かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
愛上(あいがみ)
かめはめ波を撃つために日夜努力してる
かくれんぼの最中にでかい木桶の中に隠れ、発見されたときには味噌になっていた
味噌
おいしい。美味しすぎて"美味しい"の語源になった。
憎い
男が憎い
汚らしい男が憎い
私をあんな目にあわせた男が憎い
でも、この世界じゃ誰も殺せない。
私の憎しみは解消されない。
私はもう、壊れてしまいそうだ。
そうだ、あの、武器を持った奴らなら。
あいつらなら私に殺されてくれるかもしれない。
あいつらなら、殺せる。
見つけた。
あいつらとよく一緒にいる男だ。
ここには誰もいない。あいつも私に気づいてない。
あいつが叫んだとしても、誰かが来る前にこの場から消えることが出来る。
それに、あいつは今、なぜか下半身が戦車のキャタピラみたいになってる。
あれなら素早い行動はできないだろう。
なにも問題ない。むしろ絶好のチャンスだ。
私は、ハサミを握りしめ、足音を殺しつつも俊敏に近づく。
あと10m……、5m……、3m……、
殺った!
「甘いぜ、ガール!!」
ゴキィ!
背中にハサミが刺さるまさに直前、男がこちらに振り返った。そしてハサミは、男の頭から生えていた戦車の主砲のようなものに弾かれた。
なんとか手から抜け落ちないで済んだが、かなりの勢いだったため、手を少し痛めてしまった。
くそ、汚らしい男の分際で小癪な真似を…!
そう思い、男の方に目を向けると、泡を吹いて倒れていた。
「なんで?」
思わず、口をついて出てしまった。
そう言えばこいつが振り返るとき、何かが折れるような鈍い音がしたような気がする。もしかして、振り返ったときに腰椎を折ったのか?
確かに、頭の砲身も重そうで、下半身も固定されてるから、勢い余って腰が回りすぎた可能性はあるな。
私は近くに落ちていた石を男の方に投げる。しかし、石が頭に当たっても反応はない。
死んだか、気絶したか。
少なくとも、私にとって都合のいい展開だ。
これで心置きなく、ハサミを振り下ろせる。
嫌悪感を抑えながら男に近づき、そしてハサミを振り下ろす。
ハサミの刺さった胸の傷口から赤い液体が滲んでいるのが見え、そして、それを皮切りに私は何本も何本もハサミを突き刺した。
しかし、10本ほど刺したあたりで異変に気が付いた。
これ、本当に血なのか?
男の傷口から出ている液体は、なんというか、確かに赤いのだが、どちらかというとオレンジに近いような気がする。
もしこれが私の初めての殺人だったら、きっと『血とは本当はこういうものなんだ』と解釈して終わっていただろうが、既にこの世界で何人も同じ目にあわせてきているので、そんな勘違いはしない。
そして、この鼻につく匂い。
体内特有の刺激的なにおいも、鉄っぽいにおいもしない。
どこか爽やかで健康的なにおい、と言ったほうが私の実感にあっている。
私は男の体に刺さったハサミを一本引き抜いて、嫌々ながらその血のようなものに触れてみる。
冷たい……?
そのことに不気味さと嫌な予感を感じ、私は踵を返してこの場を去ろうとした。
「ふぉっふぉっふぉ、わしに何かごようですか?」
自分の背後からいきなり声がかかった。
つまり、先ほどまで男が倒れていた場所からだ。
心臓が飛び出しそうになるのを抑え、即座にそちらに向き、持っていたハサミを構える。
そこにいたのは、全身に絆創膏や包帯を巻き、割れた丸眼鏡をかけた白衣の博士だった。だが、よく見たら顔がさっきの戦車の男と同じだ。
おかしい。おかしすぎる。
いくらなんでも、傷の治りが早すぎる。それにそんな恰好なんてしていなかった。戦車のパーツもどこにも見当たらない。
「……一体何なんだ、お前は?」
「わしは愛上。そしてこっちはうすしおのジジ」
そう言って地面に落ちているポテトチップスの袋を指さした。
よく見たら、ポテトチップスの袋と男の手が紐でつながっている。こいつ、ポテチにリードを付けて散歩でもしてるのか?
「私はお前をめった刺しにした。なぜもう復活している?」
手に万力を籠め、嫌悪感を押し殺しながら質問した。こいつは、敵だ。今までの奴らとは違う。下手をしたら私がやられる。それだけは、絶対に嫌だ!
「決まってるじゃろ。わしが特別な存在だからだよ。君だって見たじゃろ? わしの体に流れる、この特別な熱い血を」
男はそんなことを言いながらポケットから茶色い飴を取り出して口に放り込んだ。その光景にどことなく懐かしさを覚えた。
彼はその血を熱いと言っていたが、私には冷たく感じた。一体なぜ? だが同時に、確かに特殊なものだと直感していた。もしや、こいつはこの世界の神か何かなのか?
だとしたら、こいつこそ、今度こそ殺せるのではないか?
そう思った時には砕けそうなほど奥歯を噛み締めていた。今までにないドス黒い殺意が自分から湧いてることに、心地よささえ覚えていた。
「この血は、野菜ジュースなんじゃ」
……は?
野菜ジュース?
思いもよらぬ言葉に私は少しばかり毒気が抜かれてしまった。確かに、言われてみれば野菜のような甘い匂いな気がする。
でも、いったいなぜ?
「ふ、疑問に思っているようじゃな。これだから学のないマッド庶民は困る、やれやれ」
「どういう意味だ?」
なぜにもこいつはこんなにも癇に障るんだ。
それに、マッドなのはお前だ。あと
マッドはサイエンティスト以外の冠詞にはならないだろ。
「血液は人体においてどんな役割を負っているのか知っておるか?」
「それは、全身の細胞に栄養を運んだり、ウイルスを殺したし、傷を塞いだり、だろ。それがなんだ」
「そこまでわかっているなら、もうわかるだろう。全身に栄養を運ぶんだったら、最初っから栄養満点の野菜ジュースを血管内に流したら最強じゃないか!!」
呆れてものも言えない。
どこの世界の常識を話しているんだ、こいつは。
体験したことのない理不尽だ。
しかし、わかったこともある。こいつは神でもなんでもない。ただのバカだ。
どのみち、私はこいつを完全に殺すか、世界から隔離するかしかないんだ。この人の死なない世界で一度私の姿を見られた以上、野放しにはできない!
私は、両手にハサミを構えて男に向かって駆けだした。
とりあえず、こいつの両手足の腱と喉を切る!
「遅い!」
「っ!!」
気が付いた時には、私の体は窓ガラスを突き破り、どこかの教室の中に叩きつけられていた。
不思議と痛みはあまり感じなかったが、自分が何をされたのかわからないことに少し混乱を覚えたが、即座に思考を現実に引き戻した。ここは、美術室か?
いや、そうじゃない。今考えるのは別のことだ。
いま、こいつは何をした?
何かを振りかぶっていたのは見えたが、とても私に届く距離ではなかったはずだ。
くそ、やはりこいつは相手にしないほうがよさそうだな。
すぐに男は、割れた窓ガラスをさらに破壊して、教室の中に入ってきた。
リードの付いたポテトチップスをさながらモーニングスターのように振り回しながら。
私は、これで殴られたのか?!
中身はポテトチップスじゃないのか?
くそ、油断した……!
「少し落ち着こう。この世界でそんなことをしても意味ないことは、君が一番わかってるだろ」
「意味なんてどうでもいい……。お前みたいな汚らわしい男が許せないだけなんだよぉぉおお!!!」
「っ! ……なるほど」
男の声なんて、私には何も聞こえなかった。
私の慟哭に驚いている間に、男に向かってハサミをいくつも投擲した。
そして、そのすきに手元にあった胸像のようなものを持ち、あいつに近づいて、
何分も
何時間も
重く、固く、冷たいそれを、私は振り下ろし続けた。
▼△▼△▼△▼△
「殺人鬼を、戦線に入れてやってほしい?」
「うん」
謎の通り魔に野田君が刺殺されたその日、私は愛上君に呼び出されて体育館裏に来ていた。
彼曰く、ここは天使や教師が見回りに来ない上に体育館内の音が響くおかげで秘密の話をするには最適なんだそうだ。
遠いから来るのが面倒だったけど。
「殺人鬼って、野田君を殺したあの通り魔のことかしら?」
「野田先輩殺されたんだ。ちなみに死因は?」
「ハサミで背中を何度も刺されて、よ。医者じゃないから詳しくは知らないけど、いわゆる刺殺ってやつじゃないかしら」
「じゃあ、多分俺の言ってるやつと同じだわ」
ふ~ん、『殺人鬼』って呼んでるってことはやっぱり初犯じゃないってことね。
生きてるときかこっちに来てからかはわからないけど、とにかく人を何度も殺せる精神の奴が、この学園内にいるってことになる。
それは、かなりまずいんじゃないかしら。
「ていうか、なんであんたがそんなお願いするのよ。そいつとどんな関係なの?」
「関係でいうと被害者と加害者でしかないな。そいつに一晩中殺され続けた」
「なおさら意味不明ね。なんでそんな奴に肩入れするの?」
いくら死なないこの世界だからって、わざわざ自分を殺した人間のために動くなんてどうかしてるわ。
……そういえば、こいつはどうかしてたわね。
「いや、別に俺がスーパー聖人足長ジェントルだからそんなことをしてるわけじゃないんだよ」
「そんなこと一言も言ってないし、欠片も思ってないわ」
「口で説明するのはむずかしいから、俺の記憶を直接読み取ってもらおう。そしたら事情も何となく伝わると思うわ」
その言葉に私は思わず身構える。
以前私がこいつの記憶の爆発に巻き込まれて一回死んだことをまだ忘れていない。あんな目にあうなんて二度とごめんよ!
……あのときの爆発はわたしのせいっていうのも大いにあったけど。
「そんな身構えないでって。前みたいに映像を出すんじゃなくて、総長の頭の中に映像を送るだけだから、危険はないよ! マウス実験もクリアしてるし」
「人体に試したことは? あと総長って呼ぶな」
「ソラマメって思いのほか大きくて驚くよね?」
「話を逸らしてんじゃないわよ!! あんた、変な力を手に入れる前に普通に説明力を付けなさいよ!」
「マジで大丈夫だから!! 106%大丈夫だから!!」
「余った6%が逆に怖いんだけど!!」
互いに譲らぬ問答の末、私が折れることにした。
こいつの強引な説得に折れたというのもあるけど、その殺人鬼のことが元から気になっていたからというのもある。
この世界には、真にいかれた奴は来れない、というより存在できないと私は推測している。
病気でおかしくなってしまった人ならばここに来たら治るし、生来のヤバいやつはそもそもここで解決されるような後悔などもっていないと踏んでいるからだ。
ともかく、こんな誰も世界に来てまで殺人を繰り返しているということは何か目的があるのではないか。そしてその目的は、私の持つものに近いのではないか。
……希望的観測ね、こんなものは。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言って、彼は足元に置いてあった鞄の中から炊飯ジャーと茶碗を取り出した。
「今お腹どれくらいすいてる?」
「え? そうね、そんなには空いてないけど……」
「じゃあ、小盛りでいっか」
彼はジャーを開け、ホクホクのご飯を少し茶碗に盛って私に手渡した。
「なに? これを食べればいいの?」
「うん、このふりかけをかけてね」
そう言うと今度は胸ポケットからふりかけの袋を取り出した。
袋には『ふりかけ 記憶味』と書かれていた。
なるほど、ここまでくればもうわかったわ。
「このふりかけの中にあなたの記憶がはいってるのね?」
「そう」
「……そして、私はそれをたべるのね?」
「うん」
「……そうすることで、私にあなたの見た記憶をみることができると?」
「正解!」
頭を抱えた。
めちゃめちゃ悩んだ。
こいつの意味不明の力で作ったものを食べることに抵抗がありまくったからだ。
日向君にでも押し付けようかしら。
しかし、そんなとき、以前日向君に言われた言葉が頭をよぎった。
『結局、ただただ遊んでただけじゃん』
思い出すとむかっ腹が立ってきた。
私はいつだって戦線のために身を削って働いているのよ!
少し逡巡した後、私は茶碗と箸を手に取った。
「やってやろうじゃないの!!! 見てなさいよ、こん畜生!!!」
その後、色々あって噂の殺人鬼さんこと遊佐さんが仲間になった。
彼女は今後殺人はしないだろう。詳しくは言えないが、私が保証する。
やっと戦線に仲間が増えました。
ここまでで実質1,2巻分くらいしか進んでないの、遅すぎてびっくりしました。まぁ仲間が増えてくあたりはそこまで話も膨らませられないので、そのうち話も進むでしょう。
個人的には遊佐さんがとても動かしやすいのでこれから彼女視点も増えます。