毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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吐く側の毛玉

「ええ!?毛糸さん体調悪いんですか!?』

「どうやらそうみたいで……昨日から家の外に出てないみたいなんですよね」

「暇だったから来てみれば面白そうなことが………」

「あの文さん、あの人機嫌悪い時はとことん悪いので気をつけてくださいね?」

 

これはこれは、いい暇つぶしになりそう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げほっ、ごほっ………んで何、わざわざ羽をもがれにきたの?」

「面白そうだなと思って!」

「正直でよろしい、治ったら鼻の穴を増やしてやろう」

「またまたーそんなこと言っちゃってー、まだ調子悪いのにそんな強気なこと言っちゃっていいんですかー?ほらほら、突っつかれてるのにやり返してこないじゃないですかー、つんつーん」

 

うわーうぜー……

魔法の森とか言うジメジメしたところでも暮らしてきたけど、ここまで体調崩したのは初めてだわ………

 

 

「ごほっごほっ、おい腹の当たりツンツンするのはやめゴブァ…」

 

吐血した。

 

「うわっびっくりした!まさか血を吐く程とは……大丈夫ですか?」

「お前にツンツンされたせいで悪化した気がする……まあ血を吐くのは今日は一回目かなぁ……」

「昨日も吐いてたんですか!?」

「昨日はチルノに腹の上に飛び込まれて」

「あ、そうですか……」

 

血を吐くたびに布団が赤く染まるから勘弁してほしい……

 

「ちょっと頭触らせてもらいますね……おぉ、熱い」

「フッ、この温度で肉も焼けるぜ」

「そういえば以前の宴会の時、肉に手をつけてませんでしたよね?」

「ウッ吐き気が」

「あとめちゃくちゃ酔ってましたよね?」

「ウッ頭痛が痛む…」

「あの後始末大変だったんですけど」

「ゴボァァア!」

「血を吐いて誤魔化さないでください」

「スマンカッタ」

 

いやほんと……あれは事故みたいなものだったし……

 

「でもあれ、元はと言えば文と椛が原因だろ?」

「うっ急に目眩が」

「おいおい……」

 

あぁ、うるさいのが来たせいでもう疲れてきた……

 

「なあ文、仕事は?」

「もちろん抜け出してきましたよ」

「じゃ暇?」

「まあそうですね」

「介抱して」

「言うと思いましたよ……」

 

正直何の活動もできなくて、ただ吐き気と目眩と高熱に悩ませるだけなのは辛い。1日経っても治ってないし……

 

「そうですね……いつもなにかやってもらってる側ですし、いいでしょう!この私が!全力で介抱してあげましょう!!」

「大声出すな頭に響く…」

「あ、すみません。少しくらいは動けますか?」

「まあいける。って、何をするだー!」

 

文に布団を掻っ攫われた。酷い、鬼畜、クソ女。

 

「流石に血のついたままはいけないですよ……これとりあえず洗ってきますね。替えの布団ってありますか?」

「ないです……」

「えぇ………じゃあ急いで山に取りに帰るので待っててくださいよ」

「おう………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おろろろろぉ………」

「…私、全速力で戻ったつもりなんですけど」

「他の天狗に見つからないようにしてたから時間かかってたくせに…」

「何故それを」

「お前のやってることなんて大体わかろろろろぉ……」

 

なんだろう、布団なくなると包容感?それが無くなってすごい不安になって吐き気がやってきた。

 

「よっこいせ……あぁ落ち着くぅ…」

「本当に体調悪いんですね……私はてっきり、病気とかも再生力でなんとかしてるんだと思ってましたよ」

「できたらいいんだけどね……私が治せるのはせいぜい外傷だけだから、体の中からだと全然」

「でも血を吐くほどって、相当じゃないですか?」

「それは私の体が貧弱だから……」

「あ、はい、納得しました」

 

血反吐なんぞ、今の私にとっては指が数本欠けるのと同等のハプニングよ……

 

「原因って何かわかります?」

「あぁ……あんまりわからん」

「そうですか………そこまでひどい症状になるとするならそれ相応の理由があると思うんですけど」

「そういやこの前変な形のキノコ食ったなぁ……」

「………」

「………」

 

この空間に静寂が訪れる。

 

「それですよね!?」

「そういや妙に毒々しい色してたなぁ…」

「なんで食べたんですか!?」

「そういや無性にそのキノコを食べたくなる胞子を撒き散らしてるってあの人言ってたなぁ」

「なんで分かってたのにまんまと嵌ってるんですか!」

「うっせぇこちとら病人だぞっ」

「自業自得じゃないですか!」

 

いやー………魔法の森にあるキノコを食べるとは我ながらアホの極み……いやなんかすごい美味しそうに見えてさぁ……実際焼いて食べたけどそれなりに美味しかったしさぁ……

 

「すんません、反省してます」

「見知らぬ食べ物を食べるなんて、そんなに馬鹿だとは思ってませんでしたよ……」

「人間って失敗して成長する生き物なんやで…」

「あなた毛玉でしょうが」

「もはや毛玉なのかすら怪しいけどな……」

 

毛玉っていってもこの体は普通の人間みたいなもんだしなぁ……再生力以外は………

 

「で、いつくらいに治りそうなんですか」

「昨日よりは結構マシになってるから、明日には動けるようになってるんじゃないかなぁ……せっかくだしなんか話でもする?二人で会うことって最近あんまりなかったし」

「まぁそうですね。上司が軟禁状態にしてくるせいでなかなか…」

「今こうやって抜け出すからじゃないのかね…」

「毛糸さんは知らないでしょうが、仕事ってのは抜け出すものなんですよ」

「うん知らんわ」

 

私知ってるんだ、文は実はめちゃくちゃ優秀なんだって。

だって椛と柊木さんが、文は優秀なくせに仕事しないって事あるごとに言ってるもん。

才能を持て余す……嫌いじゃないわ!

 

「じゃあ私から一つ質問いいですか?」

「なんなりとどうぞ……」

「何故毛玉でありながらそれほどの妖力を持っていて、体を持ち、異常なまでの再生能力を有しているんですか?」

「3つの質問じゃね……?」

「それだけ謎の多い存在って事ですよあなたは」

 

まあこの世界でもトップレベルに謎の多い存在である自信はある。

 

「じゃあ最初から…っても私の推測でしかないんだけど、それでもいい?」

「全然構いません」

「じゃあ初め……あ、眠くなってきた」

「今寝たら腹を突きます」

「じょーだんだって……まず最初、私はもともと自分の霊力や妖力を何一つもってなかった。それでなんやかんやあって幽香さん……風見幽香の妖力を自分のものにしたって話………あぁもう他めんどいからこんどね」

「適当やめてくれませんか?」

「しんどいのっ!病人じゃなくて元気なそっちが話すべきでしょ」

「はぁ……じゃあ、治ったら絶対に話してくださいよ?」

「喋れる範囲でな……」

 

だって全部話したら長くなるしさぁ………そもそも私が教えて欲しいくらいだしさぁ……眠いしさぁ………

 

 

「じゃあはい、何か質問ありますか」

「柊木さんと椛とはどうやって知り合ったの?」

「それ聞いてきますか。そうですね……椛とはなんですかね、昔に知り合ってそのまま今に至るって感じで…特に何かあったわけでもないです。柊木さんとは、椛の同僚ってことで」

「普通だね」

「えぇ、普通です。というか、普通出会い方なんてそんなものですよ。毛糸さんがおかしいだけで」

 

それもそうだ。

文たちとは何で知り合ったんだっけ………あぁ、なんかN○Kの集金が脳裏に浮かんでくるからきっとそういうことだろう、そういうことにしておこう。

 

「文ってどういう立場なの?山のなかではそれなりの立場っぽいけど」

「下から三番目ですね」

「椛は?」

「下から二番目」

「柊木さんは?」

「一番下っ端」

「へぇ〜、知らんかったなぁ」

 

あの3人の中では文が一番偉いってことか……それで柊木さんが一番下っ端………なんだろ、やれやれって感じで焼きそばパン買ってくる様子が目に浮かぶ。

 

「すっげぇ納得………いっつもその喋り方だけどなんか理由あるの?」

「こうした方が印象良くなるでしょう?」

「………」

「なんか言ってくださいよ」

「ケダマモソウオモウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「毛糸ー!今日も来てやったぞー!」

「よしうるさいチルノ、帰ることを許可する」

「あ、どんか○すもいる」

「ねぇ毛糸さん!?私のことなんて覚えさせてるんですか!?」

「ドンカ○ス、あく、ひこうタイプ」

「普通に名前で覚えさせてくださいよー!」

 

知らんよ……私だって困惑してるもん、別に教えたわけじゃないのにそんな覚え方してさ……

 

「へへへー、まだ体調悪いのか!あたいはかぜも引いたことないんだぞ!」

「バカはかぜを引かない……なるほどそういうことか」

「どういうことだ!」

「ちょ、やめて、お腹の上で跳ねないでごびゅっ」

「あーあーチルノちゃん!毛糸さんの口から血が噴き出てるからやめてください!」

「しょうがないなぁ」

 

このガキが……こっちがちょっと調子悪いからって調子に乗りよってからに……いやいつもこんな調子だったか。

そしてなんとか布団に血がつかないように吐いた私ナイスだ、顔面が血だらけになったけど。

 

「あぁそうそう聞いてくださいよチルノちゃん、毛糸さんってば、以前の宴会で——」

「おいカラス、それ以上言えばどうなるのかわかってんのか」

「……言ったとしたら?」

「お前の住んでる場所を私の四肢だらけにする」

「……またまた〜」

「これが冗談を言う目に見えおろらろ……」

「あ、吐くなら布団には吐かないでくださいね」

「うぃす…」

 

妖力出して威嚇したら吐き気きた……

 

「掃除するの私なんですから、出来るだけ吐かないようにしてくださいよ」

「すんません……迷惑かけます………でも言ったらマジで血の海にするからな………そしてチルノ、井上貸すからそれと遊んでこい」

「遊ぶぞいのうえー!」

「……井上って誰ですか」

「イノシシ」

「はいぃ?」

「気にすんな」

 

チルノがイノシシを抱えて出ていくのを、なんとも言えぬ顔で見つめる文。

 

「………非常食か何かですか」

「毒あるから食べられないよ」

「なんで飼ってるんですか」

「なんかくっついてきたから」

「………名前おかしくないですか」

「ケダマモソウオモウ」

 

名前っていざとなると全然つけられないんだよね……さらっとつけた大ちゃんすげーわ。

 

 

 

 

「ごめんね文、迷惑かけて」

「まぁ気にしなくて大丈夫ですよ。いつもなんやかんやで利用させてもらっちゃってますし、そのお礼とでも思っててください」

「そうだよね、まず最初に出会った時からこちとら迷惑かけられてるし別に私が申し訳なく思う必要ないよね。迷惑かけられてるの私だもんね」

「すみませんさっきの全部撤回します。そして帰りますね」

「うんごめん見捨てないで」

 

でも今日は感謝してる。文が来てくれてなかったら今日一日ぼーっとして過ごしてただろうから。

 

「でも私はめちゃくちゃ死にかけてるわけだし、帳尻合わなくない?」

「さようならー」

「待ってごめんってもう言わないって」

「そうやって死にかけてるって口に出してる時点であなたはそこまで気にしてないんでしょうに……」

「バレたか………」

「私も、最初は面白そうって思ってきたのに、まさか看病する羽目になるとは思ってませんでしたよ」

「煽りに来たんだな?病床に伏してる私のことからかいにきたんだな?」

「最初はその予定でした」

 

その予定だったんかい迷惑だなおい。

 

「でもまあ、偶にはこういうのも悪くないですよ。あなたは基本一人で抱え込む傾向にあるので、周りの人を頼るのも大事ですよ。私だってあなたの友達なんですから」

「文…………そう思ってんのお前だけだよ」

「……ふぅーっ、それじゃあさようなら」

「あ、待って行かないで!冗談じゃん!うそうそ私たち友達ふれんどふれんど!ちょ、ま、待ってええ!」

 

この後めっちゃ謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、大方復活。

 

「思ったより治るの早かった………まあまだ体は重いし少し吐き気もするけど」

「これも私のおかげですね」

「ケダマハソウオモワナイ」

「なんでですか、そこは肯定してくださいよ」

 

とりあえずこの吐瀉物で臭くなったこの部屋なんとかしたいね……まあやるのは明日だけど。

でも本当に、迂闊な行動には気をつけよう………今日はマシだったけど、昨日とか本当に酷かったからなぁ………やっぱり魔法の森のキノコにろくなのないわ。

 

「だんだん暗くなってきますし、私もそろそろ帰りますね」

「あぁもうそんな時間、今日はありがとうね」

「いえいえ、久しぶりに落ち着いて話が出来てよかったですよ」

 

そして帰ったら上司に追いかけられる文の姿が………想像に難くないあたりもうダメだこりゃ。

 

さーてと、あれだけ動かなかったし、本当に水以外飲んでないけどなんか体は大丈夫だ。

 

「ちょっとだけ体は動かそうかなぁー……軽く散歩とかで」

「ふごおぉ!!」

「ふぇ?」

 

突然イノシシが視界に飛び込んできた。

そしてそのまま私の腹部に衝突。

 

「ぐぼっ」

 

吐いた。

 


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