かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
「暇だなぁ」
私の目の前でごろごろしている愛上さんはふとそんなことをつぶやいた。こんな森のど真ん中に、彼は一体何を求めていたのだろう。こんなところでできるのは森林浴か伐採くらいなもんですよ。
そのまま寝がえりをうった愛上さんでしたが次の瞬間、急に跳び起きた
「そうだ! いつ俺がスマブラに参戦してもいいように技を考えておこう」
何を言ってるんだこの人は……。
暇すぎて変になってしまったかと思ったが、元々変だったので関係なかった。
「そうと決まればさっそくメモとペンを用意しなきゃ。あー、ダメだ全部体育倉庫に忘れてきちゃったな。そうだ、思いついたことはこの鹿に覚えさせるか。へいSika、俺の言葉を一言一句覚えてね」
「分かりました。頑張ってみます」
「ありがとう! よろしくね」
「えへへ」
愛上さんはあろうことか鹿をメモ帳代わりに使用しようとしてます。今までこういう人間を見たことがなかったので、驚くと共に少し感心してしまいました。
そういえば、自己紹介がまだでしたね。
こんにちは、皆さん! 私がその鹿です!
メスなので、角がないタイプのスタイリッシュ鹿です!
ところで、皆さんは鹿にどのようなイメージを持つでしょうか?
大人しい、優しい、あまり強くはない、けど口からビームとかは出しそう。こういったイメージが多いのではないかと私は思います。
まぁ大体あってます。私の群れの鹿たちは概ねそのような感じです。井戸端会議ではビームが飛び交うし、産卵の時期になると完全な球体になる鹿も出てきます。動物園で見る鹿もおおよそ同じ性質を持ちますが、野生の方がその性質はやはり色濃いです。
無論、私もその例に漏れないと自負しています。えへへ、自分でいうのは照れますな~。私も野生で大人しい鹿の一頭なので、愛上さんのこの扱いにも特に腹を立てることはありません。むしろお役に立てて嬉しいです。
「最初は通常攻撃から考えたいね。ねぇ鹿さん、今から3つくらい技を見せるからどれがいいか参考までに聞かせてよ」
「分かりました!」
愛上さんはそう言って私から少し距離を取ると、いくつかの技?を披露しました。それでダメージは本当に与えられるのか心配ですが、きっと本人が満足しているならよいでしょう。
「どれが良かった?」
「個人的には勢いよくポトフを見せつけるやつが良かったです。とてもいい匂いでした!」
「じゃあ、通常攻撃はポトフを中心に考えるか。ちょっと覚えといて」
「はい!」
通常攻撃はポトフ中心に。
覚えました。完璧です!
「次はスマッシュ攻撃でも考えるか。これは相手を吹っ飛ばす技だから、強そうに、かつ必殺技ほど派手じゃないのにしないとな。さぁて、どうしようかな」
愛上さんは腕を組んでうんうんと唸りだしました。
私も力になれないかと、頭をひねります。私はこう見えて頭がいいので、きっといいアイデアを思いついて見せます。
確かに、「馬鹿」という言葉の漢字に鹿は使用されていますが、アレは鹿への風評被害を誘発しています。ほら、よく考えてみてください。馬の耳に念仏は言うけど、鹿の耳に説法とは言わないでしょ? 鹿は普通に僧の言葉を理解できるのですから当然です。
馬鹿による風評被害の被害者の会は設立済なので、近いうちに集団訴訟を起こすと思います。
「愛上さん、スマッシュ技ですが、炎で相手を吹っ飛ばすというのはどうでしょうか?」
「お、いいね! かっこいいじゃん! それにしようかな」
やった! 褒めてくれました!
その後、愛上さんは私の背中を優しくなでてくれた。やはり人に撫でられるというのは気持ちいですね。えへへ、思わず顔もほころんじゃいます。
「じゃあ、俺が中華鍋で本格炒飯を作るから、その火力で攻撃しよう。覚えといて」
本場の炒飯の火力でスマッシュ攻撃。OKです。
「横と下スマッシュはそれでいけそうですけど、上スマッシュはどうするんですか?」
「フランベするか」
「本格中華炒飯なのに?」
中華でもフランベってあるのかな?
ていうか、今のところかなり料理に寄ってますね。故意でしょうか? それにしては、国に統一性がないですけれど。
私の疑問も挟む間もなく、愛上さんは次に進めます。サクサクですね。
「次は必殺技だな。これはかなり重要だな。キャラの出来だけじゃなく、作品全体の出来に大きく関係してくるし、より具体的に考えていこう」
「わかりました!」
「よし、ますは普通の必殺技だ。どうしようかな」
「愛上さんがよくやる攻撃方法とかでいいんじゃないですか?」
「俺、そもそも攻撃とかあまりしないんだよなぁ。ミサイルになって爆発したりはするけど」
「それ、攻撃以外の用途で使うことあるんですか?」
しかも爆発って、普通に自分も死にませんか? 一体何が彼をそこまで駆り立てるのでしょうか。私には不思議です。
徒労に終わりそうな彼への心配を考えていたところで彼の方が口を開いた。
「相手を去勢した挙句、取り出した金玉を双子の子供として役所に提出するって言うのはどうかな?」
「去勢までなら攻撃っぽいですけど、その後のくだりいりますか?」
「去勢だけだったら弱いかなって思って」
「それより強い攻撃は、なかなかないと思いますよ……。もっとソフトなやつがいいと思います。スマブラは全年齢対応ですし」
「そうか。失念していた。どっかり!」
「……うっかり、ですか? 急に巨大な荷物が届いたのかと思いましたよ」
そもそもどっかりなんていうオノマトペは存在するのでしょうか? もしあるとすれば、私の勉強不足です。愛上さんと話してると自身の浅学非才を晒すようで恥ずかしいです、えへへ。
「自分の背中に足を生やしてする、かなりきもいコサックダンスをするとかは?」
「さっきのに比べたらいいかと思います。そのためだけに背中から足を生やすのは大変そうですけど……」
「そうだね~。昆虫過激派の人たちに昆虫と間違えて採集されちゃう可能性もあるしね。まぁ俺も男だし、それくらいのリスクは冒そう!」
この人はかっこいいことをカッコ悪くしか使えない病気なんですね、わかります。そのリスクを冒すことがどれだけすごいことなのかは全然わかりませんけど。実質0リスクな気もしますよ。
愛上さんは、完成系の予想をしたいからか、自分の背中を何とか触ろうとしていますがうまくできていません。体が硬いみたいです。
少しやって、うまく背中を手で触れないことを理解すると次の技の話へ移行しました。
「横必殺技は……、ミサイルでいっか」
「そうですね。派手で強そうですし!」
「でも火薬は危ないから代わりに特性の甘辛餡とかで引火させよう」
「ここでいきなり料理に回帰しないでくださいよ!」
餡ってあんかけ焼きそばとか天津飯に使う餡ですよね?
背中の脚でコサックダンスした時点でもう料理キャラは装えませんて!
しかし、彼の中では決定事項なのか、横必殺技の話は切り上げられた。解せぬ。
「次は上必殺技かな。復帰にも利用できる技がいいなぁ」
「飛んだりワープしたりですか?」
「そうそう。攻撃力はそこまでなくてもいいや」
「愛上さんには羽とかないですし、何か道具を使って高く跳ぶとかがいいんじゃないでしょうか? ソニックみたいな感じで」
「そうだね。じゃああんかけ炒飯が美味しすぎて跳び上がったことにするか」
「さっきまで炒飯を作ってたのはその伏線でしたか?! ご丁寧にミサイルの餡までかけて!」
これでポトフと言う汁物とあんかけ炒飯というメインディッシュが揃いました。なんでこの人は夢のスマブラの舞台で一人で料理を作って一人で食べてるのでしょうか?
ますます背中足のコサックダンスが邪魔です! 通常必殺技で前菜でも作っておけばよかったものを!
「次は下必殺技か。ここは素直に餅つきでもしておくか」
「急に和になりましたね。餅つきの振動で攻撃とかですか? ドンキーコング的な感じで」
「いや、相手を餅にしてボコボコにする」
「風情もくそもないですね」
まず、『餅にする』って何ですか? 餅にした時点で勝ちですよ!
「そう? じゃあ床掃除で攻撃でもするか」
「後片付けまでしちゃった!」
お行儀がよいですね!
食後にすぐ床掃除するのが行儀いいかは審議が必要そうですけど。
まぁ、とりあえずこれで一通りはそろいましたね。一時はどうなることかと思いましたが、結果スマブラの中の愛上さんはお腹いっぱいになって満足なのではないでしょうか?
「ちょっとちょっと鹿さん、何終わった感だしてんのよ。まだ『最後の切り札』が残ってるよ」
「最後の切り札って、あー! スマッシュボール取ったら出せるやつですか! 素で忘れてましたよ!」
「もー、アレが一番の見せ場じゃないか~! 俺たちの集大成をみせてやろうぜ」
「はい!」
とはいっても、もうプレイアブル愛上さんは後片付けまで終わらせちゃってますしね。もう技にできるのがありませんよ。
いや、別に料理関係じゃないといけないわけじゃないんですけどね。
「せっかくだし、なんか強そうな動物でも召喚するか」
「……ほう? 例えばどんなですか?」
私と言う素晴らしい鹿を前にして勇気ある発言ですね。
その召喚される動物というのはもちろん鹿ですよね?
「ケルベロスとか?」
「ほう。あの3つも頭がある下賤な犬のことですね」
「……なんか悪意がにじみ出てるね」
「気のせいですよ! しーかっかっかっか!」
「あ、笑い声そんなかんじなんだ。自分の彼女がそんな笑い声だったら、すぐにでも失踪したくなるな」
もちろんこの笑いはキャラ付けなので問題ありません。愛上さんに引っ越しするお手間はとらせませんよ?
「それで、その下賤で下衆で下卑た3つ首の犬ころで何するんですか?」
「弱すぎ三連星だね。普通に超高速餅つきでいいや。ケルベロスに餅をひっくり返してもらうかんじで!」
その言葉に、私は思わずプチンときてしまった。
「あー! もう我慢なりませんよ! それくらいだったら私を呼んでくれたらいいじゃないですか! 頭が三つないとできないことだったらしょうがないかと思いましたけど、餅をひっくり返すくらいだったら私だってできますって!」
つい、声を張り上げてしまった。いけないいけない、もう少し落ち着いた態度でいないと、鹿失格ですね。深呼吸しましょう。し〜、か~。
「そんな怒るなって。おれも最初は考えたんだよ。でも、もち米って結構熱いし、火傷したら困るだろ? だから君を参加させたくなかったんだよ。蹄だし」
ドキッ
愛上さんは、私を気遣ってくれていたんだ。
それなのに、私ったらそれに気づかないで声を上げちゃって、なんてバカな鹿なんでしょう。私は馬くらい馬鹿な鹿です。馬鹿と言う漢字にふさわしいです。
そうですね……。私は参戦しないで待ってるとしましょう。
あの、よくわかんないタイミングで急に選手を応援する観客の一人になってましょう。
そうと決めたらさっそく応援の練習に行きましょう!
私は踵を返して(蹄だけど)、森の奥の方へ走っていった。
「マールス! マールス! マールス!」
早速マルスを応援しながら。
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鹿がマルスと叫びながら消えていったのを眺めていた私は、珍しく冷や汗を流しながらゆりっぺさんへ通信を入れた。
「こちら遊佐です。愛上さんは鹿たらしでした」
『遊佐さん?! あいつのことは監視しなくていいって言ったじゃない!! 頭おかしくなっちゃうわよ!』
「いいんです。私は、戦線の力になりたいんです」
私の言葉に思わず力が入ってしまう。
この言葉に噓偽りはない。本心だ。天使や愛上さんのことは憎からず思ってますが、やはり私はゆりっぺさんにも感謝しているのだ。
それに今日はハズレの日だっただけだ。もっとまともな日はいくらでもある。
『そう、わかったわ。とりあえず、簡潔に報告をきこうかしら』
「はい。鹿と仲良しの愛上さんは背中から生やした足でコサックダンスをしてあんかけ炒飯やポトフを作り、床掃除をした後、ケルベロスと一緒に餅つきしてました。面白そうなので私も混ざってこようと思います」
『遊佐さぁぁぁぁぁあああああん!!!!!!
今までの話を見ても、愛上君はフラグを台無しにするのが得意な感じがしますね。多分今後もこんな感じでしょう。