かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
生前はインターハイレベルの陸上選手だった男子
漫画にのみ登場する
高松くん(今回の主役)
後に戦線入りする眼鏡で筋肉質の男子
この世界では疑問や悩みが尽きません。
なぜこんな世界に来てしまったのか、他の生徒たちは違和感を感じないのか、いつまで繰り返せばいいのか、いつになったら出られるのか
そして、
「はぁ」
私は思わずため息をついてしまったが、すかさず隣にいる友人、光村から心配の声がかかった。
「おい、どうした高松。悩みか?」
「いや、そういうわけではないのですが」
私はついついそう誤魔化してしまいました。
なぜなら私の今一番大きな悩みはあなたのことなのですから。
「そうか。まぁよくわかんないけど、相談とかあったらいつでも言ってくれよ。あ、もしくは、あそこに行くのもいいかもな」
「あそこ、とは一体どこのことですか?」
この学校に生徒相談室みたいなものなんてありましたでしょうか。私の記憶にはありません。
「いやな、俺も詳しくは知らないんだけど、なんでも最近ここの生徒たちの間で噂になってんだって。悩みの館っていう、悩みを聞いて解決してくれるっていう場所が」
「なんというか、非常に胡散臭いですね……」
私は眼鏡をくいっと上げながら、率直に思ったことを言ってしまった。占い的なかんじでしょうか? 話を聞いてくれるだけなら別にいいのですが、変なものを買わされないか心配です。
「まぁこんな世界だし、そこまでやばいことは起きないだろうし、一遍気晴らしにでも行ってみたらどうだ? なんかあったら俺を呼んでくれたらすぐ駆けつけるからさ」
光村は爽やかな笑顔で私にそう言った。彼はこういう人だ。人の悩みに苦しみ、人の幸せのために笑える奴だ。私の悩みを自分じゃ解決できないことを悟ったからと言って投げ出すような奴じゃない。
私は光村の言葉にうなずき、その後も談笑しながら教室へと向かった。
「まさか本当にあるとは……」
その日の昼休み、何となく一人でふらついていると、目の前にそれは現れた。そう、「悩みの館」だ。まさか、こんな人のいないところにポツンとあるとは…。
ここに来たのは本当に偶然だ。何となく普段行かないようなところに行こうと思い、角を曲がったら紫の小ぶりのテントのようなものがそこに鎮座していたのだ。
テントの入り口には「悩みの館」とポップ体で書かれた看板までご丁寧にあった。フォントは変えたほうがよいかと思います。
私はタイミングよく見つけたことに少しばかり興奮しつつも、都市伝説めいたものとの初めての遭遇にもの恐ろしい感じがしていた。
入ろうか入らまいか、どうしようか悩んでいると中からフードとローブを装備した、いかにも占い師な人間とすっきりとした顔の一人の生徒が出てきた。
「ありがとうございます! おかげでシード権を獲得できそうです!」
「おう! あんなの、どの駐車場を使ってるかによるからな! がんばれよ!」
一体どんな悩み相談をしたのでしょうか?
悩みを相談したと思しき生徒がその場から去ると、ローブを着た方が手を叩いて声を出し始めた。
「いらっしゃい! いらっしゃい! 安いよーはやいよー!! 皆さんの悩みを今ならたった100g90円で聞いちゃうよー! 相談しなきゃ損だよー!! いらっしゃい!」
まさか客引きを始めるとは。しかも、スーパーの中にお肉コーナーに流れてる音声みたいな感じで。よく聞いたら購買意欲をそそる軽快な音楽まで聞こえてきます。
よく考えたら、辺りには私しかいないので、これは私に向けて言っているでしょう。目は全然合いませんが、それも作戦なのかもしれません。そうなると、ただ帰るのも忍びないので、少しだけ寄ってみることにしましょうか。
「あの……、悩みを聞いてほしいのですが」
「へい! ここにおかけなすってくだせぇ。へへ、こちらお通しになります」
そういって私の手元に小さなお皿に乗ったどんぐりと大吉のおみくじを出してきた。
お通しって、こういうものでしょうか? 未成年なのでわからないのですが、どこか釈然としません。
「すみません、やっぱり帰らせていただきます」
ちょっときつい言い方になってしまいましたが、やむを得ないでしょう。むしろこれくらいの対応が正解だと思います。
私の言葉に悩み相談師の人は少しだまり、そしてそのまま席に着いた。さっきまでのはしゃぎようとは打って変わった様子だ。怒らせてしまいましたか?
「すまないね。緊張をほぐそうと調子にのってしまったようだ。もちろん私は君のことをただのトトロだと思ってどんぐりを渡したわけじゃない。これも悩みを聞く準備の一環なんだ。君の心にある真剣な悩みのね」
おぉ。
私は少し感心してしまった。口ばかりではないようだ。流石うわさになるだけのことはあります。
「あなたの悩みを当ててご覧いれましょう」
そう言うと、彼は目の前の水晶に手をかざし、その中心を強く見つめだした。
手もプルプルと震えだして雰囲気も出てきましたね。
と思っていたら、
「邪魔」
「なっ!」
突然その水晶を手で払って地面に落としました。地面をぼよんぼよん跳ねているということは水晶ですらなかったようです。
「何しているのですか? その水晶で私の悩みを見ていたのではないのですか?」
「こんな球体なんて知らん。誰かがいたずらで置いたんだよ。だから恨み骨髄に見ていただけだよ」
「そうだったのですね…」
てっきり霊視しているのかと。手が震えていたのも、怒りからなんですかね。
「全く。犯人見つけたら全身に槍を刺しまくったあげく、そいつの背中で具足着けたヤギにタップダンスさせてやるのに」
「ずいぶん怖いアルプス一万尺ですね」
私の発言の後、彼は両手を合わせ目をつぶり、何かを祈るような体勢を取った。
やがて手をだらりとさげると、目をつぶったまま、私に話しかけてきた。
「あなたの悩みが見えました」
これでようやく彼の実力が明らかになる。私の中では、今のところ彼は悩み相談師ではなく、ただの元気な客引きにしか思えません。
「あなた、腕が3mあることに悩んでますね」
「はい?」
腕が3m? 何を言っているのでしょうかこの人は。
私が反論しようとしたとき、彼は手のひらをこちらにかざしそれを制止してきた。依然として目を閉じたままだ。
「みなまで言わないでください! 私にはわかります、その苦しみが。あなたは愛する人を抱きしめようとも、腕が長すぎるため結果自分を抱きしめてるみたいにおわってしまうのですね……」
「いえ、そんな変な悩みはありませんが……。見ればわかるでしょう」
「はい。心の目であなたを見ているからわかります。あなたが悩んでいることが」
「何もわかっていないのですが…」
「なんとっ! では、あなたの悩みはラーメン屋でラーメンを食べようとすると肘が油まみれの床についてしまって、ちょっと嫌だとかでしょうか?」
「もう悩みというか、腕が3m人あるあるになっていませんか⁈ もう心の目ではなくちゃんと肉眼で私を見てください! 腕は普通の長さです!」
私はそう言って彼の肩をゆすると、彼は急に鼻提灯を膨らませ、そして破裂させた。
「しまった。寝てしまっていた」
「今までのが寝言だったとでもいうのかあああ!」
私は頭を抱えて地べたに伏してしまった。ここまで手も足も出ない相手は生前においてもいなかったと記憶しています。まさか、こんなところで、言葉のみで地面に伏せさせられるとは……! ただモノではないですね。
「寝てしまってすみません。しかし、あなたの悩みは見えました」
彼はそう言って私に着席を促した。先ほどまでのふざけた雰囲気は既に消えている。ここから真面目モードなのでしょうか。
「あなた、友人関係、というより友人の悩みについて悩んでますね?」
心臓の鼓動が早くなったのが自分で分かった。ぴたりと当てられてしまった。
私は、その言葉に、黙って小さく頷いた。
「やはりそうですか。話してみなさい。何があったのか」
相談師の人が優しくそう言うと、私は自然と話し出していた。
「私の友人に光村という男がいるのですが、彼の願いをかなえてあげたいのです。彼を全国大会レベルの陸上大会で勝たせてあげたいのです。しかし、この学校の陸上部に彼より速い生徒はいません。私もトレーニングをして何とか彼に追いつけるような走りを追及してますが、どうもうまくいきません。私は一体どうすればよいのでしょうか……」
話終えた時、私は無意識に項垂れていました。
自身の無力感、親友のために何もしてあげられないことへの悔しさが、心の奥底に沈めていた感情があふれ出てしまったのでしょう。
ふと彼の顔を見ると、私の話を真剣な表情で聞いている様子だった。目が合うと、彼は口を開いた。
「そういうことでしたら、うってつけの方法があります。うまくいくかはわかりませんが」
「っ! ぜひ、教えてください!」
「死んだ世界戦線という団体に椎名さんという身体能力が人外の人間がいます。彼女ならその光村さんという方の良きライバルになれるでしょう」
死んだ世界戦線という名前は聞いたことがある。あの水泳大会に急参加したり、授業中に謎の演説を始める怪しい集団だと。
椎名さん、というかたは存じ上げないですが、もしかしたらあの水泳大会で25mプールをひとっ跳びした女性でしょうか? 確かに、彼女の身体能力は目を見張るものがありますが、一つ懸念があります。
「その方は体育祭に出るでしょうか? そもそも出たところでうまく対決できるかは運に頼らないといけないのではありませんか?」
「いえ、そんなことはありません。彼女たち死んだ世界戦線は『ここが死後の世界であることを認識している人間』を集めています。見たところあなたもそのようです。なので、あなたがそこに入ることを条件に、体育祭での光村君との対決を申し出てはいかがでしょうか?」
「おぉ!」
確かに、それはいいアイデアだ! 光村もここが死後の世界だと認識している。私たちの加入と引き換えならきっと協力してくれるだろう。
なんだか怪しい集団に入るのは気が引けるが、光村がいてくれたら問題ないだろう!
それではさっそくこのことを光村に教えるとしましょう!
「そういえば、彼らは普段はどこにいるのでしょうか?」
「校長室にいます」
「わかりました! ありがとうございます! あなたのおかげで希望が見えてきました! それでは失礼します!」
「あ、校長室には罠があるから気を…」
私は礼を言うと、一目散に光村の元へと駆けだした。
テントを出る際に男が何か言っていたような気もしたが、私の耳には届きませんでした。
皆さんのおかげで、最近ランキングに載せていただくことも増え、ついにUA1万を超えました。ありがとうございます。
記念に明日は2回更新します。時間は下記の通りです。
3月1日 8:00 「23、教育熱心な鳩など(就活前編」
3月1日 18:00 「24、アメリカの豚カツなど(就活後編」