「いー気分だぁー……」
「言ってる場合か!」
「るりはー?」
「心配してる場合か!腹に穴空いてるんだよ!?」
「あぁうん、もう妖力とか使い切ったまぢむりちぬ」
「余裕そうだな!?」
腹に穴空いてるんだよ、余裕なわけないでしょ。
「そっちに刀にあるでしょ、ひろって」
「あ、あぁわかった」
妖力も霊力も、さっきほぼ使い切った、意識もそろそろ飛びそうだ。
「ほら、持ってきたよ」
「刺して」
「へ?」
「刺せって。刺さないと私死ぬぞ」
「………つまり、止めをさせと…」
「違う……あぁもうむり、どこでもいいから刺せって」
「どこでもいいんだな!?ここでもいいんだな!?」
「そこはやめろ」
結局肩のあたりに刺された。
ついさっき、この刀に妖力をごっそり吸われた。そしてそのまま使うことなく腕を千切られた。
ということはだ、この刀には私の妖力がぎっしり詰まっているというわけで。
放置していたからもう妖力が散っているかもしれないけど、とりあえずこれしか手段がない。
「あぁあぁ……いきかえるぅ……」
「肩に刀刺したら治っていってる……気持ち悪ぅ………」
「私もう寝るから、おやすみ」
「え、ちょ、待て寝るな!私一人でここ片付けんの!?………本当に寝やがった………」
あ〜、土のいい匂いがするんじゃ〜
おい待て、土の匂いってなんだよ、おい。
今私どうなってる?
「………埋められてる、だと……」
真っ暗だ、体が動かせない、土臭い。
ふむ……なるほどね?
つまりこれはあれだな?埋葬されたな?
「ふぅ……」
妖力を土の中で爆発して土の上へ出る。
「ふざけんなオラアアアア!!」
「ぎゃおああおああぉ!?よ、よよよみがえったぁぁ!?」
「おいるり!何日経った!」
「ひぃいぃいいい殺されるぅぅう!」
ダメだこいつ、早くなんとかしないと。
土から抜け出すとちょうどよくるりがいた。
一応何日経ったか聞いたけど、妖力の回復具合からして二日ってところだろうか。意外と早い。
「よーしよし、まずは落ち着こうか、な?」
「こっちにこないでえええええ!!」
「落ち着かないと殺しちゃうぞ?」
「ひっ」
やっぱり脅すに限るな?こいつは。
「怪我は?もう大丈夫?」
「あなたには言われたくないですよ……」
「私はもう治ってるけど。あれ、埋められてたってことはもしかして死んでると思われてる?」
「い、いや、たぶん違います。鴉天狗の人が笑いながら土をかけてたので、たぶんいたずらじゃないですか?にとりさんや白狼天狗の人も二人、一緒に見てました」
「よし、今日の朝飯は焼き鳥だぁ!」
「もう昼過ぎですよ」
「よし、今日の晩飯は焼き鳥だぁ!」
いい度胸じゃねえか文のやつ。これだけはしたくなかったが仕方あるまい。帰ったら家の中が血の海になってたドッキリをしなければならないようだ。
「くっくっく……今に見てろよあいつ…」
「一体何をするつもりで……?」
「あ、見てたお前も共犯な」
「なんですとおおおおおお!?」
「うん、うるさい」
「命だけは、命だけはお助けを!」
「全身複雑骨折で手を打ってやろう」
「さようなら私の部屋ぁ……」
まあ冗談はさておき。
服がボロッボロなんだけど。隠すべきとこだけ隠せてるけど、道端歩いてたら捕まりそうなくらいなんだけど。
「というか、るりはなんでここに?」
「あ…えと……墓参りに………」
「いたずらって気づいてたんじゃなかったっけ」
「それは……その………」
言い淀むるり。
はぁーん、なるほどぉ。
「………ぷっ」
「あ、笑いましたね!?流石にちょっと頭にきました!私の人形が火を吹きますよ!」
「うん、本当に火を吹きそうだからやめてね?謝るから、ね?」
もう炎には焼かれたくないです……
「その、ありがとうございました。毛糸さんが気付いてくれてなかったらきっと、あたしは今頃……」
「やったのにとりんだから、そういうのいいよ」
「えー………」
なにが、えー、だよ。
「途中から見てましたけど、にとりさんがやったは無理がありますよ………」
「よし記憶消してやるからじっとしてろよ」
「なんで!?」
「なんでだと思う?」
「毛糸さんがあたしを虐めるのが好きだから!」
「よし正解だ、褒美として拳をくれてやろう」
「ひいいいぃっ!」
「その辺にしておきなよ、毛糸」
ちょっと調子に乗ってるりを虐めてると、にとりんがやってきた。
割と元気そうでよかった。
「おい、お前も私が埋められるの黙って見てたんだろ。共犯だからな?覚悟しろよ?その帽子剥ぎ取ってやるからな?」
「ふっ、やれるものならやってみたまえ。河童の叡智をとくと味合わせてやるさ」
「あ?やんのか?ええんか?」
「こいよ、白い毬藻が」
「二人とも顔合わせて早々喧嘩腰すぎますよ……」
挨拶代わりの売り言葉に買い言葉、あと取り消せよ今の言葉。毬藻って言ったろ。
「本当に今回はありがとう、ちょうどよく居てくれたおかげでなんとかなったよ」
「本当にちょうどよかったよなぁ。タイミング良すぎたよなあ。つか服くれ、服」
「ないよそんなもの」
「えー」
どうしてあの時、一気に感情がおさまったのだろう。
私はあのままあいつを殺そうとしていた。なのに何故かそういう感情がおさまって、一気に面倒くさくなって………
「あっ!刀どこ!?」
「一緒に埋めてたと思うけど」
「んな罰当たりな!呪われても知らんぞ!?」
「呪われる!?どんな刀なんですか!?」
事実勝手に私の体乗っ取ったんだ、そんなことしたら何が起こるかわからんぞ!
急いで私が埋まっていたところの地面を掘り返す。
「あ、あった。よかったー……文のやつマジで……てか柊木さんも見てたんだよね?これのことわかってたのに黙って見てたの?あとで首絞めとくか」
「首絞める!?物騒すぎますよお!」
「あ、るりは広場で公開労働の刑な」
「いっそ殺してください………」
死ぬより嫌なの?流石にそれは……
つくづく思うけど、火葬されなくてよかった……
「てか服は?」
「ないって」
「こんなボロボロの服で帰れと?」
「そういうこと」
「ねえ一応私のおかげで二人とも助かったんだよね?あってるよね?」
「感謝はしてるよ?」
「その感謝を行動で示してくれないかな?」
感謝してるなら服くらいくれよ……口だけだろ絶対。
「しょうがないなぁ……はい、醤油銃」
「わーいやったー、くらえー」
「だからなんであたしを狙うんですかああああ!?」
「面白いから」
「面白いから」
「泣きますよ!そろそろ!本当に!」
「どうぞ」
「どうぞ」
「うぅ……部屋に帰りたい……」
そろそろ可哀想になってきたのでやめておこう。
「銃いらんから醤油くれ」
「そう言うと思って、噴射式醤油銃」
「どう言う思ったの?何を想定してそれ作ったの?」
「多人数戦闘用……かな」
「醤油でどうやって多人数戦闘するの?」
「もちろん目潰し」
でしょうねぇ………
にとりんには服を取ってきてもらっている。
それまでの間、この刀について考えることにした。
結局なんなんだこの刀。
「今は動く気配はなし……と」
数日経ったら動きそうではあるが。
考えられるのは付喪神になったってこと…………こればっかりは詳しくないので調べてみるなりしないといけないが、多分違うと思う。
付喪神がどんなのかは知らないが、少なくとも神なんて偉そうなものじゃないだろこれ、完全に妖刀コース行ってるよこれ。
前々から、りんさんなら何が起こってもおかしくないとは思ってたし、妖刀っぽいなーとは思ってたけど………
りんさんの残留思念的なアレ?でも長い間柊木さんに預けてたけど、カタカタ動くだけで特に何も起こらなかったし………うん、また今度柊木さんに謝ろう。ついでに埋葬の件について殴るけど。
「………あれ、綺麗だなこれ」
あれだけ激しい戦いしてたんだから、刃こぼれとか、傷とかついててもおかしくないはずなのにすっごい綺麗……
自己修復機能持ち?あら便利なこと。
………まあ、またアリスさんにでも相談しようかなぁ……
しばらくしてにとりんがやってきたので、刀を鞘に収まる。
「おーい、服持ってきたよー」
「ごめん、ありが……って、全身にきゅうりが印刷されてんじゃねーか、恥ずかしくてきれねーよ」
「おい、きゅうりへの侮辱は河童への侮辱だとみなすぞ」
「知らんわ」
まあすぐ服を使い物にならなくする私が悪いしな………なんですぐ使い物にならなくなるん?私は平和に生きようとしてるよ?ナンデ?
「るりは?」
「部屋に帰りたそうにしてたから、土にでも埋まったらって言ったら本当に埋まっちゃった」
「うわ本当だ、頭だけ出てる、そして寝てる」
「まあなんやかんや言って疲れてるんでしょ。一応死にかけたわけだしね」
「ごめん、あの場で誰よりも死にそうだったの毛糸なんだけど」
「私なんてすぐ傷が塞がるんだからいいんだよ。何回死にかけてきたと思ってる」
「流石幾度となく死にかけてきた女、面構えが違う。死んだ魚見たいな目をしてやがる」
否定はしないさ、うん。
柊木さんも死んだ魚のような目をしてるし、似たもの同士かもしれない。
「とりあえず着るかこれ……」
「まあ普通の服も持ってきてるんだけどね」
「なんでこのきゅうり服渡した?」
「嫌がらせ」
貴様ァ!
「はいこれ」
「おいこれのどこが普通なんだよ。毛玉が爆散してるんだけど、毛玉が爆散してる絵が描いてあるんだけど。すっげえピンポイントな悪意を感じるんだけど」
「嫌がらせ」
「貴様ァ!!その隠している服をよこせ!」
「断る!こんな普通の服渡したって面白くないじゃないか!」
「変な服着させられる私の方が面白くねえわ!」
「二人ともなんですぐ叫び始めるんですか、うるさいですよぉ……」
あ、るりが起きてしまった。
「仕方がない、ここはるりで手を打とうじゃないか」
「あ、え?あたし?」
「そうだな、それならいいだろう」
「え?え?なにが?」
にとりんの提案に乗り、るりの頭の上に服をそっと乗せた。
「よし、完了だな」
「これで私たちは分かり合えたね」
「ごめんなさい全く意味わからないんですけどおお!?なんで服被せたんですか!?…あ、でもこれいい感じに塞がれて……」
静かになっていくるりを見つめながら、無言で渡された普通の服を着る。
「帰ろっか」
「せやな」
「途中まで送っていくよ」
「ありがと」
「改めて言うけど、ありがとうね。今回は本当に助かったよ」
「まあるりが生きてたのはよかったけど、他は全員死んでたし……」
「でもあの化け物がどうにかなったのは間違いなく毛糸のおかげだよ」
「それはまあ………」
実際、刀が勝手に動いてくれなかったらどうなってたことか……
「にしても濃い数日間だったなぁ。寒すぎて、地底行って、椛に虐められて、なんか死にかけて………」
「平易な顔して地底に行ってるのが驚きなんだけど。いいのそれ」
「あぁうん。まあ紫さん……妖怪の賢者の人にもとくに何も言われなかったから大丈夫だよ」
「なんで賢者と会話してんの!?会わなかった数十年間で何があったんだよ!」
確かに!
紫さんに拉致されてその式神に丸焼きにされるとかなかなか経験できないことだぞおい!死にかけたけどな!死にかけだけどな!?
「いろいろ……あったね」
「まあ聞かないでおくけど………とにかく!あいつをあそこで倒せてなかったら被害はもっと大きくなってた思う。文や椛も感謝してたよ?」
「感謝の気持ちを込めて私は埋められたの?」
「それは単にいたずら」
あのさぁ……私の体、今すっごい土臭いんだけど。
まあもともと血生臭かっただろうし、変わらんか、うん。
「だからさ、またあいつらにも会いに行ってみなよ。そのうちお礼の宴会開くって言ってたよ?」
「それ私主役のやつ?いいよそれ……恥ずかしいし柄じゃないし…あと絶対あいつらが酒を呑みたいだけ」
「本来山に関係ないはずなのに巻き込んでしまったっていう気持ちがあるんだよ。呑みたいだけってのは否定しないけどね」
あいつら呑んでる時すっごい楽しそうだもんなぁ……ああいうの見てると、酒を飲めるのが少し羨ましく思えてくる。
「だから来なよ?不本意かもしれないけど、みんな感謝してるんだからさ」
「………考えとくよ」
「つまり来るってことだね!」
何故バレた。
「じゃあここでお別れだね。さっき言ったやつ、忘れるなよ?」
「はいはい、行けたらいくよ」
「じゃあね毛糸。また」
「うん、また」
命張ってよかったな、って思った。
感謝されるって、悪い気はしないよね。
「……あれ、るりまだ寝てるんじゃね」
「………はっ!気付いたら寝ちゃってた!早く帰らないと…………ぬ、抜け出せない………服も被せられてるから周りも見えない………誰かあああああああ!!たすけてえええええええええ!!」