毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉の写真

「……着いた?ここ?」

「そうみたいですね。ほらチルノちゃん起きて」

 

あーあ、結局荷物持ちだったよ、昨日と何にも変わってないよ。

朝は保存食とか昨日の残りとかを全員でちょっとだけ食べてきた。

 

背中に大量の荷物とその上に妖精を二人乗せてきた。出発したのが朝早くだったし結構早足気味に出てきたので夜になるまではまだまだ時間がありそうだ。

 

「荷物置いていいよね?いや置くわもう」

 

いろんなところに引っかかったりするから無駄に時間取るし、その間あいつら待ってくれないし……全員でバラバラに持った方が効率良かっただろ絶対。

 

……というか、全員もう紅葉の鑑賞に入ってんだけど。荷物持ちの扱い酷くない?酷いよね?

 

「……綺麗ですね」

「そだねー。途中で坂を登ってるなと思ったら一望できる場所だったのかー」

 

時期がちょうどよかったのもあるだろうけど、見渡す限りが一面の紅葉だ。

滝が見えたり、色がちょうどいい感じにバラけて鮮やかだったり……小さい湖もあるな。そこも紅葉が囲んでいる。

紅葉自体は見慣れているとはいえ、こうも壮大な風景を見せられると……いいよね、紅葉。

 

「あと天気がいいね、青空、素晴らしい」

 

湿度も高くないし気温もちょうどいい感じだし、まあいいピクニック日和って感じがする。

 

周りを見渡してみると、ここでも野営の用意してる河童二人と散策をしているワンコ天狗二人、そして風景を撮っているカラスが一人。

そして暇そうにしているバカが一人。

 

「文ー、何してんのー」

「あ、これですか?写真機って言いまして、これで撮ったものを絵にして残せるんですよ」

「カメラじゃん」

「写真機です」

「カメラじゃん」

「写真機だよ毛糸ー」

「カメラじゃん」

「亀じゃないです」

「誰が亀なんて言ったよ」

 

へー、でもカメラかぁ。さすが河童……いや、もう今くらいの時代だと写真機自体は外国から伝わってたらするのかな?

 

「それ撮ったやつどうすんの?」

「山に帰って売り捌きます」

「うーわ…正直に答えやがって………もしかしてそれが本来の目的?」

「失礼な!流石にそこまでお金にこだわって無いですよ!」

「お、おう…」

「それにただ風景を撮るのが目的ならわざわざここにこれだけの人数で来ませんよ。私はただ、全員で楽しめたらいいなと思って誘ったんです」

「う、うん、ごめんよ」

 

なんかキレ気味に言われた……確かに私が悪かったかな…

いや待て、結局売り捌くのは売り捌くんじゃん。あと全員が楽しめるようにって、私現状荷物持ちでストレス溜まってるんだけど。どうせ帰りも荷物持ちでしょ?

 

「ぬぅ……まあいいや」

「毛糸ー」

「どうしたバカ」

「暇」

「知らんわ」

「子分ならなんとかしろ」

「それもういいって……」

 

いやでも確かに暇だな……私は基本年中暇だけどな!

 

「文、この後の予定ってなんかある?」

「いえ特に。各自適当に遊ぶなりくつろぐなりすればいいですね。帰るときは飛んで帰るのですぐですし」

「あ、帰りは飛ぶのね」

「まあ、それは流石にね…」

 

まあ確かに歩いてるの暇だもんな……特に文は飛べば速いし。

 

何か暇を潰せるものがないかと辺りを見渡していると、どこかへ行こうとしている柊木さんを見つけた。

 

「おーいそこの足臭ー」

「あ?」

「あ、反応した。つまりそれはお前が自分の足が臭いと言うことを自ら認めたと言うことに違いない!」

「なに、それだけ?じゃあな」

「あっごめん、何しに行くのかなーって」

「釣り」

「湖に?」

「そうだけど」

「にとりーん!!釣竿ってあるー!?」

「緑の鞄に入ってると思うー!」

「ありがとー!」

 

………なんか柊木さんが嫌そうな顔してるんだけど。

 

「着いてくんの?」

「嫌なの?」

「いや……まあ好きにしろよ」

「本音は?」

「一人にさしてくれ」

「むーりー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

.

うーん………結局暇!

柊木さんの隣で釣り糸垂らしてるけど、全然かからないしチルノはその辺の動物と追いかけっこして凍らせようとしてるし……

 

「柊木さんって釣りの趣味とかあったの?」

「別にそういうわけじゃない」

「じゃなんでやってるのさ」

「他にやることがないからな」

「いや、まあ、うん」

 

着いてからのやること決めてない文も悪いと思うよ……確かに建物も何もないんだからどこかに訪れたりすることもできないけどさあ…

 

「………」

「………あ、そういえば私も釣りってしないなぁ」

「近くにあんな湖あるのにか?」

「まあゲテモノばっかだし……」

 

いや、数十年も経てば多少環境とか変わって食べられる魚とか増えるけど……

 

「結局魚って、食べるときに骨抜いたりしなきゃだし、大して美味しくないのしかないし、わざわざ釣りしてまで……ね?」

「そうか」

 

いやでも、いつだったか文が焼いてた魚は美味しかった記憶あるなぁ……あれってどこのだったんだろう?多分本人に聞いても忘れてると思うけど。

 

「……ん?それ釣り糸引いてない?」

「あ、ほんとだ」

 

柊木さんの方に魚がかかり、それを引き上げると小さなサイズの魚が釣り上げられた。

 

「見たことないやつだね……」

「……食べられるかわからないが、一応持って帰るか」

「おっ、じゃあ私凍らしとくねー」

 

凍らすというか、氷と一緒に置いとくだけだけど。

それにしても魚かぁ……魚……秋……秋刀魚……

秋刀魚食べたいなあー……でもあれって確か海で獲れる魚だったはず。この幻想郷って海ないからなぁ……わざわざこの土地の外に出て遠出して海に行ってまで食べたいというわけでもないけど。

 

むぅ…なんかいろいろと恋しくなってきた……いつの日か、漫画アニメゲームその他諸々にまた触れることはできるのだろうか。

 

「そのためにも生き延びないとなぁ…」

「急にどうした」

「いや、なんでもない」

「そうか。……いや、腕取れても何食わぬ顔で生やす奴が生き延びるとか………」

「あん?舐めんなよお前、私だって死にそうになったことくらいいっぱいあるからな」

「どうやったらお前死ぬんだよ」

「え?うーん………心臓を潰される、頭を潰される、私の体を丸ごと消し炭にする、妖力と霊力を枯らしてから痛めつける……割とあるよ」

「お、おう…」

 

なんで引くねん、そっちが教えて欲しそうにしたんでしょうが。

 

「脳みそを簡単にぐちゃぐちゃにする方法って知ってる?」

「どんな話だよ」

「頭蓋骨に守られてそう簡単には攻撃できないでしょ?」

「………目から刃を突き刺して頭の中までやればいいとか」

「あ、知ってるんだ、正解」

「だからどんな話だよ」

 

だから私も、腕とかはいくら取れてもいいけど、心臓と頭だけは守るように心がけている。

心臓貫かれても生きてたり、頭爆散しても生きてたりするけどあんなの意味不明だからね。そういうの以外は大丈夫な私も意味不明だけどさ。

 

「いやー、でも湖にも紅葉が浮かんでて、秋って感じがするねー」

「お前……そんな風情を感じる心があったのか」

「蹴るぞ」

「やめろ」

「私を怪物みたいに扱うんじゃない」

「実際怪物だろ」

「否定はしない」

「しろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻るか」

「嫌だ」

「なんでだよ」

「私一匹も釣ってない!柊木さんなんで三尾も釣ってんだよ」

「魚も人を選ぶんだろ、どうでもいいから戻るぞ。俺も飽きたし」

「私も飽きた。チルノ帰るぞー」

「子分があたいより先に帰るな!うおおおおおおお!」

「わぁ元気だなー」

 

方向は合ってるから迷ったりはしないか……

 

「お前、あいつと大して背丈変わらないよな」

「そだね」

「それで中身がそれか」

「どういう意味だコラ」

 

突然柊木さんからなんか失礼な発言をされて、思わずイラッときてしまう。

 

「最初に会ったときから見た目も中身も変わらないだろお前。見た目は妖精みたいな子供って感じなのに中身がなんというか……厳ついんだよお前」

「厳つい?どの辺がじゃ、言ってみろやコラ、あん?」

「それだよ、それ」

「まあ私背が低いだけだからなぁ……」

 

身長と中身が釣り合ってない……さとりんとか?私とそこまで変わらない背丈だけどさとりんはめちゃくちゃしっかりしてるし。

まあ見た目で言ったらさとりんとか小学生レベルなんだけどね、あれで地底を統べてるって言うんだから、まー見た目とか当てにならないね。

 

「言うて柊木さんも耳と尻尾ついてんのに可愛げないじゃん」

「………?」

「あ、ごめんなんでもない。まあ私も何も知らない人から見たら子供に見えるらしいから……普段は妖力抑えてるけども」

「わかる奴ならわかるみたいだぞ、そうやって抑え込んでても、こいつは只者じゃないって」

「柊木さんは?」

「わからん」

「知ってた」

 

んー……なんで私は体型が大人ではないのだろうか。多分理由なんてないけど…誰かと話す時も基本見上げる形になるから、たまには見下ろす側になってみたいものだ。

 

「あ、もしかして私をやたらと舐めてかかってくる妖怪が多いのも背が低いから?」

「そうだとして、なんで今まで気づかなかったんだよ」

「いっつも、なんだそのふざけた頭は!!って言って襲いかかってくるから」

「あぁ、うん……そうか………」

「言いたいことあるなら言えよ」

「いやいい」

「言えよ。おい、言えって言ってんだよ」

 

 

……天然パーマを治す魔法とかあるかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻ってくると、にとりん達のところに大ちゃんが一緒にいた。何を話しているのかなと思ったけど、どうやらこの辺に生えてる植物とかについて話しているらしい。

さすが大ちゃんだれとでも付き合える、名前が立派なだけあるわ。

 

そして文と椛は一緒になって写真を撮っていた。

 

「椛そこじゃないって、もっと右の方ですって!」

「もっと、ってどのくらいですか!」

「とりあえず動かせばいいんですよ!」

「こうですか!?」

「やりすぎ!あときゅうり一本分左に戻して!」

「難しいんですよ自分でやってください!」

「仲良いねー」

 

そう言えばこの二人って、私が毛玉になる前からずっと一緒なのか……そう考えると長い付き合いだなぁ。

 

「文ー、撮った写真私にも後でちょうだいよ」

「高いですよー?」

「金取るのか……ってか私お金なんて持ってない……」

「冗談ですって」

「帰って写真を売り捌こうとしてる人に言われても冗談とは思えないんですよ、ここであってますか」

「友人は別ですよ。それに、お金のない貧乏人から金をむしり取るような真似はしませんよ。あ、そこですそこそこ」

「貧乏人言うなし、心は裕福だし」

 

お金なくて困ったことあんまりないし……あるに越したことはないけれどもね?

 

「この写真機を作ってもらった代金、ちゃんと払わないといけないですからねー」

「にとりん?」

「そうですー」

 

知ってたけどやっぱりすげーな河童、なんでもできるな。私も今度何か作ってもらおうかな……コタツとか?

 

「毛糸さんはどうでした?今回の楽しんでくれましたか?」

「楽しかったっちゃあ楽しかったね」

 

紅葉狩りというか、みんな紅葉そっちのけだしどっちかっていうと遠足しにきたような感じだけどさ。やっぱり集団っていいよね、賑やかでさ。退屈しないもの。

 

ついさっきやることなくて釣りしてたけど。

 

「この先何があるかわかりませんけど、その時もまたこうやって全員揃ってたらいいですね」

「そうですねー……まあ今のうちに精一杯楽しんでおけってことですよ、きっと」

 

椛の言う通り、またこうやって集まれたらいいのにな。こんな世界だ、明日誰かが死んでるかもしれない、私かもしれない。

最近はすんごい平和だけど、それも永遠に続かないだろう。精々平和を謳歌しておこうか。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、全員で写真撮りましょうよ!せっかくこれだけ人数揃ってるんですから」

「カメラで?」

「写真機です」

「まあいいよ、じゃあにとりんたち呼んでくるねー」

 

写真かぁ……そういえばこれも前世ぶりだなー。生憎撮った記憶はないんだけども……

 

にとりんたちは相変わらず植物とか見てて、そこにチルノが加わっていた。本人は何もわかってなさそうだったけど。

柊木さんは暇を持て余して遠くの方を見つめてた、4回くらい名前呼んでやっと気づいた。

 

写真を撮ると伝えると、続々と集まってきた。

 

「それじゃあ撮りますよー!そこに並んでくださいねー!」

「あっあ、あたしは遠慮しておきますねぇ……」

「今更人見知り理由にして逃げない!逃がさないからね」

「ひえぇ……」

「あたい前行く!前!」

「ちょ、チルノちゃん暴れないで…」

「じゃあチルノちゃんは真ん中行きましょう真ん中」

「私はチルノの後ろでー」

「柊木さんは写るのは足だけでいいですよね」

「なんでだよ、そしてどういう状態だよ」

「あっそろそろですよ!皆さん写真機の方向いてくださいねー!」

 

 

全員がやかましくわちゃわちゃしながらも、なんとか写真を撮ることができた。

 

後日写真を見せてもらったら、私一人だけピースしてた。めっちゃ浮いてた。

ちなみに帰りは全員で飛んで帰った。もちろん荷物持ってたのは私。

 

 


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