かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
「就活の面接練習の監視をする?」
俺たちを呼び出した張本人であるゆりっぺから開口一番に聞かされた言葉を、俺はそのまま繰り返してしまった。
「そう。それが今回のオペレーションよ」
「そんなことに何の理由があんだよ。NPCしかいねーだろ」
「だからこそよ、日向君」
俺はゆりっぺの言いたいことがわからず、首をかしげてしまった。そんな俺の様子を見て、呆れたようにゆりっぺが続けた。
「今回はキャンプファイヤーの時とは逆のアプローチをしてみようと思うの。つまり、NPCじゃない普通の人間をなるべく集めるのではなく、NPCのみを炙りだして残ったやつにアプローチをするってことよ」
「さすがゆりっぺだ」
なるほど。確かに、人間よりNPCの方が行動はコントロールがしやすい。言っていることは的を射ているように思える。野田が賛同しているのもわかる。分かるのだが、
「この学校の生徒が何人いるのかわかってるのか? そんな人数把握しきれねーよ」
「やってみなきゃわかんないでしょ。それにもう一つ狙いもあるの」
「もう一つの狙いって?」
大山がゆりっぺに疑問を投げかけた。
まるで策士みたいなことをしているゆりっぺを珍しく思っているのだろうか。
「もし、この世界を死後の世界と思っていない人間がいたとしたら、この面接練習に来るかもしれないでしょ? でも、そういう人たちの回答にはさすがに疑問の余地や違和感が残ると思うのよ。そういったやつも炙りだすっていう算段よ」
「言ってることはやはりわかる。んで、それは誰がやるんだ?」
「もちろん、あなたたちに決まってるでしょ? はいこれ、分担表。面接練習は明日から一週間、希望者のみで行うらしいからよろしくね~」
そういって俺らは早々に校長室から締め出されてしまった。横暴にもほどがあるだろ。
はてさて、そんなこんなで面接当日。
俺は自室のノートPCから面接会場であるどこかの教室に仕掛けられたカメラの動画を見ている。
面接自体はまだ始まっておらず、面接官役の教師の一人は手元の資料をパラパラとめくり、もう一人の面接官である女性教師は補佐役であろう学生と軽い談笑をしていた。面接において3人体制が一般的などうかは経験がないので分からない。
「映像も音声も問題なさそうですね」
俺の隣で同じ画面を見ていた遊佐がふとそんなことをつぶやいた。
「あの、なんで遊佐までいんの? てか、さも普通のように俺の部屋に勝手に入るなよ!」
「カメラに問題がないかの確認のためです。お気になさらず」
「気にするわ! お前もちったぁ警戒しろよ!」
「日向さんはヘタレですので、問題ありません。それに何かあったらゆりっぺさんをすぐに召喚できる準備はしておりますので」
そう言って耳元のインカムに軽く触れる遊佐
ったく、信用されてるんだかされてないんだか。
「まぁいいけど。そろそろ時間だ。気合入れるぞ」
俺の言葉のすぐあと、PCからノックの音が響いた。最初の生徒が来たようだ。
俺は念のため紙とペンを用意し、目と耳に注意を払う。
面接官が「どうぞー」と言うと扉がすっと開いて、隙間から牛の手人形がひょっこり登場した。なんで?
『すみません。ここに来る途中にぶつかった牛と魂が入れ替わったみたいで、こんな格好になってしまいました。お見苦しいですが、このままでよろしいでしょうか?』
『ふざけてないで、早く入りなさい』
なんだこの展開。面接の練習だよな?
てか、牛とぶつかって入れ替わったとしても、手人形にはならないだろ。
俺は疑問のあまり遊佐の方を見るも「見ないでください」と一蹴されてしまった。泣いていいか?
画面内に視線を戻すと、ちょうど扉から手人形の本体が出てきたところだった。
頭が牛、首から下が理科室の模型のように全て人骨で出来ている奇妙な生物がそこにはいた。両手には斧も持っていた。背丈も2mくらいありそうだ。牛頭鬼ってやつか?
あまりの珍妙さに面接官はしばらく黙ったままだった。角度的に顔は見えないが、おそらく面食らったように目を見開いているだろう。やがて恐る恐る口を開いた。
『えーっと、
『いえ、凶戦士デーモンバッファローです。必ずや御社の力になって見せましょう』
「絶対力にならないだろ。お前みたいなのが営業にでも行ったら取引先大パニックだわ」
「警備員としてなら使えるかもですよ。こんなんがいる会社に悪さなんてできないでしょう」
『ちなみに握力は150gです。箸を握るのが精一杯です』
「㎏ですらないのかよ。使えねーな、こいつ」
「つまり、あの斧は滅茶苦茶軽いのですね」
俺は映像を見ながら、呆れかえって片肘ついていた。
どうせ愛上の仕業なんだろうな。
あいつ、俺らが見てないとこでもこんなことしてるのか。もはや病気だろこれ。
生前もこんな感じだったのかなと思いを馳せていると、面接官の補佐役とみられる学生が席を立ちあがって化け物に近づき、デーモンバッファローの首らしき場所を締め上げ昏倒させた。
こっわ、なんだこいつ。一切の躊躇がなかったぞ。
こんな芸当、NPCにはできないだろ。もしかしたらこの学生、人間かもしれない。
面接の一人目から思わぬ当たりを引いたと内心喜んでいると、学生はデーモンバッファローが座るはずだった生徒用の椅子に腰を掛けた。
『武家です。よろしくお願いします』
「お前が面接すんのかい! デーモンバッファローは何だったんだよ! お前は何のために面接官側に座ってたんだよ」
「画質が粗くてわかりにくいですが、この人愛上さんじゃないですか?」
「うわ、確かに言われてみれば似てるな。髪型はちょっと違うけど、あいつなりの変装か?」
遊佐に言われて目を凝らしてみると、確かに愛上に見えた。
つまりこいつは、最初から面接官側の人間として座り、自分の用意したバケモンを自分で昏倒させ、何事もなく面接を始めようとしているのか。
ゆりっぺはこの世界に真に狂ったやつは存在しないと言っていたが、こいつは狂ってるだろ。むしろ最初にあったときより悪化してるまであるぞ。
『そうですか。わかりました。それでは改めて自己紹介をお願いします』
「面接官も普通に進めるなよ!」
「現実逃避じゃないですか? きっと彼の頭の中ではさっきまでの出来事はなかったことになってますよ」
面接官に促されると、愛上は元気よく返事をし、自己紹介を始めた。
無駄に元気いっぱいなのが腹立つんだよな。
『私は
「めちゃめちゃ偽名名乗ったぞ。しょはとって、しかもまた言いにくい……」
「私もう帰っていいでしょうか?」
「待ってくれ! こんな状況で一人にしないで!」
俺も今すぐ監視をやめて、外に大山とキャッチボールでもしに行きたいが、監視を放棄したとなればゆりっぺからのきつい罰があるかもしれないと思うと、どうも一歩踏み出せない。
せめて、まともな人間が横にいてくれないと俺は不安で死んでしまう。死なないけど。
遊佐は俺の涙目&上目遣いに舌打ちしながらも、ここに留まることにしたらしい。
『えっと、どういう意味でしょうか?』
面接官も愛上の自己紹介の意味が分からず、思わず聞き返してしまっている。この人もいい加減付き合いいいよな。普通に追い出してしまえばいいのに。そこがやはりNPC所以といったとこだろうか。
『はい。実はその鳩に勉強を教えてもらっているのですが、僕の成績がなかなか上がらないので、先生である鳩はそれに不甲斐なさを覚えつつ、また悔しいはずの僕にも感情移入して泣いてしまっているのです』
『いや、鳩が泣いている理由を聞いたのではないのですが、まぁいいでしょう』
『うぅ…うう…』
『ちょ、主任! 泣かないでくださいよ!』
「おい、教育熱心な鳩に涙してる教師がいるぞ。こいつほんとにNPCなのか?」
「愛上さんの仕込みでは?」
「なんか、もう、なんでもありだな」
俺は今更ながらそんなことを思ってしまった。思い起こせばなんでもありじゃなかったことはないので、ほんとに今更だ。
面接官は、はじめは泣いている主任を慰めようとしていたが、すぐにやめて次の質問に移った。諦めたか、時間の都合か。どのみち、ポジティブな感情によるものではないことは明らかだ。
まだ自己紹介しか終わってないのに、この疲労感はなんなんだ。
俺は壁に掛けてある時計を一瞥し、がっくりとうなだれた。
3月1日なので就活のお話を。
本日18時に後編を投稿します。