「おっ、柊木さんじゃーん」
「げっ…」
「は?げってなんだよおい、言ってみろよおら」
「厄介なのに見つかっためんどくせ」
「傷つくぞおい」
「ほらめんどくせぇ」
めんどくさいとか言うなよ!私がかまってちゃんみたいになるだろ!否定はできないけどな!
「あ、この寒さももしかしてお前のせいか……?」
「私も困ってんのになんで寒くしなきゃならんのよ」
「知らんがお前ならやりそうだ」
「傷つくぞおい」
「勝手に傷ついてろ」
冷たい……
「つか何着てんの?道着?珍しい」
いつもは同じ白狼天狗の制服を着てるのに、今日着ているのは剣道とかで使われてる袴の道着。
「あぁこれか。…はあぁーっ……」
「うっわ、すげえため息……」
「これはあれだよ……はあぁ……剣の訓練?に行くんだよ」
「なんで疑問系?それにしても意外だなぁ、訓練とかするような人だったとは」
「したくねえよ……」
「はい?」
うわすっごい暗い顔してる……鬱病かな?縄上げたら首吊りそうな勢い。
「行けって言われるんだよ椛に……あとその他大勢」
「また椛かい。仲良いねえ、そういう関係なのかと誤解されるよ?」
「お前………これから起こる出来事を見ても同じことが言えるか?」
「ん?」
天狗の里の中の修練場にいたのはほとんどが白狼天狗だった。まあ天狗の中では白狼天狗が戦闘要員みたいだしそれは別にどうでもいい。
意外としっかりとした作りの大きな修練場だった。
そんな中、笑いながらほかの奴らを竹刀で叩き伏せている白狼天狗が一人。
「うわぁ………」
「この光景を見たやつはまず最初にそう言う」
これは酷い……死屍累々って言葉が似合う状況じゃない?死んではないけど。
「ふふっ………」
「笑ってる、笑ってるよあの子!普段笑ってるとこほとんど見たことないのに!」
椛がほかの白狼天狗達を全員竹刀でぶっ叩いている。その強さは圧倒的で、誰一人として椛にその竹刀を当てることができていない。
一人がいい感じに竹刀を振ったが、気づいたらその手から竹刀が飛んでいて、鳩尾を突かれていた。
これは酷い……そして笑ってるし。私でも動きが見えないんだけど。
「あれだけめちゃくちゃしてるのに、挑む奴が絶えないね……みんな熱心ってことか」
「そう思えるんなら、お前の頭は見た目通りなんだろうな」
「おいどう言う意味だこの……あっ」
あー………椛にしばかれながら顔を赤らめている奴がちらほら……
「うわぁ………」
「それに気づいた奴はまず最初にそう言う」
あれは……しばかれるのが好きなのか、椛にやられてるのがいいのか……そして椛は変わらず笑ってるし。
「にしても強いなぁ。このままだと全員下しそうだけど」
「この前五人が束になってかかってるの見たが、全員鳩尾を突かれて悶えてたな」
「こわ……」
「同感だ。もし俺なんかがあいつの相手してみろ、ありとあらゆる急所を突かれて最悪死ぬ」
「あいつ柊木さんに対して当たりキツイからなぁ……仲良いねえ」
「まだ言うか」
「仲はいいでしょ、関係はともかく」
お互いに嫌ってたらそんなに絡まないだろうしね。
「ん?あんた見ない顔だな、よその妖怪か?」
「あ、私?まあね」
なんか白狼天狗のおっちゃんに話しかけられた。
「お、柊木じゃねえか。お前の連れか?」
「そんなとこだな」
「こんなところに女の子連れてきやがって、お前も隅に置け……お、おいどうしたんだ二人とも、目が怖いぞ」
「いっやぁ別にー?なんでもないけど、ねえ柊木さん?」
「そうだなあ、気のせいじゃないかあ?」
「お、おちょくって悪かったな、じゃあな!」
そういって走って逃げ……あ、こけた。ざまあ!!
「柊木さんとそういう関係にみられるとか、ちょっとこの山滅ぼそうか考えるレベル」
「同感だ、お前となんて、自害したほうがよっぽどましだ。あ、さっきの奴は血祭りにしていいぞ、俺は名前知らねえし」
柊木さん、そういうの興味なさそうだし、私もない。ただそういう関係に見られるのはクソムカつく。
「もう柊木さんを椛のことでいじるのやめるよ」
「やっと理解したか、俺の気持ちを」
すまんかったな……これからは足臭だけでいじることにするよ……
「いて、なんで蹴った」
「なんか腹立った」
「は?」
こいつ……さとりんと同族か?
なんてくだらないこと考えてると、目の前に竹刀が飛んできた。
「うん?」
「そこのもじゃもじゃと足臭、かかってこい」
「うわぁ見つかった」
「うわぁ帰りてー」
「売られた喧嘩は買うタイプだけど、まずは落ち着いて話し合いでもしようじゃないか、な?」
「言葉は不要」
「ダメだこりゃ」
「すっげえ生き生きとした顔してるなお前……」
とりあえず竹刀を持ってみたけど……思ってたより重いなこれ。
「お?なんだなんだ?」
「見ろよあの二人、足臭ともじゃもじゃだぜ」
「足臭はともかく見ろよあのもじゃもじゃ、見るからに貧弱だ」
「おいおいおい」
「死ぬわあいつら」
よしそこのモブども、あとで穴という穴に氷をぶち込んでやるから覚悟しとけ。
「しかし目立つなあ……ただでさえ白狼天狗じゃなくて目立つのに」
「安心してください、今からそこでくたばってる奴らの一部にしてあげるので」
「うわ物騒……」
とりあえず体の前で構えとくか……
「おい毛糸、俺があいつの注意を引く」
「へ?そんなことできんの?」
「大丈夫だ、これでもあいつに殴られた回数はそこらの奴より多い。流石の俺でも多少動きはわかってる。俺が時間を稼いでる間に一発入れろ」
「わ、わかった」
柊木さん……自らを囮に…その犠牲、無駄にはしない。
「じゃあ行く……ぐはっ」
椛に向き直した柊木さんの腹に竹刀がぶっ刺さった。
「まずは一人」
「ふぁ?ちょ、え、柊木さああん!?はやい!早すぎるって!あれだけ大見得切っといてそりゃあねえよ!」
「ふふ、次はあなたの番ですよ……」
「ヒェッ」
柊木さんが動き出す前に近寄って、鳩尾を一突き……
まあ待て、落ち着け私。
技術では足元にも及ばないだろうけど、力では私の方が勝っているはずだ。妖力に物言わせて、その技術を力でねじ伏せてやる。やはり筋肉がモノを言うんだ、私筋肉全然ないけど。
椛が腹を抱えてうずくまってる柊木さんの元へ歩み寄る。
「ごふぉ」
「柊木さん!?おい今なんで蹴った!死体蹴りだぞ!」
「なんとなく」
なんとなくで人蹴るのかこの娘は!よくこんな奴と付き合ってるね柊木さんは!
「さあ、どこからでもかかってきなさい」
「くそ、お前私が剣の腕素人なのわかってんだろ!?」
「どうせ妖力で脳筋してくるんでしょう?わかってるんですよ」
「くっ、何故バレた」
それにそのニヤケ面……この場で妖力出したら周りの奴らに見られてややこしいことになるのわかってんだろ!?その上でその顔だろ!?うっわ腹立つわー、腹立つわー!
しょうがない、せめて霊力で体を強化しておこう。
「と見せかけてオラァ!」
「見え見えです」
踏み込みの一瞬、足だけに妖力を流して、さらに体を宙に浮かして低空で飛んで近づいた。まああっさり見切られたけど。
そのまま椛を通り過ぎてしまったので椛のいる方向に向き直す。
すぐに竹刀を振ってきたのでこちらも動いて打ち合いに……
「ひょ?ゲボラッ」
気付いたら手から竹刀が抜けていた……
「お、おえぇ…」
「うっ……おえぇ」
「痛くて動けん」
あの後気を失いそうになりながらも、柊木さんを浮かして建物の外まで運んだ。鳩尾思いっきり突かれた。ちぬ。
「あいつ思いっきり蹴りやがって、骨いったぞこれ」
「フッ、骨ヒビ入ったくらいで情けない。私ならその程度全然動けるぞ、おえっ」
「おうお前の場合すぐ治るからな。なんで今苦しんでんだ」
「内臓にクリティカルヒットした……」
四肢とかのわかりやすく損傷したところはすぐ治るけど、臓器が傷つくと治癒に時間かかるのは昔から変わってない。
「というか、竹刀が私の手からすっぽ抜けたんだけど、あれなに」
「椛がこう、お前の竹刀をすり上げるようにしてそのまま弾いたんだよ、こんな感じで」
身振り手振りで説明されるが……
「うん、全くわかんない」
「相変わらず馬鹿だなお前」
「お前の説明が下手なんだろ」
「あ?なんだと?」
「お?やんのか?……いや、やめとこ。今動いてもお互いに傷を抉るだけだ」
「それもそうだな」
「じゃあ止めを刺してあげましょうか」
「うわ来たよ……」
「帰ってくれ……」
二人で痛みにヒィヒィ言ってると椛がやってきた。うん、帰って。
「もういいの?まだ中に人いるけど」
「流石に疲れたので」
壁の隙間から中を覗いてみる。
うわぁ……死体が増えてる……いや死んでないけど。
「あれだけまだぶっ倒れてる奴らいるのを見てると、私はともかくとして柊木さんは随分体力あるね」
「違う、俺がこいつの動きに反応して急所を外させたからだ」
「嘘つけ」
「本当ですよ。まあ腹立つので蹴りましたが」
「なんとなくって言ってたよね!?」
「それもあります」
何この子怖い…というか、お前ら腹立ちすぎだろ!ストレス社会で生きてたらそうなんの?
「椛さ、なんであんなに楽しそうだったの?」
「そうですね……自分でもよくわからないけど、強いて言うなら、勝利による優越感ですかね」
「優越感?」
「私より強いと思っている奴らの鼻を折る、本来私より強い存在を負かす。一回勝つごとに自分の格が上がっていくような気がして」
「はぁ……わからんでもないけど」
「もちろん、こういった勝負の上でですよ。命の取り合いは好きじゃないので」
ようするに勝利の美酒を味わいたいってことだな!そうだろ!
まあ思考自体は割と平和でよかったけど……
「………あっ」
「どうした?」
「思えば私たち……全員白髪だな!」
「そりゃあお前、俺と椛はそういう種族だし」
「というか、足臭と一緒にするのやめてもらえますか」
「は?臭くねえし」
「お前らそのやりとりいつまでやってんの?」
飽きないなあ……
「そういえば文は?」
「今は軟禁されてます」
「へ?」
「仕事抜け出し過ぎて、その分の」
「あーなるほど」
「もう日が落ちかけてるなぁ」
「俺、この痛みが引くまで歩けそうにないんだが」
「じゃあ私が浮かしてやるから、椛に運んでもらえ」
「は?おいちょっと待て!こいつだけは、こいつだけはやめてくれ!」
おいおい、女に運ばれるのは勘弁とかしょうもないこと言うなよ?
「何されるかわかんねえ!頼むから!おい、なんでお前は黙って担いでんだ!」
「このまま川に流してきますね」
「やめろおおおおお!」
うん、私が運んであげた。
「やあ盟友久しぶり!」
「うんつい最近会ったよね?」
「そうだっけ?いやー最近記憶があいまいで」
おいおい大丈夫かよ……
今から帰るのも暗くてあんまりだったので、河童のところで泊まっていくことにした。
そしてにとりんが作業場で何かしてるところを見かけて今に至る。
「で、何作ってんの、それ」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた!これぞ河童の技術の結晶!全自動!きゅうり!収穫機!」
「は?このよくわからん拳サイズの鉄の塊が?」
「その一部さ!」
「一部かい、そしてきゅうりに技術力注ぎすぎな」
「ついでにいうと全自動は盛った、本当は半自動」
「嘘つき!ちょっとロマン感じたさっきの私を裏切った!」
とりあえずにとりんの作業が終わるまで、私の部屋の前で待つことにした。
ちなみにるりはいなかった、珍しい。
「ふぅお待たせ。……あれ、もしかして目を開けたまま寝てる?」
「起きてるわ、360度どこから見ても起きてるわ」
「あれ、髪切った?」
「切っとらんわ」
「あれ、胸大きくなった?」
「はっ倒すぞ」
「あれ、その刀は?」
「オレの刀がお前の血を求めているぜぇ……と言うのは冗談で、ある人の形見だよ。話したことなかった?」
「そういえば前会った時も持ってたような。ちょっと見せてくれる?」
「いいよ」
りんさんの刀を鞘に収めたままにとりんに渡す。
時々カタカタするけど、勝手に動いて人を斬ったことはないのできっと大丈夫。
「うわ黒!なんだこの刀身」
「前の持ち主の趣味」
「えぇ、悪趣味だねえ。……でも、いい刀だね。大切にしなよ?」
「お、おう」
私にゃ刀の良し悪しとかそんなにわからんのだけど。
「てかよく平気で刀抜けたね、なんか感じないの?」
「うん、正直なんか冷や汗が止まらない」
うわほんとだあ。
「あぁ、そういえばちょっと穏やかじゃない話になるんだけど、昨日から天狗が何人か行方不明になっててね」
「天狗が?」
「あぁ、まぁ今のところは哨戒に出てた白狼天狗だけなんだけどさ」
「逃げ出したとかじゃなく?」
「さあね。まあどうせ、何処かの妖怪の仕業だろうって話さ。物騒な話はいつになっても絶えないね」
うーん……天狗の中でも白狼天狗は戦いに長けてるほうではあるし、妖怪にやられたとするならば、その妖怪はそれなりに強いということになる。
「捜索隊も出てるし、妖怪の仕業だったとしても直ぐに解決すると思うけどね」
「集落の外に出たやつが死んでるのか……」
レティさんの話してた、妖怪の死体の話が頭に浮かぶ。
嫌な予感。
「まっ、河童の私たちにはたいして関係ない話だけどね」
「それって不味いんじゃ」
「へ?なにが?」
「るりって今どこに?」
「どこ……あれ、おかしいな。もう暗いし地下の作業場からは帰って……」
視界の端で、空に上がった眩い光をみた。
「にとりん、あの光は」
「……緊急事態を知らせる閃光弾、持ってるのは河童だけ……」
嫌な予感は的中した。