毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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嫌悪

走る、全力で。

間に合わなかったなんてあってはならないから。

 

「まずいね……」

「なにが!」

「あの閃光弾、光だけじゃなくて爆音も出るはずなんだ」

「あ?でも音なんて…」

「河童はこの時間でも作業してる、私たちはたまたま光を見つけたけど、他のやつがどれだけ気づいたかは期待できない」

 

音が消されたか?

とりあえず援軍は見込めないってことか……私とにとりんでなんとかするしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ……うぁ……」

「おぉ、派手に鳴るねー」

 

首を掴まれている。苦しい、息ができない。

 

「助けでも呼ぶつもりだった?けど残念、君に残念なお知らせ。あの爆音は外の奴らには聞こえていない」

 

聞こえていない……音が消された?

 

「……いいねぇ、その絶望した顔。それじゃ止めを……ん?」

 

なにか硬いものが飛んできて、目の前のやつはそれを弾くためにあたしから手を離した。

途端に体が浮いて吹っ飛んで、誰かに抱えられる。

 

 

「大丈夫生きてる!?」

「うぅ…….……ん…死にかけにもじゃもじゃ…」

「よしにとりん生きてたやれ!」

 

 

 

 

 

私の合図でにとりんが閃光弾を放った。

耳を塞いで目を背けて、光と爆音を防ぐ。

 

「うわ、眩し」

 

光が収まってから敵の姿を確認する。

暗くてよく見えないが、とりあえず妖怪であることは確か。

 

「毛糸、るりは」

「出血が酷い、応急手当てしといて。あいつは私がやっとく」

「頼んだよ」

 

るりをにとりんに任せて、二人の前に立つ。

あいつ、手が血で汚れてる。

 

「あーあ、光だけでこんなに早く来るとは」

「妖怪殺して回ってるのはお前か」

「この状況で聞く必要ある?」

「一応聞いただけだクソ野郎」

「いきなり敵意剥き出し………無表情だね」

「あぁん?」

「怒ってるのは言動だけ、その顔は至って無表情」

 

……なんで私の顔について話し始めたんだ、こいつ。

 

「後ろの河童なんて、気持ちいいほどの憎悪を向けてくるのに。君は表情が変わっていない」

「それがどうした、初対面なのに気持ち悪いぞお前」

「面白いね……さっきその河童を助けたときなんて、もうすっごい必死な表情してたのにね」

「うるせえよお前……」

 

どんどん腹立ってきたけど、顔には出さない。

一度キレたら収まらなくなって、そのままなんかやらかすような気がする。ほんとなら妖力ぶちまけて暴れたいところなのに、自分でも驚くくらいには冷静だ。

 

「その無表情な顔の歪んだとこ、ぜひ見てみたいなあ……」

「………」

 

ふと、真横にあった河童の死体に気づく。

 

「あぁそれ、いい顔してるでしょ」

「お前のいい顔の基準が、恐怖に歪んだ顔ならそうなんだろうな」

「最近はわたしに憎しみとかを向けてくれる奴を探してるんだけど、皆怖がった顔ばっかりでね。君ならわたしの望む顔を見せてくれるかな?」

「……お前、気持ち悪いな」

 

手に糸を持って氷を纏わせて剣の形を作る。

剣に妖力を通して硬くし、振る動作の構えをする。

 

「ん、どうしたの?そんなところから振っても当たらな———おぉ」

 

当たらないと油断している奴に向かって振った剣が伸びた。

 

「刀身が分かれて伸びてきている……蛇みたいな動きだね」

「察しいいじゃん」

 

私が作ったのは蛇腹剣、それも馬鹿みたいに伸びる奴。

私が取り出した糸の周りに氷を纏わせて剣を作り、私の意思に応じて糸ごと伸びてムチのような動きをする。

この糸はアリスさんが人形を操る練習に使っていたらしい糸、確か魔導糸。魔力を流すと、事前にかけられていた魔法が発動する。

 

私はこの糸に伸縮の魔法の魔法をかけてもらっている。使う分には妖力や霊力でも問題ない。

妖力さえ流せばどこまでも伸びるし、刃も私の氷で出来ているからいくらでも増やせる。

 

「ま、致命傷にならなくて残念だったね」

「全くだ」

 

構わず剣を振り回す。

妖力を込められたそれは硬く、さらにわたしの腕でめちゃくちゃに振り回しているため、並の妖怪なら即座に肉塊になるだろう。

 

「まるで嵐だね。これが今の君の心境かい?」

「どうだか!」

 

いとも容易く避けられてるわけだけど。

 

「いいねえその殺意。命を奪うのに躊躇がない」

「多少躊躇ってるさ。相手が妖怪だから多少乱暴にしても生きてるだろって考えてるんでね!」

 

凄いな……周りの地形はえぐれてるのに、簡単に身を捻って避けられてる。結構自信あったんだけどなこれ。

 

「よっと」

「砕くんかい……」

 

このままじゃぶん回してても意味がなさそうだ。せっかく作ったのに残念だが、振り回してた方が不利になりそう。

 

「にとりん、手当て済んだなら逃げて」

「あ、あぁわかった」

「残念だけど逃げられないよー。君たちは既にわたしの領域内に入ってるからねー」

「あん?」

「わたしの領域に入った者は、私がそれを解かない限り外へ出ることができない。音でさえね」

 

音も外に出さない、だから閃光弾をかましてたのに音が聞こえないわけだ。この中で鳴らしても音が外に出ていかない。

 

妖力弾を作って適当に空に投げてみる。

 

「……こりゃ突破するのにも骨が折れそうだなぁ。頑丈すぎんだろ」

 

見えない壁に当たって爆発して消失した。範囲こそ狭いけど、岩を吹っ飛ばすくらいには強い爆発なんだけどな。

 

「外から中へ入ることはできるよ。わたしもいろんな顔が見たいからね。入るのは自由さ」

「じゃあお前の全身の骨を折って泣かして出してもらうわ」

「無表情が崩れてるよ、感情を出さないのはやめたのかな?」

「頭の中は至って冷静だから安心しとけ」

 

剣を引っ込めて普通の長さに戻して、氷を生成し敵に向けて乱射する。

 

「みたいだね、こっちとしては我を忘れて突っ込んできてくれるのを期待してるんだけどなあ」

「飄々としてんのに馬鹿みたいに力強いやつにそんなことするわけねえだろ」

「失礼な、わたしなんて、自分より弱い相手にしか積極的に戦いを挑まない弱虫だよ」

「考え方が卑劣だよお前」

「ただ人の歪んだ顔が好きなだけなのに、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだい?」

 

とことん煽ってくるなこいつ……

 

「わたしはね、強い負の感情が大好きなんだ。その後ろの河童の憎悪もいいね」

「突然自分語り始めてどうした」

「少しくらい語らせてくれたっていいじゃないか。そしてね、わたしはその感情を見るために生き物を殺すんだ。出来るだけ痛めつけてね。わたしへ向けられる恐怖や絶望、怒り、後悔。どれも素晴らしい。痛みに絶叫しながら死んでいく奴らの顔といったらもう………」

 

恍惚とした顔しやがって……

 

「そこの紫の髪の河童なんて特によかったよ?助けが来ないと言われた時のあの顔!よほど死ぬのが怖かったんだろうねえ。死んだ時の顔、見たかったなあ」

「はぁ…………おい、私がお前に対してブチギレたらその鬱陶しい語りはやめてくれんのか?あん?」

「お、笑ってるね。一周回って笑えてくるって奴?」

「かもな」

 

何人こいつに殺されたのだろうか。こんなクソみたいなやつに。

 

「あぁそうだよ、妖怪が他者を殺すのは別におかしいことじゃない。集団としてそれを縛る決まりはあっても、種としてそれを縛るものはない」

「……急に何を?」

「だから今から私がするのは、ただのお前に対しての私怨だ」

「………」

 

そう言った途端、あいつの顔が変わった。とても嬉しそうな顔。

 

「あぁ、いい……憎しみと憎悪に染まり切ったその目……それを見たかったんだよわたしは…」

「ここまで誰かを殺したいと思ったのはお前が初めてだ」

「いいよ殺して見せなよ!わたしも君の苦しんだ顔を見れるように精一杯努力するからさ!」

「黙ってろクソが」

 

後方からのにとりんの銃撃が敵に向かって飛んでいく。それに合わせて私も突っ込み、全身に妖力を回して拳をねじ込む。

 

「つぅ!とんでもない力強さだねえ!」

「片手で受け止めといてよく言う」

「命のやりとりは好きじゃないんだけどな」

「一方的に嬲り殺しにするのが好きってか?」

「よくわかってるじゃないか」

 

私だって体は貧弱だが、妖力をフルに使った状態での身体能力は地底の鬼をも上回ると思っている。さすがに勇義さんには敵わないけども。

 

「おっと!頭を狙った弾か、いいねえ」

「なんで躱せるんだよ今の……反射神経どうなってんの。私とは次元が違うな……」

「次元違くてもにとりん援護よろしくな!」

「あんまり期待しないでよ!」

 

弾丸を見て避けられてる時点でダメージは期待できないけど、鬱陶しいと思ってくれれば上々か。

 

「じゃあお返しといこうか」

 

そう言って拳が返ってきた。

妖力を全身に流し込んでいるのでそのまま腕で受ける。

 

「ったぁ!てめえその辺の妖怪の妖怪とか簡単に殺せるだろ」

「渾身の一撃を片腕で受けられてるのにそんなわけないだろー?」

 

全力で防御したはずなのに腕が痺れてる……すげえ謙遜してるがこいつ相当にやばいな。にとりんに近づけたらだめだ。

 

「君の顔を歪ませるにはどうしたらいいかなあ。やっぱり、後ろのあの二人を殺した方がいいのかなあ」

「させると思うなよクソ野郎」

「うーんいい顔」

 

こいつは本当に、いちいち人をイラつかせるのが上手い。

 

「そういう顔もいいんだけどさ、やっぱりわたしが見たいのは君の悲しみや憎しみ、絶望や苦しみに満ちた顔なんだよ」

「今のこの顔じゃ不満か?おい」

「誰も不満だとは言ってないだろう?もっといい顔を見たいなってだけ」

 

氷と妖力弾を飛ばしつつ、にとりんの近くに寄る。

 

「にとりんちょっと」

「…?」

「—————」

「え?あぁうん。わかった」

 

伝えることを伝えたら敵に向き直る。

 

「何話してたの?」

「教えると思ってんのか?」

「いや別に。それはさておき、そろそろわたしも君のために本気だそっかなー」

「私のためを思うならさっさとどっか行ってくれ」

 

距離をとったあいつから妖力が漏れ出る。大妖怪にも匹敵するような、膨大な妖力。

「行くぞー!」

 

敵の姿がブレたのでにとりんを囲うように氷の壁を作り出す。

 

「っとと。あ、わかっちゃった?」

「自分より弱い奴を殺すのが好きなんだろ?」

「うーん、勘が鋭くて残念だよ」

 

蹴り一発で氷の壁を破壊されるが、すぐに近寄って妖力弾を放って距離を取らせる。

下がった時に何かナイフのようなものを投げられて体に掠ったけどそれだけだ。

 

「やっぱりまず君を戦闘不能にしてから彼女たちを殺ったほうがいいかな」

「やらせるわけねえだろ」

 

またもや高速で移動され、正面まで近寄られる。

反応して腕を交差させて防御するが、それを見越されて妖力を纏っていなかった肩から両の腕を引きちぎられる。

 

「あ、意外と柔らかいんだね君の———」

 

私の体を貫通した弾丸が、そいつの体を貫いた。

 

さっき私がにとりんに伝えたのは、私を構わず撃てってこと。

銃弾程度なら急所じゃなけりゃすぐに傷は塞がる、だったら私に当たることを気にせずにやってもらったほうがいい。

身体能力は馬鹿げてるが、弾はちゃんと通るようで何より。

 

「せっかく引きちぎった腕だが、すぐにまた生えるぞ」

 

腕に過剰なほどの妖力を突っ込み再生、次に備える。

 

弾丸に体を貫かれたそいつ、下を向いたまま黙っていたが、少しずつ、ゆっくりと体が動き始める。

 

 

 

「———あはぁ」

 

 

 

ゆっくりと上げたその顔は笑っていた。

 

「うっわお前きも——」

 

反射的に身体が防御の姿勢をとっていた。

 

視界がとんでもない速度で流れていき、後ろにいたにとりんとるりを巻き込んで見えない壁にぶつかる。

 

「いたた……今何が…って毛糸!腕もげてる!」

「すぐ治るから。にしても今の、正面から受けたのに腕が両方持ってかれた。これ連発されると怪しいな。ってかるりは?」

「もとより死ぬほどの傷じゃなかったから大丈夫。まあしばらく気は失ってるだろうけど」

 

とりあえず二人が無事でよかったが、今の一瞬で両腕を2回も再生することになるとは……

 

「ったあ!流石に限界を超えた力で殴ると痛いなぁ!」

「流石に今のはそっちにも反動くるよな、安心したわ」

 

近寄ってきたあいつの腕から血が垂れている。

 

「君も、もう腕治ってるし。再生力が高いだけなら永遠に痛みを与えるとかできたのに、その様子じゃ痛みも感じてなさそうだね」

「死ねよ」

 

妖力を凝縮した大弾を投げつける。

大爆発に巻き込んだが、煙が晴れると何もなかったかのように立っていた。おまけに腕の傷も治っている。

 

「もう、少しくらいお喋りしてくれたっていいだろう?」

「お前と喋ることなんぞ何も………あ?」

 

なんだ、急に身体が動かなくなった。すぐに体を浮かして倒れるのは防いだけど。

 

「あれ、どうしたの急に動かなくなって」

「どうしたの、ってお前だろ……」

「……毛糸?」

「んー?あ、そっか、さっきの小刀か!あれにちょっとだけ毒を塗ってたからそのせいだね!」

 

あーくそ、最悪だ。

 

「掠っただけだしその再生力だから、すこしだけ体が鈍くなってくれたらと思ってたんだけど…さては君、こういうのへの耐性が相当低いね?」

 

なんの毒だったかは知らないが、普通の妖怪なら体が痺れるくらいで済んだだろう。だが私の場合は体が全く動かなくなる。

 

「運がいいなあ。用意しといてよかったよ」

「離れろ!」

 

私に近寄ってきたそいつに向かってにとりんが銃弾を放つが、素手で受け止められてしまう。

 

「流石に見えてたら当たらないよ。さーて、君をどうしてやろうかなあ」

「………」

「このまま四肢をもぎ取る?その状態だと再生はどうなるのかな?体は浮いてるけど他は?妖力はまともに使えない?だったら君の体を死なない程度に引き裂くかな、すぐに再生できないように。どうせ少ししたら体が動けるようになるだろうし。そうして君が動けない間にあの二人を殺そうかな、君の目の前で。君の顔を眺めながらあの二人の悲鳴を聞く……いいねえ、これで行こうか」

「お前……よく喋るな」

 

どうする、どうすればいい。色んなことを考えるがそもそも体が動かないんじゃどうしようもない。

 

「ところでその刀なに?大切なもの?じゃあもらっちゃおっかなー」

「触んな」

「あ、やっぱり大切なものなんだね。じゃあこれで君たちを斬ろうかなー、なんて」

 

触らせない。そうは思ってもどうすることもできない。ただひたすら、自分への怒りが募る。

 

「いただき———————あれ?」

 

私の腰に刺さった刀をそいつが抜き取ろうとした途端、体が勝手に動いた。信じられない速度で腕が勝手に動き、そいつの腕を切り飛ばしていた。

 

 

 

「えぇ………」

 

我ながら間抜けな声を出したと思った。

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