毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉は面倒くさい

「よーし捕まえた……お前さー、ひょいひょい動くんじゃないよ、はぐれたらどーすんの」

「離せ!」

「離さぬ」

「なんだこいつら……」

 

柊木さんからの視線が痛いのだが、これも全部チルノのせいだこのクソガキめ。

 

「というか道具とか全部忘れたんだけど、どこかのバカが突っ走るせいで」

「あたいのせいだってのか!?」

「おうそうだよ」

「落ち着けお前ら。流石にこの人数で8人分の食料集めるのは厳しいから、さっき椛に食べれそうな木の実とかあったら集めてくれって頼んでおいた」

「流石柊木できる男」

「ほめてつかわそう」

「なんだこいつら………」

 

褒めてやったらさらに引かれた、解せぬ。

 

「とにかく、解体とかは戻ってすればいいからな、俺たちは食べれそうなものを集めつつ獲物を狩ることを重点的にしたほうがいいだろう」

「やだこの足臭……なんか仕切っててうざい」

「お前らに任せたら始まらんだろ」

「否定はしないが腹立つ」

 

しかしまあ……日が暮れるまでそれなりに時間はあるけど、運が悪かったら動物も見つからんからなぁ…

 

「毛糸ー」

「ん?」

 

そういえばチルノがまたどこかに行っていたと思ったら、ちょっと離れたところから声がした。

柊木さんと一緒に向かってみる。

 

「こいつ捕まえた」

「あらかわいいウサちゃん……野ウサギか」

「よしでかした仕留めろ」

「なっ……」

 

何を言っとるんだこの足臭は……

 

「こ、こんなに可愛いウサギを殺すってのか!?」

「俺たちが生きる為だ、こいつは所詮俺たちに食われる側の弱者なんだよ」

「そんな……そんな酷いことなんで考えられるんだよ!」

「急にどうしたお前」

「あのつぶらな瞳が見えないってのか!?」

「殺せば死んだ目になるからな」

「この鬼!鬼畜!足臭!」

「足関係ないだろ」

 

ダメだこいつ完全に食う気でいやがる……なにか、何かないのか……

 

「………あっ、そういえばウサギって下処理くっそめんどくさいらしいよ」

「よし逃がせ」

「わかったー」

「判断早くない…?」

「あんなちっさいのに拘っててもな」

「oh……柊木さんらしいっちゃらしいわ」

 

なんだっけジビエ?だっけ?よく覚えてないけどなんかやたらと工程踏まなきゃいけない料理だった気がする。

もしかしたら私が今まで食べてきた肉もジビエとかにしなきゃいけないやつとかあったのか…?

 

というか、よくそんな知識覚えてるな、もう数百年は経ってるだろうに。不思議と前世の知識はなくならない……まあいいや。

 

「はぁ…これで結局振り出しか。俺山以外の地理全く詳しくないからな……どうするか」

「デカイやつ見つけたら死ぬ気で追うしかないかな……それが妖怪じゃなきゃいいんだけど」

 

妖怪を食べるって……まあできなくはないけど普通の奴はしない。基本そいつの妖力が混ざったりしてて体調を崩しかねない。

一部のやつはするけどね、一部のやつは。

 

「チルノなんか見なかった?」

「向こうのほうでいのしし見たいなの見たぞ」

「それを早くいえやガキンチョおおおお!」

「追え!すぐに追え!絶対に仕留めろ!」

「あたいに任せろおおお!!」

「待てチルノお前は先行するな!ロクなことになる気がしない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これとかどうです?」

「あ、それは大丈夫ですね」

「分かりました」

 

椛さん……思ってたよりは安全そう……

 

「私野草とかの知識あんまりないのであなたがいてくれて助かってます」

「椛さんも見つけるの上手ですよ、私なんか判別してるだけで」

「それでうまく行ってるんだからいいじゃないですか。適当に選んでるようで実は考えてるんですかねあの人」

「さぁ……」

 

椛さんが手際良く植物を持ってきて私がそれに毒とかがないか見分ける。それが続いて既に結構な量が集まってきている。

 

「それにしてもすっかり食べられるもの集めてるだけになっちゃってませんか…?」

「仕方ないですよ、あの三人だけで全員分の食料を集めるのは間違いなく無理でしょうし」

「……向こうの方はどうなってると思います?」

「私も位置がわからないと見えないんですけど…まあ大方怒鳴り合いながら獲物と追いかけっこでもしてるんじゃないですか」

 

私にも容易にその様子が想像できる…まあ毛糸さんがいるからめちゃくちゃなことは起こらないと思う……思いたい。

 

「次は向こうの方に」

「しっ」

「え?」

 

私が次の場所を示すと椛さんに静止された。

 

「じっとしててくださいよ……」

 

そう言うと弓を取り出して矢を構え、木の上の方にいた何かを射抜いた。射抜かれたそれは叫びを上げて地面へと落下した。

 

「鳥がいたので」

「あ、はい」

「食べられるかどうかはわかりませんけど……とりあえず一旦持って帰りましょうか」

「そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いたそこそこ!」

「どこだよ!」

「そこだって言ってんだろ間抜け天狗!」

「無理があるわ!!」

「あーあ逃げられた、ようやく一匹目ゲットできそうだったのに。はい全部足臭のせいでーす、こいつが全部悪いでーす」

「お前なぁ……」

「ちゃんとはたらけ子分ども!」

「引っ叩くぞバカ!」

 

あー上手くいかない、ぜんっぜん上手くいかない。なんでや私普段はここまで手こずらないんだけど。

 

「誰のせいだよマジでさぁ…」

「見つけた瞬間に大声を上げたお前のせい」

「それは素直にごめん」

 

いやー、人数増えると気分が上がって……椛来た時は向こうも冷静だったから私も落ち着いてたんだけど……

 

「なあとりあえず落ち着け。こういうのってまず気付かれずに一撃で仕留めるのが基本だろ?」

「そうだなぁ……」

 

んー…やっぱり道具を忘れたのがなかなか……じゃあやっぱりチルノのせいじゃん。

 

「しょうがない、私のこの氷で貫くしかないか」

「跡形も無くなりそうだからやめろ」

「流石にそんなに威力ないよ!?私のことなんだと思ってるの!?」

「毬藻」

「まりも」

「よーしお前らそこに並べ引っ叩いてやる」

 

「なあお前ら、そろそろ真面目にやろう。帰ってあいつらに白い目で見られたくないだろう」

「そうだな、真面目にやろうそうしよう」

「あたいに任せておけ」

 

うーん、絶対に任せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私たちはなんとか猪を一匹ぶっ殺してにとりんたちのもとに戻った。

 

「なにその……なっ……」

「あ、大丈夫でした?」

 

帰ってくると、大量の木の実や植物それに数体の動物の死体が積まれていた。

 

「だ、大ちゃん、あれなに」

「私と椛さんでとってきたものですけど……」

 

………え?

たった2人で?あれだけの量を?

私たち3人はこの猪一匹だけなのに?2人だけで?こんなに?

 

3人揃って項垂れる私たちの元に椛がやってきた。いやもうチルノがどっか行ったから二人だけども。

 

「最初から期待してなかったから別にいいですよ」

「グハッ…………お前ら有能すぎ…」

「というか俺たちが無能……」

「いやだから、期待してなかったから別にいいですって」

「お前それ励ましてるつもりなんか!?」

「煽ってます」

「チクショォォォォ!!」

 

負けたわ……完膚なきまでに叩きのめされたわ…別に競ってないけど。

 

「まあまあ、狩りすぎもよくないですし、ちょうどいい感じになりましたよ」

「文……それ煽ってんのか?」

「その言葉が今の俺たちにとって励ましになると思うなよ……」

「なにこの人たちめんどくさっ」

 

めんどくさいって言うなよ自覚あるけど。

 

「それにしても随分立派なテントだねぇ……」

「そうだろうそうだろう、私たち河童が作った天幕は素晴らしいだろう」

「うわなんか湧いてきた」

「保温性耐久性ともに優れたもので、それでいて設営も楽、空間も十分に確保してある優れものさ」

「そっすね」

 

うん、現代にあったテントよりも立派だ。こういうのって多分めっちゃ計算とかして作られてんだろうなあ、私には絶対無理、こんなん考えてたらハゲる。

 

「にとりんやにとりんや」

「なんだい」

「結局何作るんや」

「まだ考えてないけど……多分煮込み鍋みたいな感じになるんじゃないかな?」

「誰が作るんや」

「………」

「………」

 

あれおかしいな、返事が来ないぞ。

 

「毛糸って一人で住んですから自炊とかして…」

「私基本肉焼いて食ってるだけだよ」

「………」

「………」

 

となると残された選択肢は……

 

「よしるり任せた」

「へ?」

「私たちの晩飯を任せられるのはお前しかいない、頼んだぞ」

「な、なんであたしに飛び火してくるんですか!?嫌です!」

「大丈夫だ、お前の作った料理は結構うまかったぞ、うん」

「いや嬉しいですけど困ります!」

「るり、きゅうりも忘れずにな」

「よーし、そうと決まればあのテントの説明してくれよにとりん」

「任せたまえ」

「待って!ちょっと待って二人とも!待ってえええええ!!」

 

 

 

「ねえにとりん」

「なんだい」

「なんか……みんなで楽しそうに料理してるんだけど………私たちだけなんだけどいないの」

「………行こうか」

「…うん」

 

こうして、結局全員で晩御飯を作った。

下処理とかは慣れてる私が主に獲物を捌いたりして、他のみんなは味付けだとか、他の食べ物の処理とかをしてた。

 

普通に全部鍋にぶち込んで調味料とか入れて味つけただけのものだったけど、まあうん。

 

普通に美味しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

「見張りそろそろ変わってくれ」

「むり」

「じゃあ俺寝てくるから」

「むりー…………はぁ、しょうがないなぁ」

 

人の気配も何も周囲にないとはいえ、妖怪とかに襲われる危険がゼロという訳ではない。見張りを立てるのは至極当然のことなのである。

がしかし、私は眠い、猛烈に眠い。

ちなみに見張りを任されているのは椛、柊木さん、私、にとりんの4人である。もっと働けや文。

 

「いやまあ私と柊木さんはろくに役に立ってないけれども………とはいえ疲れたんだけどぉ……」

 

まあ愚痴る相手もいないため、黙って見張りをするしかないんだけれども。

やっぱり人を襲う妖怪が活発になるのは夜の間だからね、夜間に警戒して損はないというわけ。

 

野営地の周りをくるくると回りながら物思いに耽る。

 

………私って妖怪だよね?

いや霊力を持ってるからただの妖怪ではないんだろうけど、もはや妖精と同じ精霊とは名乗れないよね、もう妖怪毛玉だよね、化け毛玉だよね。

誰か私について教えてくれないかなぁ……自分でもわからないんだから誰かが教えてくれるわけないけど。紫さんは教えてくれないけど。

 

まあ私のちっこい脳みそで考えたってしょうがないからね、思考放棄が安定である。

 

「わあ綺麗な月ー」

 

なんで秋の月って綺麗に見えるんだっけ……空気が乾燥してるから?んー…わからん!

この時代にはまだ夜は明るくないから、夜空が綺麗で星たちがよく見える。知識にある星座がいくつか見えるので、まあ多分同じ世界なんだろうなとは思う。

まあ空飛んだり毛玉が人の形して歩いてたり妖怪とかいたりしてる時点で、私が元々いた世界と比べたらもう異世界みたいなもんだけど。

 

「……私の記憶って本当にあったものなのか……?」

 

私の記憶が本当に前世であるとは証明できないわけで……となると私が元人間っていうのが怪しくなるわけで…………

私に残っている前世の記憶だって、私に関しての情報は何にもない、知識だけがある状態だ。

毛玉自体元々意思を持っていない存在であり、その毛玉に適当な記憶を植え付けたらそれに応じた人格が形成されるのでは?

 

うーん……ダメだ、どこぞの錬金術師の弟みたいな思考になってしまう。

………私の中身って毛玉なの?人間なの?

 

「……ハッ、考えたってわからないじゃないか」

 

そう、そもそも前世の私に関しての記憶はちっともない。そして前世に戻ることもできそうにない。戻りたいという願望もない、ちょっと知りたいだけである。

 

ならば私が取れる選択は一つ。

 

「思考放棄って素晴らしいなー!」

 

なんか秋の神様とかいるらしいし?一部の化け物な妖怪もいるし?人間なのにバカ強い奴もいるし?もうね、人智を超えてるよね。

なら考えたって無駄無駄、ブドウ糖の無駄使いたよ。

 

わからんこともあるけど、寿命なんてあるか怪しいし時間が経てばきっとわかるようになるだろー。

 

……似たようなことを毛玉になったばかりの頃にも考えてた気はするけど。

 

「ん?」

 

なんかいる……なんだぁ猫ちゃんじゃないかぁ……

 

「ほーらこっちおいでー、黒猫ちゃーん」

 

あ、本当にこっちきた、やだこの子かわいい……だが私にはイノムーランという非常食が……

 

「にゃーん」

「ぐはっ……ダメだ猫かわいい…よーしよしよし、どうしたのか……」

 

あれ………私の右手の人差し指どこいった?

 

「フォアアアアアア!?」

「はあ!?なんですか大声出して!」

「も、椛!この猫に指食われた!」

「はい?」

 

すぐさま猫を捕まえてこっちにやってきた椛に見せる。

 

「……いや化け猫ですけど」

「シャーッ」

「うわこわっ!どっかいけ!」

 

その辺に投げて追い払う。

猫こわ………指食われたんだけど……

 

「……え、なに化け猫?」

「そうですね、それじゃあ」

「ちょ待てよ、反応薄くない?私指食われたんだけど?」

「いや、普通の人なら化け猫って気づいてわざわざ指差し出さないんで……貴方だけですよそんなに間抜けなの……」

「………」

 

冷たくね……?

 

………犬も猫もダメだね!やっぱイノシシだわ!


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