毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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やっぱりそこは残酷で

幻想郷とはどのような場所か。

私からすれば、まあ何度も言ってるけど人外魔境、一応日本らしいけどもう異世界といっても差し支えない気がする。

 

幻想郷の中心あたりに存在する巨大な人里を中心に、森とか山とか竹林とか湖とか……妖精や妖怪、その他もろもろの人ならざるものが存在している。

妖怪の存在の根源にあるのは恐怖の感情、まあ色んな妖怪がいるけれども、生き物からの恐怖心によって妖怪は存在することができている。

妖怪が死ぬ時はその存在が忘れられる時だ、って話も聞いたことがあるな。まあ実際は首を刎ねたり頭を潰したりしたら死んでるんだけれども。

 

どうやら妖怪ってのは相当曖昧な存在らしく、その存在を肯定されなければこの世から消え去るらしい。

 

何が言いたいかって言うと、この場所はすっごいバランスで保たれているってこと。

当然のことながら、人間より妖怪たちの方が強い。一部の妖怪なら人里をまるごと滅ぼすことも、割と造作もないんじゃないか。

妖怪にとって必要なのは恐怖という感情、ちょっと向上心のある妖怪なら積極的に他者を襲って恐怖心を得ようとと考える。

 

勢力で言えば妖怪側の方が圧倒的なのだ、それでも長い間この地は均衡を保っている。

まあ妖怪の賢者がいて、妖怪側のヤベー奴が取り仕切ってるってのもあるだろうし、人間側にも戦える奴や、博麗の巫女とかの妖怪を退治するヤベー奴がいるからってのも大きいだろう。

 

 

多分、幻想郷自体は妖怪のために作られた場所。

妖怪がいなくなって人間には害はないけど、人間がいなかったら妖怪は存在することすらままならない。

だから均衡を保っているとはいえ、妖怪たちはその存在の維持のために人間を襲う。

 

人間だって襲われて黙ってはいない、自衛だってするし報復だってする。その矛先が全く関係のない他の妖怪に向いたとしても、全くおかしな話じゃない。

 

だからまあ………しょうがないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし国と国の戦争で大切な誰かが死んだ場合、誰を恨めばいいのか。

その誰かを殺した奴がわかっているのなら、そいつを恨むかもしれない。

でもわかっていなかったらどうするか、自分の国を恨むか、相手の国を恨むか、戦争自体を恨むか。

 

これを人間と妖怪に置き換えたとしたら、人間は妖怪全体を恨むのだろうか。私はとっくの昔に人間じゃなくなってるからもう私の考えが人間にとって正しいのかわからないけど。

 

「まぁ、私に突っかかってくるのも理解はできるさ」

 

昼間にその辺適当に出歩いてたら人間の集団に出くわした、それも完全武装してる奴。

まぁこんな昼間っから武器持って集団で固まって人里の外に出てる時点で目的は一目瞭然なんだけれども………

 

「一応言わせてもらうけど、私は人間を襲ったこと………一回もないとは言わんけど滅多にないから、むしろ助けてるから」

「妖怪の言うことが信じられるか」

「ハイ知ってた」

 

人間との戦いを避ける私がおかしいのだろうか……そもそも戦うのが好きじゃないし、力の差もあるから一方的になっちゃうし……別に相手をみくびってるわけじゃなくてね?

………お門違いな憎しみをぶつけられている……もちろん向こうの気持ちだって理解してるけど、いざ自分に来ると迷惑極まりない……

ってか、こういうのも初めてじゃないしな……それなりの年月生きてたらこういうことにも遭遇する。

 

私自体有名な妖怪ってわけでもないからよく喧嘩も売られるし………本当の強者って妖力とか隠さんからな……

 

「あのさあ、私を殺してもなんにもないよ?こんなことやめて早く人里に戻って家族と幸せに暮らした方が…」

「俺たちはお前ら妖怪に家族を殺されたんだぞ!」

「あらまぁ………」

 

まだまだ、人里では妖怪っていう奴に対しての憎悪はなくなっていない。私も人里には出入りしていないし、慧音さんが唯一人里に出入りできる妖怪なんじゃなかろうか。

私だって見かけたら襲われてる人間を助けてるようにはしてるけど、妖怪にとって人間を襲うってことが必要なことだと理解しているし、積極的にはしていない。

 

助けられなかった私の責任でもないのだけども……まあ、家族を殺されたとして、そういう世界なのだと納得することはできないだろう。私だってできない。家族いないけど。

 

んー……全員骨の1、2本折って慧音さんに押し付ける……いや慧音さんに迷惑かかるし、やるにしても直接人里にかぁ……向こうの様子だと私が死ぬまでどこまでも追いかけてきそうだし……

 

同情こそするけど、それは黙ってやられる理由にはならない。

 

「これ以上の問答は無駄だ、全員やるぞ!」

「いーよ、やるってなら来なよ。……半殺しでも文句言わないでね」

「舐めるな!」

 

あ、確かに今の発言は相手を舐めてたな………じゃあどう言えばよかったのだろうか。

だって殺したりしたら博麗の巫女とかいうのに目をつけられるかもしれんし………りんさんより強いかもしれないって考えたら全身の毛が逆立つね。

 

 

勢いよく斬りかかってくるけど、後ろに飛びのいて距離を取る。

途端に霊力の弾が大量に飛んできた、さっき人外魔境って言ったけど、私の知ってる人間はエネルギー弾出さないし。ドラゴ○ボールじゃないんだからさぁ。

 

相手の人数は全部で6人……まあ、その辺の妖怪なら難なく倒せるくらいの実力と数じゃないかな。

 

「妖怪退治なんてその道のプロに任せれば良いのにそんなに意気込んじゃってまあ……」

 

氷を作り出して全方位にデタラメに発射する、相手がどの程度の攻撃なら耐えられるのか分からないから、死なない程度の威力だ。

 

「この程度……!」

 

あっらー……軽く弾いたり避けたり……みんな運動神経いいね?

にしてもな……こういうこと言うと調子乗ってるみたいでいやだけど、手加減するのって難しいね。

出来るだけ外傷のないように戦闘不能にさせなきゃいけない………難易度高いわ。意識の奪い方なんて知らんのだけど…

 

6人全員で私を取り囲むように位置し、逃げ場をなくして攻撃を仕掛けてくる。とりあえず自分の周りに氷の壁を作って霊力弾を防いでおく。

にしても普通の人間に比べたらずいぶん強いな、もともとそれほどの実力だったのか、憎しみを糧に力をつけたのか………

 

「いやでも、ここからどうするか、な!?」

「死ねえ!!」

「無理ぃ!」

 

マジかよこいつ氷突き破ってきたぞ……妖力も流し込んでない普通の氷とはいえそこそこの厚さのはずなんだけど!

 

自分の周りの氷を消して氷を突き破ってきた男から距離を取るが、他の人間たちからの霊力弾が飛んでくるのでそれも避けなければならない。

体にちゃんと妖力を纏ってたら当たっても問題ない程度だけど、何かの拍子にそれで殴ってしまって殺してしまう……なんてことがあるかもしれない。

 

幽香さん強すぎね、ほんと。

 

「っあぶな!」

 

身体能力の低そうな女や小柄な男は遠くから飛び道具でチマチマ打ってきて、他が私に突っ込んでくる、しかも的確に死角から。

これが妖怪相手なら妖力弾乱射して解決するのに……

 

「複数人で卑怯な……あ?」

 

2人からの猛攻と飛び道具を避け続けていると、右腕が何かに絡め取られるような感覚がやってきた。見てみると鎖と重りのついた何かが右腕に巻かれていた。

 

「あっやべ」

 

私の隙を見て近づいてきた男の刀が私の腕を切断した。

 

「よし!」

「どうせすぐに生えるんだけど……あら?」

 

右腕の再生が遅い………何かされた?

急いで距離をとって追撃をかわしつつ、私の腕を切った男の刀を見つめる。

 

………結構ガッツリ霊力が込められてるな…妖力を封じる効果とかそんなんがついてるのか?確かに妖怪、とくに私なんて妖力依存の戦い方してるんだから効果的だろう。

てなると……

 

「あー……これ余裕ないな、手荒になるけどそっちが悪いんだからな!」

「ふざけた事を——」

 

妖力を足にこめて私の腕を切った男に一瞬で近づき、左腕で頭を掴んでそれなりの速度で地面に押し付けた。

 

「お前っ!」

 

私によってきたもう一人には妖力弾を破裂させてその衝撃で吹っ飛ばす。直前で防御されたから意識は奪えてないか。

 

そうこうしていると私が地面で引きずった男が持ち直してまた刀を振りかぶってくる。

あの刀に斬られたら再生できない……ってことはいつもは平気な傷でも致命傷になるかもしれないってことか、

 

うーん……ちょっとの切り傷とかなら問題ないだろうけど大怪我したらそのまま死んじゃうかな……

てなると手っ取り早いのはあの刀を破壊することか。斬られなきゃ多分問題ないと思うし。

 

 

簡単に折る方法………私の氷の剣だったらこっちが折れるか、妖力込めてもかき消されるかもしれない。そう考えたらりんさんの刀……ダメだな、こんなことには使っちゃいけないだろう。

 

あれ、手詰まり?

 

「うおおおっ!!」

「素手だオラァ!」

「なっ…」

 

あぁ……左手に氷纏わせて妖力いっぱい込めたら普通に折れたわ……幽香さんどうなってんのマジで。

刀が折られて唖然としているところに腹パン、それと回し蹴りを入れて地面を転がせる。動かなくなったけど頑丈そうな人だったし、手応えからも気絶してるだけだとは思う。

 

そうこうしているうちにさっき吹っ飛ばした奴が戻ってきた、鎖鎌?みたいなの持ってるしさっき私の右腕を絡め取ったやつで間違いないだろう。

 

飛び道具組に向かって小さな妖力弾をばら撒いて牽制しつつ、鎖鎌ブンブン振ってくる奴に向けてデカめの氷塊をぶつけておく。

直撃したし多分こっちも気絶………

 

あとは飛び道具組……流石にあの程度の妖力弾じゃ全部かき消されたか……まあしょうがないか。

 

「化け物め……」

 

殺さないように注意を払ってるのに化け物呼ばわりです、いや実際化け物なんだけれども。

妖怪に化け物って言われるのと人間に化け物って言われるのとじゃあ、ちょっと私の受け止め方も変わる。やっぱり私はもう人間じゃないんだなあって。

 

全員が一斉に私に向かって霊力弾を放つ。

すごい密度の弾幕で、まあ避け切るのは無理だろう。どっちにしろ早く終わらせたいしな……

氷の蛇腹剣を作って、妖力を纏わせて弾幕の壁に向かってぎこちない動きしかできない左腕でめちゃくちゃに振り回す。

 

私の剣も粉々なったけど弾幕もほとんど消滅した。

今度はこっちの番ってことで、ちいさな氷塊を大量に作り出しそこそこの速さで発射する。

 

霊力の結界を作り出して防御している3人を、一人ずつ近づいて拳で結界をぶち割って腹パンしていく。

3人とももれなく崩れ落ちた。

 

「よーし、これで全員……あれ、さっき2人で今3人……5人だったっけ」

 

いや、6人だな。

 

すぐに体勢を捻って、背後からくる攻撃を逸らす。

 

「あぶなっ……」

 

咄嗟に体勢を変えたおかげで、刀が肩を貫いていた。多分動いてなきゃ心臓を突き刺していた。

油断っていけないな………

 

肩に刺さっている刀を掴んで、背後から私を刺そうとしたその男に蹴りを入れる。

地面を転がっていったが、私もとっさの蹴りだったしあんまり力が入らなかったから意識は奪えていないらしい。

 

「あんたが最後だけど…………あ、腕生えた。で、どうする?降参しとく?それとも気絶させられて仲良く人里に帰らされる?」

 

最後に残った男に向かってそう問いかける。

 

「………思い出した」

「あ?なに?」

「小さい頃あんたに助けられた」

「え?」

「親と三人で妖怪に襲われて、その時にあんたが来て……」

 

生憎記憶には残っていなかった。でもこいつの年齢を考える限りそこまで昔の話ではないだろう。

 

「それならさっさとあいつら連れて帰れ——」

「なんでだ」

「はい?」

「なんで俺だけ助けて……両親は死んだんだ!」

「………覚えとらんわ」

「あぁそうだろうな、所詮お前からしたら俺たち人間はその程度の存在なんだろ!」

「………」

「お前に助けられてからいい事なんて一つもなかった!辛い事ばかりだった!いっそ死んでやろうかとも思った!」

 

私の胸に掴みかかる男。悲痛な表情で私に怒りをぶつけてくる。

 

「なあなんでなんだ!なんで俺だけ生かした!なんで両親と一緒に殺してくれなかった!」

「………」

「二人が俺に言ってくるんだよ、なんでお前だけ生きてるのかって………俺に生きてる価値はないって………なあ、黙ってないでなんとか言えよ!」

「ごめん」

「……え?」

 

私の言葉に素っ頓狂な声を上げる男。

 

「それは私が間に合わなかったから………私が両親を助けられなかったからあんたがそうなったって言うんなら、それは私のせいだよ。ごめん」

「………なんで謝るんだよ……!お前が謝ったら俺は……誰を恨んで生きていけばいいんだよ!!」

 

崩れる男の首を、私は黙って殴った。

意識を失って崩れ落ちたこいつと、他の5人を纏めて浮かして人里に向かって運ぶ。

 

 

 

 

恨まれたってどうしようもない、責められたって謝ることしかできない。

それはもう死んでしまっているから…死んだら元には戻らないから。

 

私はもう人間じゃないし、多分思考も妖怪の側に寄ってしまっていると思う。

でも………

 

人間にとってこの世界が残酷なように

 

人からの恨みや憎しみを他人事のように感じながらも気に留めてしまう、こんな中途半端な私にとっても、ここは残酷だ。


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