毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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割といつまでも引きずってる毛玉

 

「ってことがあったんだよー」

「………えー?」

「えー?じゃないんだけど」

「流石にそれは………えー……」

「えぇ?」

 

めっちゃドン引きされとる……

 

あの後、適当に寒さに苦しみながら過ごしてたらそれなりの時間が経ってたので、アリスさんの家に帰ってきた。

ん?待てよ?もう私、生活できる家を作ったんだから、帰ってきたって言っていいのか?

 

「それね……私と慧音が探してた妖怪………」

「あ、そうなの?殺しちゃったけどよかった?」

「まあいいけど……もしかしたらとは思ったけどこうも……」

 

 

探してたってことについて聞いてみると、どうやら慧音さんに会ったときにあの妖怪の話をされ、人間にもどんな被害があるかわからないから調査を進めてたんだと。

それでその妖怪の痕跡が途絶えてしばらくしてたら、私がそいつとやり合ったと言う報告が来て引いていると。

 

「あなた、どうしてそんなに都合よく……」

「知らんわそんなこと。私が聞きたいわ。なんでこんなに変なことに巻き込まれるのか……まあ、今回に関しては巻き込まれてよかったけど」

「それに人間の形見の刀が勝手に体を乗っ取ったって……」

「まあ乗っ取ってくれて助かったけどね」

 

本当に、変なことに巻き込まれすぎだ。

山の戦争に巻き込まれて?妖怪狩りに絡まれて?地底のやばい鬼に殴られて?地上に帰ったら化け物の妖怪と人間の戦いに巻き込まれて?そしてそのあと平和だなって思ってたらどこぞの式神に丸焼きにされて?で、今回は頭のおかしい奴に殺されかけるって………

 

いやー、運悪いね、ははっ。

 

「正直心情的には今までで一二を争うくらいにはキツかった」

「それはまあ、お疲れ様」

「あ、そうだ見てこれ!氷の蛇腹剣!」

 

糸を出して蛇腹剣を作り出して見せる。

アリスさんにも秘密で作る練習してたんだよね。

 

「あぁ、あげた糸それに使ってたのね」

「伸縮魔法かけてもらったからどこまでも伸ばせるよ!すごいっしょ!」

「髪の毛伸ばすために使うんだと思ってたわ」

「ねえアリスさんは何回私の髪の毛をイジれば気がすむの?」

「それで?それ役に立ったの?」

「うん!悲しいほどに役立たずだったよ!」

「でしょうね。あなたの場合普通に殴った方がいいんじゃない?」

「言うな……それを言うな……あと今回は相手が悪かっただけだし」

 

あいつ、まあなんの種族かは知らないけどびっくりするほどの身体能力だった。

いくら体の負担が激しいといえど、幽香さんの妖力フルで使ってた私を圧倒したんだ、もうダメかと思ったね、ほんと。

 

「でもあなたがそれだけやられたのだったら、私や慧音が出会ってたら大変なことになってたでしょうね…そう考えたら、運良く出会ってくれてよかったのかも」

「運悪く、ね?」

「はいはい」

 

くっ……紅茶を飲む姿が美人すぎてムカつくぜ……

 

「もうさ、本当に、なんだろう…みんな私のこと、便利で都合のいい生物兵器かなんかだと思ってるんじゃないの?」

「否定はしないわ」

「否定してよ!そこは!私にだってさ!心はあるんだよ!?心の傷も負うんだよ!?みんなそこわかってる!?」

「心の傷負ってもあなたの場合、よほどのことがない限りすぐ忘れてそうだけど」

「否定はしない」

「そこは否定しなさいよ」

「だって事実だし」

 

こういう時バカは楽でいいなぁ、ははっ。

 

「それで、どうするの?」

「どうするってなに」

「これからのことよ。湖で過ごすなら好きにすればいいし、またここで生活しても私は別に構わないわよ」

「あぁ、そっか……まあ湖に帰るよ。そう何年も人の家で寝てるのも良くないしね」

「今更よその発言」

「それはそうだけども」

 

今は帰る家があるんだから、そっちで過ごすのが正しいことだろう。まあ向こうにいた時間よりこっちで生活した時間の方が長いのは目を瞑ってだな。

 

「また遊びに来てもいいかな」

「いいわよ」

「うぇーいやったー」

 

まあ、本当に長い間お世話になったし、また改めてお礼をしないとな。私にできることなんてどれだけあるか知らんけど。

 

「……そういえばさ」

「ん?」

「アリスさんってなんで私をここで泊めてくれたんだっけ」

「………」

「………」

「忘れたわ……」

「忘れたか……」

 

まあだいぶ昔の話だし、私も忘れたからなぁ……

 

「待って今思い出すから。確かえーと………あ、そうだ。あなたから霊力と妖力が感じられたのが不思議だったから、ここで生活さしてあげる代わりに体を調べさせてって、そんな感じだったはず」

「あ、あー!そんなだったそんなだった!あれ?私体調べられたことあったっけ?実験台にされた記憶しかないぞ?」

「まあ色々と謎が多いしね。あなたも下手に弄られて自我を失うとか嫌しょう?」

「イヤです!」

 

いやー、でもそんなこともあったなあ。

確かあの頃は、毛玉になってたら魔法の森なんて楽勝だろとか思ってて、そのまま気を失って………

うん、この記憶は閉まっておこう。恥ずかしい。

 

「私のことなんか調べてどうするつもりだったの?」

「そうね…単に興味が湧いたってのと、私の夢に近づけるかと思ったから、かしら」

「夢って……自立して動く人形を作るってやつ?」

「そうね。人形に意思を宿らせないといけないから、あれこれと試行錯誤してるけど全然上手くいかなくてね……あなたのこと調べたら何かわかるかもと思って」

「何かわかった?」

「なーんにも」

「ですよねー」

 

ろくに調べられた覚えないしな……よくそんな中で私と一緒に過ごしてたもんだなぁ。

 

「まあ本当に、長い間お世話になりました」

「とか言ってまた来るんでしょ」

「来るんだろーなー」

 

ここって来やすいし。

妖怪の山と地底はそもそも関係ないやつが行くようなとこじゃないし、今更だけど。ここに関しては来る時にキノコとかに気をつけたら割ときやすい方だし。

 

「あなたって本当に活動範囲広いわね……」

「まあ、確かに。逆にアリスさんはこの森から全然出ないよね」

「魔法の研究するならここが一番いいからね。人が少ないから面倒ごとに巻き込まれる心配もあまりないし」

 

なるほど、定住しないから面倒ごとに巻き込まれるんだね。大体わかった、でも定住はしない。

放浪毛玉って名乗っても良いだろうか。

 

「あの子にも一度声をかけておきなさいよ」

「あの子?」

「ほら、イノ……イノ…」

「あぁブ○ファンゴか」

「なんで毎回呼び方変えるのかしら?」

「なんとなく」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー………これはもう家だな、間違いなく家だ」

 

ドアがあるから家だ、誰がなんと言おうと家だ。

流石にあの小屋……いや、ドアがあるから家だけど、あのままだと住みにくすぎてキャンパーを目指しかけるところだったので、とりあえず壊れる前と同じくらいには改築した。

まあ壊れる前というか、壊す前なんだけど。

 

「あたいの城が復活したぞおおー!」

「復活したのは私の城だバカチルノー!」

「だから、城とは呼べないですよねこれ」

 

なんだろう、よく似たやりとりを昔にした気がするんだ。

 

「あ、花が植えてある。毛糸さんもとうとう自然を大切にしようという気持ちが芽生えてきたんですね、いいことです」

「ねえ煽ってる?煽ってるのそれ」

「いえ別に」

「あたいこの花凍らす!」

「お?ええんかそんなことして。花の妖怪がお前を殺しにくるぞ」

「こ、今回だけは見逃してやる………」

 

幽香さん、ただ花に囲まれてるだけなのにこの影響力である。ヤバイと思う本当に。

 

「いざあたいの城へ!」

「私の城だ勝手に入るんじゃねえ!」

「だからこれは城じゃ……」

 

 

 

 

 

 

「なんにもないじゃん」

「内装はないそうです、ってね」

「は?」

「え?」

「ごめん」

 

そんなさ……そんなに冷たい目で見なくたっていいじゃん………

 

「あ、なんですかこの人形、毛糸さんみたいですね」

「あぁそれ?まあ貰ったんだよ」

「この人形凍らしていい?」

「やるのは勝手だけど、そのあと何されるかをじっくり考えるんだな」

「あたいはまだ死にたくないぞ!」

「妖精は死なないけどね……」

 

流石の私も殺しはしない。

ただ天日干しの刑に処すだけである。

 

「でも本当に何もないですね……前のやつと比べてもあんまり変わらない」

「これから色々増やしていくからね。あの頃はまだ色々慣れてなかったから変なもの多かったし」

「これからあたいの城がどんどん広がっていくんだな!」

「お前いつまで城って言うんだよ」

「自分の城を自分で——」

「あぁはいはいわかったわかった。いてっ」

 

氷投げてきよった……適当にあしらったらこれだよ、構って欲しいのか?

まあ相手されないと腹立つのは私も同じだけど。

 

「……あれ、なんだろうこの紫の…」

「それ触んない方がいいよ」

「え?」

 

大ちゃんが近づいた紫色の何かがのそっと動き出す。

あー起きちゃったかあ。

 

「ぶふぉ」

「家畜のイノシシ」

「家畜!?猪!?いや、妖怪ですよねこれ!すごい毒々しい色してますけど!」

「食べるのか?」

「知り合い曰く、こいつを食べると猛毒により半日で死に至るらしい」

 

家畜というよりペットである。

 

魔法の森を去るときに、しばらくお別れだとか言ったら猛烈な突進をかまされ、なんやかんやで今はペットである。

 

「こいつ気難しいから気をつけろよー?ちょっと気に入らないことがあったらすぐ突進するんだ。なっ、イノージェン?ぐふぉっ」

「突進されてますけど」

「こいつ頭いいから……チルノより頭いいから……」

「最強のあたいがこんなやつより頭が悪いわけないだろいい加減にしろ」

「ウン、ソーダネ」

 

正直チルノから投げられる氷よりこいつの突進の方が数倍痛い。

 

あの森から出たらいろいろあるから、こいつに何かハプニングとか起こらないかと心配してたけど、なんとかなりそうだな。

 

「ふごぉ!!」

 

この声は……悲鳴?

 

「どうしたドスファン…」

「あむあむ」

「ゴ……?」

 

う、うちの非常食が食われている………

 

「ぺっ、まず」

「おあああ!?おまっ、せなかが!背中の一部が抉れてるぞ!?」

「あ、ルーミアだ」

「ねえ大丈夫?いける?死なない?生肉にならない?」

「ふご」

「あ行けるんだ、さすが妖怪」

 

もう血も出てないし、イノシシとはいえやっぱり妖怪だなぁ。

突然噛み付いてきたルーミアにビビったのか、奥の方へと逃げていった。私の骨を幾度となく砕いてきたやつとはいえ、流石に可哀想だ。

 

「ルーミアぁ……急に何してくれてんの?」

「んー、誰?」

「誰?って………」

 

え?なに、忘れられたの?マジで?あんな死闘を繰り広げた……あっ、それはルーミアさんの方だったわ。でもこっちのルーミアともそれなりに会ったことは……しばらく会わなかったし忘れられてる?

 

「そこに生肉があったら食べるのは当然でしょ?」

「いや吐いてるし」

「思ってたより不味かったから」

 

さすが毒々しい色をしているだけあるなあいつ……まあ私の肉も不味いらしいけど。

なんで私のは不味いんだろう、毛玉だから?ゲテモノだから?栄養足りてないから?

 

「ってか、なんだろ、雰囲気変わった?」

「ルーミアは最近はこんな風だぞ」

 

うーん……私の知ってるルーミアはIQ3くらいの頭のわるそーな感じだったんだけども……まあウン十年も経ってたら色々変わるか、あんなことあったし。

 

「ところであなたはなに?食べていいの?」

「食べてもいいけどどうせ不味いって言う……あ、もう食べられてた」

 

当然のように私の体から腕をもぎ取って行った、こいつ……できる!

 

「まずっ」

「不味いからって投げ捨てるのやめてくれる?私の家が血だらけになるんだけど」

「だってまずいし……」

 

ルーミアが投げ捨てた私の腕を拾ってくっつける。

床が血だらけだし後で掃除しないと…服も破れたし。いやほんとよく服破れるなこの野郎、この世界は私の服に恨みでもあんのか。

 

「それにしても、なんであの人は私のこと食べようとしてたんだか……不味いらしいのに」

「毛糸さん、あの人って誰ですか」

「へ?」

「あの時何があったか、まだはっきりと教えてくれてませんよね」

「あ、あぁー……」

 

大ちゃんが言ってるのは私がりんさんとルーミアさんと色々あったことだろうが………

 

「ルーミアちゃんとも関係あるんですか?」

「ごめん、あんまり他人に言いたいことじゃないんだ」

 

あの二人は今はもういないから、誰かに言ったってあんまり意味がない。りんさんだってほいほい言われるのは望まないだろう。多分、きっと。

 

「私はもう大丈夫だから、気にしないでよ」

「気にしますよ、勝手に落ち込んで勝手にどっか行って、心配するに決まってるじゃないですか」

「ごめん本当にごめん、今更遅いけど反省してる」

 

チルノと喋ってるルーミアを見つめる。

ルーミアの中には結局あの記憶は無さそうだし、そもそもルーミアさんの存在を覚えてる人も少ないだろう。

あの二人のことは忘れてはいけない。それが残った私のできることだと思うから。

 

 

…………いや、まあ…勝手に動く刀と本人がいるからどうあがいても忘れられないわ。


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