「なにしてんの」
「当ててみ」
「わかんない」
「フッ、相変わらずバカ……いたっ、氷投げんな」
バカって言っただけですぐ氷投げてきやがって、そういうの過剰反応って言うんですよ?え?私?チルノのはバカにバカって言ってるだけで、私はまりもじゃないから、毛玉だから。間違ってることに怒って何が悪い。
「で、なにしてんの」
「何もしてない」
「………?」
「ええいそんな目で見るな」
ただちょっと日の光浴びようと思って外で日光浴してただけだし……
「………」
「………」
「……なにさ」
「べつに」
「じゃあ帰れよ」
「子分なら遊びにつきあってよ」
「まだ生きてたのその設定……?まあいいけど」
でもさぁ……妖精の遊びってイタズラでしょ?私別にそういうのしないし、そもそも私が入ったらなんか冷めない?
「行くぞ子分!どうせひまだろ」
「ヒマジャナイモン、メッチャイソガシイモン」
「あ、大ちゃん」
「毛糸さん、来てくれたんですね」
「ん?何が?」
「え?チルノちゃんから何も聞いてないんですか?」
「あ?チルノ?なんかあったの?」
「……何も言わずに連れてきたんだ」
「毛糸はあたいの子分だからな」
「説明はしろよクソ親分」
なんか妖精がたくさん集まってるんだけど。
いや、妖精自体はよく集まってるし、大体何人も固まってるけど、ここにいるのは見えるだけでも20人くらいはいる。
「………なんかあったの?」
「まぁ……そうですね」
なんか重い雰囲気なんだけど……大ちゃんだけ。
「それにしてもいろんな妖精が………ハッ、あいつらは……」
間違いない、私の家をぶっ壊した……壊したの私だけど、壊す原因になった………気もする三人の妖精だ。
忘れもしない、あのなんかめっちゃおちょくられたあの日……
三人と目があったけど、特に反応が返ってこなかったので向こうは忘れてるなこれ。
合ったが覚えてないなら別にいいかなぁ……私も気にしてないし。
確か名前は………さにー……すたー……るな……忘れたぜ!
「で、何があったの?大ちゃん以外はみんな楽しそうに遊んでっけど」
「……ここ数日、妖精が大量に一回休みになってるんです」
「ふぅーん……?」
「妖精って別に力が強いわけでもないので、それになること自体は珍しくないんですけど、ここ数日、立て続けに休みになったり、一気に大量の妖精が休みになったり……とにかく異常なんです」
………確か一回休みになると記憶飛ぶんだっけ?
そりゃ、復活するとはいえ死んでるわけだから、記憶が残ってたら何回も死んだ記憶が残るわけだから、そういうわけにはいかないんだろう。
ただ、そのおかげで死んだ理由がわからないってことか。
「一回休みになってもすぐに復活するわけじゃありません。今このあたりには、ここにいる妖精しかいないんです」
「え、マジで……」
妖精なんて私は一人見たら十人居ると思ってきたのに。
今このあたりにいる妖精がたったこんだけ……?妖精なんて色んな場所に散らばってるからどれだけの人数がいるか、私も詳しくは知らないけど、今ここにいる妖精が少ないってことはわかる。
「何か心当たりは?」
「多分何かに襲われてるとは思うんですけど……遭遇した妖精は全員休みにされてるみたいで」
うーん……しっかしなあ。この辺で妖怪の死体を見たわけでもないし、そうなるとそいつは妖精だけを集中的に襲ってることになるわけだ。そんなことする必要ある……?
「とりあえず、それをなんとかすればいいんだな?」
「はい……すみません、毛糸さんには関係ないのに」
「ないことないけど……まあ、近くにそんな危ないやついたらどちらにせよ放っては置けないからなぁ」
妖精自体は一回休みになってもその時の記憶がなくなるだけだし、本人たちは割と楽観的だ。
ここにいる妖精でこのことを重く考えてるのは大ちゃんだけ……
「あたいに任せろ、そんなもじゃもじゃになんとかなることじゃない、親分のあたいがなんとかしてやる」
「おう期待してるぞー」
まあチルノもか。
とりあえず家に帰って色々考えるかぁ………
「え、なにそれ怖いんですけど……というか、私にわざわざ言いにきたってことは手伝わせる気満々ですよね?」
「別に放っておいてもいいけど、妖精じゃなくてるりが襲われるかもよ」
「選択肢ないじゃないですか」
「知らんがな」
とは言ってるものの、本人も妖精たちのことは心配なはずだ、きっと。
るりもたまには外に出ているし、妖精とも多少は会話してると思う、多分。
「あー、まあいいですよ。その代わりちゃんと守ってくださいよ?あたしに危険が近づいてきたら身を挺して守ってくださいよ?」
「善処しよう」
「たとえ四肢がちぎれようが腹に穴が開こうが守ってくださいよ?」
「うーん、無理」
というか、そんなになるほどの相手だったらそんな余裕ないし……
「まあ、妖精しか狙わないってことはそこまで強くないやつが相手ってたかを括っていこう!」
「たか括らないでくださいよ!ちゃんと慎重に安全にやってくださいよ!?あたしの命がかかってるんですからね!?」
「妖精の命もかかってんだよ」
「あ……それもそうかぁ」
あんまりこういうことは考えたくないけど……妖精の命は軽い。
なんてったって死んでも復活するんだ、詳しい原理は知らんけど、記憶が飛ぶのと復活に時間がかかる以外はそこまでなはずだ。
「ふごっ」
「ほら、イノペンテントスもやる気になってるぞ」
「いのぺん……?」
「イノトリップテンダーがこれだけやる気出してるのに、お前がそんなんでいいのか?」
「いのとりっぷ……?」
「なっ、お前もそう思うだろ?イノクロス」
「すみません本当に紛らわしいんでどうにかしてくれませんか」
「そう言われても仕方がないよなイノサイス」
「ふごっ」
「えぇ………本当になんなんですかその猪、というかなんですかその関係性」
イノシシはイノシシだよ、それ以上でもそれ以下でもない。
「それにさー……知らないところで一回休みになってたり、バカしてたりするけどさ、それってやっぱり気分悪いじゃん。私は別に妖精でもないし、毛玉がどうかも怪しいけどさぁ……知り合いが知らないところで死んでるって、放っておくわけにはいかんでしょ?」
「………そうですよね、毛糸さんはずっとここに住んでるんですもんね」
ここの妖精にだって、チルノや大ちゃん以外にも知ってる奴はいる。そこまでの仲じゃないが、それでも同じ土地に住んでるんだから気にかけるのもおかしくないはずだ。
「とりあえず準備しておきましょう」
「そーだな」
「今夜からだったんですか!」
「いつからだと思ってたの!?」
「明日からだと」
「早い方がいいだろ」
「それはそうですけど……」
大ちゃんとチルノに聞いたところ、まあチルノはなにも知らなかったんだけど、大ちゃんからは妖精がいなくなってるのは大体夜の間だって聞いた。
確かに妖精は食べる必要と寝る必要もないため、夜の間にギャーギャー騒いで襲われてるのかもしれない。
まあ夜に動く妖怪なんて山のようにいるわけで……
「ってか、チルノはともかく大ちゃんまでくるのね」
「やっぱり心配で……」
「安心しろ、大ちゃんはあたいが守ってやるからな」
「う、うん………」
「心配されてんのお前だぞ」
「は?」
「は?」
「お?」
「お?」
「何睨み合ってんですか、緊張感って知ってます?」
「言うようになったじゃねえか、よしてめえが餌になれ。あ、逃げんなこら」
別にどうせ大したことないやつってたかを括ってるから、チルノや大ちゃんがいてもどうにでもなると思ってる。なんならチルノでもなんとかできると思ってる。
「で、どうするんですか?このまま闇雲に歩き回るわけにもいかないですよね。あたしも早く帰って引きこもりたいですし」
「まあ落ち着け、ちゃんと策は考えてある」
「どうせばかみたいな考えだぞ」
「ほざけバカ」
「あ?」
「あ?」
「二人とももういいから……」
フッ、私のサバイバル歴イコール年齢(笑)を舐めるなよ。
「よしイノエイド、匂いで辺りを探れ」
「ふごっ」
私が考えた策とは、普通のイノシシみたいだけど実際は妖怪なこいつを利用した索敵である。
「他人任せじゃないですか」
「ぐはっ」
「自分じゃ何もできないんだな」
「ごはっ」
「…わ、私はいい作戦だと思いますよ」
「ぐっ………」
大ちゃんの気遣いが私の心に突き刺さる。
辛い………全部事実だから辛い……
「私この子のことよく知らないんですけど、本当にそんなことできるんですか?」
「知らんけどできるやろ」
「えぇ……」
「安心しろ大ちゃん、こいつのことはあたいがほしょうするぞ」
「え、あ、うん」
保証できてないぞ。
でもなんか……イノシシって嗅覚すごいイメージあるし、こいつ妖怪だし、なんとかなるんじゃないかなぁ……?
「ふごふご」
「あ、ほらなんか向こうのほうにあるらしいってさ。行ってみよ」
「本当に何か見つけてる……」
「な、あたいの言った通りだっただろ」
「もうあたしは深く考えません…」
とりあえず先行するイノシシのケツを四人で追いかけるのであった。
「おーい、なんかあったかー?」
「なにもー」
「なにもー」
「なにもー」
「定型文……」
四人で辺りを探して何もないってなるとイノシシの鼻を疑うが……
「ふごっ」
「あらやだ凄い自信満々な顔……イノシシの自信満々な顔知らんけど。でもなんにもないんだよなぁ」
「……でもこの辺なんか臭くないですか?」
「ん?……あほんとだ、なんとも言えない臭さがある」
こいつが反応したのってこの匂い…?ならこの匂いの強いところまで連れてけよ。
「見てみて大ちゃん!なんか白いなんかあった!」
「うわなにそれ気持ち悪!」
「あ?なに、それ気持ち悪!」
「うわぁ…」
チルノがなんかでっかい白い薄い皮みたいなのを持ってきた。
「向こうのほうにもっとでかくて長いのあるぞ」
「わかったけど臭いしばっちぃから離せ!」
「ちぇー」
「ちぇーじゃなくてさぁ」
「あたしちょっとみてきますね」
子供はすぐなんでも触るんだからもう……
「でもこの皮なんなんでしょうね……チルノちゃん、でかいのだどんな感じだった」
「あたいこれちぎってきただけだからわからないぞ」
「バカ」
「あ?」
「もういいって!」
あ、いつのまにかいなくなってたるりが戻ってきた。
「何かあったー?」
「……これ、多分蛇の脱皮した跡です」
「ヘビ……?」
「脱皮した皮が、この子が持ってるやつの多分数十倍はありました」
「なっ……」
「そんな……」
「すうじゅうばいってどのくらいだ」
ちょ……チルノが持ってるのでも軽く50センチ以上はあるんだけど………るりも河童だしその辺の計算とか誤るとは思えないから……
「なんかこれ湿ってるぞ」
「マジでぇ?じゃあまだ近くにいるんじゃ…」
「………」
「………」
「………」
「あ、え、なに?私の顔なんかついてる」
不自然に距離をとっていく三人に違和感を覚える。
そっと、後ろを振り返る。
「マ——」
「ひいいぃぃぃ!!無理無理無理無理無理こっちこないでええええ!………ってあれ、来てない?」
毛糸さんが一瞬で食べられて気が動転してすぐにその場から逃げ出したけど、どうやらあたしのところには来ていなかったみたいだ。
ぼろ雑巾みたいになっても生きてるあの人のことだから多分まだ死んでないとは思ってるけど……
二人の妖精ともはぐれてしまった。
逃げ切れて良かったと思ったものの、結局毛糸さんをなんとかしないといけないし、あの二人も心配だし……
「結局あたしもなんとかする羽目に……」
周囲の音をよく聞いてみると、何か気が倒れるような音が聞こえて来る。
あれだけの巨体でありながら、この辺りの木々は倒されていなかった。てことは、今あの大蛇は激しく動いている……つまりあの二人と追いかけっこをしているのでは……
急いで音のなる方に駆け出す。
あの大蛇が妖精がいなくなっていた原因だとしたなら、妖精しか襲ってなかったんだからそりゃ真っ先に襲うのは妖精だろう。
毛糸さんが真っ先に食べられたのは霊力を持っていたから……?
そんなことを考えつつ出来るだけ速く走る。
「はぁ、はぁ、こんなことになるんだった普段から運動しておくんだった…」
息も絶え絶えになりつつ、大蛇の長い体を見つけた。その先には二人の妖精見える。
このままじゃ間に合わない……あの人は肝心なときに役に立たないんだから……
「大丈夫、大ちゃんはあたいが守る」
「チルノちゃん……」
とぐろを巻かれて逃げ場をなくした二人に蛇が口を開けて突っ込む。
「これがあたいの必殺技!」
「この状況で何してんのあの子は!?」
「てんうがつけんろうのつらら!」
「何その名前!?」
青い子があげたその掛け声とともに、大蛇の頭の真下から氷柱が上に伸びてきて、蛇の頭をかちあげた。
「絶対毛糸さんだよ……今の技名は絶対毛糸さんのせいだよ……」
でもすごい……妖精が使える技の威力じゃない。
あ、毛玉が大蛇の口から出てきた。
その毛玉は自由落下してあたしの足元に落ちてきて、人の姿になった。
「へび怖い……胃酸で溶かされかけた…もうやだかえりゅ……」
「そんなこと言ってないであれさっさとなんとかしてくださいよ!まだ元気に暴れ回ってますってえ!」
「あぁ、うん、早く逃げた方がいいよ」
「へ?」
「アイツの中にでかい妖力の塊置いてきたから、多分もうそろそろ爆発する」
「なんでそれもっとはや———」
「………で、どうしたんですかこれ」
「いや、えっとね、違うんだよ文」
「真夜中に巨大な爆発が起きて天狗の里がひっくり返ったんですけど、何が違うんですか。あとついでに人里でも軽く騒ぎが起きて陰陽師が出動したみたいなんですけど」
「えーっと、あー、うーん………るりが全部やりました!」
「なんであたしいいいいいい!?」
「連行します」
「なんでええええええええ!?」
「お望み通りたくさん引きこもらせてあげますよ、独房で」
「え、いやあの、冗談ですよね?冗談なんですよね!?」
その後るりは三日後に帰ってきた。
一週間くらい口聞いてくれなかった。