かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
日向がゆりに殺された後、手紙を最後まで読めなかった日向は再度ゆりに殺された
【今回のあらすじ】
日向はゆりに殺されない
「お久しぶりです」
「うおっひょうい!!」
私が机に座っている彼の背後から話しかけると1mほど跳び上がり眼球と舌が螺旋を描きながら飛びだしていた。随分古い驚き方をするのですね。
彼、愛上さんがこちらを振り返ると、一瞬怪訝な表情を浮かべたのがわかった。おそらく私が誰かわかっていなかったのでしょう。
「もしかして、あのハサミの子?」
「はい、遊佐と申します。その節はお世話になりました」
私はぺこりと頭を下げる。
殺人鬼、と言わなかったのは、彼なりの気遣いなのでしょうか。
今まで私が殺してきた人にまで謝るつもりは私にはなく、彼にもそのことを謝るつもりはない。ですが感謝はしておかなくてはいけないと思い、ここまで足を運んだ次第です。
ちなみに私と愛上さんは今、彼の部屋の中にいます。
正確に言うと、私が勝手に入ってきたのですが。
ふふふ、この寮のセキュリティ程度、私にとってはないも同然です。
「すみません、お取込み中でしたか?」
「いや、別に大丈夫だよ。俺も息抜きしたかったし」
そう言って彼はPCを閉じ、こちらに向き直った。
何をしていたのかは聞かぬが仏ですね。プライバシーですし。
「お茶でも入れようか。ちょっと待っててね」
「いえ、結構です。遠慮とかじゃなくて本当にいりません、絶対に入れないでください」
ゆりっぺさんからお茶鉄砲や記憶ふりかけのことを聞いていた私は明確に拒絶の意思を示した。絶対にそんなものを口にしたくない。
「そう? じゃあ、茶柱だけでもどうぞ」
そう言って彼は湯飲みに入った極太の茶柱を私の前の机に置いた。縁起やご利益のかけらも感じられない茶柱もあるのですね。私の中のYusapediaが改訂された。この人と話をしていると1日で7版くらい更新されてしまいそうです。
「なんで茶柱が紅白カラーなんですか?」
「縁起良くない?」
「縁起に重ね掛けの効果はないですよ。知りませんが」
すでに疲れてしまった。もう帰ってしまおうか。
いやいや、逆にここで返ってしまったら、次あったときにまた最初から同じようなやり取りをしなくてはいけなくなってしまう。今日のうちに用事を済ませてしまったほうがかえって疲労は少ないはず。
私、頑張れ。
「あの、先日のことですが、色々と気を回していただいたみたいでありがとうございました。おかげで憑き物も落ちたように問題なく日常生活を送れるようになりました」
「そっか、それは良かったよ。でも、俺は会長と総長に話をしただけだから、あんまり謝意を持たなくていいよ。多分あの二人なら俺が言わなくても同じことをしたと思うし」
彼はあっけらかんと言った。
確かに、そうかもしれない。彼はきっかけに過ぎないのかもしれないけど、それでも私は嬉しかった。
天使曰く、私を今の私たらしめている力の半分は彼が作ったらしい。
ゆりっぺさん曰く、彼のおかげで被害も少なく、私に居場所を作ることが出来たらしい。
ここで、彼にお礼を言わなくては、私は本当に人でなくなってしまう。
「そうかもしれませんね。でも、一応受けとっておいてください。私のためだと思って」
「ん。じゃあ、遠慮なくいただきます」
彼は相撲取りのように軽く手刀を切った。
「ということは、結局戦線に加入したってことでいいんだよね? でも、みんなの前で戦ったら正体がばれちゃうんじゃないの?」
「問題ありません。私は通信士なので」
そう言って私は自身の耳に付けてあるインカムを指で軽く叩いて見せた。
「ほぇ~、いいな~トランシーバー。余ってたら俺にも一個ちょうだいよ」
「ダメです。あなたは戦線メンバーではありませんので」
「それを言われると弱いね。まぁこの世界じゃトランシーバーなんて貴重品だもんな~」
「あなたはなぜ戦線に加入しないのですか?」
私はついでに気になっていたことを聞いた。
ゆりっぺさんは「あいつは特定の集団に属したくないだけよ」と言っていたけど、別の理由があるのではないかと私は勝手に推測していた。
「別に深い理由とかはないよ。生徒会も断ってるからとか、俺は別に神に抗いたいとか思ってないとか、そんなもんよ。あんまり集団内で思想が分離してても変な感じになるじゃん」
「意外ですね。面白ければなんでもござれかと思っていました」
彼の言ってることには一理ある。一個の組織、それも出来立ての段階で思想が食い違うのは致命的です。その歪みは組織の巨大化と共に大きくなり、やがて空中分解を起こすでしょう。
そこまで考えているかは、私にはわかりませんが。
「確かに基本は楽しいほうにいくね。でもあいつらと遊ぶのにあいつらの仲間で入る必要はないし、今決めなくてもいっかなって。もしかしたらいつの間にかしれっとはいってたりするかも」
「ありえそうですね」
私には見えます。
日向さんらと共にゆりっぺさんにこき使われる愛上さんの姿が。
「というか、私からトランシーバーを貰わなくても、あなたなら自力で作れるのではないのですか? この気持ち悪い茶柱みたいに」
「ゆくゆくはね。今はまだ難しいかな。そんな万能の力でもないしね」
「一体どれくらいまでのことができるのですか?」
「お? 気になっちゃう? 気になっちゃうんだ~。よいよい、見せてやろう」
若干うざいテンションになったところで、彼が気前よくその力を見せてくれるみたいです。
ふふ、計算通りです。
実はこの遊佐、ゆりっぺさんから「無理のない範囲で、あいつの力について調べてほしい」と指令をいただいていたのです。
それはそうですよね。彼の力は天使にもらったものなのですから、彼の力を探るということは、同時に天使の攻略の鍵になるのですから。
愛上さんは椅子から立ち上がって窓を開けた。
彼は手首を回して、ストレッチをしている。今から遠投でもするのだろうか。
「昨日、やっとこさそれなりのができたんだよ。いやー、誰かに見せたいと思ってたんだよ」
彼はそう言うと手を開き、両手首を突き合わせ、正面に伸ばした。
この構えは、まさか……!
「か……め……は……め……!」
やっぱりかめはめ波ですか。
そういえば、彼の目的はこれでしたね。脇道にそれすぎな気もしますが。
そうは言いますが、私も実はわくわくしてます。
テレビや漫画で見た技というものを現実に見れるというのは、なかなかどうして味わい深いものがあります。
しかも、世界のかめはめ波ですからね。
ポーカーフェイスながらも、どきどきして待機している遊佐こと私。
「波あああああぁぁぁぁぁあああああ!」
叫びとともに彼の手からは青く熱の持った何かが勢いよく飛び出した!
お! まさか本当に!
と、思っていたころもありました。
彼の手から出た青色の付いたお湯は水平に進み窓を飛び出すと、5mほど進んだあたりで重力に負けて地面へと降り注いだ。
5秒ほどでお湯を出し終えると、彼は満足したように拳で額の汗をぬぐってこちらを向いた。
「……今のは?」
「え、かめはめ波ver2.1.1だけど」
「もしかして私たちは違う世界線で死んだんですかね。私の思っていたかめはめ波との差異がひどいのですが」
「いやいやそんなことないぞ! 液体であることに目をつぶればほとんどかめはめ波だぞ!」
「それは致命的欠陥では?」
あれじゃかめはめ波ではなくかめはめ湯というほうが適しているように見えます。
「よく考えて! まず青いでしょ。それに熱い。あと、手からいっぱいでる。これならほら! 遠目で見たらわからない!」
「ふざけているのですか?」
私のわくわくをかえしてほしい。
ハチャメチャは押し寄せてきませんでした。
「そんな! 結構大変だったんだぞ! あれでもver1の各種に比べたらだいぶそれっぽくなったんだ! そもそも気ってなんなんだよ! そんな意味不明概念をあそこまでそれっぽくしたんだから、45点くらいあげていいじゃないか!」
「意外と自己評価低いのですね。私もだいたいそれくらいだと思ってみてました」
謙虚なのか、今までが酷すぎたのか。興味もないので掘り下げませんが。
「うん。まぁ改良の余地があるのはいいことだな。そんな簡単に作れても仕方ないし」
「ポジティブですね」
「やけくその裏返しだと思うよ」
そう言いながら彼は窓を閉めようとした
しかし、それは叶わなかった。
外側から何者かの手が窓を閉めるのを防いでいるからだ。
おや、ここはそれなりに高い階なのですが。
「会長! 元気びしょびしょですね! もしかして今日の占い最下位でした?」
窓から現れたのは、なぜか全身ぐっしょり濡れている天使だった。髪やスカートも肌に張り付いて、どことなくえろちっくです。
なぜか濡れてる、とは言ったものの、十中八九先ほどのかめはめ湯が原因でしょう。たまたま下にいたのでしょうか。だとしたら不幸すぎますね。この場合真に不幸なのは誰かは分かりませんけれど。
愛上さんはいつの間にか手にプラカードを持っていた。
内容は……『最下位はごめんなさい! 会長のあなた。周りを差し置いて突然の雨に見舞われるかも~。ラッパーの先制攻撃に気を付けよう。ラッキーアイテムはセミの生え際!』
……、天使の表情も心なしか怒っている気がしますね。
これには正直同情します。
「あなたをここで殺してしまったほうが世の中のためになるのではないかと最近思い始めてきたわ」
「そんなわけないですよ。世間の声も見てみましょうよ! ほら!」
そう言って彼はスマホのようなものを取り出して、謎のSNSを開いた。
そこには『愛上マジ要らね』『愛上とか変な名前』『エスキモーに始末されてほしい』『味蕾でも爆発しないかな』『天使ちゃんマジ天使』『ゆっさゆさ』など、誹謗中傷の嵐が巻き起こっていた。
これには天使も少し困惑していた。というより憐みの目を向けていた。
愛上さんはいたたまれなくなったのか、天使を窓辺から部屋の中にまで招き入れた後、天使が侵入してきた窓へ駆けだした。
「自給自足!!」
その叫びと窓が割れる音と共にこの部屋から消え去っていった。というか、普通に落ちていった。
私もさすがに心配、は一切していないが、気になって窓の下を覗くと、そこには人型の穴が開いていた。
供養の意味も込めて、紅白の巨大茶柱もそこに投げ入れておいた。
立派に成仏されてください。
二度と復活しませんように。
私と天使は二人して手を合わせてお祈りした。
おかげさまで徐々にUAも伸びてきており、とても嬉しいです。ありがとうございます。
自分のネタが面白いのか全然わからないので、ここが良かった悪かったなどありましたら、ぜひ教えていただきたいです。