毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉in人里

 

 

よかった、久々に来たけどここで会ってた。

小さな子の手を引いて扉を開ける。

 

「慧音さん、いる?」

「…あぁ毛糸か。……その子供は?」

「まずは寝かせるところないかな」

「少し待ってくれ、直ぐに準備する」

 

 

 

 

 

 

「そうか……ありがとう、礼を言う」

「でも親は……」

 

子供を慧音さんに寝かせてもらった後、すぐに事情を話した。

慧音さんの家を訪ねた理由は、昨日の夜に湖の近くで一人の女の子を見つけたから。

おそらくは家族、親だったのだろうか、二人の大人の死体が無造作に散らばっていた。

私はこの子が妖怪に襲われそうになっていたところを偶然見つけて、その妖怪……話が通じなかったから致し方なく、少し痛い目を見てもらったけど、とりあえずこの子だけを保護した。

 

「真夜中に家族が何の武装もせずに………これってさ」

「いろいろあったのだろう」

「……そうだよね」

 

その女の子は虚な目をしていた。目の前で親が食い殺されたんだ、当然だろう。とりあえず昨日は私の家で保護しておいて今日の朝、慧音さんを訪ねてきた。

 

「親の死体は勝手に埋めておいたよ。もう原型を留めてなかったけどさ」

「感謝する。………毛糸、君はなぜそこまで人間を気にかけるんだ?」

「んー………とりあえず、今更?」

「それもそうだけれど」

 

割と昔っからだ、私が人間を助けてるのは。

どこぞの妖怪狩りみたいに、自分から積極的に妖怪を殺したりはしないけどまあ、一応見かけたら助けてる程度にはやってる。

たしかに、普通の妖怪からしたらおかしな話だろう。人間を横取りするわけでもなく、ただ助けてるだけ。

 

「単純に、目の前で誰かが襲われてたら手を出さずにはいられないから……かな?」

「まあそんなことだろうとは思っていたさ。君のことは既に人里でも軽く噂になっているんだ」

「え、マジですか。どんな感じ?」

「人里の外で妖怪に襲われた時、気まぐれな白い毬藻が助けてくれることがある、って感じだ」

「ボハッ……」

 

なんで……何で毬藻なんだそこで………白いんだから毬藻じゃなくて毛玉でいーじゃん!ふざけんなよな!

 

「んっんー、で、人里ではどう思われてるんですか?私のこと」

「割と存在は認められているさ。何人か、お前に助けられたと言っている人間がいるからな。それも何十年も前から」

「そっかぁ…」

 

いや……でもちょっと嬉しいな。

だいぶ昔の話だけど、慧音さんと最初に会ったときは、人間と仲良くできるのもいつになるかわからないって感じだったし……

 

「慧音さんはもう人里に?」

「あぁ、なんとかな。まだ私のことを嫌ってくる者たちはいるが、暖かく迎えてくれたよ」

「そっか………よかったね」

「…君のことも、私が紹介すれば多分」

「さぁどうだろう……迎えられても歓迎はされないだろうから」

 

慧音さんは何十年も前から人里との関わりを持ってるけど、私はそんなの全くもってない。ちょっと人間を助けてるだけで、そこまでよく思われてはいないだろう。

 

「その子こと頼みます。それじゃあ」

「待ってくれ。どうせ暇なんだろう?久しぶりに会ったんだ、少し話をしないから」

「………そうだなぁ、そうしよっかな」

 

 

 

 

 

 

 

「よっこらせ……あの子は?まだ起きそうにない?」

「あぁ、落ち着くまで時間はかかるだろうな……起きたらとりあえず人里まで連れて行って、私が何とかするよ」

 

とりあえずその場に座りこむ。

たしかに、慧音さんとこうやって喋るのは久々かな。

 

「いやぁ、時間の流れるのは早いなぁ」

「そうだな。君の喋り方も変わっているしな」

「………え、うそマジ…あ、ホントだ!」

 

私、昔は慧音さんには敬語を使っていたような気が…

 

「直した方がいい?」

「いやそのままにしていてくれ、そっちの方が私としても話しやすい」

「そっか、じゃあそうする」

 

私が敬語使うのは……紫さんと藍さん……あと幽香さんと………そのくらい……?全員漏れなくヤベーやつだったわ、ははっ。

 

「あ、そうだ。結構気になってたまま放置してたんだけど、アリスさんとはどう言う関係なの?」

「あぁ彼女か。そういえば君は以前、彼女と一緒に暮らしてたみたいだな。そうだなぁ……お互いに人間な友好的な者として……まあ、私と君みたいな関係だ」

「へぇ……」

 

でもアリスさんはあんまり人間とは関わらないよなぁ……そもそも魔法の森からあまり出てないし。

 

「私からも一ついいか」

「あぁはい、答えられる範囲でどうぞ」

「その腰の刀は一体何なんだ?」

「あぁこれ……何、とは」

「それを見ていると、なんというか、不安になるというか……とりあえず禍々しい気配がする」

 

おいおいりんさん聞いたか?見ただけで不安になるんだってよ。恐ろしいもんを残していきやがって………勝手に持って行ってるの私だけど。

 

「これは……覚えてるかな。りんさんって人の刀なんだけど」

「………あぁ、彼女か、よく覚えているよ。そうか、君がアリスのところに行ったのもそもそもはそれが理由だったな」

 

……そういや話したことあったような気がする!

 

「あ、ちなみにこれ時々カタカタって震えるんだよ」

「え」

「この前なんか私の体を乗っ取って勝手に戦い始めたし」

「え」

 

………引いてるねぇ……

 

「何をどうすればそんなものが生まれるんだ……」

「ワタシモソウオモウ」

「いや、持っている武器のことは把握しておいた方が…」

「私が教えて欲しいくらいだしさぁ」

「よくそんなもの持ち歩いてられるな……あ、いやすまない、大切なものだったな」

「まあ確かに、自分でもよくこんなもの持ってるなって……」

 

でもあの時以来、一度も私の体を乗っ取った事はない。夜中に音は鳴るけど。

 

「……なぁ、せっかくだし人里に行ってみないか」

「え?無理」

「即答しないでくれよ」

「行くっていうか、そもそも入れないんじゃない?」

「そのあたりは私に任せてくれないか」

 

んー、まぁ暇だし………私いっつも暇って言ってんな?

 

「……じゃあ、そうしよう…かな?」

「そうか!よかった、すぐに支度するから待っていてくれ」

「いや、その子は?置いていけないでしょ」

「どちらにせよ、ずっとここに置いておくわけにもいかないさ」

「それもそうか」

 

この刀は……ここに置いといた方がいいよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ……おおぉ………」

「どうだ?」

「すっごい賑やか」

 

妖怪の山も賑やかといえば賑やかだけど、あっちは仕事で賑わってるのに対して、こっちは本当に、人が生活してるって感じがする。

ってか、やっぱり広いなここ………隅々まで見て回ろうとしたらかなりの日数が必要になりそう。

 

「私はこの子を預けてくる。ここで待っていてくれ」

「あーい」

 

慧音さんの家は一応人里の外にある。

人里の中に入る時に門番の人に警戒されたけど、慧音さんが説明したらすんなり通してくれた。慧音さんすげぇ………というか、時代の流れを感じる………

 

そう、確か私がりんさんと一緒にここを見て回った時は、まあ私がビビり散らかしてたってのもあるけど、なんというか……そう、ピリピリしてた。

まだ人里の入り口あたりしか見てないけど、陰陽師というか、その手の戦う人を見ていない。

ってか陰陽師とか私が一番出くわしちゃいけねーやつだよ、気をつけよ。

 

今の私の服装は、まあいつもの粗末な服に、頭巾っていうのかな?それを使って髪の毛を隠している。

理由は簡単、こんな髪をしていたら怪しまれるから。慧音さんも白髪ではあるけども、人里の人間ってやっぱり髪色が普通だ。別にババアってわけでもないのに白髪だとどう考えても怪しまれる。このもじゃもじゃもあやしまれる。

あと妖力は常に意識して抑え込んでる。まあ、勘のいいやつ以外は気づかないんじゃないかな……

 

「お、嬢ちゃんどうした?迷子かい?」

 

迷子の嬢ちゃん……?どこにいんの?

 

「あ、お前だよお前」

「………ん?」

「そうお前」

「あ、いや別に迷子じゃなくて人を待ってるだけで」

「なんだそうなのか。見た感じ他所から来たみたいだな、ここは広いから迷わないように気をつけろよ」

「どうも」

 

………行ってしまった。

 

うわぁ……初めてまともな人間とまともな会話をしたぁ………しかも嬢ちゃんって……初めて呼ばれたよ!?嬢ちゃんって……嬢ちゃんだってよ!!

 

「へへ…なんか新鮮だなぁ」

 

私が助けた人間は、大体いつもパニックになってるか意識失ってるか事切れてるかで、会話ができる状態じゃなかった。

できても大体怯えて逃げられてるし。

そうか……私が今までにまともに会話した人間って、まともじゃない人間のりんさんだけだったのか………

 

ありがとう、最初に私に話しかけてくれたおっちゃん。あんたのことは多分忘れない、3年くらいは絶対に忘れない。

 

「ふぅー……早く慧音さんこねーかなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………座り込んで、どうした?」

「慧音さん………私、今まで妖怪としか会わなかったから知らなかったけど……大分子供に見られてるね……」

「…あー、そうだな。体型は子供寄りではあるな…」

「さらに周りをキョロキョロとして、荷物一つ持たずにずっとその場で立ってたら……みんな迷子の子供って思うんだね」

「………」

「10人くらいに迷子かって聞かれたよ……」

「………」

 

なんてゆーか……自分って、周りからそんなふうに見られてたんだと思うと……すげぇショック。

しかもそんな見た目してるのに恐ろしい妖力持ってるとか……

 

「なんか恥ずかしくてもう動きたくなくなってきた」

「…あのなぁ、そんなこと言ったってどうしようもないだろう。そういう見た目なんだから、受け止めるしかない」

「どーせさ!慧音さんと一緒に歩いてても、迷子の子供を保護してるみたいに思われるんだよ!そんなんなんかムカつくじゃん!」

「そうやって駄々こねてるほうがよほど子供に思われると思うぞ」

「よし行こう」

「早いな……」

 

…………ハッ!

私の体、めちゃくちゃ再生能力高いから、やろうと思えば体型も弄ることが可能なのでは………?

 

………やめとこう、ろくなことになる気がしない。

 

 

 

 

 

「ここは大通りだな」

「ふーん……色々店みたいなの並んでるね」

「そうだな、皆ここで色々なものを買っている感じだ」

 

食材の店とか、道具の店とか……パッと見た感じでも色々あるなぁ。

 

「自警団の詰所とがあるな。こういう通りが他にもいくつかある」

「やっぱ広い………」

「まあ、人間たちが妖怪から身を守るために集まってできた場所だから、自ずと大きくはなっていくな」

 

正直妖怪の山の河童や天狗の街とかより全然広い……人口密度高い……ってか人口多い……

 

「自警団ってことは、やっぱりこれだけ人が多いと」

「殺しや盗み、他にも色々あるな……妖怪に襲われない代わりに、今度は人間が人間を襲うってことだ」

「そりゃそうだよなぁ………」

 

妖怪の襲撃を毎日受けてるとかだったらそれどころじゃないんだろうが、最近は平和が続いてるし、そうなるのも無理はない。

まあ自警団がちゃんと働いてればどうにかなる話だ。

 

「にしても……割と慧音さん素通りされてるね。人間じゃないのに」

「まあ、私のことを知っている人も多いからな。少し目立つくらいだろう」

 

いいなぁ、私もそのくらいになりたい。なろうと思ったらすっげえ時間かかりそうだし、苦労しそうだけど。

 

「……あぁすまない。あの店に用事があるのを思い出した、少し待っていてくれ」

「えーまたぁ?」

「すぐに終わらせてくるから、人目が気になるならあそこの路地裏にでも居てくれ」

 

そう言って慧音さんは近くの店に駆け込んで行った。

あれは……なんだろう、皿?皿のお店?

へぇ、もうあんな風に模様のついてる皿が使われてるんだ……やっぱりここって割と都会だよね。

流石にこの場所だけで食料とかどうにかなってるとも思えないし、近くに村とかでもあって、そことかと交易してるのかな。確か何個かそういうの見たような気がするけど………

 

人里から伸びてる道を辿ったらそういうとこにも行き着くのだろうか。私が助けてる人間も、大体その道から外れて迷ってるとかそんなんだし。

 

 

 

はぁ………言われた通りあそこの路地にでも行くかな……

 

全くさ、路地に行けって言うけど、路地に居たら居たで、見つかったら絶対迷子とかと勘違いされるでしょ……

 

「あ、猫」

 

野良猫かぁ……普通の猫だ。

 

私の知り合いの猫って、地底でなんかよくわからんことしてたり、式神の式神してたりで変なやつばっかだから、まともな猫を見るとなんかこう、安心する。

 

安心するのはいいけどさぁ……なんか3人くらい私のこと見てない?ほーらこれあれだよ、迷子かな?家族はどこかな?とか聞かれるやつだよ。

ほらほらこっち来た。もう面倒だわー、なんか目つき悪い男どもだし、会話すんの嫌だわー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこに行ったんだ………」

 

修理に出していた皿を受け取っていた間に完全に見失うなんて……彼女は勝手に一人でふらふら歩くようなものとも思えないしな……

 

店の周りにも、近くの路地裏にもいなかった。一体どこに行ったんだ……

皿を抱えたまま立ち往生していると、少しばかりの妖力の反応を感じた。

 

「…向こうか」

 

妖力の反応を手がかりに、彼女を探し始めた。


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