毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉とこいしと地底の光

「………ん?」

 

あれ……寝てた?

やべってなんかめっちゃ熟睡してたっ!なんかここの寝具が良すぎてめっちゃ寝心地よかった!今何時……って外見てもわからんわ地底だもの。

部屋暗くて周りもよく見えんし……

 

とりあえず起き……あり?

 

あれおかしいな…体が起き上がらない。

何かが身体の上にのしかかってるような感覚で、体の向きを変えることもできない。

 

………まっまままままさか金縛り?いやいやでもでも、今までそんなものなったことないし、第一こんな場所で起こるわけ……ありえるわ、ここ旧地獄だったわ、怨霊たくさんいるわ。

え、何私死ぬ?え?え?え?

 

あれ?

 

「ばぁ」

「あああああああああぁあぁあぁあ!?」

 

 

 

 

 

「はぁ…」

「そんなに驚かなくたっていいのに……」

「驚くわ!起きたら身動き取れなくなってて身体の上に誰かが乗ってて怖い顔して来たら驚くわ!危うく妖力全開放して大爆発起こすとこだったわ!」

「それ面白そうだからやってよしろまりさん」

「お前のお姉ちゃんに嫌われるから無理」

 

何かが身体の上にのしかかってると思ったらこいしだった……び、びびってねえし、ちょっと驚いただけだし。

 

「……とにかく、寝てる人の上に乗るなって」

「それにしても、しろまりさんって怖いの苦手なんだぁ〜」

「そうだよ苦手だよ!」

「認めるんだ…」

「生きるのに必死だもんしょうがないじゃん」

 

さっきのこいしがもし私の命を狙ってくる相手だった場合、私完全に寝首掻かれてたからね、死んでたからね!

もうこれからゆっくり寝れなくなりそう…….というか、上に乗られてても気づかないくらいまで熟睡してたとは………

 

「こいし、私どのくらい寝てたかわかる?」

「んー……日付は変わってるんじゃないかな」

「マジで!?私そんなに寝てた!?」

「うん」

「マジかぁ………」

 

昨日私が寝たのっていつくらいだ……?地上にいた頃の体感でも日が落ちるよりは前だった気がするし……

 

「お姉ちゃんも一回寝て起きてまた仕事してるよ〜」

「マジかぁ〜」

「まじ〜」

「あぁ〜、とりあえず起きるか」

「もう起きてるじゃん」

「確かに」

 

とりあえずこの部屋から出なきゃな……でもやることないのよね。

 

「しろまりさんしろまりさん」

「なんだいなんだい」

「しろまりさんって地底をあんまり歩いたことないでしょ?」

「うんそだね」

「案内しよっか!」

「いやいいよ」

「なんで?」

「いや〜……」

 

地底って変な人多いし……鬼に絡まれるの嫌だし………怨霊は滅多に見かけないけど、もし会ったら死んじゃうらしいし……あれ、なんで私こんなところに遊びに来てんの?あ、暇だからか。

 

「地底はちょっと……私には過酷だからなあ」

「そんなことないよ!狭いようで結構広いから、良いところいっぱい知ってるよ私!」

「えぇ……うーん」

「いいじゃん!行こうよ行こうよ!どうせ暇なんでしょ!」

 

ギクッ。

 

「寝坊したからお姉ちゃんに会うのにも気が引けてるんでしょ!」

 

ギクッ。

 

「いつもお姉ちゃんやお燐たちは仕事してるのに自分だけくつろいでて居心地悪いんでしょ!」

 

ギクゥッ!

 

「やってやろうじゃねえかこの野郎!」

「やったっ」

 

全部本当のことでぐうの音もでなかったぜ…あれ、心読んでる?

 

「じゃあ早く行こう!」

「ちょ待って、支度するから待ってて」

 

とりあえずさとりんに良いかだけ聞いておこう……

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはここ、鬼たちが集まってるちょっとした町みたいなところだよ」

「………スラム?」

 

いやスラムってほどじゃないけど……荒れてるんだが。建物が何回も何回も立て直された感じでボロボロ、ついでに道端にゴミのようになってる鬼も複数。

 

「………地獄?」

「旧地獄だよ」

「あ、うんそうじゃなくてね?」

 

いきなり連れてこられたのが苦手な鬼の集まってる場所だとは……え、なに嫌がらせなの?純粋無垢なフリして本当は陰湿な嫌がらせする子だったの?いじめっ子だったの?

 

「あっ見てあれ!」

「何が?」

「鬼が空を飛んでるよ!」

「わーほんとだー………空飛んでるね、うん」

 

気を失った鬼がものすごい勢いですっ飛んでいくのが見える……あと轟音と地響きが……地獄かな?

よく見たらところどころ血に染まってるところあるし…地獄かな?

 

「あっまた飛んでる!あそこにも!」

「うん、鬼の流星群だね」

「ここは飽きないからお気に入りの場所なんだ〜」

 

飽きないからお気に入りって……確かにこんなスリリングな場所にいたら退屈はしないでしょうねえ。

というかなに、鬼がすっ飛んでいくのを見て楽しんでるの?この子。………サイコパス?

 

「それにしても随分と景気良く飛んでるねぇ……勇儀さんかな?だとしたらあっちの方には行きたくないな……」

「なんで?いい人でしょ?」

「いやうん、いい人だよ?いい人だけど鬼だもの」

「んー?変なの」

 

んー、解せぬ。

そんなポンポン空へすっ飛んでいくような種族とはあまり関わりたくない……まあ何度か他の鬼とも話したことあるし、みんないい人だったけどね?地上の妖怪とは考え方とかから結構違う。

 

「なあこいし、ここじゃなくて別の場所に連れて行って……あーれー?」

 

いないんだけど……ちょっと考え事してる間にいなくなって……いたっ!

 

「ちょっとどこ行くんだよ!」

「あっちの方ー!」

「なんでわざわざ危険なとこに行こうとするの!?あちょ、早いって待って!」

 

ああもう、出る前にさとりんに目を離さないでって言われたのはこういうことね!そら地上にフラフラ行くのも止められないわ!あと足速いし!健脚だね!私とは大違いだちきしょー!

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ………見失ったあああああ」

「おいそこの白いもじゃもじゃの人、ちょっと俺と——」

「ああん!?うっさいこちとらそれどころじゃねえんだよ!」

「お、おう…それは悪かったな」

「あ…ごめん」

「いやいいって」

 

焦りで見知らぬ鬼の人にきつく当たってしまった……申し訳ない。

 

「あーなんだ、困ってるなら手伝うぞ?」

「あそう?じゃあこのくらいの背の女の子みなかった?」

「あー……すまん見てないわ」

「そっかー……」

「そのなんだ、俺も探すから元気出せよ、な?」

「いい人だなあんた……」

 

……あーもう、案内するって言った相手放って好き勝手するってどう言うことよ。

 

「考えれば考えるほど面倒くさくなってきた……」

「おい危ないぞ!」

「は?」

 

私のぐりん、と視界が180度回って、そのまま倒れ込んでしまった。

 

「お、おい大丈夫か!?」

「ぁー……ごほん、たぶんだいじょうぶ」

「生きてる!?いや大丈夫じゃないだろ!首が反対向いてるぞ!」

「えまじで?………うわまじだ!なんでいきてんのわたし!?」

 

何か硬いものがとんでもない勢いで飛んできて……首が逆向いた?よく生きてたな私……なんで生きてんの!?

というかうまく喋れない……

 

「ちょっとくびもどしてくれない」

「え!?」

「くび、もどして」

「いやこれっ、下手に触ったら駄目じゃ……」

「いいからいいから」

「ほ、ほんとにいいんだな!?どうなっても知らないからな!?」

「はよはよ」

「じゃあ行くぞ………はぁっ!」

「ごべっ」

 

鬼の人に頭を掴んでもらって一気に頭の向きを戻してもらった。変な声出た。

そのあとも自分で首をいじりながら再生する。多分首の中とんでもないことなってるよな……よく生きてたな私。

 

「あ、あー。よし治った」

「なんで治るんだよ!」

「知らんわボケ!」

「す、すまん……」

「あごめん」

 

あ、頭からも血が出てた………何ぶつけられたんだよ私。

 

「私の頭に何がぶつかってた?」

「岩が向こうのほうから…」

「岩……鬼の誰かか、よしちょっとぶっ飛ばしてやる」

「鬼じゃなくて私だよっ!」

「お前かい!」

「え、誰……」

 

私のそばに突如現れたこいし。こいし、お前だったのか。

 

「私の探してたやつ、ごめんね驚かせて、もう近づかないから。ほら謝れこいし」

「ごめんなさーい」

「お、おう………」

 

全く関係のない親切な鬼の人を驚かせてしまった……まあ最初ナンパみたいなノリで私と殴り合おうとしてたけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさぁ……私置いてどっかいった挙句岩投げつけるってなんなん!?」

「鬼のみんなが岩投げ大会っていう面白そうなのしてたから……私も混ざりたくって、そしたら投げた岩の先にしろまりさんが…」

「どんな大会!?そして鬼でもないのに混ざってるんじゃないよ!私だからよかったものの、私じゃなかったら……いや他も鬼ばっかだから私みたいにはならんか」

 

……まあ、鬼にはいい人が多い。ちょっと絡みが面倒な人が多いいだけで。

 

「しろまりさんしろまりさん、さっきの首が反対向いてたやつ面白かったからもう一回やって」

「サイコパスかお前は……絶対無理」

「冗談だってー、さっきはごめんなさい」

「まあいいけどさ……」

……申し訳なって思ってる人は冗談言わないと思う。

私も体験したことのないタイプの感覚で結構びっくりした……何があるかわからないし、常に妖力はある程度纏っておいた方がいいかな……

 

「お姉ちゃんやお燐たち以外と一緒にどこかに行くってことがなくて、はしゃいじゃって……」

「……まあはしゃぐ気持ちはわかるから、気にしないでいい…- …いややっぱ気にして。今度からはそういうのないようにね」

「はーい……」

 

………あー、これだよこれ……

こいしって普段元気いっぱいのくせしてちょっと怒ったらわかりやすくしょぼくれて………

 

「……今度さとりんに許可もらえたら一緒に地上行こっか」

「ほんと!?」

「ホントホント、毛玉嘘つかないヨ」

「やった!」

 

機嫌直るのも早いけどね。

うーむ……多分さとりんなら別にいいよって言ってくれそうだから、行くところは先に考えとかないとな……予定とかあったほうがこいしがフラフラとどっかにいくのも防げるかもしれない。

 

「楽しみだなぁ、んふふ〜」

「期待しないでね……私の周り変な人しかいないから」

「何言ってるの?しろまりさんも十分変な人だよ」

「ウッ……」

 

言うか……それ言うか……

 

「……で、今どこに向かってるの?」

「綺麗なところー」

「んーそれじゃわかんなーい」

「着いてからのお楽しみだよ〜」

「あっはい」

 

こんな薄暗い場所に綺麗なところなんてあるのだろうか……

 

「んー……」

「……?何?私の顔なんかついてる?」

「虫がついてるよー」

「ばっこっこれとっ………嘘だな!?」

「嘘だよ〜」

「あのなぁ……」

「虫苦手なんだねしろまりさん」

「ぅん………」

 

なんかこいし…いろいろ唐突でついていけないな。私も多分人のこと言えないだろうけど。

 

「しろまりさんいつもその刀持ってるでしょ?なんなのかなーって」

「あー?あー……無くならないように持ってるだけで、特に深い意味はないよ」

「大切なもの?」

「大切なもの」

「どのくらい?」

「どのくら……」

 

どのくらい大切なんだろう……まあ無くさないようにってのもあるし、本当に追い込まれたらこの刀に頼ろうかな、とか考えてるけども。

 

「そこそこ、そこそこ大切」

「そっかぁ。そこそこ大切なんだねー」

 

なんかよくわからないけど、手入れとかはそこまで頻繁にしなくてもいいんだよね……使ってないからかもだけど。

 

「こいしってさ、地上のこと怖くないの?」

「んー?なんで?」

「あーいやほら、地底の人ってみんな優しいけど、地上に行ったらそういうわけでもないでしょ?」

「うーん……」

 

こいしとさとりんはその能力故に迫害されてきた。いつこいしの目が閉じたのかは知らないけど、まあ多分地上にいた頃に耐えられなくなって、目を閉じたのだろう。

地底ではそういう、地上から流れてきた妖怪が多いからさとりんやこいしのことも受け入れられているけど、結局地上ではそうもいかないだろう。

 

「別に……あんまり人と話さないからなぁ」

「そっか…」

 

無意識……そもそも何も考えていないのか、何も感じていないのか……まあ何か問題があるならさとりんがちゃんと止めてるか……

 

「それにここにずっといるのは退屈だもん」

「そりゃそうか……」

 

私だって暇とか言って地底に来てるし……鬼やパルスィさんのこと苦手とか言いつつ何回も来てるし、やってることは変わらないのかもしれない。

でも本人は確かに昔に辛いことを経験したわけで……

 

「あっ、もうすぐ着くよ!」

「もうすぐ……まだ何も見えないんだけど、というか結構暗いな?」

「もう見えてるよー」

「何も見えないって……ちょっと広めの空間?」

 

辺りは岩場だし、天井も結構高いけど……これが綺麗なところ?いや普通の薄暗い岩場だけども。

 

「んふふ〜、わかんない?わかんないでしょ〜」

「うんなんっにもわかんない!」

「しょうがないな〜、教えてあげよう!」

 

随分と楽しそうで……

笑みを浮かべたこいしは何かを両手で持つような手の形を作り、そこに明るい球体を作り出した。

 

「まぶしっ!瞳孔が、瞳孔が開いてるのっ!」

「同じことできる?」

「同じこと?多分……」

 

同じことって言うことは同じくらいの明るさ……

私もこいしと同じような手の形をして、霊力で明るい球体を作り出した。

 

「で?なに?」

「周りを見てみて〜」

「………おぉ」

 

さっきまで薄暗いだけだったあたりの風景が壁や天井、床にまで小さな光が散らばっていた。場所によって光の強弱が違っていたり、光の色まで少し違っている。

 

「どう?驚いた?」

「腰抜かしそうになった。なんていうか…星空みたいだね」

「でしょでしょ〜?空のない地底でも星空を楽しめる、私のお気に入りの場所なんだ〜」

 

多分岩の表面の所々に光を反射しやすい何かがあって、小さかったり大きかったりする光が星みたいに見えるんだろう。

 

……プラネタリウムみたいだ、なんか懐かしい気分。

 

「よくこんな場所見つけたね」

「地底は散々練り歩いたからね、何か面白いものはないかなーって」

「いやほんと、凄いよ、うん」

「もっと褒めていいんだよ〜?」

「天才凄い美少女」

「適当言ってない?」

「言ってない言ってない」

「ほんと〜?」

 

地上には見劣りするけど、それとはまた違った綺麗な景色。

心底楽しそうに笑ってくれるこいし。

 

まあ……ずっとその顔しててくれたらいいな。


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