毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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幻想郷の行く末について知る毛玉

 

今私は地底にいる。

 

特に用事があったわけじゃないけど、暇だったから遊びに来た。

そして今、地霊殿の門の前で突っ立っている、それは何故か。

 

理由は簡単アポ無しだから、なんか普通に遊びに来てるけど地霊殿って地底にとっては重要な場所なのであって、そこに気軽に遊びに来ている私の行動は迷惑なのではないか。いや、多分迷惑だ、うん。

 

さとりんたちだって、私みたいに年中暇を持て余しているわけではなく、それぞれの仕事や用事があるわけで………今が暇なら良いけど、もし忙しかった場合、そんな中で時間とか割いてもらうのは申し訳ない、私の暇つぶしなのに。

………私って言わば、高校の同級生はみんな立派に働いているのに私だけいつまで経っても無職の奴みたいなことになってない?

 

「いやいやいやいや、なわけ……というか、それは別に悪くなくね?」

「ん?そこにいるのは……」

「へ?………うわぁ……」

「うわぁ、ってなんだよ、うわぁって」

「いや別に」

 

声のした方を振り返ると、勇儀さんとパルスィさんがいた。まあ振り返ったら鬼のやべー人がいたってのもあるし、パルスィさんにちょっと苦手意識あるし……いや勇儀さんにも苦手意識あるわ。

 

「2人はなんでここに?」

「報告だ、報告、ここの状態をな。さとりも外に出て逐一確認するわけにもいかないしな」

「そっちこそなんでそこで突っ立ってるのよ」

「い、いやー……急に押しかけていいものかと…遊びに来ただけだし」

「別に構わないだろ。私たちも用事あるんだから、一緒行くぞー」

「うっす、あざっす」

 

そういうと勇儀さんは門を開けて堂々と入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特にこれと言って変わりはないな。いつも通りだよ」

「私も同じ、強いて言うなら変な毛玉が入り込んでいたことくらいかしら」

「変な毛玉って酷くない?」

「じゃあ変な毬藻で」

「は?」

「わかりました、引き続きよろしくお願いしますね。あと勇儀さん、酒を持ち込まないでください」

「いいじゃねえか、さとりも飲むかい?」

「いえ私は結構ですので」

「釣れないねぇ」

 

いや、鬼が飲んでるような酒なんて、強すぎて普通の奴じゃ一瞬で潰れるでしょ、私飲んだことないけどさ。

 

「じゃあ毛糸はどうだい」

「殺す気っすか」

「死ぬのかお前」

「死にたくないです」

「おっそうか。まあせっかくだしここの奴らと飲んでくるかなー」

 

あっ…行っちまったけど今の発言……お燐達が犠牲者になるのでは?

 

「………暴れないように見ててくださいよ?」

「善処するわ」

「あっダメな奴だなこれ」

 

パルスィさんも面倒くさそうに部屋を出て行った。

さようならお燐とその他もろもろ………君たちのことは忘れない。

 

「あなたも止めに行ってくれていいんですよ」

「殺す気か」

「お燐達を殺す気ですか」

「必要な犠牲だったんだよ……」

「まだ死んでません」

 

さてどうしよう、まだ仕事中なら出て行って適当に時間潰すけども…

 

「別に構いませんよ、定期報告してもらっただけで他に大したことないですしね。会話しながらでも作業はできますし」

「私は無理だわ」

「不器用なんですね」

「さとりんが器用なんじゃないかな」

 

いつも地底に来る時みたいに椅子に座る。

……なんか急に思い出したけど、さとりんってまだ私がこの体持ってない時に出会ったんだよなあ……そう考えたら出会ったのかなり早いよね。

 

「こいしが急に持って帰って来た時は驚きましたよ、なんだこの汚い物体はって」

「酷くない?」

「事実臭かったですし」

「そらそうでしょうが……よく覚えてるねー。そういやこいしは?というか、もじゃシリーズは?」

「多分あなたがもじゃの最後の生き残りでよ、もじゃ十二号さん」

「他のもじゃ達になにがあった」

「寿命です」

「アッ………はい」

 

………いやいや、確か毛玉もいたよね?私じゃないやつ。あれどうなったのよ。

 

「塵になりました」

「毛玉ー!」

「同族意識なんてないでしょうに」

「そもそも同族かどうかすら怪しい」

「そういえばそうでしたね」

 

結局私って………なんだろう?

私がどんな存在かを知っていてかつ教えてくれそうな人…チラッ

 

「知ってても教えませんよ」

「なんでさ」

「自分で気づくのが一番だからです、あなたもわかってるでしょう」

「そりゃそうだけどね………で、知ってんの?」

「どうでしょうねー」

 

くっ………その知ってそうで知らなそうだけど実は知ってそうはそのセリフ………わからん!

 

「いーよいーよ、結局教えてくれないんならさ」

「別に意地悪してるわけじゃないですからね?あなたのことをを思って言ってるんです」

「へー」

 

私がこれだけ答えを求めてるのに一向に手がかりすら掴めないのはなんなん……?自分のことだし、ここまで長い間分からないのもおかしいでしょ、なにかトリガーでもあんのかね。

 

「時間はいくらでもあるとはいえ、いつまでも分からないままなのはむず痒いなぁ」

「私からは頑張ってとしか言えませんよ」

「どう頑張ればいいのよ」

「自分で考えてください」

 

うん、この人に助けを求めても無駄だね!

 

「ったくさー、中途半端な存在だから思考も中途半端でやることも中途半端なんだよ、私は」

「………何かあったんですか?」

「どちらにもなりきれないのが辛いなと思っただけですが」

「は、はぁ………」

 

別に今回そのことを相談したくて来たわけじゃないし………自分を人間じゃないと言い切っておきながら、人間を別の種族と見ることができない。多分これはいつまで経っても治らなさそうだ。

 

「ってか私のことはいいから、さとりんも何か話ないの?話題とかさ」

「こんな代わり映えのない土地で、そう都合のいい話なんてありませんよ」

「あ、はい。………というか、パルスィさんってなんで勇儀さんと一緒にいんの?仲良いの?あの二人」

「結構いいみたいですよ」

「なんでさ」

「勇儀さん、裏表ないですからね。鬼は大体そうですけど」

 

あー、確かに……?いや、なんで裏表なかったら二人が一緒にいるの?勇儀さんはともかくパルスィさんは他人と一緒にいるの好きじゃなさそうだけど………

 

「嫉妬心を操るなどの他者への干渉の強い能力は、それ故に他人から迫害されたりしますからね、私もそうでしたし。その点勇儀さんはそんなの気にせずに接してくれるので、そこがいいんでしょう」

「あー……なるほど…さとりんも勇儀さんのそういうとこ好き?」

「好きですよ、こちらも気を遣わなくていいですからね、接しやすいのは確かです」

「ふーん」

「あなたの場合は心を読まれてもどうも思わないだけで、裏表はありますからね」

「ない奴の方が少ないと思うけど」

 

私は別に、器が大きいわけでも特別優しいわけでもない。あんまり誰かを否定したくないだけで。

 

「………そうですね、さっきの話ですけど、私も一つ話せることを持っていますよ」

「おっ、なになに」

「幻想郷についてです」

「ここ?」

 

………何の話だろうか、考えても全く思いつかない。というか話の規模が少々大きくないだろうか。

 

「紫さんとは面識あるんでしたよね」

「まあうん、顔をお互いに知ってる程度だけど」

「今後幻想郷がどうなっていくかについて話をしたことはありますか?………覚えてない、と。まあ話した方がないという体が話をしていきますね」

「お、おう……ってかその話するってことは、紫さんから聞いた話なの?それは」

「そうですね」

 

ソースは紫さんの話………しかも幻想郷について……あれ、結構重大な話なのでは?

 

「そうですね、まだ他の誰にも話していません」

「ちょいちょいちょい、そんなこと私に軽々と話しちゃっていいの?」

「いいですよ、黙っておいてとか言われてませんし。私が勇儀さん達に言う時期を見定めてるだけですから」

「そ、そうなの………」

 

そんな話を私なんかが聞いていいのだろうか……いや、いいから話し方くれるんだろうけれども。

 

「まず、妖怪とは認識されることで存在しているってことは知っていますよね」

「うん、存在を否定されたら本当に存在できなくなるとか」

「そう、そしてその存在を認識させるのに手っ取り早いのが恐怖心というわけです。大事なのはこの恐怖心という話ですね」

「なるほど……?」

 

い、いや、ちゃんと理解はしてるからね、理解は。

 

「簡潔に言うと、今後人間が妖怪を恐れなくなる時代が来る、という話を紫さんがしていました」

「………えーと、要するに?」

「人間が妖怪に対して恐怖心を抱かなくなると、最終的に待っているのは存在の忘却ですかね。認識されなくなります」

「………まずいのでは!?」

「はい、まずいですね」

 

あらさっぱり……じゃなくて。

忘れられるってことは、認識されることによって存在できている私たち妖怪が存在できなくなるというわけで………あれ、まずいのでは!?

 

「はい、まずいですね」

「あらさっぱり……じゃなくて!ダメじゃん!私たち消えるじゃん!」

「そうならないようにするための策を紫さんが考えているって話ですよ」

「あ、あー!なるほどね!」

 

そりゃそうだ、そうなるとわかっていて紫さんが何もしないわけがない、というか似たような話を昔聞いたような………覚えてないから聞いてないも同然だな、うんうん。

 

「………で、この前紫さんが来て、その策というのを教えてくれたんです」

「へぇ……それ私に教えてくれんの?」

「知りたいなら教えますよ。…あ、興味津々ですね、わかりました」

 

たりめーよ、私だけじゃなくて他のみんなにも関わる話なんだから、気になるのは仕方がない。

 

「まあ私も詳しく聞いた話じゃないので推測混じりになりますけど………ざっくり言うと、この幻想郷を結界で閉ざします」

「……お、おう。つまりどういうことだってばよ」

「まずあなたが今の幻想郷について全然知らないみたいなので、そこの説明をしましょうか」

 

いやいや、馬鹿にしちゃいけんよ。私だってそれなりの期間ここで暮らしてるんだから、大体のことは知ってるし。

 

「じゃあなんでこの幻想郷という土地に、妖怪の賢者や鬼の四天王などの強力な妖怪が多数集まっているのか、説明できますか」

「……えーと、うーん………ごめんなさいわかんないっす」

「そもそもこの土地には既に結界があります」

「マジ?」

「はい」

「知らんかった………」

 

でも結界……って人間たちがよく張ってるあれだよね?そんなのに閉ざされてる感じは特にしなかったんだけど……まあいいや。

 

「その結界がどう関係あるの」

「名前は忘れましたが、その結界の効果は妖怪などの幻に近しい存在をこの土地に集めやすくする、だったはずです」

「あー………なるほど?確かに、どこにでもこの土地と同等の数の妖怪がいたら人間の生活圏はだいぶ縮まるのか……な?というか、結界ってそんな概念的なものに干渉するのも作れるんだね」

 

確かに、そんな感じのふわーっとした効果の結界で、物理的な壁がないんだったら気づかなかったのも頷ける。

 

「そもそもその結界ができたのって毛糸さんが生まれた頃くらいだったはずですし、それもあるのかもしれませんね。多分知らない妖怪の方が多いですけど」

「で、さっき言ってた幻想郷を結界で閉ざすって言うのは?閉ざすって言うからには出入りができなくなるの?」

「みたいですね、多分」

「多分……」

 

うーむ……その今張られてる結界と重ねるように張るのかな……

 

「その結界の効果って言うのは?」

「言った通りです、結界の内外を遮断する、だけらしいです、多分」

「多分………」

「何度も言ってますけど、私もそんなに詳しく聞いてませんからね?ただまあ、さっき言った既に張られている結界よりも概念的な要素が大きくなるみたいです。結界の外で妖怪が存在できなくなっても、この幻想郷の中では存在することが可能になる、と」

 

それは凄い……んだよね?

でも本当にその結界が出来たら、この土地から外に出られない代わりに存在が消えてしまう心配はなくなるってことか…やっぱり凄いわ。

 

……でもそれって、結局妖怪の存在を認める人間が少なくなるんじゃ?

 

「私もそれを疑問に思って聞いてみましたが、どうやら大丈夫みたいです」

「というと?」

「存在というものの、そもそもの規格がこの幻想郷内で完結するようになるみたいです」

「………」

「…ざっくり言うと、妖怪の存在自体がこの幻想郷の中だけのものとなるので、幻想郷内で認識さえされていれば今と変わらないみたいです」

「……あー………なる…ほ……ど………大体わかった」

「………まあいいです」

 

いや、なんか……ふわっふわした話でなかなか想像がつきにくいというか……半分くらいは理解したつもりではある。

 

「ただ、それに納得いかない妖怪も出てくるだろうから、それに備えて一部の妖怪達に先に話をつけておくって考えなんでしょうね、あの人は」

「はえー……」

 

今度藍さんにあったら詳しく聞いてみようかな………

 

「……とまあ、長くなったけどこの話はこれで終わ…誰か走ってきてます?」

 

さとりんの言葉を聞いて私も耳をすませると、確かになにやらドタバタとした足音が近づいてくる。

 

「なんだなんだ……?」

「これは多分……あの子」

「あの子?」

 

とうとうその足音はこの部屋まで来て、勢いよく扉を開けて駆け込んできた。

 

「助けてくださいさとり様ぁぁぁぁ!!」

「あっ………」

 

ひどく焦っている様子のお燐の顔を見たら……大体わかった。

よーし私も逃げる準備するかー!


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