毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉と引きこもりと夜雀

「どこかで会ったこと……あったっけ?」

「会ったような……なかったような……」

「oh……お互いに覚えてない」

「会ったような気はしないことも……ないんだけど……」

 

鳥の羽みたいなのを持っている妖怪に出会った。天狗ではなさそう……いやほんと、狼とかいるし白狼天狗ってなんだよ。

ついさっき目があって、お互いにフリーズして今に至る。

 

「いつだろう……いつ会ったんだろう……」

「この様子だと、会っても一回、それも大分昔かぁ……」

 

見覚えはある……見覚えしかない………どうしようこれ。

 

「自己紹介でも……する?」

「そう……だね」

「えーと、白珠毛糸です」

「ミスティア・ローレライ……聞き覚えあるような……」

「ないような……」

 

うーん、この……気まずい。誰か助けて、私にこの状況をひっくり返す力をくれ。

 

「えっと……すごい頭だね」

「殴るよ?」

「なんで!?」

「あぁごめん、いつもの癖で」

「どんな癖!?」

「いやー、私の髪のことバカにしてくるやつ多いからさぁ………この際だし、もう初対面ってことでいいんじゃないかな」

「それもそうだね……」

「………」

「………」

 

あやっべ、どうあがいてもこの空間重いわ。お互いに覚えてないことによって起こる微妙な罪悪感によってお互いに話しづらいわ。

大丈夫?私の妖力漏れてない?幽香さんのだから一般妖怪には刺激が強いぞ?

よし…妖力は漏れてないな、うん。

やっぱし気まずいわこれ。

 

「えーと、私この湖らへんで暮らしてるんだけど、ミスティアは?」

「私は…まあ、割と色んなところ行ってるかなぁ……」

「うーん…」

「うん…」

「今日は何しにここへ?」

「えっと、ある場所に用があって、その帰りに寄っただけだよ」

「あぁそう……えと、暇なら家に来る?せっかく会ったんだしちょっとでも記憶に残しておいた方が……」

「そうだね、そうさしてもらおうかな…」

 

なんとか…なんとかこのなんとも言えない状況を脱却しなければ……

もう会ったことある人は忘れないようにメモ書きでもしておこうかな……

 

 

 

 

 

 

 

「あ、意外としっかりした……家なんだ」

 

見た目はしっかりした家……しかしながらその中身はるりによって魔改造されてしまっている。

電気はつくし湖から水引いてるし……河童の力ってすげー。

 

「ちょっとここ座っといて、一人呼んでくるから」

「わかった。…うわなにこの椅子、なにこの座り心地……」

 

あぁうん、ふかふかだよね。この時代だとクッションついてる椅子なんてなかなかないだろうから……河童の力ってすげー。

 

家の奥へ行って、洞窟の中に通じてる扉を開ける。

 

「るりー、今出れる?」

「出れますけど……嫌です」

 

しかめっ面のるりがすっげえ不快そうに言った。

 

「なんで」

「どうせ誰か連れてきたんでしょ?あたし人見知りなの知ってますよね?初対面とかまともに喋れませんよ」

「いやでもお客さんだし、とりあえず出てきなよ」

「はぁ…どうせ出なかったら無理やり引きずり出すんでしょう」

「そんなことしな…よくわかってんじゃねえか」

 

まあ…私が気まずいから適当にるりでも挟んでおこうと思っただけなんだけどさ。

 

「ちゃんと安全な人ですよね?」

「うんまあ、安全だけど…危険な奴呼んだことある?」

「ありますよ!この前なんか妖怪の賢者の式神やってきてたじゃないですか!!」

「え、賢者?」

「あーはいはいなんでもないよー」

 

妖怪の賢者という単語に反応したミスティア、とりあえず適当に誤魔化しておく、話がそっちに行ったらめんどうくさいし。

 

「キニシナイデネー」

「逆にきになるんだけど……まあいいや」

「あ、こいつがし……しま……?」

「紫寺間です」

「そう紫寺間……えっ、そんな名前だったの」

「忘れてたんですか!?」

「うん」

「帰ります!」

「妖怪の山に?」

「そこは嫌です!」

「いい加減帰れよ」

「嫌です!」

「お、おぉ……元気だね…?」

 

……ハッ!

そうだ、るりも私も頭がおかしい部類、一般妖怪にはこの会話についてこれない。

 

「はい自己紹介終わったので帰りますね」

「だから家ここだろ」

「あっ…」

「こいつ河童でね、本当だったら妖怪の山に住んでるんだけど、全てが嫌になって逃げてきたんだ」

「それは語弊が……割と真実かも……」

 

本当に、いつになったら帰るんだこの引きこもり。時々にとりんくるけど適当に談笑して帰るだけで一向に連れ戻そうとしないし……そろそろ縛って山に置いてこようかな。

 

「…今、河童って言った?」

「ん?あぁ言ったけど」

「ひぃっ、今この人の目つき変わりましたよ……」

「お願い!頼みがあるの!」

「ほら来たっ」

 

河童という言葉を聞いた瞬間にミスティアの目つきが変わって、るりに詰め寄った。るり怯えてるし、なんかよくわからんけど話は聞こう。

 

「とりあえず事情だけ話してくれる?私で良ければだけど」

「そうだよね、何も話さずに頼みごとされても困るよね。ごめんね?」

「きききにしないでいいですよ」

「いや気にするんだけど」

 

そうか、こいつ私の家に来て本格的に引きこもりしてるから、初めて会う人自体がかなり久しぶりなのか。そりゃ初見の人への耐性低くなっててもしょうがないか……いや、やっぱおかしいやこの人見知り。

 

「私ね、ある夢があって、そのために凄い物を作るって噂の河童の力を貸してもらおうって思ってたんだけど、やっぱり天狗とか沢山いて危ないし、入れてもらえないし、侵入しようにもすぐ見つかっちゃうしで……今日も天狗に頼みを断られた帰りだったの」

 

なんか……聞き覚えあるような……ないような……

 

「どうかな?やっぱり駄目かな」

「よし暇人頼みを受けろ」

「暇人って言わないでくださいよっ、事実ですけど、知り合ったばかりの人のために仕事する気は起きないですよ……」

「やっぱりそうだよね……」

 

ミスティアが落胆した様子を見せる。

うーん、私だって知り合ったばかりだし……いや前にあったことはあるんだろうけどとにかく、わざわざ頼みを受け入れる道理もないんだけど……

 

「…わ、わかりました、やればいいんでしょやれば。だからそんな顔しないでください」

「本当!?」

「うわ近い…えっと、できる範囲でならですよ?」

「ううん、全然大丈夫、ありがとう」

 

るり……見直したぜ……

 

「その顔やめてください、なんか腹立ちます」

「どんな顔だよ」

「そのにやけ面ですけど」

 

酷くね。

 

 

 

 

「で、こんな感じなんだけど、どう?」

「ねえその設計図いつも持ち歩いてんの?」

「いい案が思いついたら忘れる前に書いておかなきゃ」

 

偉い……私なんていい案思いついても5分で忘れるんだけど。

 

「なんですかこれ」

「これはこう、移動できるお店みたいな、どこでも店を開けるみたいな」

「…屋台?」

「そう、それ」

「なるほど……」

 

昔、にとりんから聞いたことがある。

るりは、やればできる子だと………やらないから無能なだけだと……

 

「ちょっとこれ預かってていいですか?こっちで纏めておきたいんですけど」

「全然いいよ、ありがとう」

「うぅ……正面から感謝されると照れる……ところでこれ、何する屋台なんですか?」

「八目鰻っていうやつを焼くの」

「八目鰻…?あぁはい、わかりました。毛糸さん、私ちょっと部屋に篭っておきますよー」

 

やつめうなぎ……?

待って、なんか思い出しそ………

 

「ぉあっ!!」

「え、なに急に、どうしたの?」

「そうだ八目鰻だよ八目鰻、竹林で会ったよミスティア!」

「え?…あ、あー!……えーっとぉ………」

 

あれ、あんまりピンと来てない?

でも確かそうだ、竹林で会って、なんか屋台したいとか聞いたわ。そんでもって河童と繋がりある私に頼み事を………

 

「思い出さなくて……いいよ」

「え、なんで」

 

私……あの時のこと完全に忘れてたわ……ははっ。

いやでも、今こうして河童に会わせてるわけだから結果的には約束を守って……いやいやいや何十年前の話だよそれ!そしてミスティアは未だにその屋台の夢叶えられてなかったのな!

まあ妖怪の山もピリピリしてたりすること結構あるし、近寄りがたかったり、そもそも温厚な妖怪が少ないからいろいろ苦労したんだろうけども……

 

「……あぁそうだ、るりのことだけど、多分結構時間かかるから一旦帰った方がいいんじゃない?また明日来なよ」

「いいえ今日また来るわ」

「へ?」

「せっかくだもの、みんなに八目鰻食べてもらうわ。うんそのほうがいい!そうと決まればさっそく用意しに帰るね!」

「お、おう……」

 

いや…私うなぎ苦手なんだけど………

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりましたー……って、毛糸さんしかいないんですか?」

「いや、外にいるけど。長かったね?」

「そうですね、もう暗くなっちゃってる…やっぱり素人の作った製図だといろいろと欠陥が多くって、手直ししてたらこんな時間に」

「素人?わかった本人に伝えてくる」

「なんの嫌がらせですか」

るりよ、そういうの陰口って言うんだぞ、私もよくやるけど。

 

「…というか、この匂いなんですか?外で何か作ってるんですか?」

「あぁそうそう、ミスティアが外で料理してる」

「なんで…?」

「知らん、とりあえず行くぞー」

 

 

 

 

「あっ!出来た!?」

「うわっこっちきた、まぁはい済みましたけど……」

「ありがとう!これ食べて!」

 

私の家の外では八目鰻を焼くミスティアと、その匂いに釣られた妖精たちでごった返していた。まあうん、確かにいい匂いではあるけども。

 

私がるりを連れてやってくるとすぐさまミスティアがこちらを察知、るりに近寄って八目鰻を押し付けにきた。

 

「な、なんですかこれ」

「八目鰻」

「……毒とか」

「入ってるわけないでしょ!なんで!?」

 

るりは八目鰻の……蒲焼?蒲焼でいいのかなこれ。とりあえずその焼いたやつを恐る恐る口にした。

 

「あ、美味しい」

「でしょ!あなたと食べてね!」

「あぁうん、たべるたべるー」

 

意気揚々と元いた場所に戻って引き続き八目鰻を焼くミスティア。

……なんでそんなにそのうなぎのこと推してんだ?焼き鳥を撲滅するためとは聞いていたけれども、なぜそうも八目鰻に…?てか八目鰻ってなんだよ、さっきまだ捌いてないやつ見たけどめちゃくちゃ気持ち悪かったぞ、なんだよあれ。

 

「毛糸さん食べないんですか?美味しいですよこれ」

「私ね、うなぎ嫌いなの」

「……理由は?」

「単純に食感が好きじゃない」

「あー、確かに毛糸さんは嫌いそう……ちなみに本音は」

「にょろにょろしてるから」

「でしょうね」

 

でもやっぱり食感も嫌い、加えて見た目も嫌い。特に八目鰻とかいうやつ、なんだよあの口マジで。うなぎじゃないだろ、もはや別の生き物だろ。名前は似てるけど生物学的には違う生き物ってのもあるし、その口だと見た。知らんけど。

 

「……いやいや、なんで八目鰻焼いてるんですか彼女は」

「焼き鳥を根絶したいらしい」

「やきと、は?えっと……あ、あー?あぁ……」

「………鴉天狗ってなんなんだと思う?文ってあんまりそういうの気にしてないと思うんだけど」

「まあ…天狗ですし」

「…天狗だもんな」

 

カラスってあんまり美味しくないんだけどな。

 

「毛糸ー」

「あ?どうしたバカ氷バカ」

「後ろ向いてー」

「え、なに、なに?」

「いいから」

 

チルノに後ろを向くように促される。なんか嫌な予感しかしないけど、とりあえず背を向けてみた。

 

「ほい」

「ほい?ほいってなあああああああああああああああ!!?な、ななに入れたお前!!せなかっ、せなかがヌルヌルするう!?」

「うなぎ」

「びゃああああああああああああああい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ………危ねえ、あとちょっとでここら一帯を焼け野原にするところだった、よく耐えた私、グッジョブ、ナイスファイト、お前はやればできるやつ……」

「よく耐えましたね……じゃないじゃない、何普通に怖いこと言ってるんですか。思いとどまってくれてよかったですよ」

「あはははは!」

「なに笑ってんだよ!バカ妖精が!お前いっぺん全身の関節逆方向に曲げてやるからこっちこい!」

「やだねー」

「逃げんなこのっ…あっ、背中ぬるぬるする助けてるり」

「いや知りませんよ」

 

はぁ………死ぬかと思った。

しっかし不味いな……チルノがこれに味を占めたらやばい。

これからの悪戯が全部蛇とかうなぎとかミミズとかあの辺になるってことだ。蛇とうなぎはともかくミミズはダメだ、あんなもの服の中に入れられたらマジでこの湖ごとぶっ壊すかもしれない。 

 

私の全身全霊の断末魔を聞いたミスティアが心配そうにやってきた。

 

「あ、あの、大丈夫?」

「だいじょばない死にそう」

「いや割と大丈夫そうだけど……あ、ほらこれ食べて元気出してよ八目うな——」

「オレのそばに近寄るなああーッ!!」

「うわびっくりした。え、なに、おれ?」

「あーはい、気にしないでいいですよ。いつもの発作なんで」

「いつもなの!?」

「そんなことより屋台について話しませんか」

「そうだね!もう八目鰻も焼き終えたしそうしよ!」

「………」

 

 

 

寝よ


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