毛玉さん今日もふわふわと   作:あぱ

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毛玉の話を聞く白狼天狗(男)

「よっす柊木さん」

「げっ……」

「げっ?げってなにさ、言ってみ?おん?」

「今日仕事あるから用事はまた今度にしてくれ」

「そうはいかない、ちゃんと文に今日は柊木さんは休みだって聞いてきたからね、逃げられると思うなよこの足臭が」

「臭くねえし、面倒だから今度な」

「そうはいかない、あんたにろくな友達がいないのは把握しているぞ、文から聞いた。どうせやることないんだろ」

「はあぁぁ……なんだよ」

 

わあすっごい面倒くさそう〜。

 

「いや言わなくてもわかる、どうせ暇潰しなんだろ」

「よくわかってんじゃねえかこの足臭」

「臭くねえし。お前の行動原理ほぼ暇潰しだろ」

「そんなこと…そそ、そんなことな……あるし」

 

否定できない……

 

「あのなぁ……年中暇人のお前と違って、俺の休みは限られてるんだよ。お前の暇潰しなんかに付き合ってられるか」

「ぐっ……人をニートみたいに言いやがってこいつぅ………わかったよ、悪かったね邪魔して………」

 

踵を返してとぼとぼと歩く。

はい、ここで出来る限り肩を落として落ち込んだ様子を演出しましょう、足取りは重く、ついでにため息の一つでも吐いてやります。

 

「はぁ………」

 

するとこれに罪悪感を覚えた相手は……?

 

「わかったよ!暇潰し付き合ってやるよ!」

 

はい私の勝ちー。

 

 

 

 

 

 

 

渋々と言った感じで付き合ってくれる柊木さんに適当な居酒屋?みたいなところに案内させて席に座る。

 

「いやー、でも演技ってわかってたでしょ?なんでわざわざ乗ってくれたの、お人好し?あ、私水でー」

「俺も水で。放置したらそのままお前が文か椛に俺にいじめられたって言いにいくところまで見えたからな。そっちの方が厄介だし」

「よく分かってんじゃん」

「あのなぁ……」

 

でもこの天狗三人も相当変な関係してるよねぇ……イジられポジションは柊木さんだけど。

 

「あ、煮物一つください」

「あいよ」

「………一応聞くけどお前金持ってんの?」

「フッ、愚問だよ」

「そうかそうか、悪かったなこの野郎」

「私知ってるんだからね、柊木さんが実は相当お金溜め込んでるの」

「………なんで知ってんだよ」

「文が言ってた」

「あいつもなんで知ってんだよ!」

「私もそれ気になって聞いたら、柊木さん酔わないから酒とかもあまり飲まないし、娯楽に使うこともないなら状況証拠だって」

「勝手に決めつけやがって、俺だって娯楽の一つや二つ………あれ?」

 

まあ確かに遊び呆けて娯楽に金使うような人には見えないけど柊木さん。結構お堅いイメージ。

 

「一応消臭の効果あるものとか、河童があほみたいな値段で出してるやつ買ってるんだぞ…」

「あ、とうとう自覚出た?」

「別に臭いって認めてるわけじゃねえからな。お前ら含め周りの奴らが足臭足臭って言ってくるから自分でも心配になってやってるだけだし」

 

……ちょっと可哀想に思えてきた。今更すぎるけど。

 

「で、一体俺なんかに何の用だ」

「ん、あのさー……無性に自分なんていなくたって何も問題はないって思ったことない?」

「急にどうした」

「いやね?この前地底に行ったらすっごいモヤモヤすること言われてさあ……いや、私が勝手にモヤモヤしてるだけなんだけどさ」

「それがなんでさっきの質問になるんだよ」

「うーん……」

 

少し言うか迷ったけど、まあ言ったところで特に問題はないと判断したので言ってしまおう。

 

「私、前世の記憶あって多分転生してるんだよ」

「……あー、そういうことか」

「あれ、反応薄いな?」

「そりゃあ、お前みたいな変な奴が前世の記憶あるって言っても、ふーんで終わるからな。あと色々合点がいく」

 

なるほどね?私ってそれだけ変なやつって思われてたのね?なるほとね?

まあよくよく考えたら変なことしか言ってないし変なことしかやってないし私自身変な奴だしそりゃそうだ。

 

「それでさ……多分私って、もともとこの世界にいちゃいけない存在だと思うのよ」

「なんでだ?」

「だってさ、普通の人間然り妖怪然り、前世の記憶持って転生してからなんてことないじゃない。それに私の前世って妖怪なんて存在しない世界だったしさ。何かの歯車が狂ったか、手違いみたいなもので多分私は今ここにいるんだよ」

 

もともとあったこの世界に、私って言う異物が紛れ込んでしまった。

 

「この世界にとってありえない存在なんだから、存在してちゃいけない。もしかしたら私がいるせいでなにか大変なことが起こるかもしれないし……すでに起こってるかもしれない」

 

私が存在しているせいでこの世界、もしくは私の友達によくないことが起こっているとするならば……どうすることもできないけど………どうにかしないといけない。

 

「……で、それを俺に話した理由は?」

「柊木さんって記憶なくしてるんでしょ?」

「そういえばそうだったな」

「あれ、自分のことじゃなかったっけ……?まあいいや。それってさ、私とはちょっと違うけど、今の柊木さんってこの世界にもともといなかった存在ってことじゃない。じゃあ柊木さん自身はどう思ってるのかなって」

「どうって、言われてもな……」

 

少し悩んだ様子を見せる柊木さん。

 

「俺は——」

「あ、この煮物めっちゃ美味しい」

「ありがとさん」

「…………」

「あ、ごめーん、続けてー」

「いや、お前さ……本当にさぁ……」

 

ごめんね?心の中で謝っとくわ、ごめんね?

 

「……俺も同じことを考えたことはある。別に自分は周りの奴らにとって不必要なんじゃないかって。だけどまあ、すぐに考えるのをやめたよ。代わりになる奴がいないほど凄くて必要とされてる奴なんて一握りなんだって気づいた。だから、自分の存在がどうとかは関係なしに普通に生きることにした、それだけ」

「………」

 

煮物美味しいなこれ……持って帰りたいくらい。

 

「多分お前は俺とは違うんだろうな。俺よりきっともっと根本的な………ただまあ、いなかったらってのはもしもの話だ。お前が何を考えているのかは知りたくもないが、自分が今生きてる場所で出来ることしておけばいいと思う。世界とか、個人がどうこうできる規模でもないだろ」

 

柊木さんが言ってるのももっともだ。

結局私はここにいるんだから、いなかったらなんて考えるだけ無駄なんだろう。

 

「それに、お前がいたからどうにかなったこともいくつかあるだろ。ほら、あの引きこもりのよく喚く河童とかさ。お前が助けたんだろ?」

「うん………そうなんだけどさ」

 

確かにるりを助けたの私だ、けれど……

 

「けれどさ、もともと私がいなかったならそういうことにもならなかったかもしれない。きっと私がいなかったら、その穴を埋めるように別の何かがはまってるんだよ。意味ないんだよ私には」

「………」

 

あー……関係ないのに変な話をしすぎたな…柊木さん困ってる。

 

「あのなぁお前………無意味だとか無価値だとか、そんなことばっか考えて生きてんのかよ」

「はぁ?なわけないでしょ、普段はもっとくだらんこと考えて生きてるわこの野郎」

「だったらそのままでいいだろ。俺はな、この世界に意味のある存在なんていないし、この世界の全ての存在は無価値だと思ってる」

「ちょっと極論すぎない?」

「すまん今のは流石に言いすぎた」

 

ブレすぎだろおい。

 

「要するに、この世界に無価値なものなんて溢れかえってるんだよ。意味のないものばっかりだ、必須のものなんてない、何か一つが消えたところでこの世界にとっては大したことないんだよ」

「必須なものなんてない……」

「俺から言わして貰えば、多少の優劣はあれど、この世界における全てのものはごみくずと同等だ」

「んー、極論」

「お前だけがいなくたっていい存在じゃない。俺や椛や文や妖怪の賢者やら鬼やら、なんなら妖怪がいなくたってこの世界は成り立つんだ」

「それは……まあ………」

「結局、そのごみだらけの世界をどう掻き分けて生きていくか、それだけなんだ」

 

私も数あるゴミの一つ……

 

「だからさ、お前もそんな考えたってしょうがない悩みなんて捨ててさっさとくだらないこと考えて生きろ」

「そもそも毛玉ってゴミみたいなもんだよね」

「おうその息だ、いつも通りくだらないこと考えてろ」

「人が常にくだらないことしか考えてないみたいな言い方やめい」

「事実だろ」

「勝手に事実って決めつけんな、事実だけど」

「事実なんかい」

 

まあ私みたいなバカにしては難しいこと考えた方だね。

柊木さんのおかげでまあ……ある程度は気持ちが楽になった、もとよりしょうもない悩みだったんだけど。

 

「なんか気が晴れたからもっといろいろ頼んでいい?」

「お前自分で何言ってるかわかってる?」

「無理矢理相談に乗らせた挙句に集ろうとしてる」

「自覚があるようで結構……ああもう好きにしろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外と食べなかったなお前」

「別に私大食いじゃないし、どちらかといえば少食よりだし。あと人の金でバカみたいに食うほど頭おかしくない」

「いや頭はおかしいだろ」

「あん?そうだよ」

「肯定すんな」

 

こんな世界に何百年もいたら頭もおかしくなるさ。

 

「んーで、このあとなんか予定あんの?」

「ない」

「どうすんの」

「知らん」

「いつも何して過ごしてんの」

「ぼーっとしてる」

「………」

「………」

 

あー………oh……

 

「あ、あれなんだっけ、道場?」

「修練場な」

「あそこいこう、やることないなら」

「断る」

「なんでさ」

「相手がお前は無理、絶対に行かない」

「なんでさ!私、剣なんてブンブン振ることしかできない素人だよ!?」

「だからだよ!そのうちお前が苛立って妖力で俺を吹き飛ばすだろ!」「しねーよ!なに、あんたは私のこと暴君かなんかだと思ってんのか!」

「そうだよ」

「殴っていい?」

「無理」

「はぁ……」

 

そんなさ……鬼じゃないんだからさ……

 

「それに、お前に関しては剣使うより殴った方が強いだろ。剣術うんぬんとか意味あんのか」

「言うなそれを……私だって全力で殴るなり妖力弾飛ばすなりした方が強いのはわかってるし」

「あとお前は剣使うの絶対下手だ」

「さっきから失礼な発言多いな?尻尾引き抜くぞコルァ」

「やめろ。………おいなんだその目……本気か?まさか本当にやる気か?」

「嫌だった謝れ」

「すまん」

 

……案外尻尾抜いてもケロッとしたそうだけどな。

というか、あたり見渡せばケモミミやら尻尾やらが大量にあるこの山ヤベーな、やっぱ人外魔境だわ。

 

「……椛と文と、いつ出会ったの?」

「あ?なんだ急に」

「いや、私は気づいたら3人でいつもつるんでたからさ。どう出会ったのかなって」

「あー……そうだな……」

 

 

柊木さんが記憶を掘り起こしている。そりゃそうだ、相当昔の話なんだから。

というか、これだけ時間経っても前世のしょうもないこと覚えてる私の脳みそどうなってんだ、偏りすぎだろ。あとりんさんのことも結構覚えてるし………んー?

 

「俺もあいつらとよく絡むようになったのはお前と出会ってからだぞ」

「ん、そうなの?」

「あぁ、椛とはよく仕事で一緒になることあったからそれなりだったが、文とはほとんど面識なかったな。椛と仲のいい奴ってだけ知ってた」

「へぇ」

 

確かに最初あった頃は柊木さんも今ほど変な絡みされてなさそうだったな……

 

「特に文に関しては最初は射命丸さんって呼んでたからな、すぐにやめたけど」

「マジで?文さんでもなくて?射命丸さん?マジで?」

「あいつをそんな畏まって呼ぶの馬鹿らしくなってやめた」

「そりゃそうだ。あ、でも文って柊木さんの上司なんだっけ」

「文どころか椛の部下だぞ俺は」

「なんで!?」

「俺がずっと下に居続けてるからかかもな」

「なんで」

「一番下の方が楽だからだよ、おかげでみんなどんどん上へ上へ上がっていくけどな」

 

向上心のかけらもねえなこいつ。

 

「上のやつが椛と文だからとくに何も言われねえし」

「そんなだからいつもこきつかわれてるんじゃ……」

「そうじゃなくてもどうせこきつかわれるだろ」

「あー、うん、そだね。てか本当に他に友達いないのかよ」

「いたさ、昔は」

「そいつ今何してんのよ」

「裏切りで処刑された」

「アッ……そっ…か……」

「まあそんな馬鹿な奴はさっさと失えて幸運だったよ」

 

わぁ……考え方がなんか……前向き?なのかな?

 

「まあ、その……なんだ、悩みとかあったら聞くよ?」

「周りの奴が女しかいなくて他の男からの視線が痛い」

「うん、強く生きて」

「………」

 

聞くだけだから、聞くだけ………だってそんなこと言われてもどうしようもないじゃん、男の友達作れとしか言えることないわ。

 

「あぁー……帰るわ、もう相談乗ってもらったし、これ以上迷惑かけたくないし」

「そうか。まあ悩みあるなら今度からは俺じゃなくて文にでも相談しておけ、その方が多分いいぞ」

 

いや……今日は柊木さんだけたまたま休みだったから来ただけだし、もともと文に話聞いてもらうつもりだったけど。

 

まあ結果としては、柊木さんでよかったかなあ。


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