毛玉流、これが夢のまいほぉむ。
って、しようと思ったんだけどさ?
私に建築力なんてある訳なかったよね。
そもそも木を倒すことから苦労だし、運ぶのは楽だけどさ。
加工の仕方わかんないし。
現代人ってダメだね、便利すぎるものに慣れすぎてサバイバルできないね。
多分この時代から家を作る大工みたいな人はいただろうけど、そう言う人が都合よくいるわけでもないし。
一応、妖怪の山に住んでる河童はものづくりが得意とは本に記述されていたけど、妖怪の山は警備が厳重とも聞いている。
妖怪の山には天狗や河童、その他もろもろが住んでいるらしい。
あ、妖怪の山っていうけど、それは幻想郷内での呼び方なのかな?日本全国に妖怪がいるのなら妖怪が住んでる山なんてきっとたくさんあるだろうし。
河童は河童しかいないけど、あ、山童っていう似たようなのもいるらしい。天狗になるといろいろな種類がいるようだ。
私は鼻が長い天狗しか知らんけど。
えっと………鴉、白狼、山伏、鼻高………だっけ?あ、さとりも昔は山に住んでたらしい。
それと、なんでもあの山にはなんでもとってもお偉い天魔様というお方がいるようで、あの山を取り仕切っているって話。
山に侵入した輩は白狼天狗さんが即刻排除しに来るらしい。
おぉ、こわいこわい。
てわけで、山へ侵入することは出来ないってわけさ。
だって、死にたくないから。
悩みがある。
家がないのもそうだけど、もっと重大な悩みが。
何にも食べてねぇ。
そう、今まで毛玉だった分何かを食すのは完全に諦めていた。
だけど人の体を得た今となっては話は別、お腹減ったなんか食わせんしゃい。
妖精はなに食ってるのかなって観察してたら、なにも食べてなかった。
なにも食べなくてよくて寝なくていいとか、完全に人じゃないね。
まぁ精霊が食事を必要としないってのも分からなくはない。
私が必要な理由はわからんけどな!
やはりチルノたちとは体の作りが根本的に違うのだろう、眠いしお腹減ったあと髪の毛鬱陶しい。
微妙に長いせいで目にめっちゃ刺さってくる。
やはり文明の力は偉大であった。
この環境だと道具でもないと本当になにもできない。
だがしかし、今の私は知識なし力なし存在価値なし、あるのは体と髪の毛だけという悲しい生き物なのだ。
霊力や妖力を使えないとただの貧弱な毛むくじゃらなのは、人の姿になっても同じようだ。
幸いにも、前世ほどお腹がすいて何もできないってわけじゃないから活動はできる。
妖精も飛んでる間は少しづつ霊力を使ってるみたいだし、私も使い方を覚えないと………
てわけで、湖から少しだけ離れたところにやってきた、特に何もないここなら、なにか起きても大丈夫だろう。
まずは毛玉の姿へと戻ること………
この世界において大事なものは、具体的なイメージだと思う。
霊力や妖力なんてものは現代に存在していない、だけど今この瞬間は存在している。
霊力や妖力、もっと言えば魔力、神通力………それだけじゃない、河童や天狗、妖精なんてものまでいる。
現代では非科学的で、非常識と思われているものが、ここでは至って普通で、当然のものとして扱われている。
要は精神的な話だ、たとえ一般的に存在しないと思われていても、個人があると信じるならそれはきっとあるのだろう。
あると思ったらある、できると思ったらできる。
霊力をなんとなく使おうと思っただけで、簡単に使えたのがいい証拠だ。
要するに、念じたらいいって話だね。
まぁそれでも一応考えはしてみる。
私の体は霊力で構成されていると大ちゃんは言った。
ならその霊力をうまく操作できたなら、体を自由に操ることもできるはずだ。
まぁここまでは推測オブ推測なのでやってみないとわからない。
チルノに氷塊をぶつけたときのように体の中を巡る霊力を感じとる。
その霊力を体の中で動かして胸の中へと集め、自分の体、毛玉の状態を想像する。
ひたすら体の中にある霊力を感じて、毛玉の状態想像する。
具体的なイメージ………白くて薄汚い毛の塊……川面に移った自分の体………
気づくと、えらく視点が下がっていた。
手足の感覚がなくなり、宙に浮かんでいる。
多分成功だ、自分の状態を確認する術がないからなんとも言えないけど。
すこしだけ、自分の中の霊力が増えていた。
体を作ってた分の霊力が回収されたのかな?
こんどはあっちの体だ。
また、あの体を具体的に想像する。
髪の毛が白くてもじゃもじゃで、背は高くなくて黒目で………結構あやふやになってしまうけど、多分こんな感じだったはずだ。
毛玉になって増えた分の霊力を意識して、他の霊力と切り離す。
すると切り離した分の霊力が消えて、地に足がついた気がした。
これまた成功。
案外やろうと思えばできるものだ。
まぁ結構意識しないとできないけど。
とりあえずはこの状態でしばらく過ごそうかな、手足がないのは厄介だし。
次は妖力。
とりあえず拳に溜めてみようか。
霊力と同じ要領で手のひらへと集める。
こんどは氷塊ではなく、黄色の謎の光が出た。
「………なにこれ」
思わず口に出てしまう。
そういや妖精たちもこんな感じのポンポン出してたような………
ちょっと真似しようかな。
近くにあった木に投げる、
割と本気で投げたのに、めちゃくちゃひょろひょろと飛んでいく。
どんだけ筋力ないんだよ引くわ。
もうすぐで木に当たるね、ぶつかって弾けて消えそう。
——うん?
あれ、ぼーっとしてたかな?記憶ねぇや。
うーん?
「………なにこれ」
なんか木、吹っ飛んでんだけど………
いやー、幽香さん怖いわーただひたすらに怖いわー。
ぶつけた木だけでなくその周辺の木々も、倒れていたり穴が開いてたり………
私も吹っ飛ばされたのか、その木々から離れたところで寝ていた。
最近寝起きでこういうのばっかだな。
とりあえず妖力は封印安定だね、うん。
こんなの使ってたら私の体持たないや。
その場から逃げるように踵を返し帰ろうとした………のだけど。
なんか視界が真っ赤に………
「血ィ………」
目に血が入ったかぁ………頭に吹っ飛んだ木片でもヒットしたかなぁ?もしかして気を失ったのもそのせいかも………
えっと、私は毛玉、白珠毛糸、0歳、女性、多分。
うん、自分のことはバッチリ覚えてた。
目に血の入った右目だけ閉じてどうするか考える。
やっぱりこのままはまずいよねぇ………よく貧弱な私が生きてたとも思う。
頭を色々触ってみるけど、額から血が出てたみたいなんだけど傷の跡がない。
頭もクラクラとかしないし、案外血にも動じないもんだ。
傷が塞がってるのは………寝てる間にでも治ったんでしょ、この世界ならありえるありえる。
とりあえず湖で顔洗うか………このままじゃ帰れないし。
これ、腕に妖力を込めて殴りつけたりしたら腕吹っ飛んでたんじゃないかな?こわいこわい。
そんなことより顔洗わないと。
「………おいおい、ありゃ相当やばいんじゃあないか?あの爆発………ただの妖怪かと思ってたが、そう楽観的には見てられねえな………上に報告すんのが面倒だ………」
はぁ、と、重い溜息をついてその白狼天狗はその場を後にした。
湖へと向かっていくそれを、とても面倒くさそうな目で見ながら。
あーよかったよかった。
もしかして髪の毛に水がついたら毛玉状態の時のように身動きできなくなるかもと思ったけど、別に大丈夫だった。
やっぱりさ、心配しすぎは良くないよね。
慎重なのは別にいいと思うけど、それで何かをするたびにヒイヒイ言ってたらキリがない。
大胆かつ慎重に、これからは過ごしていこう。
慎重をやめて大胆だけするとさっきみたいなことになるからね。
「おいっす大ちゃん。バ………チルノは?」
「あ、おかえりなさい。チルノちゃんならさっき湖から帰ってきましたけど」
ギクッ………
心の中でギクッて言っちゃったよ。でも私さっきまで湖にいたし…
もしかしたら見てた?いやでも、もし見てたとしたら私が倒れてるところ流石に放置しないでしょ?木の爆発の跡だけだったら別に見られてもいいんだけどさ。
突然後ろから肩を掴まれる。
「おまえ………なんで生きてるんだよ」
「ギクッ、な、なんの話?」
「とぼけたってむだだぞ、あたいは確かに見た」
「見間違いとかじゃない?」
「あたいの目はうそつかない」
うん、見てたかぁ、見てた上で放置したかぁ。
ひどくない?見てたんなら起こそうぜ?
「血だらけで倒れてたから死んだと思って帰ってきたら、平気な顔でいるし………」
「ほら、勘違いってやつじゃ?」
「すごい血の匂いするぞ、あたいの鼻はうそつかない」
わぁ自信満々、ですっごいジト目で見られてる。
また後ろから肩を掴まれた。
「血だらけって…なんですか」
「こっちは目が死んでらぁ」
よしこうなったら私も対抗して煮込まれた魚の目で………ちょっと、肩重いですやめてください!二人して肩掴む手に力入れないでよ!
ちょ、いだだだだだだだ!うで取れる方取れる!外れる!沈む!
「はぁ………ちょっと気になったから妖力を使ってみたって………」
「あたいはなんであのけがから平気な顔で帰ってきてるのか気になるぞ。息してなかったのに」
「息してない?さすがに嘘でしょ。私今ここですっごいピンピンしてるじゃん」
「あたいの感覚はうそつかない」
なにそれ気に入ったの?
「血だらけって、具体的にどんな感じだったの?チルノちゃん」
「えっと………まず頭から血が出てるでしょ?そんで口から血が出てて………まぁ血だらけ」
服汚れてなかったと思ったら絶妙に頭部だけ痛めたのね。
「とりあえず、こんなことはもうしないでくださいよ」
「あ、はい、スミマセン」
また死んだ目で見られた。
よくそんな目できるね?逆にどうやってやるのか教えてもらいたいくらいなんだけど。
「でさ、反省したから、そろそろこれ外してくれない?」
「無理です」
「そんなぁ」
現在二人に簀巻きにされて逆さに吊られてる。まぁ私が悪いんだけどさ。
「あたまに血が上って脳味噌爆発しそうー助けてー」
「なに言ってるんだよ、その状態だとあたまに血が落ちていってるんだろ」
・・・
確かに
まぁ毛玉状態なったら抜けれると思うんだけどさ、私が悪いし別に辛くないからいいや。
危ないことはしない、これ大事。
私は体が貧弱もやしそのものなのでな、危険なことすると死んでしまうんだよ。
なんでけだますぐ死んでしまうん。
答えは毛玉がもはやヒエラルキーから外れた論外の存在だから。
「そういえばあの時だれかに見られてたような………」
「気のせいじゃね」
「そっか!気のせいか!」
「それでいいのかバカ妖精」
おうふっ!回し蹴りが腹にぃ!
「誰がバカだこのま——」
「だぁれがス○モだコルァ!」
「ちょっといい加減にしてください!!」
「あ、サーセン」
誰かに見られてたかぁ、私も誰かに見られてた気がするよ奇遇だねぇチルノ。
まぁ気のせいだよね!あっはっはっは。
ふぅ………まさか妖怪の山の天狗とかじゃないよねぇ?私一応あの山侵入してたことあるし、地上とはできるだけ関係をもたないようにしてる地底にも行ったし………まぁ毛玉状態の時の話だから大丈夫かなぁ?
てかもう既に危ないこと山のようにしてたわ。妖怪の山だけに……………さむっ、ちょっとチルノ冷気撒き散らすのやめてくれないかなあ?え?してない?じゃあなんでこんなに寒いんだよ。
「何言ってるんだばかじゃないの?」
「おんブーメラン脳天に突き刺してやろうか」
「ぶーめ………ちょっと訳わからない言葉ばっか使うなよ。大ちゃんも知らないんだぞ。す○もとか、ぶーめ…とか」
「あぁ、うん………しょうがないよ、生きてた時代違うんだしさ」
「ん?何か言った?」
「なんも言ってないよ気のせいじゃない?」
「あ、そっか!おーい大ちゃんかえる凍らしにいこうよー」
「もう日が暮れるよ、今日はもうやめよう?」
「ちぇっ」
あ、私このまま放置ですかそうですか。
「なるほど………そんな存在が湖の近くに」
「あぁ、俺の勘違いじゃなかったらあれは地底に侵入した例の毛玉と同じやつだ」
「それ、上には報告したんですか?」
「いいやまだだ」
「先にそっちに報告してくださいよ」
「いやだって………大天狗怖いし」
「まぁわかりますけど」
妖力を使って大きな爆発を起こす人の形をした毛玉………見張っておいた方がいいでしょうね。
「あんの白毬藻野郎、あいつのせいでこちとら旧地獄へ侵入させた責任取らされて減給くらってんだぞ」
「怪我しないようにだけ気をつけてくださいよ、あなたがいなくなると私達の仕事回らなくなるんで」
「人手不足って残酷だなぁ、そっちも気をつけろよ、椛」
「自分の心配してください、柊木さん」
また一つ、深い溜息をを吐きながら部屋を出て行った柊木さん。
私もその毛玉、見張っておきましょうかね。