「んー………んー………」
なんか、なんかおかしいんだけどな……
「………なにしてんの…?」
「よいしょっと」
「!?」
「あ、治った」
「いや、治ったじゃないだろ!」
「あ、お燐」
私が自分の首をゴキゴキ弄ってるのを目撃したお燐が驚いた様子で話しかけてきた。
「いやね?さっきこいしと外に出てたのはいいんだけど、その時になんやかんや首が逆向いちゃってさ」
「なんやかんやでどうやったら逆向くのさ!」
「さあ?」
「さあ?じゃなくてさ……話しかけようと思ったら首がありえない動きしててびっくりしたよ」
「私もびっくりしたよ、起き上がったら体の向きと見える景色が全然違かったんだもの」
「よく生きてたね?」
自分でもそう思う。いや、本当に。
時々私の意識外で勝手に再生が始まることがあるんだよね……私の体が本能的に再生してるのかな。
こいしは帰ってきたらすぐどっか行ったし、やることなくなったな………地底に来ても暇を持て余しているのは私だ!
「お燐たちはよくこんな場所で生活してるねぇ」
「まあ慣れたからね……どちらかと言うと慣れるしかなかったって方が正しいんだけど」
「そっか」
私は当然のように地底と地上を行き来してるけど、地底に住んでる奴からしたらここしか居場所はないわけだから、慣れるしかないと言えばそりゃそうだろう。
「あー……お燐って今何してんの」
「なんにも?」
「そっかー………猫の気の引き方ってわかる?」
「………何?」
「いやあ、知り合いに猫の式神がいるんだけども、私の好感度がいつまで経っても上がらなくてさ……お土産あげたらお土産にだけ食いついてるし」
「そりゃあ嫌われてるんでしょ」
「ぐはっ………」
どストレートに言われた……
「そう言わずにさ……嫌われてはいないと思うんだけどな」
「その式神ってやつの性格は知らないけど、猫って懐かない相手にはとことん懐かないやつもいるからねー」
「お燐って結構人懐っこい?」
「そうかな?考えことないけど」
うーむ……橙は藍さんは大好きだけど藍さん以外には当たりキツそう……というか、橙って藍さんと紫さんと私以外に会ったことある人いるのだろうか。ずっとあのマヨヒガって場所にいるような気もするんだけど。
「お燐と比べたらあいつツンツンしすぎじゃないかな……」
「まあまあ、もしかしたらそれがそいつにとって親しくしてるつもりなのかもしれないだろう?」
「そんな親しみ方嫌なんだけど、見た目ちっちゃい子供なのに私に対して可愛げないのよ。他の人には親しくするくせに」
藍さんにはめっちゃ嬉しそうにすり寄っていくのに……
「背が同じくらいなら、ちょっと関わりのある友達みたいな感覚じゃないかな?」
「友達にあんな振る舞いしてたら友達無くすわ」
「………」
「あ、今めんどくさいなこいつって思っただろ」
「うん」
「否定しろや」
いーよいーよ、私はめんどくさいやつって自分でもわかってるし。直すつもりはございません。
「んー、まあ私なりにいろいろ考えてみるよ」
「それが一番だね」
「お燐役に立たないし」
「あ、気にしてた?いま面倒くさいって思ったの否定しなかったの気にしてた?」
「全然気にしてないし、私はどうせめんどくさいやつだし。どうせ今もめんどくさいなコイツって思ってるんでしょ?」
「うん」
「否定しろや」
「さっきやったよねこのやり取り」
お燐はまぁ……変なこと言わないから話しやすいな。
「さとりんってもう仕事終わってる?」
「あー、多分もうすぐ終わるんじゃないかな」
「じゃあさとりんのとこ行こーっと。お燐も一緒なー」
「えぇ……なんでさ」
「私が迷子になってもいいのか?」
「え?あ、あぁ……」
この地霊殿結構広くて複雑だからまだ構造把握してないけど、歩いて行ったらここからさとりんの部屋までも数分はかかると思う。
「………あれ?」
「うん?どうしたんだい?」
「お燐さ、いつか忘れたけど私のこと毛糸さんって呼んでなかったっけ」
「………………あ!確かに呼んでた気がする!」
「いつ変わったんだろ」
「さぁ……なんかもう結構ここに来るし、毛糸も親しくしてくるから、毛糸さんは堅苦しいとか考えたような……」
「まあ私もそっちの方がいいけどね」
………そういや橙は私のこと普通に毛糸って呼ばれてるな…同級生とかそんなノリと同じような気がしてきた。
「……お燐ってさとりんのことさとり様って呼ぶけど、私がさとりんって呼ぶのは別にどうも思わないの?」
「そもそもさとりんって何?」
「…………確かに!」
なんで私さとりんのことさとりんって呼んでるんだ……?
「……まあ私のことだからその場のノリだろ、適当だよ適当」
「だろうねぇ……あぁ、別にあたいはさとりんって呼んでるの気にしてないよ。さとり様があたいたちの飼い主見たいな存在ってだけだからね」
ペット……?
「いつどこで出会ったの?地上?」
「うん、あたいがまだこの体に慣れなかったころに。最初はびっくりしたよ、なんでこっちの考えてること分かるのかって。そんでそこからさとり様にくっついてたら、いつのまにか体持ってたし、こんな場所に来てたし」
「お燐は地上に戻りたいの?」
「うーん………さとり様と一緒にいれたらどこでもいいかな」
「好きだねぇ」
「好きじゃなきゃ一緒にいないさ」
それもそっか。
私にはそういう家族みたいな人いないからな……まあ変な記憶持ってるし、同族もしゃべらない奴ばっかりだし。
基本一人なんだよなあ、私って。友達ならいるけど。
大体みんなそういう相手いるんだよなあ……私が浮いてるからか、この世界から。
……考えたらなんか悲しくなってきた。
「ちょっとちょっと、どこまで行くのさ」
「ん?あ、着いてた?」
考え事してたら通り過ぎてたみたいだ。
「へいさとりん仕事終わってる〜?」
「あなたが暇つぶしにやってくることを想定して既に終わらせておきました」
「それはすごっ」
私が構ってもらいにくるのを想定してさっさと仕事終わらせる……私の行動パターン見切られてる?
「あなたって意外と寂しがりですよね…」
「意外とじゃないし、めちゃくちゃ寂しがり屋だし」
「堂々と言いますか、それ」
「さとりんの前じゃ堂々としてようがしてなかろうが大して違わないでしょ」
「それもそうですね」
私、3日以上誰とも会わずに生活するなんて不可能だからね。どこかで会話というものを挟まないと寂しさでなんか消えたくなる。
「あ、さとりんて紅茶飲む?紅茶すげー淹れるの上手い人から薦められた茶葉持ってきたけどその肝心の茶葉を部屋に忘れたからまたあとで持ってくるね」
「そうですか、わざわざありがとうございます」
まあ他にも色々持ってきてるんだけど……全部部屋に忘れたった。
「お燐、毛糸さんの案内ありがとうね」
「あ、やっぱりめんどくさいって思ってた?」
「うん、思ってた」
「思ってますね」
ここまで来るとわざわざ案内させて申し訳なくなってくるわ。後でここの地図見せてもらおうっと………
「というか、何回もここに来てるのに構造覚えてないのおかしくないですか?」
「いやそれもそうだけどさ……そこまで長く滞在することないし、ここを見て回るわけでもないししょうがないでしょ。でかいんだよこの屋敷」
「まあ中に動物飼育してる場所とかあるからね〜」
そのスペースいる?というか動物飼育する必要ある?
「ありますよ」
「動物好き?」
「好きです、まっすぐな心を持ってるので」
「あ、そう……」
可愛いからとかの理由じゃないのね……まあらしいっちゃらしいんだけどさ。その点こいしは可愛いとか面白いとかの理由で動物好きそうだけど。
「多分あの子はそんな感じでしょうね」
「あのー……」
お燐が申し訳なさそうに声をあげる。
「二人とも楽しそうなこと悪いんですけど、あたいは何の話ししてるのかわからない……」
………あそっか。
さとりんは私の心の中読んで会話するし、私もそれを受け入れて当然のように心の中で話したりするし……そりゃもう一人からしたら何話してるかちんぷんかんぷんだわ。
「ごめん、出来るだけわかるように会話するよ」
「いや別にそこまでしなくても……」
疎外感を感じる辛さは私もよく知ってるからね!
「そうそう、こいしの我儘にも付き合ってもらってありがとうございました」
「いやいや、私も楽しかったし、暇だったからちょうどよかったよ」
「……岩を頭にぶつけられたこと本当は気にしてると」
「そりゃね、死ぬかと思ったもん。ちょっと目を離したらフラフラとどっかに行きやがるし」
まあそれがこいしだからしょうがないんだけど。
「……いつも思うんですけど、注意とかしないんですか?」
「お燐は知らないのよ」
「あいつを叱った時にどんな顔をするのか……」
思い出しただけで罪悪感が……
「一体どんな顔……?」
「こちらが逆に責められているような感覚に陥る顔」
「こっちの良心を直接抉ってくるめちゃくちゃしょんぼりとした顔」
「………それ二人とも甘いだけなんじゃ」
「お燐は知らないのよ」
「あいつを叱ることがどれだけ大変なのか……」
「似たような発言繰り返さないでください」
こいしのやつ、今もどこで何してるやら………
「………あ、ずっと気になってたんですけど、二人っていつ出会ったんですか?あたいの記憶じゃ毛糸と初めて会った時にはすでにさとり様と知り合いだったみたいだったし」
「んー?それは…私がまだこの体になれなかったころにこいしにここに拉致されて」
「そう、確かにこいしだったわね、うん」
「で、その時に私がちょっと面倒見てもらってね。多分お燐と初めて会ったのは私がこの体になれるようになってから最初にここに来た時だと思う」
そう、あの時こいしに無理矢理地底に連れて行かれてなければ、今頃私は地底になんて一度も行ったことないだろうし。
そう考えたらまあ……偶然ってすごい。
「なんだ、それじゃああたいと同じ感じだね」
「あー、それは……確かに?」
「話せない頃に出会って、その後に体を得たって意味では、そうなるわね」
………でもさとりんの下にいるやつって大体そんなんでしょ。
「……というか毛糸さん」
「何さ」
「いつまで髪と服に血をつけてるんですか」
「あっ………なんで言ってくれなかったのお燐」
「いやー……そういう趣味なのかと」
「そんなわけないだろ!?」
あー、とりあえずどこかで洗わなきゃな……
「………」
「ふぅ………どうです、ここの温泉は気に入ってくれてますか?」
「まぁ、うん……そだね………」
「……なんでそんなに声小さいんですか」
「いや…別に………」
温泉に入ってるさとりんのサードアイが私のことをじっと見つめてくる。
「………あぁ、なるほど〜」
「……おい、なにニヤニヤしてんの」
「いえ別に…ぷっ」
「ねえ今笑ったよね、笑ったよね!?」
「あ、普通の声量になりましたね」
「うっせぇわ………」
「あ、また小さくなった」
さとりんの視線が鬱陶しいので壁を向く。
「これは……意外な一面を知れましたね」
「……私は汚れ落とすのに入る必要あったけどさ、なんでさとりんまで一緒に温泉に入る必要あったのさ」
「私だって疲れを取りたいですし」
「あっはい」
そりゃそうだ……私なんて遊び呆けて勝手に血を流してただけだし……
「まあ今はあなたをからかうのが楽しいからっていうのが理由ですけど」
「あのさぁ…あのさぁ………」
「一応聞きますけど、あなた女ですよね」
「……多分」
「じゃあなんで今私のこと避けてるんですか」
「もういいじゃんその話!人をいじめるのよくない!」
「これ、あなたの友人たちに教えたらどういう反応するんでしょうね」
やめろよ……絶対にやめろよ………その話で5年はイジられる気がする。
確かにさ……私だっておかしいなとは思うけどさ……今まで極力考えないようにしてきたんだよ。だってバカみたいな話だから。
「いやいや、そういう方もいるとは思いますよ。……ふふっ」
「ねえもうほんとにさ……やめてよもう、笑うなって……」
「次はこいしと一緒に入りますか?」
「………」
「あ、無視ですか、そうですか」
…そういや、さとりんと二人で何かしたことってあんまりないな……
「今こうして一緒に温泉に入ってるじゃないですか」
「………」
「頑なに無視しますね……わかりました、私もこの話はここまでにしておきましょう」
「頼むよ……本当に………」
「すこししつこかったですね、すみません」
まあ変な感覚してる私がおかしいんだけどさ……
「確かに、私と毛糸さんが二人で何かしたことってないですね」
「いっつも適当に雑談して帰ってるからね」
「せっかくですし、温泉から上がったら後で私の寝室に来てくださいよ」
「え……まあ、いいけど……」
「………」
「………」
意味がないとは分かりつつ、私のことを見てくるサードアイに必死に背を向ける。
「まさか寝るのも駄目とは……」
「………言うなよ?」
「さてどうでしょう」
…不味いって……