毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉と式神の式神の日常

「うぇーい橙久しぶりー」

「いやこの前会ったよね」

「あ、そうだっけ?」

「前に来たのは十日前だな」

「じゃあ久しぶりじゃん、久しぶりー」

「えぇ…」

「えぇ…」

 

藍さんと橙に引かれてるのを感じる。当然だろう、私だって逆の立場だったらなんだこいつって顔するさ。けど私めげない。

 

「じゃあ頼んだ、毛糸」

「はーい、藍さんも頑張ってー」

「………大分緩くなったな」

「堅いよりいいでしょ?」

「まあそうだな。それじゃ」

 

そう、出会って何年もすれば多少喋り方が変でもいいだろう。そもそも私は自分で言うのもなんだが変人だ、まともなフリするのは疲れる。

さっさと藍さんは消えて、橙と二人きりになった。

 

「むぅ……」

「ん?どったの不満そうな顔して。お腹痛い?」

「藍様にそんな喋り方することが許されてるのがどうも……」

「あーなるほど……言うて橙も私に対しては普通に喋ってるし」

「なんであんたに敬語使わなきゃならないの」

「ほら、前はあなただったのに今あんただよほらほら」

「めんどくさっ」

「めんどくさいとか言うなよ泣くぞー」

「泣けば?」

「やだ冷たいこの子」

 

まあ否定はしないけどな、確かに私は面倒くさいし変人だし鬱陶しい。自覚はある、自覚はね。

 

「さあ私が鬱陶しいのは置いといて」

「えぇ…」

「今日は橙に贈り物がありまーす」

「…人形はもういいよ」

「もういいよって何、私一回しか上げてないよね。ってかなに気に入らなかったの?私の知り合いに頼んで作ってもらったんだけど、気に入らなかったの?」

「なんていうか…私にそっくり過ぎて…出来が良すぎて気味が悪くて」

「クオリティが高いに越したことはないでしょうが」

「くお…何?」

 

さすがアリスさん、人が嫌がるほどのクオリティの人形を作る……確かに自分そっくりの人形があったら気味が悪いかもしれない。私に作ってくれたやつより出来良かったもん。

 

「じゃああの人形どうしたのさ」

「燃やした」

「燃やした!?」

「嘘」

「嘘かい!びっくりしたわ……いやいやそれはともかく、はいこれ」

「ん…何この小包」

「人里で買ってきたお菓子」

「あ、この前言ってたやつ?」

「そ。……まあ買ってくれたのは違う人なんだけども」

 

流石に人里に何度も出入りするのは気が引けるので慧音さんに用事を頼んだりしている。たまーに私も行くけどね、たまーに。

 

「おー…本当だ」

「いっぱいあるから藍さんとか紫さんにもあげてね」

「……どこかに隠して独り占め…」

「ダメだよ?」

「ちぇっ」

 

うーん……子供!

なんというか……子供っぽいね、うんうん。

もちろん私は普段妖精とかいうガキンチョどもと一緒にいるけども、橙は妖精とは違ってなんかこう……例えるなら幼稚園児と小学校四年生くらいの差がある。

私のみてきた妖精って、大ちゃん以外のほぼ全員がイタズラ好きの幼稚園児みたいな感じなんだよね……大ちゃんはしっかりし過ぎてるし。

 

「全部終わったら食べていいよ。それまではダメだから」

「早く終わらせよう、早く」

「そんなに食べたいか」

「当たり前でしょ!」

「お、おう。じゃあ始めようか、な?その小包置こうぜ?な?」

 

でも橙も私への態度が随分丸くなったよなぁ……最初なんてそれこそ猫が威嚇するみたいな……いやそうだったっけ?

 

「今日こそは勝つからね!」

「あ、うん、がんばれ」

 

 

 

 

 

 

「よし終わり!やろ!」

「うん早いね、そしていきなりくるなっ!!」

 

いつもやっている訓練が終わった途端に私に飛びかかってきたが、なんとか避けて橙に向き直す。

若い子は元気いっぱいでいいねえ。

 

「言っとくけど不意打ちはノーカンだかんな!」

「正攻法じゃ勝てないんだからいいじゃん!」

「正攻法で勝てるように頑張ってください!不意打ちの技術磨くための訓練じゃないでしょ!」

「不意打ちだって立派な戦術の一つでしょ!」

「いやそうだけども」

「自分が反応できないだけのくせに偉そうなこと言うな!」

「言うじゃねえかクソガキィ!よしわかった私本気出すから、もう後悔しても遅いからな本気出すからな」

「やってみせなよ!」

 

あれ、私沸点低すぎ?

橙は速い、速いというかすばしっこくて捉えにくい。戦闘おいて鈍間の筋肉よりそれなりに素早い筋肉の方が強いことはムキ○クスとベジー○が証明している。

つまるところ早い方が強いのだ。実際文とか引くほど速いから、もし私と文が戦いになったとして勝てるビジョンが見えない。

 

ついでに言うと私は反応速度が遅い。そしてさらに橙がフェイントとか覚えやがるもんだからそれはもう……

 

「おあっ、危なっ……ん?」

 

あれ……おかしいな………橙が1、2、3……あれおっかしいなぁ、私酔っ払ってんのかな。

残像とかそんなんじゃなくて本当に3人くらいいるんだけど…

 

「ちょ、無理無理多いってなにこれ、どこで影分身の術なんか覚えっ、あはあん!!」

 

背中が……背中が痛い……

 

「よーし、私の勝ち」

「え、なに今の、妖術?もしかして妖術なん?」

「うん、幻影」

 

え………すご。

だからさあ!私が教えて欲しいんだけど!?そういうのいいじゃんかっこいいじゃん羨ましいじゃん。

いやでも実際、3人に増えてあの速度で縦横無尽に駆け回られたら厄介この上ない。

 

「えー……すごぉ」

「ふふん!このためにずっと隠れて練習してたんだからね!」

「偉いぃ……」

 

いや、でもやっぱり私もダメだな。

死にかねない相手とかじゃないと気が緩んでなかなか……今回に関しても氷出してルートを制限したり妖力弾ばら撒いたりしてみたりすれば幻だって気づけたかもしれない。

 

「まあ本当は準備に時間が必要で、さっきの訓練の時間に準備してたんだけど……」

「えぇ……いやいや、それでも凄いよ。私そんなの全く使えないもん、氷の棒切れ作って振り回すくらいしかできないからね」

「それあんたが不器用すぎるだけじゃ?」

 

こちとら前世人間だぞ!今世でも毛玉だぞ!そんな難しいことできるわけないだろ!

 

「でも本当の戦いになったら勝てる気がしないんだよね」

「んー、まあそうだね…」

 

橙の今の妖術も初見殺しみたいなところあるけど、私のこの再生力も初見殺しみたいなもんだからな。しかも対処法が確実に急所を狙うくらいしかないって言うね。

まだ心臓とか潰されたことはないけど、よしんば死ななくてもただじゃ済まないだろう。

 

「まあ私なんて頭のおかしいもじゃもじゃだから無視していいよ無視して」

「自分で言う?……それもそうだけどさ」

「私も滅多に相手を殺す気で戦うこともないしね」

 

基本、戦闘不能になるくらいまではやることあるけど、殺そうと思って殺したことはあんまりない。やっぱり話し合いで済むならそれが一番だよね。

それに、ある程度の自己防衛が出来れば、それ以上の力はいらないと思ってる。強い妖怪になればなるほど、誰かを積極的に襲うってこともないから。鬼とかいう戦闘民族は置いといて。

まあ勇儀さんも相手は選ぶ方だとは思うよ?うん。

 

「……それにしても、負けたのにあんまり悔しくなさそう」

「は?めっちゃ悔しいけど?ここで地団駄踏んでやりたいくらいには悔しいけど?まあね、私も子供じゃないからね」

「私と背丈そんなに変わらないじゃん」

「ぅん………」

「そんなことより、勝ったしあれ食べていい?」

「あぁうんいいよ」

「何持ってきてくれたの?」

「開けてのお楽しみー」

 

痛む背中を治しながら小包のもとへ近づいていく橙。箱を出して、一番上のものを開いた。

 

「………」

「どうした、感動で声も出ないか」

「……………なにこれ」

「きゅうり。あだだだだだ、無理無理鼻の穴に入んないって、そんなにでかいの鼻に入らないって。ごめんってその下にちゃんとしたの入ってるから」

「面白くないことやめてよね、本当に」

 

なんでや面白いやろ。

いやしょうもなかったわ。

 

「ふんふんふふーん…………なにこれ」

「マタタビ。いや本当にごめんって、謝るからそんなに冷たい目で私のこと見ないで。次は本当にちゃんとしたもの入ってるから」

「次嘘ついたらその髪むしりとる」

「ひえっ………」

 

そのあと饅頭を見つけたら機嫌が治った。

 

 

 

 

 

「人間ってこんなにいいもの食べてるの……?」

「それ高いんだぞ、マジで」

 

慧音さんに買ってもらってるだけで私は金払ってないけどな!でもまあその度に頼み事とかいろいろ聞いてるから……うん、いつかお金返そう。

 

「私にも一つ……あっはいダメですかわかりました」

「いつも食べてるんだからいいでしょ」

「私もちょっともらう前提で買ってきたんだが?」

「毛糸の分まで私が食べるから安心していいよ」

 

……あぁ、これってアレだ。

親とかおじいちゃんおばあちゃんが小さい子供にいろいろ譲って食べさしてくれるのと同じ状況だ………

そう考えるとみんな優しかったんだなあ………記憶ないけども。

 

「まあいいけどさ……ちなみにこれ餌付けってことに気づいてる?」

「別に好感度上がってないから餌付けじゃないよ」

「あっそ……」

 

嫌われてない、嫌われてないのはわかるんだけどさぁ……

 

「でもせっかく持ってきてあげたんだから感謝くらい」

「ありがと」

「あら適当……」

 

私って舐められやすいみたいなところあるから……まあビクビク怯えられるよりはそっちの方がいいけども。でも私は基本は対等に話したいんだけど。

 

「橙って、紫さんとは会ってるの?」

「うん、時々藍様に合わせてもらってるよ」

「ふーん…紫さんってどんな人?」

「なんでそんなこと聞くの?」

「私はあんまり会ったことないからさ。というかそうそう会える人でもないし……

 

八雲紫、妖怪の賢者の一人らしい。私は他の賢者を全く知らんし、色んな人に聞いても大体紫さんくらいしか名前が出てこないから、だれが賢者なのかとかはあんまり知られていないみたいだ。紫さんが随分オープンなだけかもしれないけども。

 

「うーんそうだなぁ……とにかく凄い人って感じ」

 

そりゃねえ、化け物揃いの幻想郷の管理してるっていうし、藍さんみたいな化け物従えてるし……冬の間は寝てるけど。

 

「でも多分、毛糸が思ってるほど遠い存在でもないと思うよ」

「ん?」

「確かに持ってる力はすごいけど、それ以外は私たちと同じだよ。藍様もそうでしょ?」

「んー」

 

それもそうだ、藍さんも向こうが気を許してくれてからは普通に会話できてるし、幽香さんだってちょっと花への愛が重くて他の人との付き合い方が下手なだけで、怒らせなきゃみんな普通の人なんだろう。

 

「毛糸だって、私からしたら藍様と同じようなものだよ?」

「なんでさ、私なんてあの人と比べたらゴミだよ?道端に落ちてる石ころと同じだよ?」

「それはちょっと卑下しすぎ……私からしたら、ね?」

「私が威厳たっぷりに振る舞ってるところ想像できる?」

「無理」

 

ほらほらほらほら、やっぱそうじゃん。

やっぱり私ってそういう柄じゃないし、そもそも人からもらった力だし、毛玉だし、毛屑だし、元人間だし。確かにそんじょそこらの妖怪とかと比べたら力あるだろうけどさぁ……

やっぱり妖怪的には自分の力を示して恐怖とかを得た方が正しいんだろうけども……あんまりそういうのする気にはならんし。

 

「私って相当変人だからなぁ」

「知ってる」

「否定してくれない?」

「藍様も変なやつって言ってた」

「ぐはっ……まあこのくらいの方が親しみやすいと思うよ私は……」

「それもそうだね〜、そもそもそんな頭して、藍様や紫様みたいにはなれないよね〜」

「おい、今私の頭馬鹿にしたか」

「そう言ったんだけど、そんなこともわからないの?」

「このガ…んんんん!!しょうがないじゃんそういう種族なんだからさあ」

「毛玉って体を持って喋るっけ?」

「もしかして私毛玉だって認知されてない?毛玉のそっくりさんだと思ってる?」

「そっくりというか、自称毛玉の人」

 

………犬耳と尻尾つけたら私も白狼天狗になれるかな………

というか、毛玉ってなんだよ、なんの精霊だよ意味わからんわ、存在価値皆無だろあれ。そのうち存在忘れ去られてこの世から消えるぞあいつ。

あれ、そうなった場合私も消える…?あ、私毛玉のそっくりさんだったわ。

 

「へへへ……どーせ私なんて……」

「あむ……ちょっとだけ隠しておいて後にとっておこ……」

「知らんからな私は、藍さんに何言われても知らんからな」

 

小屋の中にちょっとだけお菓子を持って行った橙。

………ひとつくらい…食べてもバレへんか。

 

橙が見てない間にサッと饅頭に手を伸ばす。

 

「ん?おい橙隠すのも食べるのもその辺に………」

 

何かに手が当たった、感覚的には人の肌だ。私はそれを感じて橙が戻ってきたのかと思ったが違かった。

空間に裂け目ができ、そこから手が伸びていたのだ、手だけが。

 

「ぉっっっ!!!???」

「あら、ごめんあそばせ」

「そっそそっその声ぇはぁ………」

「我慢できなくって、ついね」

「は、はぁ………」

「じゃ、これからも橙のことよろしくねー」

「あ……」

 

饅頭を一個握って手が引っ込んで行ってしまった。

 

………心臓止まるかと思った…マジでびっくりした……全身ビクってなって全身の毛が逆立った……

 

「ん?どうしたの、何かに怯えてるみたいだけど」

「い、いいいや別にな何もなかったけど!?」

「………あっそ」

 

………もしかして私、こういうドッキリみたいなの苦手……?


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