毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉の災難な日々

「大ちゃんみてみてこれ」

「なに?」

「じゃーん、死体」

「えぇ………埋めてあげなよ」

「みょうに頭が毛むくじゃらだったから」

「あっ」

 

目の前の妙に頭が毛むくじゃらな死体、それを見た大妖精、死体を蹴っ飛ばす。

 

「——いって!?誰だ気持ちよく寝てるやつを蹴る奴は!?」

「あ、生きてたのか」

「なんであなたはいっつも死にかけてるんですか」

「うんごめんね!でも蹴るのはないでしょ!?怪我人だよ!?重傷者蹴るなよ!ってか本当に死んでたとしても蹴るなよ!オーバーキルだわ!酷いよ!死体蹴り!」

「怪我、ないですけど?」

「………はっ」

 

塞がってた。

 

「というか血生臭いんですよ」

「しょうがないね、ちょっとワンちゃんと鳥公ファイヤーしてきたからね。あと血流したし」

 

じゃあ湖に浸かってこようかな。

まぁ無事でよかった。

いや、無事ではなかったな、死にかけてたわ。

 

一瞬、口の中で鉄の味がした。

血が口から出てきそうになった。

傷は塞がったけど体の中はズタボロとかそういう系?ともかく体洗わなきゃ………

 

 

 

 

服を脱ぎ、全裸で湖の中に頭だけ出しながら考える。

結局傷は塞がった、死んだかと思ってたけど。

というか、あの状態から死なないのおかしいよね?流石人外。

傷が塞がったのって、なんでだろう?

霊力消費したとか?

いや、妖力かもしれない。

でも使った量とか調べようにも、寝る前の詳しい妖力量とか覚えてない。

試しにやってみる?

 

湖に浮かんでる小枝。

なんかすごい尖ってるんだけど、殺意高くない?

その尖ってる部分を、左手の中指に刺してみる。

ちょっとした痛みの後血が滲み出てきた。

放っておいても塞がるだろうけど、霊力を指に集めてみる。

………あ、塞がった。

じゃあ霊力を消費して傷が治ってたってことか。

妖力は………怖いからまた今度。

まぁ私のちっぽけな霊力量で本当にあの大怪我塞げたのかは疑わしいけど。

もう血落ちたかな?

 

「いてっ………」

 

傷かと思ったらサカナァ………魚が私の足にしゃぶりついてきよった。

ええ度胸やないかいわれぇ………

足から霊力を放ち魚の口の中で大きな氷塊を作る。

口の中で氷塊をつまらせた魚が足から離れたので、水の中に潜って口を両手で掴んで地面の上に放り投げる。

 

「獲ったどー」

 

言ってみたかった。

てか、最初から素潜りすればよかったんじゃ……私って本当バカ。

いやでも、こう、魚を突くやつ。

なんだっけ、もり?銛だっけ?あーゆーのないからできないってことだったから………でも今手掴みで出来てるよね?

後悔先に立たず、今生きてるんだからそれで良いジャマイカ。

とりあえず焼いてやるからなこの魚クンがよぉ、美味しくいただいてやるわ。

 

 

 

 

えっと………火……火、どうしよう………

流石に刺身はなんかいやだから、焼いて食べてやろうかと思ったんだけど………

どうやって火を起こすんだ……

手ごろな木の枝を棒の形にして、木材の上で回し続ける。

飽きた疲れた寝たい。

誰か私にチャッ○マンをくれ、火をくれ、文明をくれ。

寝そべってこのもやはビチビチ跳ねなくなった魚をどうするか考える。

 

「なにしてるんだ?」

「ん?チルノかぁ。この魚を焼く方法を考えてる」

「凍らしていい?」

「ダメ」

「ちぇ」

 

見たもの全てを凍らそうとするのやめようよ。

目と目があったら凍らしてきそう、新手のポケ○ントレーナーかな?

 

「そんな魚食べなきゃいけないなんて、かわいそうなやつだな」

「頭が可哀想な奴に言われたくない。ってか食べたことあるの?」

「髪の毛がかわいそうなやつに言われたくないぞ。友達がそれを食べて吐いてた」

「凍らして良いよ」

「やった!」

 

吐くって………吐くってどんだけやねん、相当やぞ。

私が食べたらどうなるか………血反吐かなー。

意気揚々と死んだ魚を手から出る冷気で凍らすチルノ。

そういやポケモ○を氷漬けにしてコレクションするサイコパスおばさんがいたような………

 

「チルノ、クラゲからは逃げるんだぞ」

「お?どうしたんだ急に、頭打ったのか?」

「年中頭打ってる奴に言われたくない………聞いてねえや」

 

おいなに凍った魚でカーリングしてんだよ楽しそうだな、私にもやらせなさい。

 

「チルノ、そういえば聞きたいことあったんだけどさ」

「お?なんだ?」

「あの金髪美少女、誰」

 

さっきから木の影でめっちゃこっちを見てる、赤い髪飾りをつけた赤い目の金髪美少女。

よだれ垂れてますよー。

 

「あれはルーミアだぞ、妖怪」

「はぁ、妖怪さんですか」

「よんだー?」

 

超速でこっちきよった。

な、なんて早い動き、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

というか、これまたバカそうな………

 

「お姉さん食べていい?」

「お姉さん毛玉だから、食べると喉つまらせて死んじゃうよ」

「そーなのかー」

「なにそのポーズ、流行らないよ?」

「流行れー」

 

目と目があったら捕食ですか、新手のハンターかな?ナルガクル○狩ってそう。

 

「ところでその魚、食べていいのかー?」

「いいけどお腹壊しても知らないよ?」

「いただきますなのだー」

「聞いてねー」

「ごちそうさまなのだー」

 

なん…………………だと…………!!

食べるのが早すぎる………その魚凍ってるんだよ?なんて奴だ。

 

「ルーミアはたしか人間早食い大会でぶっちぎりの一位だったぞ。さすがのあたいもあれは引いた」

「うげ……なにその大会、よく直視できたね」

「見てない、感じた」

 

目が悟り開いてる………チルノが扉開いちゃってるよ。

 

「じゃさらばー」

 

帰るのも早いなー。

突然ルーミアの周りが暗くなっていく。

少し経つとルーミアの周りが円形状に暗闇に包まれた。

な、に、そ、れ。

 

「あんな感じにになったルーミアは食べ物を探してるんだぞ」

「へー、あの状態どっかで見たような………」

 

あ、クリー○だ、ヴァニ○・アイスのあれだ。

新手のス○ンド使いだなてめー、てめーアヴ○ゥルをガオンする気だろ、○ギー蹴り殺す気かてめー。

 

「食べ物って、人間?」

「うん」

「oh………」

 

ま、まぁわかってたけど、日常的に人が喰われてるってなると………なかなかくるものがある。

あと一個だけ干し肉あるし、しゃぶっとこう。

 

「あ、そうだこれ忘れてた、はい。」

「ん?あ、花冠か」

 

そういや忘れてたなぁ。

これ、大きさ的にもう頭つけれないんだよ、腕に巻くにも大きすぎるし。

 

「チルノいらない?」

「いらない、お花化け物に目をつけられたくない」

「だよねぇ」

 

チルノの頭ならフィットするかと思ったんだけど………どっちにしろ小さいか。

なんで枯れないのかなって思ったら、妖力が染み付いてらっしゃるし………多分幽香さん妖力これに流し込みまくったよね?

………二つに変えるか。

茎と茎が巻かれているところを二箇所解いて、それぞれで繋ぎ直す。

手首に巻くといい感じにハマった。

このままでいいや、もう適当で。

 

「じゃああたいはもういくぞ」

「なぁチルノ」

「なに?」

「妖精って死ぬの?」

「死んでも生き返る」

「へー」

 

へ?あ、へ?

生き返るんか………妖精生き返るんか………じゃあもし私死んでも生き返る可能性が………それを試す気にはならないけどさ!

 

 

 

そろそろ暗くなってきたなー。

あのあと、湖と睨めっこして魚を見つけたら飛び込んで殺意満点の枝で刺して捕まえてたんだけど、あのゲテモノ魚しか手に入らなかった。

え?その魚どうしたのかって?

ポイ捨てしてきた。

まぁ今日はとりあえず寝るとしよう。

寝る場所もい外でグースカ寝てルーミア間に襲われるかもわかんないけど、寝る場所がないからしょうがない。

あ、ゲテモノ魚は一尾だけ取っといた。

大ちゃんなら美味しい調理方法知ってるかもしれない。

 

 

湖から離れて森の中へ入った。

今までに感じたことのない、誰かに見られているような感覚。

冷や汗………足をすこしづつ早めていく。

今すぐ駆け出してこの場を抜け出したいけど、そんなことをしたら急に襲われるかもしれない。

 

連日命の取り合いするとか、本当に勘弁して…

 

「——ッ!?」

 

とっさに体を浮かして霊力を放出しその場を離れる。

持ってた魚が抉れた。

尻尾を持ってたから頭の方を持ってかれた。

いや、魚はどうでもいい、どっからきた。

背筋が凍る。

その場を離れると、近くにあった木が突然倒れてきた。

腐食してたって感じでもない、攻撃によって倒された。

見えないどこだどこだ。

木に囲まれてると確認しようにもできない。

飛び上がって木の上に浮かぶ。

すると私を襲ってきた奴も一緒に浮かんできた。

いつの間にか日も落ちて、月明かりが木々を照らしている。

そんな中、明らかにそこだけ真っ暗な空間があった。

暗黒空間かな?というか暗黒空間だよね。

というか、闇だ。

昼間見たルーミア?いやでも、雰囲気が違う。

殺意剥き出しだし………でもあの形は昼間と同じなんだけど、どうなってんだ。

黒い球体がこっちに突進してくる。

月からの光のおかげでなんとか見れる。

霊力を放出して回避し続ける。

当たったら終わる、そんな緊張感がやってくる。

なんども避け続けていると、急に黒い球体が下の森の中へ消えた、その隙にその場を離れる。

さっさと逃げなければ、クリー○とやりあうとか絶対にお断りだ。

 

「逃さないよ」

 

聞いたことのある声

その直後、背中に焼かれたような痛みが襲った。

痛い、痛すぎて声も出ない。

とっさに振り向いてその顔を確認する。

 

「やっぱり、お前かいっ」

 

金色の髪に、赤い目。

だけど、昼間見たあの幼い顔とはかけ離れた顔。

笑みを浮かべながら、冷たい目で私を見ていた。

体を捻って足のつま先から霊力を放出、かかとでその顔を捉える。

柔らかい感触、そのままかかとが回って一回転した。

相手の確認をするより背中の痛みをどうするかを考える。

どんな攻撃を喰らった?傷の程度は?

ガオンされなかっただけましか。

霊力を背中に集中させる。

といっても傷の程度が分からなくて、どういう風に集中させたらいいか全く分からない。

 

「いたた………やるねぇ」

「見逃せ」

「断る」

「それを断る」

「無理だね」

 

周囲の闇を払ったルーミアが顔を出す。

背中の痛みが少しだけ引いた気がする。

 

「あたしは一度狙った獲物は逃さないって決めてるんだよ」

「獲物じゃねえよ毛玉だよ」

「獲物だろ?」

 

昼間会ったのになんでそんなに私のこと襲ってくるんだよ、ひどくない?

 

「さっき会ったの、覚えてない?」

「ん?知らないねぇ」

「というかルーミアだよね?」

「そうだよ」

 

多重人格者かおめーよー………そーゆーのもういいからあり溢れてるから、そーゆーキャラ付けもういいからぁ。

 

「あ、もしかして昼間会ったのか?」

「そうそう、思い出した?」

「いや、記憶にない」

「な、ん、で、や」

「こいつのせいだよ」

 

そういうと、頭につけたリボンを指差して話し始めた。

 

「こいつは昔派手にやった時につけられたもんで、一種のお札みたいなもんだな。ずっと封印されてて、お前が見たときみたいな感じになってたんだけどな。最近効果が弱まってきたみたいでなぁ、時々、夜の間だけこうやって本当の私が出てくるんだよ」

「話長い、わかりやすく言え」

「お前馬鹿だろ」

 

あら分かりやすい。

背中の痛みで頭が働かないんだよ察しやがれこんのパツキンがぁ。

 

「おっと、今から食う相手に長話しすぎたな。じゃ、足掻くだけ足掻いてくれよ」

「生命力ゴキブリなめんなよ、生きて生きて、家具の隙間に逃げ込んでやるわ」

「いいねぇ、やってみなよ」

 

闇に包まれてなければ姿が見える。

逃げるのは多分無理、追いつかれて追撃くらって死ねる。

じゃあ交戦するしかないわけだ。

食らえ!イメトレの成果!

うおおおおお!!

霊力を固めて氷塊にして宙に浮かばせる。

 

「エターナル○リザード!」

「いや、当たらんわ」

 

スルッと避けられた。

なんでやそこは当たれや!キーパー技だせよ!ゴールネットに入っちゃうでしょーが!

体を浮かして突っ込む。

右手を振りかぶって迎え打とうとするルーミア。

恐ろしく鋭いその爪が私の首を突き刺そうとした瞬間。

毛玉状態になって避けた。

もう一度人の形になり、ルーミアの頭を両手で掴む。

霊力を流し、浮かしながらそのまま前へと投げて地面へと叩きつけた。

反撃される前に両手を踏みつけて凍らし、忍ばせておいた短剣を首に突きつける。

 

「どうした、やらないのか?」

「刺しても死なないよね?」

「死なない」

「じゃあ私今から帰るから、襲わないでくれない?」

「え?」

 

お、どうしたそんな変な顔して、口閉じなよ。

よほど予想外の言葉だったのか、十秒くらいそのままの状態で固まってた。

 

「お前………変な奴だな」

「知ってるわ」

「あはは!いいよ行けよ。お前は今すぐ食うよりとっておいた方が美味しくなりそうだ。私が油断したのを見逃してくれるってんだからな」

「いや食うなよ」

 

あー背中痛い。

 

「じゃ、そゆことで、もう襲ってくんなよ」

「今は襲わんよ、今はね」

 

一生襲ってくんなって言ってんの、わかんない?

霊力を背中に集中する。

早く治ってくんないかな………

 

「あとお前、若いだろ」

「え?あ、まぁ、そうなのかな?」

「そんな力じゃなくて、妖力使ってみな」

「そんな力?妖力?」

「いいから」

 

じゃあ………

体の中で散らばっている妖力を背中へと集中する。

すると一瞬で痛みが引いた。

 

「え?どういうこと?」

「はは、思った通りだ」

「思った通りってなに!ちょ!教えて!」

「じゃあな毛玉さんよ!」

 

あ、もう氷砕いて行きよった………

 

さっきのはあっちが完全に舐めてたから勝てたようなものだし………

妖力についてもまだまだ知らないことだらけだ。

 

流石に明日は襲われないよね?

つか早く帰ろう、また大ちゃんに蹴られる。


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