあ。ま、はぐらかされるなり目潰しされるのがオチな気がするけど。

 

凄い今更なんだけど黒い刀ってそれ、どこぞの長男のやつなんじゃ……

まあ深く考えるのはよしとこう、うん。

 

 

 

 

「どうも、お待たせしました」

 

眠くなってきた頃にさとりんがやってきた。いや、寝てたかもしれない。

 

「あ、いや全然」

「退屈で退屈で仕方がなかったと。とりあえず私の部屋にいらしてくださいね」


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