「おつかれ足臭ー」
「足臭お疲れ様ー」
「よぉ足臭」
「足臭さんお疲れ様です」
「…………」
「なんですか急に呼び出して。告白でもするんですか」
「おい……なんでお前らは俺のことを足臭って呼ぶ‥…」
「足が臭いからですけど」
「俺の足は臭くねえ!多分」
「自信ないんじゃないですか」
俺も既にそれが当たり前になってたが、何故俺は足臭って呼ばれるようになったんだ。
「というかこれずっと昔から言ってるが、足の臭い嗅がせたことないよな?なのになんで足臭って言われなきゃならねえんたよ」
「足が臭いから」
「同じこと言ってんじゃねえよ……お前らが俺のことを散々足臭って言ってくれたおかげですっかり足臭が定着してやがるんだよ!なんなら俺の名前が足臭って思い込んでるやつまで現れたんだが!?」
「よかったじゃないですか、周りに認知されるようになって。最初の頃は友人も一人しかいなかったんでしょう?」
「もう死んだわそいつ」
「それは残念でしたねー」
「お前なぁ……」
今や名前で呼ばれるより足臭って呼ばれることの方が多くなっちまってる。わかっててやってる奴はいいが、名前を勘違いするやつがいるのはいくらなんでもやばいだろ。なんだよ名前が足臭って、ふざけてんのか。いやふざけてるわ。いやふざけてないで本当に俺の名前が足臭って思ってる奴がいるんだわ………
「記憶のなくなる前の名前って覚えてるんです?」
「覚えてない」
「今の名前をつけたのは」
「友人」
「その友人は?」
「死んだ」
「じゃあ足臭でもいいじゃないですか」
「よくねえよ何言ってんだお前」
「名前つけた人が死んだなら、その名前を使う必要もないじゃないですか」
「その名前を使わない必要もないよな?」
「いちいちうるさいですね……いいから早く足臭に改名してきてください」
「なんで!?お前さっきから支離滅裂だぞおい!」
今更改名するって言ったって、俺の中では自分は柊木だってもう認識されてるんだから無理がある。てか妖怪が名前変えたら存在も変質しかねない。別に俺の名前は大したものじゃないが。
「別にいいじゃないですか足臭、私はいい名前だと思いますよ足臭。……ぷっ」
「何笑ってんだよ、おい。ぶっ飛ばすぞ」
「へぇ、随分自信満々じゃないですか。半日組み手して一本も取れなかったことを忘れたんですかね?」
「…………」
「言い返せないんですかぁ?」
「うるせえ!」
「うるさい、そんな知能の低い言葉しか喋れないんですね?」
「…………」
なんか……なんも言い返せねえけどすっげえ腹立つ……女じゃなかったら殴ってるわ……殴ろうとしても軽く流されて俺が殴られる羽目になるだろうが……
やっぱりこの世界の女強すぎないか?男でそんな有名な妖怪とか俺知らないんだが……どうなってんだこの世界。
「一つ言わせてもらいますが、ちゃんと自分の名前は柊木だって言わないから悪いんですよ。そりゃあだ名が広まります」
「いや、それはそうなんだが……いや待て、そもそもそんなあだ名広めたのお前と文だろ」
「あ、呼びました?」
「呼んでない」
「帰っていいですよ」
「冷たいし淡白、まあいつものことですけどね……?」
正直近くに盗み聞きしてたのは気づいてたし、急に顔出してきたところで驚くことでもない。
「せっかくだからお前にも聞く。なんで俺のことを足臭呼ばわりする」
「え?足が臭いからですけど?」
「……だぁかぁらぁ……あぁのぉさぁ……嗅がせたことないよな!?」
「いや臭いですし」
「ほら文さんも臭いって言ってる」
俺の足は臭くねえ、ちゃんと毎日気にしてるし。
大体本当に足が臭かったとして、いちいち足臭って呼ぶ必要あるか?ないよな?嫌がらせか?嫌がらせだったわ畜生。
誰に何聞いても同じ答えしか帰ってこない……口裏でも合わせてんのか。そんなに俺をいじりたいかこの野郎。
他の奴も他の奴だ、なんでいちいちこれに乗っかるんだよ嫌がらせか?嫌がらせだったわ畜生。
「まあまあ、そんなの今更じゃないですか。いつの話だと思ってるんですか」
「あぁうん、思えばあのもじゃもじゃと出会ってからだったな。……もしかしてあいつが原因か!?」
「いや柊木さんの足が臭いから」
「もういいってだからさあ!!俺の足は多分臭くねえって何十年も言ってるよな!?」
「多分が付いてるあたりに自信のなさが伺えますね」
「そりゃ何度否定しても臭いって言われるんだから自信無くすわ!」
「大丈夫ですよ柊木さん。足が臭かろうが、臭かろうが、柊木さんは足臭です。私と椛との関係は変わりませんよ」
「それ結局俺の足は臭いし俺は足臭じゃねえかふざけんな。だからお前ら俺の足に関してだけ発言がめちゃくちゃになんのやめろ」
あと足の臭いを延々といじられるような関係は変えたい。
「もう疲れた……くだらねえ発言にいちいち突っ込んでたら一気に体力削れるわ……」
「損な役回りですねー」
「あのさぁ……もういいわ畜生」
「まぁまぁ、機嫌なおしてくださいよ、そして呑みに行きましょう?」
「お前が呑みたいだけだろ」
「椛も行きますよね?」
「文さんが呑みたいだけですよね」
「しょうがないじゃないですか!上司があの人になってから仕事抜け出すのも一苦労なんですよ!?」
「仕事しろや」
「嫌です!大丈夫です今日は柊木さんには迷惑かけません、ちゃんと自制しますので」
自制っていうか、それ自体がおかしいことに気づけ。
毎回毎回酔い潰れるまで酒を呑むっておかしいからな、絶対。
「お願いしますよぉ〜、一人で呑むのは寂しくて嫌なんですよ〜」
「しょうがないですね……」
「しょうがなくないぞ考え直せ」
「いや柊木さんも来るんですよ」
「なんでだ。待て、こっち来るな、おい離せ!せめて問答をしろ!何も言わずに連れてくんじゃねええ!」
「俺って……なんでこんなめちゃくちゃな女たちと一緒にいるんだ……?」
「そういう星の下に生まれたんですよ」
「何言ってるかわからん」
しかし二人とも本当にあまり呑んでない……少しずつ呑んでる。椛なんて一時期は瓶一つそのまま飲み干してたってのに。
「柊木さんは水なんですね」
「酔わないし、味も気にいるのあんまりないからな」
「損してますね」
「俺は潰れるまで呑んで翌日の体調崩す方が損してると思うんだが、なあ?」
「生意気言ってると骨折りますよ」
「なんでだよ」
「そうそう、この前山から降りたら良いことあったんですよ」
「仕事抜け出してか」
「当たり前じゃないですか」
何が当たり前…?いや俺も今更なんだが。
「妖怪の夜雀に出会ったんですけどね?彼女の焼いた八目鰻がこれまたとても美味しくて…」
「仕事抜け出してそんなの食べてたんですか今度連れて行ってください」
「乗るなお前は」
「何やらこの山の河童に用があったらしいんですけど、天狗に追い返され続けてたみたいですね。毛糸さんと、今あの人と一緒にいる河童と協力して屋台作るとか言ってました。それが出来たら行きましょうねー」
「………」
夜雀……天狗に追い返される……
「多分その妖怪追い払ってたの俺だわ」
「え?」
「要件を聞いても河童に用があるとしか言わなかったからずっと追い返し……おいなんだその顔」
二人が無表情のまま近寄ってくる。
「おい待て、何するつもり…」
「何してるんですかー!」
「ちょま、あばっ、首締めるなやめろっ」
「何独断でやらかしてるんですかあんたは」
「いだっ、固め技やめろ、死ぬ、ほんとに死ぬって、うおおぉぉ…」
意識が落ちる直前くらいでやっと解放された。
「ごほっごほっ、なんだよ突然お前ら…気失うかと……」
「なんでもっと早く私たちに言ってくれないんですか!そうすればもっと早く彼女と知り合えたのに!」
「いや知らんわ、向こうだって事情も話してくれなかったし」
「そのくらい判断してくださいよ、そんなだから一番下っ端なんですよ」
「無茶言うな、あとそれ関係ない」
なんだよこいつら……なに、俺が悪いのかこれ。俺は仕事を忠実にこなしてただけのはずなんだが。
なんか割と真面目に腹立ってきたな……
「俺が何されても怒らないと思ってたら大間違いだぞお前らな……」
「折りますよ、骨」
「………なんでもない」
骨は折られたくないな、うん。というか何この暴力的な女……いや、俺の周りにまともな女いなかったわ。
「ま、この件は今度また柊木さんに埋め合わせしてもらうとして」
「ふざけんな」
「この前毛糸さんについての情報をまとめてたんですけどね」
「なんでそんな事を?あの人は別に敵対もしないでしょう」
「いやほら、鴉天狗の仕事って諜報じゃないですけど、似たようなものですし。で、彼女の経歴とか友好関係とか整理してたんですけど…」
「けど?」
「……やっぱりおかしいですよね」
まあ……そうだな。
「えっと、まず毛糸さんの能力というか、そこから話していくんですけど。まずあの人ってそこまで強い能力を持っているわけじゃないですよね」
「そうですね、自身を宙に浮かせる能力。物を浮かせることもできますけど、概念とかその辺に干渉してくるわけじゃないですから」
……俺は硬くなる程度だが、椛は本人の話によると千里先まで見えるらしいからな。ちょっと何言ってるかわからんが。
「ですが彼女は霊力と妖力の両方を持ち合わせています。霊力に関してはそこまでですけど、妖力がもうね……もう……ね」
「なんでただの毛玉があそこまでの妖力をな……」
「あれのどこがただの毛玉なんですか」
そういやそうだった。あれにただの毛玉なんて言葉は似つかわしくないな、異常な毬藻だわ。
「まああの風見幽香の妖力を持ってるらしいんですけど……この時点でもうおかしいですよね、はい」
「どうなってるんですかねあの人の人脈」
「そう、そこなんですよ」
「現時点で気軽に地底に行ったりこの山に来たりしてて既におかしいけどな」
「次はそこまとめますよ?まず妖怪の山に普通に出入りして、地底にも平気な顔して行きます。本人の話だとあの勇儀さんともやり合ったみたいですし、地底でもそれなりにやっていけてるみたいですし……」
……どういう生活してたらそんなことになるんだ。
「そして以前人里にも入ったって言ってました」
「人里にですか?どうやって」
「そこは何故か詳しく教えてくれませんでしたけど、とりあえず入って普通に帰ってきたみたいです」
「おかしいですね」
「おかしいな」
「おかしいですよねぇ……」
完全に妖力を抑えることができたならどうにかなるかもしれないが、あの妖力を自力でどうにかするのは多分不可能だ。ってことは人里の中に繋がりでもあるのか…?
「続けますよ。あの気味の悪いきのこの生えてる森と先が全然見えない竹林のところにも行ったみたいですね。というかしばらくこの辺り留守にしてた間ずっと森にいたらしいですし」
「俺らなんてこの山から離れたところなんかいかねえのにな」
「どこにでも気楽に行ってるあたり流石毛玉ですね」
それこそ俺なんてこの山から出ることとかほぼない。文に関しては仕事抜け出して行ってそうだが。
「まあ、あの人が行ったことあるのってこれくらいらしいんですけど。毛糸さんって何人か凄い知り合いがいるんですよね……」
「まず風見幽香ですよね」
「はい、それに加えてあの八雲紫とも……」
「えぇ……」
「おぉ……」
「本人曰く八雲紫とはそこまでらしいですけど、その式神とはそれなりに会ってるみたいで……というか私も遠くからいるの見たことありますし………」
いや本当に……どうなってんだあいつ。
「つまりですね……毛糸さんを敵に回すとその危険人物達も一緒になってやってくる可能性があるわけで……」
「もしそうなったらこの山終わるな」
「流石に賢者やらがそこまで一人に入れ込むとは思えないですけど、なんなんですかねあの人。関節外しても直ぐに平気そうにしてましたし腕取れても直ぐ生えてくるし」
「毛玉ってそんな生き物でしたっけ」
「というかあいつ毛玉か?」
「あれ妖怪でしょう、というか妖怪であるかすら疑問なんですが」
「時々意味のわからない言葉を発しますし………」
なんなんだあいつ………本当に……
「そしたら毛糸さん必死な顔して私のこと引き止めてきて……いやぁ、病気の人をからかうのは楽しいですねえ!」
「屑じゃねえか」
「なんで私も呼んでくれなかったんですか」
「お前もか」
こうして二人はあと毛玉か怪しい奴の話を肴にして少しづつ酒を飲んでいった。
……本当に暴れなかったなあいつら。
「ぶえっくしょん!!………これで54回目のくしゃみだな。そろそろ死にそう」