毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉と引きこもりの繋がり

「泊めてもらっていいですか……」

「なんで………?」

 

真夜中にるりが訪ねてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「仕事疲れた?」

「はい…」

「しばらく休みたい?」

「はい…」

「だからうちに来たと」

「はい…」

「帰ってもらっていい?」

「嫌です…」

「私に拒否権は?」

「ないです…」

「ふざけんなよ?」

「すみません…」

「謝るならさぁ」

「無理です…」

「うぇぇい……」

 

そんなこと言われても……ねぇ?

 

「布団ないよ?」

「持ってきました」

「着替えないよ?」

「持ってきました」

「用意周到だなおい」

「断られても駄々こねて入れてもらおうと思ってたので……」

「あらムカつく」

 

入れてもらえる前提で来てるあたり私のこと軽く見てるな?まあ結局入れるんだけども。

 

「にしてもなんで今更?今まで散々働いてきたでしょ?」

「溜め込んでたんですよ…負担とか、負担とか、負担とか……今までずっと我慢して、なんとかみんなの役に立てるようにって…」

「それで限界が来たと」

「うぅ……お恥ずかしながら………」

 

まあるりのことはそれなりに知ってるし、気持ちもわかるが……なんで私?

 

「わざわざ私のところに来なくたって、にとりんにでも言えばよかったんじゃないの?言ったらわかってくれるでしょ」

「それもそうなんですけど……休みもらえても少しだけだと思うし、なんでもいいから仕事しろとか言われそうだし、結局あの場所にいたら周りの視線が気になるし……だったらもういっそのこと、あたしのことは死んだことにしてもらって、存在が忘れられた頃に帰ろうかなって」

「極論すぎるわバカ」

「毛糸さんよりは頭良いですよ」

「そこどうでもいいし、あれ、このまえ死にかけたんじゃなかったっけ君」

「あんなのもう昔の話ですよ」

「そうかなぁ……?」

 

別に泊めるのは全然構わないし、本人がしたいことすれば良いと思うけど……悩んでいるのならなんとか解決してあげたい。

 

「…なぁるり、周りはそれほど自分に興味ないって言うだろ?」

「あたしが周りを気にしてるんですよ」

「アッハイなんでもないです」

 

まあ河童は基本臆病だし、人見知りではあるが、そんな中でもるりは群を抜いている、ぶっちぎりで。

 

「じゃあとりあえず今日は寝なよ、もう遅いしさ」

「ありがとうございます……あと、多分明日にはにとりさんが来ると思うんですけど」

「はいはい、私がなんとか言っとくよ」

 

私がそう言うと、るりは安心した様子で流れるように私の寝室に勝手に布団を敷いた。

うん、何場所占領してんだこいつ図々しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっかそんなことが……ごめんね迷惑かけて」

「いや別に全然良いよ。本人も落ち着いたら戻る気でいるみたいだし、それまでは私が様子見ておくからさ」

「頼むよ。……昔から溜め込んでたんだなぁあいつ、これだけ長い間一緒にいたのに全く気が付かなかったよ」

「まあまあ、また山に行って様子でも伝えに行くよ」

「ありがとう、それじゃあね」

 

………ふぅ。

 

 

「行ったぞー」

「にとりさん、意外とすんなり……」

「なんで隠れる必要あったんだよお前」

「見つかったら有無を言わさず山まで引きずられそうで………」

「あぁ、まあ、そうなってただろうけども」

 

最終的には落ち着いた様子だったけど、にとりんがここを訪ねてきた時はかなり慌ててた、というか怒ってたな。

『どうせここにいるんだろ出てこい!』

って言ってたし、私が先に出て話をしなかったら本当に連行していきそうな雰囲気だった。

 

「………」

「どうしたー、今更罪悪感でも出てきたのかね?」

「うっ…」

「にとりんも私にるりのこと頼むって言ってたから、どっちにせよすぐには帰れないけど?」

「帰るつもりはまだまだないんですけど、やっぱり何か伝えてからの方が良かったかなって…」

 

そりゃ唐突に失踪まがいのことされたら誰だって驚くだろうさ。私だって驚くもん。

まあもう過ぎたことだし、やることやっちゃうか。

 

「紹介するな、妖怪イノシシのイノレーションだ」

「ふごっ!」

「いのれ…なんて?」

「イノバルカン」

「変わりましたよね?今明らかに変わりましたよね?」

「そんなことないよな、イノスザク」

「ふごっ」

「会話してる……」

 

我ながら頭のおかしい呼び方をしているとは思ってはいるけども、本人もなんかこれで納得してるし別にええかなって。

 

「で、これからどうすんの」

「どう、とは」

「流石にずっと私と同居ってわけにはいかんでしょ?いや、私は別に構わないけど、るりが嫌でしょ?」

「あ、奥の洞穴使わしてもらいます」

「あ、あそこぉ?」

 

てっきり自分で小屋とか作ったりするのかと……

洞穴といえば、私の家の扉を通ってそのまま真っ直ぐ突き進むと行ける場所だ。本当にただの洞穴で、灯りも通らないし、完全に私の家が蓋をしてるから何にもないんだよな。

なんにもないから私もなんにもしてない。ただこう、なんか薄暗い空間があるなぁって感じになってる。

 

「でも暗いよ?」

「発電機置くので」

「oh……さすが河童スケールが違う」

 

………待てよ?

家の後ろの洞穴も、一応私の家ということにはなっている。

つまりこれは………

 

私の家がまさかの通電………?

 

「歓迎するよ、紫寺間るり………」

「うわ凄い笑顔……なんかよからぬこと考えてます?」

「ううん、家賃は無くしてやろうと思ってただけ」

「取るつもりだったんですか!?」

「払うつもりなかったのか!?」

「え、いやあの、友達ですし……」

「家借りるのに友達もクソもないわ、取る権利は私にある」

 

まあ取らないから関係ないけどね。

家に電気通るってなると、河童のところにあったあんなものやこんなものが………

 

「ケッケケッヘッヘッヘ…」

「うわ凄い笑い方……と思ったけどいつも通りでした」

「そうでもないと思うけど!?」

 

いや、そうでもあるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん帰ったら家の骨組み変わってんだけど」

「あ、毛糸さん。この家何も考えずに適当に作りましたよね?めちゃくちゃになってたんで工事しておきました」

「お、おう、そっかぁ………」

「あたいの城で何してるんだ!」

「いやお前のじゃなくて私の城」

「えええええっとだだだれですかねそのこここ」

「他人が来た瞬間にいつもの調子になってんなお前」

 

一応私の家には時々チルノや大ちゃんがくるし、前もって紹介しておいた方が後々混乱が少なくなって済むかなって。

まあ大ちゃんは他の妖精たちと遊んでたから、一人でカエルを冷凍保存してたチルノだけ拉致してきた。

 

「怖くなーい怖くなーい、この子は私と一応長い付き合いの」

「こいつの親分だ!」

「アーソウソウワタシノオヤブン。私の記憶通りだと、一回くらいは会ったことあると思うんだけど」

「おお、覚えてないです」

「あたいも知らないぞ!」

 

るりはガツガツ来る系が苦手なのは分かってたけど、妖精みたいな子供っぽいのならなんとかなるかなと思ってたけどまあ……いつものだ。

大ちゃんとなら普通に話せてそう。

 

「やいお前、あたいの城で何してるんだ」

「いやあの、ここ毛糸さんの家では……?」

「あたいの城だぞ!」

「私の城だぞ!?」

「そもそも城じゃないですよね!?」

「自分の家ってのはなあ!人間の城なんだよ!!」

「あなた毛玉ですよねえ!?」

「あぁはい、そうですね」

「違う、まりもだぞ」

「あぁはい、引っ叩くぞ」

 

ふぅ………まあ、湖の周りで生活するなら、チルノとも何度も会うだろうし、とりあえず慣れておいてもらわないと。

 

ん?

 

「………なんか調理器具増えてんだけど」

「流石に包丁しかないのは……簡単に作っておきました」

「いつどこで!?」

「洞穴でついさっき」

「どうやって」

「簡易的な工房を設置しておいたので」

「あ、ものづくりはするんだね」

「河童ですから」

 

この世界の河童はそういうものなのである。もう割り切った。

例え時代に合わない技術を持っていようが、この世界ではそういうものなのである。古い常識に囚われてはいけないのである。

 

「あたい参上ー!」

「あ、ちょ、待ってええええ!中には入らないでええ!」

「チルノー、イノピーロンと遊んできて良いぞー」

「行くぞいのりんぐ!」

「ふごぉ……」

「えぇ………」

 

なんかよくわからんが、チルノとイノシシは仲が良い。なんか厄介なことされそうでも、とりあえずイノシシを餌にしたらどっか行く程度には。

 

「この家には私の他にあのイノシールもいるからな。忘れないように」

「なんでもありですね……」

「るりは動物とかどうなの、苦手?」

「別に苦手じゃありませんけど……どっちかっていうと植物の方が好きですね」

「なんで」

「だって喋らないじゃないですか」

「あ、はい」

 

さすが極度の人見知り、判断の基準まで、人見知り。

 

「毛糸さんは苦手な生き物とかいるんですか?ちなみにあたしは高い知性を持つ生物です」

「お、おう………私は…にょろにょろとしてるやつかな」

「へぇ、蛇とかですか?意外だなぁ」

「だってあぁいうタイプって毒持ってたり締め付けてきたりしてるじゃん?私ってその手の攻撃に弱いんだよね。まあ単純になんか気持ち悪いってのもあるけど」

「あぁ……そうですか………」

「巨大な蛇の妖怪なんかが出てきたら空から氷の柱と妖力弾を雨のように降らして存在を抹消する覚悟」

「天災じゃないですか……」

 

私よりヤベーやつなんていっぱいいるけどな。

幽香さんとか、勇儀さんとか、紫さんとか……あれ、ゆのつく人多いな。あと藍さん……あ、そうだよ藍さんだよ。

今の時期はあの人訪ねて来ないけど、もし来たらるりは泡吹いて失神しそう………まぁいつものことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「毛糸さん………最近家変わりました?」

「あっ大ちゃん。わかっちゃうー?」

「まああれだけ変化してれば……」

「そりゃそうだ………」

 

玄関に雨除けができたし、ちゃんと屋根が屋根の形してるし、そもそも二階が増えたし、内装もなんか凄いそれらしい間取りになってるし、台所も凄い使いやすくなってるし、湖から水も引かれてるし………

 

「河童ってすげぇ………」

 

というか、私の家が今まで使いにくいすぎただけか……?いや、でもまだるりが来てからそんなに経ってないし、この短期間でってのはどちらにしろ……

 

いや、やっぱ河童すげぇわ。

我が家が我が家では無くなっていくのを感じる……どんどん面影が薄れていく………

 

 

 

 

 

 

屋根の上で夜空を眺めているるりを発見した。

 

「珍しい、外に出てるなんて」

「毛糸さん……流石にあたしも外の景色を見ることはありますよ」

「まあそれもそうか……」

 

近づいてるりの横に座る。

 

「あ、さっき見つけたんだけど、謎の地面の穴なに?床下まで続いてたんだけど」

「あぁ、電線を通そうと思って」

「いやあの、うん、ありがたい、ありがたいよ?でもそこまでしてくれなくてもいいかなって」

「お世話になってるお礼って意味もありますけど、あたしがやりたくてやってることなので気にしなくても……」

 

お世話になってるお礼をしたいのはこっちなんだが?お世話されまくってるんだが?もうお前一人でも立派に生きていけるよ、独り立ちできるよ。

 

るりが色々するための材料とか工具とかは、私が妖怪の山まで取りに行っている。やっぱり本人はまだ帰りたくないらしい。

 

「ここは居心地がいいですね…」

「あぁそう?私もそう思う」

「はい、だって静かですし、いるのも邪気のない子供みたいな妖精ばかりで……あの山とは大違いですよ」

「おう………」

 

ダメだぁー、もう山には帰りたくないとか言って永遠と居座り続けそう………あんまりにも長く居座るようだったら縛って山に持っていくか……?

 

「……やっぱり、あたしって変ですよね」

「うん、今更か?」

「いや、酷くないですか?そこは、そんなことないよー、とかそうかなー?とか、そう言った言葉を言ってくれるものじゃないんですか」

「ソンナコトナイヨー」

「はぁ……」

 

何やら思い悩んでいる様子……?

確かにるりは極度の引きこもりであり人見知りではあるが、そんなのはみんな分かりきってるし。

 

「眩しいんですよ、みんな」

「眩しい?」

「はい」

 

空に浮かんでいる星を物憂げな表情で見上げるるり。

 

「あたしからしたら、にとりさんやあの天狗の女の人達って、とても眩しいんです」

 

さりげなく柊木さん外されてら。

 

「あたしは、みんなみたいに輝いてなくて、その辺のいしころみたいで……やっぱり、みんなみたいには輝けないんですよ、あたしには……あたしがどれだけ頑張ったとしても、あの輝きには届かないんです」

 

るり…

 

「そりゃお前、あれだけ人見知りで引きこもりなのにあいつらに並び立とうってのは無理があるわ」

「酷いですね!わかってますよそんなこと!」

「でもさ、別に気にすることないと思うよ。だってお前がたとえどれだけ霞んでて道端のいしころ程度の存在だとしても、私やにとりんがいるじゃん。たとえるりがどれだけ汚くてボロボロのゴミクズだろうが、私たちはお前のことをちゃんと拾い上げるさ」

「………なんか、酷い言われようじゃないですか」

「キノセイダヨ」

 

るりの気持ちはわかる、よーくわかる、何なら同じこと考えてる。

私はこの幻想郷のの生き物とは明確に違う点がある。この記憶があるかぎり、決してこの世界に、完全に馴染むことはできないんだと思う。

 

でも私は、それでもいいと思ってる。

 

「私を見なよ。毛玉のくせして体は持ってるわ喋るわ霊力と妖力は持ってるわ訳の分からない言葉を使うわ………どう思う?」

「凄く……変な人です」

「そ、お前と一緒だな。別に無理することはないんだよ、私たちには今のままでも、私たちのことを見てくれる人がいるだろ?」

「……そうですね」

 

 

私たちの周りには沢山の人がいるんだから。

 

 

 

 

 

いや、人外しかいなくね。


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