毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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ちょっと遠出する毛玉一行

「今度みんなで紅葉狩りに行くことにしたんですよ」

「大丈夫なん?あいつ強いぞ?」

「いやそうじゃなくて……紅葉って、そっちじゃないです、葉っぱの方の紅葉です。ってか分かっていってますよね?」

「ほーん、楽しんでねー」

「いや誘いに来たんですけど」

「え、やだ私死にたくない」

「だから違いますって……もういいや説明しますよ」

 

ひたすらボケてたら呆れられた、解せぬ。

いつものように突然押しかけて来た文、なんか私を暗殺計画に組み込みたいらしい。

 

「今度私たち天狗が長めの休暇をもらえることになりまして、せっかくだし何人か誘って何かしようかと考えまして、何日か野営することになると思うんですけど、どうです?他の方も誘ってくれて構いませんし、楽しそうじゃないですか?」

「とか言って本当は〜?」

「お酒呑みたいだけ〜」

「はっはっは」

「えへへ〜」

「断る」

「とか言って本当は〜?」

「行く」

「よし来た」

 

他のやつも誘っていいって言ってたな……うーむ、アリスさんは…なんか違うか?本人が普通に断りそうだな、あの人森からあんまし出てこないし。

幽香さんは他のやつが怯えるからダメ……地底も論外……あれ、選択肢が全然ないぞ……?

 

「あいつら誘うか……」

「お?誰です?」

「チルノと大ちゃん」

「あ、なるほど。いいんじゃないですか?」

 

思えばこういうこと誘うことってなかったな……毎日のように顔合わせてるせいかな。

 

「じゃ、開始は明後日なんで当日になったら昼くらいにはにとりさんのところに行ってくださいね、準備よろしくお願いしますよー」

「え?なにあいつらも行くの?あ、もういないわ早すぎ」

 

……まあ変なことは起こらんやろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたいこの山登るの初めてだ」

「あ、そうなの。大ちゃんも?」

「そうですね、というか基本この山に近づく人いませんからね。それこそ毛糸さんくらいじゃないですか?」

「つまり毛糸は変人ってことか」

「やめろそれを言うな、特にお前に言われると腹立つ」

 

チルノと大ちゃんを連れて山を徒歩で登る。空飛んでると天狗に絡まれやすいし、見慣れない妖精が見つかったらややこしいことになること間違いないから。

 

二人とも山との交流はないみたいだけど、文とは面識があるみたいだし、多分にとりんが来るならるりも一緒だろう。るりなら二人も結構会ってるしね。

 

「というか毛糸さん大荷物ですね」

「そら二人の分も持って来てるからな」

「あ、何も用意しなくていいってそういうこと……」

「いいぞそれでこそ子分だ」

「へいへい……まあ浮かせられるからね、私が全部背負った方が楽でしょ」

 

普通に私の体より随分大きい荷物を背負っている。

野営って言ってたし、要するにキャンプってことだ。キャンプ舐めんなよ、結構いろいろ荷物いるからな、道具揃えようと思ったらみんなが思ってるより費用掛かるからな!

まあるりがいた頃に作ってもらったものとか、にとりんからもらったものがほとんどなんだけど……

 

「まあ向こうでも用意されてるかもとは思ったけど……まあされてたらされてたで持ってるの使えばいいしな」

「それでも言ってくれれば私たちで用意したのに…」

「二人を誘ったの私だから私が用意したほうがいいかと」

「やっと子分が板について来たな」

「大ちゃんこいつ叩いていい?」

「駄目です」

 

チッ、命拾いしたな。

 

 

 

 

 

 

 

文に言われた通りに河童のところにくると、にとりん達が待っていた。

 

「あ、来た来た、おーい毛糸ー」

「あれ、もう全員揃ってんの?最後だったか、待たせた?」

「いや全然、みんなついさっき来たばかりだよ。あ、一人だけめっちゃ早く来てるやついたな」

 

そう言ったにとりんの視線の先には柊木さんがいた。

 

「嘘……だろ?まさか浮かれて……」

「ちげーよ、こいつらに夜明けから出発って嘘つかれたんだよ」

「いやはや、一人だけずっと待ってて感情を失った顔をしてた時は笑い転げるかと思いましたよ」

「普通に考えて夜明けから行くわけないじゃないですか。流石に早すぎるでしょう、まさか私も律儀に言った通りにするとは思いませんでしたよ」

「お前ら性格悪いな……」

 

一人でずっと立ちすくんでる柊木さんのこと想像したら笑えて来た。

うん、あとで励ましてあげよう。

 

というか毛糸さん、その荷物どうしたんですか」

「あ、私たち三人分の荷物」

「一人で持ってるんですか?」

「その方が楽だし」

「ふーん………」

 

………文、なんか変なこと考えてない?

 

「よーし、それじゃあ全員揃いましたし出発しましょうか!」

「………」

 

誰も文のその言葉に反応することなく歩きだした。

 

「打ち合わせでもしたんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地に向かって歩きだしたあたりで、全員の視線がこっちに向いた。

 

「………なに」

「じゃあ毛糸さん私の荷物頼みますよ」

「え?」

「私もお願いします」

「は?」

「俺も」

「柊木さん?」

「私も頼むよ」

「ちょ」

「あたしも」

「まっ…」

 

 

 

「………どうするんだよこれ、大岩くらいの大きさになっちまったじゃねえか」

「いいじゃないですか、浮かせられるんだから」

「文お前これ空気抵抗バカにならんからな?………まさか私を呼んだ理由って荷物持ちやらせるためか!?」

「………」

「なんか言えよ。……なんか言えよ!」

「やっぱり毛糸はどこまで行っても子分なんだな!」

「よし自称最強なら持てよ、最強だから持てるだろ?あ?」

 

ったくさぁ……文と椛とにとりんはともかく、柊木さんとるりまでやってくるとは……二人はまともだと信じていたのに!そんなに荷物を持ちたくないのかお前らは!キャンプ舐めんな!

 

「……というか、なんで徒歩?」

「周りの風景見ながら進みたいじゃないですか」

「お、おう……」

 

……あれ、これキャンプしに行くんじゃなかったな。紅葉狩りに行くんだったな。

紅葉……まあ妖怪の山も大分橙色に染まるけど、なんでわざわざ他のところに行ってそんなものを見に行くのやら。

 

「……るり、これどこに向かってんの?」

「なんか幻想郷の端っこら辺に向かってるらしいです」

「そこがいいの?」

「なんか秋の神様?みたいなのがそこがおすすめって言ってたみたいで」

「神様!?」

 

オイオイオイオイ、とうとう神まで出て来ちまったのか。終わったな幻想郷。

 

「あたしもよく知らないんですけど。なんか姉妹の神様?みたいで、そんなに有名じゃないみたいですけどね」

「へ、へぇ……」

 

……魑魅魍魎が跋扈するこの幻想郷、神様がいたっておかしくないな、うん。神がなんぼのもんじゃい、どうせ信仰心なかったら存在維持できないとかそんなんだろ。

 

「にとりんとはどう?」

「どうって、何がですか?いつも通りですけど」

「そっか」

 

 

 

 

 

 

…というか、この荷物浮かせられるとはいえ霊力がじみーに消費されていくのがちょっと気になる……

荷物持つためだけに霊力消費していざというときに戦えないとか洒落にもならないよマジで。

……まあこんだけ人数いるんだから基本何が起こってもなんとかなるか。

 

「歩くの疲れたー」

「おいチルノなに荷物の上に乗ってんだ」

「じゃあ私も…」

「大ちゃん!?………まあいいや」

 

いいけど……なんか……みんな私いじめられてない?なんかしたかな……いつにもまして扱いがひどい気がする…と思ったけどいつもこんなもんだったな、うんうん。

 

「あ、お前らは乗らせねーからな」

「まりも号はあたいと大ちゃんだけの船だぞ」

「ふざけんなせめて毛玉号にしろ」

 

いやでもさぁ……木の枝に引っかからないようにしないといけないし、結構神経使うんだけどこれ。

というか、浮かせたのを持つだけなら誰でもできるよねぇ……

 

「柊木さん」

「無理」

「即答!?何も喋ってないけど!?」

「無理」

「それしか言えんのか」

「無理」

「あ、はい、わかりました」

 

あいつ後で仕返ししてやるからな……靴の中凍らしたる。

 

「あ、皆さん見てください、妖怪の山があんなに遠いですよ」

「本当だ、結構遠くまで来たんですね」

「俺こんなとこまで来たの初めてだわ……」

「うちの山ってあんなに大きかったんだね……」

「天狗の支配領域以外のところもあるみたいですからね、あたしもろくに外に出たことないけど」

「おー……いやめっちゃ高いなあの山」

 

生で富士山とか見た記憶もないし、妖怪の山をてっぺんまで登ったこともないけどとりあえず高いってことはわかる。

空飛べるようになってそういうこととか考えなかったな。

 

「あと半分くらいですけど……もうちょっと進んだら野営の準備始めましょうか」

 

あと半分、やはり幻想郷は狭かった。

というか山がデカすぎて距離の感覚とか狂うのかもしれない。

 

「水場の確保…と思ったけど、チルノちゃんと毛糸さんがいるから大丈夫そうですね」

「あたいに任せろ」

「ねえなに、氷溶かして使うつもりなの?」

「何か問題でも?」

「いや別に……」

 

やっぱり私、荷物運びと水確保のために呼ばれたのでは…?

確かに私とチルノの氷って、魔法みたいに生成するというよりは冷気を操って作ってる感じだから品質的には問題がない……のか?

軟水とか硬水とかあるけども。

水素水とかってどういう感じなんだっけ?全く詳しくないし覚えとらんから考えるだけ無駄だけども。

 

「文さん、ここちょっと進んだ辺りで開けてる場所がありますよ。ちょっと道逸れますけどそこにします?」

「流石椛、そうしましょうか」

 

千里眼だっけ、便利だよなー……私もそういうの欲しい。

こう、邪眼とまでは言わないけど、厨二病チックなものが私にも欲しい。なんやねん浮かせるって、どの辺が厨二やねん、空飛ぶとか殆どの妖怪にデフォルトでついとるでほんま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先行する椛に全員でついていくと、本当にちょうどよさげな場所が見つかった。とりあえずここで野営することに決まったらしい。

 

「じゃ、荷物下ろしてくれていいよ毛糸」

「あ、そう?それじゃあ遠慮なくオラァ!!」

「待て待て待て待て!……いやめっちゃ丁寧だな。掛け声だけかい」

 

声だけ大きくしたけどめっちゃ丁寧に荷物を下ろした。

 

「まだ浮かしておいてよ、無理やり縛ってまとめて浮かしてるから辺に動かしたら崩れそうだし」

「うーい」

 

ふぅ……重さは大して感じてないはずだけど不思議と体が軽い。重い荷物下ろしたら体が軽くなったような、そんな感じ。

 

「はーい皆さんこっち向いてくださーい」

「今更だけどなんでお前が仕切ってんだよ」

「愚問ですね柊木さん、それはもちろん私が優秀だからですよ」

 

全員何も喋らなかった。

 

「……おほん、えーとですね、野営のためにいろいろすることがあるので役割分担していきますね。とりあえず今のところは設営班と食料調達とか資材とかの収集班の二つです」

「食料って持って来てないのん?荷物運んでる時入ってた気がするけど」

「あれは保存食ですから、いざというときの為に取っておいた方がいいと思いまして。あとせっかくだからこの場で料理したいじゃないですか」

「なるほどキャンプ飯か、気に入った」

「きゃん……まあ多分それです」

 

それにしても、全員分作るってなると………8人分?結構な人数だな……この中に大食いとかいなくてよかったよ。

 

「とりあえず二つに分かれてもらうんですけど……にとりさんとるりさんは設営の方に行ってくれます?」

「あいよー」

「後は……もう適当に割り振っちゃいますね」

 

文が適当に割り振った結果、設営は二人いたら十分ということでるりとにとりんだけになった。

食料に関しては私とチルノと柊木さん、資材に関しては椛と大ちゃんになった。

うん!適当すぎ!

 

「お前もあたいの子分にしてやろうか」

「なんだこいつ」

「ただのバカだから安心していいよ」

「なるほど」

 

そして椛と大ちゃんだけど……まあ……うん………

 

「頑張れ大ちゃん」

「頑張るんだぞ大ちゃん」

「う、うん…」

 

椛が大ちゃんに何もしないことを祈る。いや流石に何もしないだろうけど、主に私と柊木さんに対しての前科があるから心配になる。

まあ大ちゃんは頭いいからなんとかなるっしょ、椛も相手は選ぶからね、多分。

あと、余った文は周囲の散策係にしてやった。さりげなく自分の仕事無くそうとしてた。

 

「よし、じゃあ早速始めましょうか、時間かかってもいいですけど収集班の方々は日が暮れる前には戻って来てくださいねー」

「お前らあたいに続けー!」

「ちょ、待てチルノ!」

「なんだあいつ」

「よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします…」

「さてと、私は皆さんのことを上空から見守るとしますかねー」

 

 

 

 

 

 

「なんか………みんな楽しそうで羨ましい…」

「そうだね……」

 

黙々と設営の作業をする河童二人であった。


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