毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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暇を持て余す毛玉と式神の式神

毛玉の朝は遅い。

 

特にやることがないともっと遅い。

 

たまにチルノが起こしに来る時は早い。子供は起きるのが早くて元気じゃのう………

 

 

そして迎えた朝

 

まだお日様が真上にも登っていない時間。

私のトラウマがやってきた。

 

 

「失礼する」

「おああああああああ!?」

「なんだ、まだ寝ていたのか。すまなかった」

「ら、ららららら藍さん………」

 

私を全身こんがり肉にしてきた藍さんが突然家にやってきた。

せっかく来てもらって悪いけど今すぐ帰って欲しい!すごく帰って欲しい!なんなら私がここ出て行こうか!?

 

「折り入って頼みがあるんだが………」

「いや、藍さんが出来ないことは私も無理だけど」

「いや、私は出来ることだ、君にもできる」

 

うん、これあれだね、断れないやつだね。

ここで私は開き直ることにした。

 

どうせやることないんだから、やるだけやってやろう!死なない程度に!

 

「と、とりあえず用意するんで外で待っててもらっていい?」

「そうだな、急に押しかけてきてすまない」

 

せめてアポくらいとってよね!別にいつでもいけるけどさ!暇だし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「式神の面倒を見て欲しい?」

「まあ、そういうことだな」

「………紫さんの式神?」

「いや私の」

「式神の式神?」

「そうなるな」

 

行けるんだそれ…式神の式神とか。式神が何かよくわかってないけどね?

 

「で、それを私がしなきゃいけない理由を聞いていい?」

「今年も段々寒くなってきただろう?」

「うん」

「紫様が動かなくなった」

「だいたいわかった」

 

つまり紫さんがスリープモードに入ってるから、藍さんが代わりに色々しなきゃならなくて、それでその式神の面倒を見切れなくなったってことね。

 

「以前の妖怪の山での一件、見ていたがあの妖怪は凄まじい力の持ち主だった。だが君はあれを倒してみせた」

「あれは私と言うよりりんさんの刀が………まあいいや」

「色々他に頼める人を考えたんだが、毛糸、君が一番適任だと言う結論に至った」

 

至らないで欲しかった……

 

「君のことは紫様も信用しているし、私も信用に値すると思っている。君は他の力を持つ妖怪に比べても温厚で友好的だ。頼まれてくれないか?」

「うーん……」

 

引き受けはするけど……危ない人だったらどうしよう……

私を見るなり手足をもいだりしないよね?

 

「…駄目か?」

「ううん、引き受けるよ」

「本当か!」

 

藍さんも少々おかしいところはある気がするけど、決して異常者ではない。私にとって危険なことはおそらく、多分、きっと、やらせようとしないだろう。

それに、余程その式神を大事にしているみたいだ。私も信用してるって言われたし、期待には応えたい。

 

あと単純に暇!

 

「じゃあ早速来てくれるか?」

「うん、わかった」

 

そうして私は再びマヨ……マヨシ……?

マヨなんとかに赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

「あの子?」

「そうだ」

 

私の視線の先にあるのは、猫と戯れている可愛らしい子供。まあ妖怪だろうけど、猫の耳と尻尾生えてるし。

尻尾が分かれてるし、猫又って言うのかな?

 

「すまない時間がないんだ、あとはよろしく頼むぞ」

「え、ちょま……消えた……?」

 

一瞬で姿を消しよった……さすが妖怪の賢者の式神だ…

藍さんがいたところに一枚の紙切れがあったので拾い上げてみると、藍さんが描いたのであろう、丁寧な字でやることが書いてあった。

 

なんだろう、この………親の留守中のやることリストみたいな……

 

「まあさっさとやろうか……1番目、あいさつ」

 

あいさつて……いやまあそうだろうけど………

あとその下に小さく、私のことは既に伝えてあるって感じのことが書いてあった。

つまりあれか?さっき私が引き受けたのに、それをもうすでに伝えてるってこと?引き受けてもらう前提で言ったのか、恐ろしく行動が早いのか……

まあ、それは置いておいてあいさつか。

 

「といっても、なんて声をかけたらいいか……あ、見つかった」

「………」

 

警戒されてる?これ警戒されてる?……まあいいか。

 

「おーい、聞こえるー?私は藍さんから君の面倒を見るように言われた」

「毛糸でしょ?藍様から何回も聞いてるから知ってるよ」

 

呆れ顔で言われた。

あぁー、これあれだな、大方予想できた。

 

「ただの毛玉が藍様の代わりを務めるなんて思えないけどなぁ」

「ぅん……そうだね………」

 

ムカつくけど、それは私も同感である。

 

「私で務まるかはわからないけど、とりあえずよろしくね?」

「はいはい、よろしく」

 

うわぁ、完全に舐められてるわ……まあ藍さんと比べたらそりゃ舐められるでしょうけれども……

よくよく考えたらチルノにも舐められてるから今更だったわ。

背も私と大して差は無く、子供って感じのする容姿だ。

 

「君は橙であってるんだよね?」

「そうだよ。…藍様があれだけ言うからどれだけ凄い人なのかと思ったけど、やっぱりただの毛玉かぁ」

「君の中で毛玉は体を持ってるのかな…?まあいいや」

 

一体藍さんがどんなふうに私のことを伝えていたのかは気になるけど、なんかヨイショされてそうなことは想像できた。

 

「あいさつは済んだか。えーと、次にやることは……」

 

交流を深める……いや、あの、あのさぁ!

そんな、学校の先生が指示するみたいな…ねえ!まあやるけどさ!

 

「えーと、そうだなぁ……何か私に関しての質問とか……ある?」

「藍様より強いの?」

「比較にならないくらい弱いと思う」

「だよね、知ってた」

 

なんだろう、この子の一つ一つの言葉が私の心にかなり刺さる。

 

「じゃあ私からも一ついいかな?」

「いいよ」

「藍さんとはいつもどんなことしてるの?」

「私の妖力の扱いの練習だったり妖術の練習だったり」

 

え……やだ………私が教えてもらいたいんだけど!?私の方が妖力の扱いを藍さんに教えて欲しいんだけど!いいなっ!羨ましいなっ!

 

「あなたは見てるだけでいいよ、教えるとか無理でしょ?」

「うん……」

 

なんだろう、本当に、強い言葉を使われてるわけでもないんだけど……辛い!

確かに次の項目に、橙の鍛錬を見守るって書いてるけど……それ、私いるかね?なんなら藍さんが居なくても出来そうなんだけどさぁ……

 

てかちょっと待って!さらにその次の項目、私との模擬戦って書いてあるんだけど!?

 

「うわぁ………」

「どうかした?」

「いやなんでもないけど……」

 

何考えてるんだあの人……私との模擬戦なんて、この子にとっても何の得があるのか……

 

「………あぁもういいや。とりあえず始めようか」

「そうだね。あーあ、藍様に見てもらいたかったなぁ」

「………ぐはっ」

 

今日だけで私は既に数年分の精神攻撃を受けている………

 

 

 

 

 

 

 

橙の訓練内容は簡単だった。

単純に妖力を纏って身体能力を強化して、そこらじゅうを駆け回ったり、跳ねたりする。

妖術に関しては、火を出したり………火を出す以外のことはなんにも分かりませんでしたああっ!!多分火を出すやつは以前藍さんに焼かれた時のと似たようなものだと思うけど。

 

いやでもね、あのね、こんな子でもね、私より妖力の使い方上手いところ見てるとね。

 

泣けてくる

 

いや、普通の妖怪ならこの程度はできて普通なのかもしれない。

多分私が妖力の扱いが下手なのは、そもそも前世が人間でそんな非科学的なものと無縁だったのと、そもそも毛玉で自分の妖力を持ち合わせていなかったことも関係あると思う。

 

あと私にセンスがない、多分だいたいこれ。

 

これでもアリスさんと一緒にいたころにだいぶ練習して、そこそこ使えるようにはなったんだけどさ………でも妖術ってなんだよ!私知らないよそんなの!アリスさんは魔法しか教えてくれなかったよ!まあアリスさんも詳しく知らないからだろうけどな!

 

私が育ち悪い子であの子が育ちがいい子みたいな……

 

「妖術かぁ……私でも練習したらできるかな…」

 

でもあの子凄いな、そこまで大きな妖力を持ってるわけでもないのにかなり動けてるし。

 

「あ、猫」

 

突如視界に猫が入ってきて目と目が合っ………やだこっちきてるんですけどっ!めっちゃ可愛いんですけど!

 

「ふおぉっ」

 

膝の上乗ってきたんですけど!!可愛すぎるんですけど!え、ちょっと待って可愛すぎて死ぬ。

 

「うちのイノシシとは大違いだぜ……まああいつもあいつで可愛いんだけどさ」

 

でもあっちはこの動物である猫と違って妖怪!可愛さにおいて超えられない壁があるのは仕方ないことである!

 

 

っといけない、関係ないこと考えだした。

でもこの後どうするかな……メモには模擬戦を適当にこなしたら休憩って書いてあるんだけど……

あの子の一言一言が私に深く突き刺さるから話しかけづらい……あと藍さんが大事にしてる子だから変なことしたら後で焼かれそうだし………

 

体の傷の痛みは感じないのに、言葉って凄い痛いよね。

 

橙が訓練を終えるまで暇である。向こうも藍さんがいたらいいのになぁとか思ってるのだろう。私もそう思う。

 

そういえば紫さんはマヨヒ……マヨヒシ……とりあえずここにはいないみたいだ。普段は別の場所で寝てるのかね。

 

 

………やっぱり紫さんって、私も知らない私のこと知ってるよね?私の記憶も勝手に覗いたりしてるし……

私が何で妖力と霊力持ってるのかとか、聞いたら教えてくれそうだし、教えてくれなさそうでもある。

りんさんの刀のこととかも何か知ってるかも知らないし、そのうち会ったら聞いてみたいけど……聞けるかなぁ、そんな度胸あるかなぁ、ないなぁ。

 

「おーい、終わったよー」

「んあ?あ、うんおっけー」

 

 

 

 

 

 

訓練が終わった後、少し休憩を挟んで模擬戦に入った。意外と、模擬戦やる?って聞いたら素直にいいよ、って帰ってきた。多分根はいい子なんだと思う。私への当たりがちょっとキツイだけで

 

「準備運動しとけよー?」

「さっき散々動いたから必要ないよ」

「それもそうか」

「……どうせなら藍様がよかっなぁ」

 

うん、聞こえてるんだよこのやろう。

 

「とりあえず勝ち負けはつけときたいよねぇ……お互いに三回攻撃当てられたら負けってことにする?」

「いいよーそれで」

「うーしそれじゃあ……始め」

 

とりあえず手加減……思いっきり殴るのは絶対にダメだろう。

それに私は向こうの動きを少しみてたけど、橙は私のことはあまり知らないだろうからね。

 

「とりあえず氷っと!」

 

氷の塊を軽く飛ばしてみる。

 

「遅いよ!」

 

めっちゃ簡単に見切られた。

まあこの様子だったらもっと氷を飛ばしてみてもいいかな。

 

「って、どこいった?」

 

橙が瞬く間に視界から消えた。

 

「こう言う時は大体後ろに…いない」

「残念真上でしたっ!」

 

頭上から飛びかかってきた橙を、その場を飛び退くことで回避する。

その後も距離を詰めて爪で切りかかってきたけど、氷を飛ばして無理やり距離を離す。

 

「速いし……死角に入り込むのが上手いなぁ……」

 

なお戦闘に関しては素人の感想です!

 

「まあ足が速いのなら足場を面倒くさくしてやればいい」

 

地面に手を触れて妖力を広範囲に流し込み、一気に霊力に変換、氷を地面一面に張らせた。

 

「うっ、確かにこれは動きづらい……」

「走るのは速いけど、飛んだらそこまで速度でないみたいだーね?」

 

足場が滑って動きづらそうにしてる橙に向かって大きめの氷塊をいくつも投げつける。

 

「うわっあぶな……いたっ!」

 

大きい氷の中に小さめの氷を紛れ込ませて橙に当てた。とりあえずこれであと2回かな。

なお、ここまで私はほぼ動いてない。戦いにおいては、敵を動かせる側の方が基本有利なのである、戦闘素人の感想。

 

「うぬぬ……足場がないならあるもの利用するまで!」

 

橙が弾幕をこっちに撃ってくる。当たっても防御すれば問題ない程度の威力だけど、当たったらダメってルールなのでその場を動いて回避する。弾の速度もそこまでだ。

橙は飛んでも速くないから出来るだけ地面にに足をつけたいだろうけど、私は浮いていれば方向転換も簡単に出来るので問題ない。

 

橙の方を見ると、私が放って地面に刺さってる大きめの氷塊を足場にして蹴り、そのまま弾幕をばら撒いてきた。

 

「器用なことするなぁ!」

 

一回に放たれる弾幕の量はそこまでなんだけど、何せいろんな方向から高速で動きつつ放ってくるお陰で避けづらくなってくる。

 

「とりゃっ!」

「危なっ、いてっ!」

 

橙が一気に飛びかかってきたのをなんとか避けたものの、その後の弾幕に当たって一回被弾してしまった。

 

「よし、これなら……」

 

うまく行ったのに味を占めたのか、また高速で弾幕をばら撒きつつ氷塊を蹴って移動する。

でもまあ……これだけ見てたらその速さにも慣れてくる。

 

再度橙が私に飛びかかってくるが、私だって氷塊の位置は把握したし、飛びかかってくる時の動きは直線的、避けてすれ違いざまに軽く氷を当てる。

 

「いたっ、もうまた当たったって、うわぁ滑る!」

「よし、もういっちょくらっとこうか」

 

何気に弾幕に当たって残り一回になった私だけど、氷に当たって体勢を崩して滑っている橙に氷を乱れ撃ち、避けることも出来ずに私の勝ちとなった。

 

「いや、普通に危なかった……いたっ、ちょ、弾幕痛い!残りカス痛いって!」

 

 

 

 

 

 

「勝てると思ったのに……」

 

落ち込んでる……ここは私、負けた方がよかったのか?いやでも負けたら負けたで調子に乗られそうだったし……

 

「まあまあ、普通に私も手こずったしこれから頑張れば………」

「やあ、どうなった?」

 

橙に近づいて励ましてたら、突然藍さんがやってきた。

 

私は一瞬で今の状況を把握する。

橙は今落ち込んでしゃがみ込んでいるし、少しばかり怪我もしている。その原因は………私………

 

 

殺されるっ!!!

 

「あ、あの藍さんこれは……」

「そうか橙、毛糸に負けたか」

「……はい」

「あ、あれ…?」

 

怒ってない……許されてる!?私許されてる!?

 

「今日はもう休んでいい、しっかり振り返っておくようにな」

「わかりました藍様………」

 

とぼとぼと歩いて行ってしまった……

 

「あ、あぁー……ごめん、すっかり落ち込んじゃって……」

「いやいいんだ、元より君のことを少し侮っていたみたいだし、いざ模擬戦をしてみたら負けてしまって悔しいんだろう」

「は、はぁ…」

 

橙は力こそそこまで強くないけど、技術とかに関しては明らかに私より上だったし誇ってもいいと思うよ?

あ、私が不器用すぎるだけか!

 

「なあ、これからも橙のことを時々見てやってくれないか?」

 

言われる気はしてた、そして『いいえ』という選択肢が見えない。『はい』と『いいよ』しか見えない。

 

「君と一緒にいることで、橙も学ぶことがあると思うんだ」

 

私はそんなものないと思うんだ。

と、言えるわけもなく。

 

「いいよ、わかった。言ってくれたらいつでも来るよ」

「そうか、ありがとう。これからもよろしく頼む。それじゃあ家まで送っていこう」

「どうも」

 

ぶっちゃけ面倒くさいけど、頼まれたなら出来る限りのことは引き受けたい。

 

 

あと単純に暇!

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