「ほら、次そっちの番だよ」
「そう急かすなよ、今考えてるんだから………ここ!」
「はい王手」
「んなっ………ここしかねーじゃん」
「はい王手、詰み」
「は?」
「これで全勝だね」
「は?は?は?は?は?」
「毛糸ー、戻ってこーい」
「ひょ……?」
ナンデナン……?なんでにとりんに私一回も勝ててないん?
「ずるしてる?」
「してないわ」
「本当のこと言ってみ?怒らんから」
「してないって言ってるだろ」
「じゃなんで私こんなに負けてるんだよ!」
「盟友が弱いから」
「んがあああああ!」
私の尊厳が……プライドが………もとからそんなもんないけど崩れ去っていくぅ………
いいもん、そもそも将棋そんなに得意じゃなかったし、オセロの方が好きだし。将棋を挑んだ私がバカだった。
「………悔しいからもう一回」
「やだね、結果見えてるもん」
「絶対?」
「絶対」
「何があっても?」
「何があっても」
「そっかぁ……しょうがないからるりに八つ当たりしてくる」
「やめたれ」
はいはい、所詮アホでバカな私じゃ機械を弄ってるにとりんには盤上遊戯じゃ勝てませんよ。
「あのね、一つ助言してあげるけど、後先考えずにやりすぎだよ。これに限らずね」
「よく言われる」
「だろうね」
だってさ……そんなこと言われても私には無理ですし……頭良くないし……後先考えるってなにか具体的に教えてくださいよねえ!
「あぁ〜平和過ぎて暇だよ〜」
「ついこの前腹に大穴空いてたやつが何言ってるんだか」
「べつに闘争を求めてるわけじゃなくてさぁ、平和な上で色々イベント……催し事とかあったらいいのになって」
「この山は組織だし、そういうの多い方だと思うよ?」
「多いっていうけど、春に酒呑んだり不定期に酒呑んだり疲れて酒呑んだり、そんなんばっかじゃん?酒呑んでばっかりじゃん?そーゆーのじゃないんだよ」
学校とか、仕事とか、毎日のやることがないから、暇なのである。本当に何にもない日なんて、飯食ってイノシシに餌あげて散歩して終わりだからね。
「にとりん達河童や天狗はいいよなぁ。毎日やることあってさぁ」
「私たちの場合はやりたいことやってるだけだからなぁ。お陰でこんなものが完成したんだ。見ておくれよこれを」
「隙あらば紹介してくるねぇ……で、今回はなんの醤油銃?」
「ふっふ、甘いね毛糸。いつまでも同じことを続ける私じゃない。技術者たるもの、常に既存のものを発展させ新たなものへと昇華させるのが使命ってものさ」
「いいからはよはよ」
「…まぁ、簡潔にいうときゅうり銃なんだけどね」
「ゴミじゃん」
「まあ使えないね」
それ何に使うの……?
私のよわよわな脳みそで思いつくのは河童の口に向けてきゅうりを射出するくらいしか思いつかないんだけど。
「使い道は河童に向けてきゅうりを射出するだけ」
「うわぁゴミだぁ」
「しょうがないだろ、こっちだって平和になって兵器とかの開発完全に停止したからなんかこう、いい感じの考えが降りてこないと迷走しちゃうんだよ」
まあそりゃあそうだろうけど…
ふと、視界の端になにやらゴツイ機械が目に入る。
「………ねぇにとりん、あれ何?」
「ん?あぁあれは妖怪洗浄機」
「は?」
「中に入った妖怪を高圧の水流によって洗浄する悪魔の機械さ」
「洗浄とは……」
「平たくいうと処刑」
「使い道ある?」
「ないね」
ゴミだった……
また視界の端になにやらゴツイ機械が目に入る。
「じゃああれはー?」
「あぁあれはね………なんだっけ?」
「なんで自分の工房にあるもの覚えてないんだよ」
「いや待って、本当に見覚えがない。私が作ったやつじゃないよ」
「どうせ酔った勢いで作ったとかそんなんでしょ」
「私酔って暴走はしないと思うんだけど…とりあえず確かめてみよう」
なんか動き出しそうなところの上に乗ってみる。
あ、これベルトコンベア的な何かだ。
何かが流れる為のベルトコンベアと、その先に刃が複数…
何するやつだ?これ。
「あれ、電気通ってるな」
この時の私の落ち度と言えば、物思いにふけっていて、にとりんの声をよく聞いていなかったことだろう。
「電源入れてみれば分かるか、えい」
「この形はなんていうか……ん?え?動いた?」
「あっまず」
「へ?あっ」
視界に入ったのは稼働している複数の刃。
数秒後、私の下半身はミンチになっていた。
「なるほど精肉機かぁ…………あぁ」
「おめぇはよぉ!!適当すぎんだろ!?見ろよこの私の下半身!腰から下ざっくりいってんじゃねえか!!」
「いやぁ、本当にごめん、でもその状態で説教されるの気味悪いから後にしてくれないかな」
「お?断面見せたろか?この私の切断面見せてやろうか?」
「見せられたら傷口に醤油かける」
加工されて出てきた私の下半身は妖力弾で消滅させておいた。ルーミアなら食べたかもしれない。
「ただ切られただけならいいけど、無理矢理上半身と下半身を引きちぎったせいで変な切れ方してるんだけど。具体的に言うと骨盤が」
「やめてよ!そういうの苦手なんだって!」
「処刑装置二つも作ってたやつがそれを言う?」
「片方は私のじゃないし精肉機だって」
いや結果的に私が処刑されかけてるんだから処刑装置だろ。
「つか、にとりんのじゃなかったら誰のよ」
「知らないし……しっ、誰か来た。その姿見られたら不味いから隠れといて」
「んだとぉ…」
自分勝手で腹立つので毛玉になって隠れておく。
まあ上半身だけで浮いてるフリ○ザ的なやつがいたら誰だってトラウマになるからね、仕方がないね。
毛玉になって物陰に隠れていると、数人の河童がやってきた。全員知らないやつ。
「すみませーん、届け先間違っちゃってましたー。何か事故とか起きてませんかー?」
「あ、あぁ大丈夫、何もなかったよ」
「本当に?なんか血がついてるんですけど」
「大丈夫大丈夫」
「なんか肉片ついてるんですけど」
「大丈夫!大丈夫だから!」
「はぁ、ならいいんですけど。この妖怪精肉機は危ないから仕舞っておかないとですねー」
そう言って手際よくその機械を外に運び出していった。
「やっぱ処刑装置やないかい!自分ら河童はどうなってんの!どれだけ処刑装置作ってんの!どれだけ処刑にバリエーション増やそうとしてるの!」
「今度から不用意に触ったりしないように気をつけるよ……ははっ、事故に遭ったのが毛糸でよかった」
「私はよくないんですけど?下半身千切れて服もおじゃんで、再生しても素っ裸なんですけど?私が今日この山に何しに来たか分かる?この前のお礼の宴会するからって招待されたんだよ?その結果下半身無くなるって……はぁー」
「悪かったって、そろそろ機嫌直してくれよ」
下半身千切れた時は全身燃やされた時くらい死を覚悟したよ……
暫く生肉は見たくないわ……
「………そういや、その宴会って夜からだったよね?だいぶ早い時間に来てたけど」
「手紙に『どうせ暇だろうから早いうちに河童のところにでも行って時間潰しててください』って書いてた」
「文だなぁ」
「文だろうなぁ」
ムカつくこと書かれてたけど、事実なので言い返せない……というか、あの手紙のせいで下半身無くなったんだから実質文のせいでは?
「とりあえず服欲しいんだけど。これじゃ再生しても露出狂になる」
「はいよ、いつものでいい?」
「うん」
いや、うんじゃない。いつものってなんだ。いつものって言うのができるくらい私は服をダメにしてるのか。確かに服は毎回にとりんに貰いに来るけども。
「盟友がいっつも服をもらいに来るから、十着は確保するようにしてるよ」
「あぁ、なんか、ごめん」
「まあ今回は私も悪かったしね」
「足があるって、幸せなことだったんだね……」
「毛玉が何言ってるんだか」
「確かに」
「言い返せよ」
てか毛玉ってなんだっけ?そろそろ私の種族名は毛玉(笑)にしたほうがいいと思う。下半身ぶった斬られてもまた生えてくるやつとかおかしいでしょ、生物として。
そもそも毛玉要素が髪の毛しかないし。
「それはそれとして、今日って誰が来るの?」
「えっと、文と椛と柊木さんと私とるりと毛糸の六人かな」
「いつメンじゃん」
「いつメン……?」
よくよく考えたら私この山に知り合いがあの五人以外いないからそりゃそうだった。
「今回は私も密かに楽しみにしててね、なんか文がとびきり豪華なもの用意してるって言うからさ」
「豪華なもの?」
「何かは私も聞いてないんだけどね」
どうせロクなものじゃないでしょ。てか聞いてないのに期待しない方がいいと思う。まあ聞いてないのに勝手にロクなものじゃないって決めつけてるのもなかなかだけどさ。
「それで、話は変わるけどさ。その刀って結局なんなのさ」
「これ?あー、うーん。ははは」
「誤魔化せてないぞ」
「私もよくわかんないぜ!」
「だろうなぁ」
結局肌身離さず持ち歩いてるこの刀、さっき下半身千切れた時もこれだけは先に投げ飛ばしたからなぁ。そのせいで下半身千切れたと言っても過言じゃない。
「逆に聞くけどなんだと思う?にとりんの見解を聞こう」
「妖刀」
「毛玉もそう思う」
「あとにとりんってなんだよ。今更だけどさ」
「逆に聞くけどなんだと思う?にとりんの見解を聞こう」
「気分」
「毛玉もそう思う」
「なんで同じこと言ってんの?」
「逆に聞くけど」
「もういいわ」
アリスさんにさんをつけるのも気分だし、にとりんをにとりんと呼ぶのも気分だし、さとりんをさとりんと呼ぶのも気分だし、チルノをバカと呼ぶのも気分です。
「すみません血の匂いするんですけど何かありましたか?」
「あ、椛」
「あ、犬だ」
「白狼天狗ですしばきますよこの毬藻」
「受けてたつぞこのやろう」
「なんで会って数秒で喧嘩腰なわけ?」
「これが挨拶代わりだもんな、犬」
「そうですねくそ毬藻」
「おいクソは余計だろ」
だが甘い、今の私は毬藻と言われた程度では血管が浮き出る程度しか怒らないぞ。
「文さんに言われたんで迎えにきたんですけど、なんか血生臭いことでもしてましたか?鉄の匂いが凄いんですけど」
「平たく言うとさっきまで下半身なくなってた。いやぁ大変だったよ」
「大体察しました」
「今ので察したの?普通驚くところだよね?毛糸の下半身無くなったんだよ?」
「いつものことじゃないですか」
何気に下半身丸々なくなるって、今までもそうないんだけどね。いや、全身焼かれた時はまあ……うん………
まあ大怪我してるのはいつものことだなぁ。
「下半身無くなるも目玉が飛び出るも骨が全部砕けるのも勝手ですけど、今日の宴会は台無しにしないでくださいよ。文さん、一度落ち込んだら三日は萎えてるので」
「だってさにとりん、気をつけなよ」
「だから反省してるって……」
「あと今日のために休暇取ったんで無駄にしないでください」
「さては本音それだなオメー」
まあそれは柊木さんも同じだろう。にとりんとるりもかな?仕事あるってやることあって良さそうだと思ったけど、休みとかでヒィヒィ言うのは嫌だしなあ。悩ましいところだ。
「あとその刀どこかに置いといてくださいね。なんか見てるだけで悪寒がしてくるんですけど」
「ん?あぁ、確かにそうだよね……ここに置いとくか」
「え、ちょっと、そんな物ここに置いとかないでよ!私の工房だよ!?」
「大丈夫大丈夫、別に刀が勝手に宙に浮いて斬り掛かってくらわけじゃないんだから。カタカタ動くけど」
「動くんじゃん!」
「うるせえ下半身の責任とれ!」
「ぐぬぬ………」
渋々と言った感じで、りんさんの刀をここに置くのを了承してくれた。一応私に申し訳ない気持ちはあるみたいだ。なかったらなかったらで問題だとは思うけど。
それはそうと、妖力も抑えとかないとなぁ。幽香さんの妖力って、まともに出したらその辺の妖怪がびびって逃げ出すくらいには強力だし。
相変わらず身の丈に合ってないねぇ……まあめちゃくちゃ使ってるけど。
幽香さんの妖力にどれだけ助けられてるかは考え出したらキリがないからこの辺りにしておいて。
「椛、休みっていう割には服がいつもと変わらないけど」
「休み取ってても呼ばれるんですよこの山は。この前なんて天魔様がちょっと誰にも見つからないように山の外に行っただけで白狼天狗全員出動しましたからね」
「あぁこの前のそれかー。やけに騒がしいなって思ってたらそんなことがあったんだ」
「というわけで、天狗が、主に白狼天狗が取れる休みって重要なので何も起こさないでくださいよ、本当に。いいですね?」
「あ、ハイ」
めっちゃ念を押される……そんなに信用ないか?私。むしろ私は酒を呑んだ椛が暴走しないかの方が心配なんだけど。
「あだっ!なんで叩いた今!」
「なんか腹が立ったので」
お前ら白狼天狗は本当にさとり妖怪の血でも引いてんじゃねーの……?