毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉と人里

「なぁ、俺たちと一緒に来てくれるだけでいいんだよ」

「………」

「悪いようにはしないしないから、な?」

「………」

 

はぁ……なんだこいつら、私を誘拐でもしに来たのか?治安わっる!ちょっと路地裏で座り込んでただけで変な奴らに絡まれるとか……いや、割といつも通りか?

 

あ、変な奴ら来たせいで猫ちゃんが行ってしまった。癒しがぁ〜……見てるだけで心が浄化されるのに……

 

「悪いけど、人攫いなら他を当たってもらえる?流石にそんなホイホイついていくほど馬鹿じゃない」

「はぁ、物分かりの悪い子供だな。おい、連れてくぞ」

 

こいつら、私が人里で力を使えないのを逆手に取って……いや違う!これは単純に私が人外であることを見抜けていないだけだ!つまりバカだ!

となればやることは一つ。

 

「おい待て、どこに行く!」

「いや逃げるんですけど」

「追うぞ!」

 

フッ、子供を男性三人が追うこの構図は現代では通報、おまわりさんこいつらです案件だな。

まあ実際は相手が人外であることを気づかずにそのケツを追いかけてる哀れで馬鹿な男たち3人なんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、がきのくせして足の早えやつだ」

「だがここまでみたいだな、さっさとこっちに来てもらおうか」

 

軽く走っただけでこいつらもうバテてるよ、ちょっとトレーニングしたほうがええんちゃう?まあ私は足に霊力込めてたけど。

 

「ここ人里の端か?なら多分気づかれないよなぁ………よし、そこのお兄さんたち、なぜ私を捕まえようとするんだい」

 

単純に変質者という可能性もあるけども、一応聞いておく。

 

「お前、あの妖怪と何か関係があるんだろう。妖怪がこの人里でうろちょろしてんのはおかしいだろう?」

「あぁはいはいもういいよ、大体把握したわ」

「なんだこいつ……」

 

ハァーン……要するにあれだな?慧音さんのこと気に入らねえから私のことを人質にしていろいろやっちまおうって話だな?

 

「……あほくさ」

「あぁ?」

「はいはい、そーゆーのいいから、そんなんでいちいちビビらんから。はよ捕まえにこいよ」

「生意気な……このっ」

 

一人の男が盛大にこける。

 

「おいお前何やって…うおっ!」

「お前ら一体どうし……」

 

続いて二人も同じようにこけた。

 

「おぉ、バカみたいにこけてやんの」

 

体のでかい男3人が続けざまに足を滑らせてこけている。この光景写真に撮ってネットにアップしたい。そんなもんねえけど。

 

 

別に私は、ちょっとこの辺りの地面に氷を張らせただけで、直接何かしてるわけじゃない。勝手にこけてんのはあっちだ。

 

氷を出す時に妖力がちょっと漏れたような気がしたけど、普通の人間にはやっぱり感じ取れないみたいだ。

 

こけた3人がなんとか立ち上がろうとするが、何度やっても足が滑って立ち上がれない。

 

「あー、大丈夫ー?さっきから何回もこけてるけどー。立ち上がるの手伝ってあげよーかー?」

「うるせえ、今そこで待ってろ!」

「あ、はーい、待ってまーす」

 

言われた通りに、何度もこける滑稽な姿を見て吹き出すのを我慢しながら、生暖かい目で見守ってあげた。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ………何があったんだ…」

「あ、慧音さん。これはね……ちょっと地面を滑りやすくしてあげたら、全員頭から地面に落ちて………ぷっ」

「………」

 

慧音さん、あなたの言いたいことはわかる。だがしかし、最初に襲ってきたのはこいつらだ。

 

「正当防衛ってやつ」

「それだけの力の差がありながら、よくもまぁ……」

 

見た目子供のやつに近づいてきた不審者が悪いんだと思う。

 

「まあ確かにちょっとやりすぎたかなとは思ってるけど……反省はしている、後悔はしていない、むしろ晴れやかな気分」

「……とりあえず彼らはここに置いていこう。その方がややこしいことにならずに済みそうだ」

「なんかさーせーん」

「思ってないなら言わなくていい……」

 

だって私悪くねーし。

 

 

 

 

 

 

「慧音さんもあーゆーのに狙われて大変ねぇ」

「まぁ仕方がないこととは割り切ってるが……どうする?あんなことがあったし、帰ってもいいが……」

「慧音さん、私が今までにどんな目にあってきたか知らないの?」

「知らないが」

「あの程度のハプニング、下半身がなくなったり全身まるこげになったりしたことに比べたら可愛く思えてくるね」

「………」

「絶句しないで?」

 

うん……冷静に考えたら、そんな経験自慢のように言うことじゃないもんなぁ……

 

「とりあえず、まだ人里を見て回るんだな」

「うん、日が暮れるまでは居ようかな」

「そうか、付き合うよ。目を離したらまた何か起こりそうだしな」

「へへへ……」

 

………私ってもしかして不幸体質?

いや、なんやかんやで生きてはいるしそうでもないのか?いやでも、起こってる数が私だけ漫画とかの世界並みに多いんだけど……

考えるのやーめた。

 

「……なぁ」

「ん?なんです?」

「あそこ行ってみるか?」

 

 

 

 

 

 

「ぶっ……あまっ……泣ける…………」

「泣くほどなのか……」

「今まで食べたことのある甘いものなんて、河童が品種改良した変なきゅうりだけだったから……果物とかも食べたことあるけども……饅頭だよ饅頭………まともなもので……泣けるわ」

「………」

「だから絶句せんといて」

「あ、あぁすまない、確かにここの饅頭は美味しいよな……」

 

慧音さんに連れてこられたのは甘味処ってやつ?その店で座って食べてるけど、とりあえずなんかもう………あっ、甘っ。

 

「何年ぶりだこの味………こんどにとりんに餡子作るように頼も……」

「……団子も食べるか?」

「たべりゅ!」

「落ち着いて食べろよ」

 

和菓子っていいよね………ここが一応日本であるということを思い出させてくれる……人外魔境だけど。

 

「ん、慧音さん、お金とか大丈夫なの?これ結構高いっしょ?」

「なに、結構な間貯めてるんだ、まだまだ余裕はあるさ」

「うへぇ、すごいなぁ……甘っうまっ…文化の味を感じる」

「何言ってるんだ」

 

うーん……今この瞬間がここ数年で一番幸せかもしれない。

 

「おやおや慧音さん、その子はあなたの子供ですか?」

「冗談はよしてくれ、友人だよ」

「そうでしたか」

 

なにやら店主っぽいおばちゃんが話しかけてきた。

 

「毛糸、この人がそれを作った人だ」

「んっ、ありがとうございます、めっちゃ美味しいっす」

「いえいえ、喜んでくれてなにより。それより、どこかで会ったことがありませんでしたか?」

「私?いや、無いと思うけど」

 

私の知り合いにこんな美味しいものを作るおばちゃんはいないなぁ。私の知り合い大体頭おかしいし。私含めて。

 

「彼女は毛糸と言って、実は妖怪なんだ」

「なんと……その頭巾を外してもらってもよろしいですか?」

「それは………いいよ」

 

慧音さんに目で確認を取ったら頷いてくれたので、言われた通りに頭巾を外した。

 

「やっぱり………」

「………?」

 

私の髪を見て何か思い出したみたいなんだけど………髪で判断されるのやっぱりちょっとムカつく。

 

「覚えてないですか、私のことを」

「え?いやあの、すみません覚えてないです」

「そうですか………」

 

え……そんなにしょんぼりしないでよ!罪悪感がとんでも無いことなってくるんだけど!

 

「三十年ほど前に、あなたに命を救われたものです」

「ほ、へ、へぇ………ごめん、やっぱり覚えてないです……」

「いいんです、妖怪の寿命は長いようですし、あなたの姿もあの頃と変わっていない。私のことなど些細なことだったのでしょう」

 

うわぁ………なんとも言えないこの……

思い出せ、三十年前の私を思い出せ、この人を助けたはずだ、えーと、うーんと、あー、無理!思い出せない!

 

「あなたが覚えていなくても、あの時の記憶は私がしっかり覚えていますので。いつか感謝を伝えられたらと思っていました。どうも、あの時は命を助けていただいてありがとうございました」

「いやあの、頭上げてください。覚えてないことで感謝されてもなんだか………」

「私だけではありません、あなたに助けられた者は他にも沢山います。今ではもう死んでしまった者もいますが、彼らの分まで礼を伝えさせてください」

「あー………あー………けーねさーん………」

「ふっ……」

 

助けを求めて慧音さんを見たらなんかニヤニヤしてた。何笑ってんすかあんたねぇ………

 

「そうだ、少し待っていてください」

「は、はぁ………」

 

おばちゃんに言われた通り待っていると、何やら大きな包みを渡された。

 

「長持ちするものを入れておきました、私にはこれくらいのお礼しかできませんが……」

「い、いや十分ですから、ありがとうございます」

 

突然大量の菓子を用意され、困惑しながらも受け取る。

いやおっも!どんだけパンパンに詰め込んだんよ!

 

「そ、それじゃあこの辺で………」

「はい、また機会があればいらしてくださいね。慧音さんも」

「あぁ、また来るよ」

 

小っ恥ずかしい思いから逃げるように、その場を立ち去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー…………」

「……照れてるのか?」

「そりゃもうめちゃくちゃ………」

 

もちろん照れてるってのもあるし、こっちが覚えていないのが申し訳ないってのも……ありがとうおばちゃん、あなたのことは忘れない。十年くらい。

 

「なんていうかな……初めて会った人、あ、初めてではないのか。とにかく、知り合いじゃない人にあそこまでベタベタに感謝されたのが初めてで……」

「他にも、お前に助けられたという人はそれなりにいるぞ」

「そっかぁ………誰一人として覚えてないわ……」

 

大きな包みを改めて見つめる。

あの人を助けたっていうことが、結果的に私にまで返ってきてることを思うと、なんだか面白い。

 

「でもなんだろうね、この気持ちは。こう、言葉で言い表せないような複雑な気持ち………」

「感謝されて、嬉しいんだろう。違うか?」

「いや、それもあるけど覚えてないことへの罪悪感の方が」

「そうかぁ……」

「とりあえず、今日は誘ってくれてありがとう。他にもいろんなところを回りたかったけど、なんかもう……ねえ?」

「そうだな」

 

というかこれ、ちょっと量多すぎじゃないだろうか………いや、チルノと大ちゃん、それにるりにもってなると、私含めて四人だからちょうどいいかも………ルーミアには喰われないように隠しとこ。

 

「……慧音さんは知ってたの?あの人のこと」

「いや別に、全くの偶然だが」

「ほんとーにぃ……?」

 

まあいいか、結果的には良かったし。………変な人間には絡まれたけどさ。

 

「どうだった?人里は」

「楽しかったよ、結構。賑やかだし、変なやつはいるけど、優しい人多いし……人間って感じのする場所だった」

 

言い方変えると東京に来た気分だった。

だってまあ、知り合い妖怪しかおらんし。人間ばかりの場所って時点で既に地底や妖怪の山とは違う。この土地は確かに人外魔境だが、この場所は人外魔境ではなく、間違いなく人里なのだ。

 

「実は私も君に助けられているんだ」

「え?そんなことあったっけ?」

「君が人間を助けるごとに、私に向けられる目もだんだん変わっていったんだ。だから今私が人里に入れるのは君のおかげでもある」

「は、はぁ……そんなこと考えたことなかったけど」

「それだけじゃない、アリスから聞いたよ、人里の周りで騒ぎを起こしていた妖怪を妖怪の山で倒したと」

「あぁーそれはいいって、もう昔の話だし、あんまり思い出したくない」

「そうか、それは悪かったな」

 

なんとかなったから良かったものの、死ぬ直前までは行ったし、あの時は私の心もちょっと荒んでたし……

 

「なぁ、また今度人里に来ないか?ここのことをもっと知って欲しいんだ。同じ夢を持つ仲間だし、以前に比べて今は平和が続いているから」

「うーん、そうだなぁ………」

 

正直私が行くのは全然構わないんだけど、今回みたいに慧音さんが迷惑するようなことが起きるのが嫌なんだよなぁ………

妖怪のことをよく思わない、思えない人の方が今も圧倒的に多いだろう。それこそ、違うのはあのおばちゃんみたいな人くらいだ。

私が助けた人だって、みんなあのおばちゃんのようになってるっていうこともないだろう。妖怪のことを憎んだままの人だっているはずだ。

 

「また来るとしてもしばらく後だよ。やっぱり、人間じゃない私がここに居たらいつかなんかが起こりそうだし、慧音さんに迷惑がかかるかもしれない」

「そうか……残念だ」

 

いくら前世の人間の記憶があるからと言って、私はもう立派な人外なんだ。人に紛れるには無理がある。

 

「でもいつかくるよ、もちろん慧音さんとはまた会うだろうし、また来たいって思ってるからさ」

「…そうだな。そのためには私が頑張らないとな」

 

慧音さんは本当にすごい。

何年も何十年も、ずっと人間に関わろうと努力して……ま、私には絶対無理だな、うんうん。

 

「じゃ、そろそろ帰るよ」

「あぁ、また来てくれ」

 

 

 

人里の出口で私たちは別れた。

少し前までは想像できなかったけど、今ではもう、妖怪と人間が共存してる光景が見える気がする。

まあ、人喰い妖怪とかが居る時点で限度があるだろうけど。それでも、いつか本当に、そんな理想郷が………

 

「あ、りんさんの刀慧音さんちに忘れた」


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