かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった   作:おこめ大統領

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TKが愛上くん関係ないとこで戦線に加入しました


20、ホルマリン漬けなど

「と言うわけなんだが、組長さん、俺にも考えさせてくれないか」

「何よ、いきなり現れて」

 

 私は突然死んだ世界戦線の本部である校長室に現れた愛上君に向けて怪訝な顔を向けた。まるで今まで何か会話してたみたいな口ぶりだが、これは開口一番の発言である。なんのこっちゃわかりはしない。

 

「てか、わざわざ罠を喰らってここに来るのやめてもらっていいかしら? あなただったら外から声かけてくれれば開けるから」

「いやいや、そんな手間を取らせるほど野暮じゃないさ」

「むしろ直すほうがめんどくさいのよ」

「あら、それもそうか」

 

 こいつは毎回わざと校長室前に仕掛けられたハンマーの罠にかかるのだ。そのたびにぺっらぺらになったり、変な金属音を出したり、吹っ飛びすぎて星になったりしている。

 多分、吹っ飛んだ時の練習がしたいんだろう。この世界には車もないので、なかなか大きな衝撃で吹っ飛ぶこともないし。

 

 とりあえず野田君にお願いして罠を直させている間に本題に入ってもらうとしましょうか。

 

「んで、結局何しに来たのよ」

「あぁ、これを見て」

 

 そう言って愛上君は一枚のチラシを見せてきた。私達が主催する肝試し大会のものだ。

 

「参加希望ってことね。でも残念。それにも書いてるけど、基本男女ペアで受け付けてるのよね。相手を見つけてから出直してきなさい」

「すまん。参加希望じゃないんだ。俺はプレゼンをしに来たんだ」

「プレゼン?」

 

 私は思わぬ言葉に素っ頓狂な声で返事してしまった。プレゼンとは一体どういうことだろうか。

 

「そう! 肝試しのシナリオのプレゼンだ!」

 

 拳を握りしめ、目に炎を纏わせ、仰々しく叫ぶ愛上。

 おおよそ肝試しにふさわしくない暑苦しさだった。そんな熱血キャラでもないだろうに。

 周りにいた戦線メンバーも少しざわついている。最近入ったTKは最初っからくるくる回ってうるさかったけど。

 

 しかし、シナリオの提案か。

 正直、悪くないと思った。

 

 他のメンバーは基本アホなので、肝試しの全体企画は私が考えていたが、私は殊更肝試しやお化け屋敷について詳しいわけでもないので、ありきたりなものになってしまっていたのだ。

 こいつのアイデアをそのまま採用するととんでもないことになりかねないが、参考くらいにはさせてもらおうかしら。

 

 ぐへへへへ。

 

「ゆりっぺさん、とても悪い顔をしています」

「気にしないで。ごほん、せっかくだし聞かせてもらおうかしら。言っとくけど、必ずしも採用するわけじゃないから」

 

 遊佐さんからの指摘をするりと躱し、愛上にプレゼンを促す。

 

「じゃあ、お卒塔婆に甘えて、はじめさせていただきます」

「お言葉に甘えなさい。そんな怖いもんに甘えないでよ」

 

 卒塔婆って墓場にある文字の書いた木の棒みたいな奴のことよね? すでに肝試しモードに入っているのだろうか。

 

 私の心のツッコミをしていると、愛上は胸ポケットからクシャクシャの紙を取り出し、それを読み始めた。

 

「『ここは、はるか昔の銀河戦争にて荒廃した惑星、イマギア。』」

「いったんストップ!」

 

 おおよそ肝試しのシナリオに登場しない単語しかなかった出だしに、私は思わずストップをかけた。

 

「え? なにか?」

「何かもくそもあるか! なんでそんなスターウォーズみたいな出だしなのよ! 肝試しなのよ! SFの要素要らないでしょ!」

 

 SFの方に気が取られちゃうじゃない!

 

「要らないなんてことは無いぞ。人は未知のものに対して恐怖を持ちやすいんだから、これは必要な設定だ。それにこれからちゃんと怖くなるから、とりあえず落ち着いてくれ」

 

 どうどうと赤い布を持ちながら私をなだめるような素振りを見せる愛上くん。なんで私が暴れ牛みたいな扱いになってるのよ。

 そんなことを思いながら渋々座ると、再び紙を取り出し、読み直す愛上君。

 

「『ここは、はるか昔の銀河戦争にて荒廃した惑星イマギア。ここでは砂漠の王として君臨する化け物ユデスギタコの幽霊が一枚二枚とマニュアル自動車の免許を数えていた。』」

「肝試しだっつてんだろーがあああ!」

 

 私は愛上くん…、なんかもう敬称つけるのもうざいわね。愛上(バカ)の手から紙をひったくってびりびりに破き捨てた。

 

「あぁ、おばあちゃんから貰った大事な紙が!」

「そんなもんに変なの書いてんじゃないわよ!! てか化け物の幽霊が免許を数えてる展開のどこがこわいんだああ!」

「そこは番町皿屋敷をリスペクトしたんだよ。肝試しの定番だろ、お皿を数える幽霊って」

「それを現地惑星の文化でアレンジすんなって言ってんのよ! もういい! 帰りなさい! あんたの話は聞くだけ無駄だったわ」

 

 そう言いながら、紙を拾ってる愛上の頭をゲシゲシと蹴りつけるが、全くダメージを受ける様子はない。全く、天使の力は厄介ね。

 

「待ってくれ、番長! まだシナリオがあるんだ! 他のも聞いてくれ」

「番町皿屋敷に引っ張られてるわよ。私はリーダーであっても、不良を取り仕切ったことは無いわ」

「現状、不良のリーダーみたいなところはありますけどね。メンツを見ても、学校内の立場を見ても」

「うっ……!」

 

 確かに、勝手に制服を作り、授業には一切出ず、銃まで持っているバカたちの集団のリーダーを番長や総長と言わずになんというのだろうか。意外と図星なその指摘に私は言い返せなかった。

 

 こら、遊佐さん。笑ってるんじゃないわよ。日向君も!

 

「じゃあ、次のシナリオ読むね」

 

 胸ポケットから亀の甲羅を取り出す愛上。絶対入らないでしょ、そんなもの。

 取り出した際にちらっと見えたが、甲羅に何か文字を刻んでいた風だった。おそらくそこにシナリオを書いているのだろう。何時代よ。

 

「『遥か昔、銀河戦争での戦勝星アロスでは、砂漠の王ユデスギタコの幽霊が一枚二枚調理師免許を数えていた。』」

「一緒じゃねーか!! また砂漠の王が免許を数えてんじゃねーか! 星以外何も変わってねーよ?! てかなんでこの星にもユデスギタコの幽霊がいるのよ!」

「調理師免許じゃ運転できないけどね。あとユデスギタコは、日本で言う鳩みたいなもんだから、どこの公園に行ってもだいたいいるよ」

「そんな奴に砂漠の王の称号を与えるな!」

 

 てっきり巨大なアリジゴクみたいな生物かと思ってたじゃない! 紛らわしい!

 もういいわ。なんで私がこいつの偽スターウォーズの話を聞かなきゃいけないのよ。

 

 私が愛上を追い出す決意をしたところ、ソファでごろごろしていた日向君が口をはさんできた。

 

「愛上、もっと日常的なのはないのか? 今からそんなセットを用意するのは時間かかるし、もっと学校の7不思議的なやつのほうがありがたいんだが」

「あ~、なんだ! そういうのが最近のヤンゲストにはウケるのか! あるよ、あるある! ちょっと待ってね」

「最上級にするな。普通にヤングって言え。できれば若者って言え」

 

 尻ポケットから折りたたまれた紙を取り出して、それを広げる愛上。

 日向君のせいで愛上を追い出せなかったので、じろりを日向君を睨むも、彼はへらっと笑ってそれを受け流した。あいつ、絶対楽しんでるわ。とんでもない罰を与えてやらないとね。

 

 えふん、と愛上は小さく咳ばらいをすると、紙を読み始める。

 今気が付いたが、なぜ離婚届の裏にシナリオを書いているのだろうか。縁起でもない。

 

「『この天上学園には代々ある噂が生徒たちの間で流れている。誰が流したのか、いつからあるのか、それを知っている者は誰もいない。わかっていることはただ一つ。その噂の正体に出会ってしまうと、すべての謎を解き明かすまで、永遠に学校から出ることはかなわないということだ。』」

 

 いいじゃない、いいじゃない! それっぽいわよ!

 

 先ほどとは打って変わって低い声で読み上げたことも相まって、恐怖感が膨れ上がっている。部屋の温度も少し下がったような気がしないでもない。

 

「『ただ、未成年を永遠と家に帰さないのは申し訳がないので、火曜日は家に帰ることが出来る。しかし、火曜日は美容室が開いていないので、その生徒は永遠に髪を切ることが出来ない』」

「ずいぶんと緩い呪いね。そんな注釈なくていいのよ」

「それに火曜日も空いてる美容室もあるだろ。知らねーけど」

 

 今まで話は黙って聞いていた日向君もついにツッコミを入れてしまった。ここまで来たら最後まで付き合いなさいよ。

 

「じゃあ、永遠に帰れないことにするか。えーと、続きは……『では、その噂の中身である学校の11不思議について紹介していく』」

「微妙な数ね」

「別に不吉な数でもないですしね」

「確かに。そこまで行ったら13個あってほしいわ」

 

 私は遊佐さんのツッコミに思わず賛同してしまった。てか、この子まで加わってきたわね。

 この話の細かい設定はともかく、今のところはいい感じなのでもう少し聞いてみることにする。

 

「『一つ目、理科室にある謎のホルマリン漬け。この学校の理科室には隠し棚があるのだ。そして、そこの中には、黒く、そして細長い謎の物体のホルマリン漬けが大量にあるらしい』」

 

 お、いいわね。安易にトイレの花子さんや十三階段じゃないところに好感が持てるわ。本当に参考になりそうじゃない、怖そうだし。

 

「『ホルマリン漬けの犯人は理科の先生だ。彼は本当は音楽の教師になりたかったのだ。その怨念から、彼は毎晩音楽室に忍び込み、ピアノの黒鍵をはぎ取ってはホルマリン漬けにしているそうだ』」

「怖いけれど!!」

 

 怖いんだけど、肝試し的な怖さじゃないわ。町のヤバい爺さんみたいな怖さよ!

 あと、それもう謎じゃないわよ。全部ばれてるじゃない。早く警察につきだしなさい、そんなやつ。

 

「『次は十つ目の噂、音楽室から聞こえる謎の呪文だ。夜に音楽室の方へ行くと、小さなピアノの音と一緒に「命を大事にしてよ…」「どうして優しくできないの…」と言うか細い声が聞こえてくるのだ』」

「8個も飛ばすなよ」

「2進数ですか?」

 

 日向君と遊佐さんがそんなことを言ったけど、私も愛上も特に気にしなかった。

 

 それに話も、今度こそ怖いわ。これも普通の音楽室の怪談とは一線を画す感じがしていいわね。少し参考になるかもしれないわ。

 

「『その犯人は音楽の先生だ。彼女は本当は道徳の教師になりたかったのだ。その怨念から、彼女は毎晩ピアノを弾きながら道徳漫談をしているのだ』」

「だから、怖いけれど!! 怖さのベクトルが違うんだって!」

 

 何よ、道徳の教師になりたかった音楽教師って! 道徳を専門に教える先生なんていないのよ! あれは担任がついでに教える教科なの!

 

「てか、この学校の教師全体的にやばすぎるだろ。今すぐ転校したいんだが」

「日向さんにはお似合いかと思います」

「どういう意味でしょーかねー⁉」

 

 割とまともなことを言っている日向君は遊佐さんに遊ばれている。案外、S気質な遊佐さんとMっぽくてキモイ日向君は相性いいのかもしれないわね。

 

「もういいわ、愛上君。怪談はこっちが用意したのをやるから、あなたはおとなしく寮で寝てなさい。邪魔したらあなたと言えど、本気で殺すからね」

「えー、せめて最後の11個目を聞いてよ! これが一番怖いんだから!」

「……それだけ話したら出ていきなさいよ」

「うん!」

 

 屈託のない笑顔で、嬉しそうに頷く愛上。こいつに愛嬌を与えてしまった神の罪は重いと思うわ。

 

「『最後の謎は、校庭に潜む謎の砂漠の王』」

「ユデスギタコじゃねぇえか!!」

 

 私のドロップキックを喰らった愛上は勢いよく校長室の扉から外に出て、そのまま野田君が直したばかりの罠にかかってどこかへ飛んで行った。

 

 今日も善行を積んでしまった。

 この後食べるご飯はきっとおいしいに違いないわ。

 




20話という節目の会にも関わらず、未だにコントしかしていない。せめてかめはめ波の研究シーンを描写したい。

この前スポンジボブを見たのですが、面白いですね。
ボブがどんな調理器具でどんな食材を調理しても絶対美味しいハンバーガーになってしまうのとか、とてもよかったです。世界観が狂ってて頭に入って来ませんでしたが。

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