かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった 作:おこめ大統領
前回のあらすじをしろって? くらだん。俺はゆりっぺ以外から命令を受けるつもりはない。なに?ゆりっぺからの指示だと。なるほど、では全力で務めさせてもらおう。とはいえ、前回のあらすじとは、具体的に何をすれ
『えー、それでは切り替えまして。学生時代に頑張ったことがあれば教えてください』
面接官はこほんと小さく咳をしてから愛上に質問をした。
先ほどまで泣いていた主任の女教師はすっかり落ち着いて、画面だけ見たらまるで普通の面接会場のように見えた。
『はい。僕は測量を頑張りました。僕は何事にも疑問をもち、自分の力で確かめる性分があります。なので、この学校の案内地図を嘘だと断定し、自力で測量して学校の地図を完成させました』
前半はほんとに就活面接っぽいことを言ってるのに後半が台無しだった。なんで学校が作った学校の地図を疑うんだよ。嘘なわけないだろ。
『はぁ、その結果どうなりましたか』
『この学校の形状が南極大陸と全く同じだということがわかりました』
『そんな敷地の形状をしているのですね』
『いえ、校舎の形が南極大陸と同じなのです』
「そんなわけねーだろ!」
学校の地図を疑ったあげく、測量ミスってんじゃねーか。疑うなら正確なもん作れよ。南極の形状をしている校舎って、微妙にイメージが湧かないけど違うってことだけはわかるぞ。
『なので、これ以上温暖化が進んでしまうと学校の形と齟齬が出てしまうので、みんなで食い止めていきましょう! 止めよう!呼吸! 守ろう!地球環境!』
「相変わらず結論がキモイですね」
俺の隣で面接の画面を見ていた戦線の通信士、遊佐がそんなことをもらした。俺は深くうなずいて同意を示した。
『なるほど、面白いですね。他には何かありますか?』
面接官はどうやら愛上にツッコまず、話を流す方向に切り替えたようだ。賢明な判断だと言わざるを得ないな。こいつ相手にツッコんでたらきりがない。
『そうですね。学校に犬が忍び込んできたことがあったのですが、』
『みんなで大事に育てたのですか?』
『はい。今では簿記1級を持ってます』
「すげーな!! 育てすぎだろ!」
「ちなみに簿記1級の合格率は10%ほどです」
「偉業に偉業を重ねるなよ! どれに驚いていいかわかりにくくなるから!!」
俺は犬が眼鏡をかけながら損益計算をしているところを想像して、少し噴き出してしまった。しかし、どうやってペンを持つんだろう。
『ちなみにペンは念力で持ってます。簿記を取らせるために教えました』
「だから凄すぎるんだよ! お前も犬も人間を超えすぎだから!」
俺もさすがにそれが本当のことだとは思っていないが、反射でツッコんでしまった。念力が使えるなら簿記なんかに使わないで、もっと別のことをやらせろよ。
『ああ、彼ですね。弊社の経理としてとても重宝しております』
『主任?!』
「学年主任がのってきましたね」
「この人の人生楽しそうだな。NPCだけど」
遊佐の声が少し遠くなったことに疑問を覚え振り返ると、いつの間にかベッドに腰かけていた。すでに画面を直接見ることをあきらめてしまったようだ。
俺はまだ負けないぞと、意味不明の闘志を燃やし、俺は再び画面に目を向ける。
『えー、主任は置いときまして。武家くん、高校生活を振り返ってどうでしたか?』
そういえばこいつは今
『そうですね~。高校に通ったことがなかったので、なかなか新鮮な体験ができて面白かったです』
『? 高校生なのだから、入学以前に高校に通ったことないのは当たり前ですが?』
『それもそうですね。ハッフルパフから2兆点減点です』
高校に通ったことがない、だと?
この言葉を聞いて、俺は今までとは違う不思議な感情に支配された。
驚き、呆れ、悲しみ。どれも違うようで、その全ての性質を内包しているような、そんな気持ち。今愛上から出た言葉は、おそらくこいつの生前について触れたものだ。
こいつは依然、「生前に心残りなんてなかった」と言っており、それ以外こいつの生前についての情報は一つもなかった。聞くつもりもなかった。
俺はなんでこいつがこの学園に来たのかずっと疑問だったが、その最初の1ピースが、今埋まった気がした。
『? まぁいいでしょう。それではあなたの長所を教えてください』
面接官は、俺の感情の揺れ動きなど全く知らないかのように、次に進めた。
まぁ俺らが勝手に覗き見ているだけだから知らないのは当然なんだけど、もう少し整理する時間をくれてもいいじゃないか。
『長所は、床屋での会話を心の底から楽しめるところです』
それは、長所なのか…?
確かに美容師との会話って、どこかうわべだけの感じがして少し辛いところがあるとは往々にして聞くけど、俺は生前はバリカンで自分で刈っていたので体感したことははない。
「遊佐、やっぱ美容師との会話ってつまらないのか?」
「人によるのでは? 大山さんなどは苦無くできそうですが」
「あいつは……、確かにそんな感じもするな。逆に野田とかは無理そうだな」
「同感です」
さらっと流された気もするが、気にせず画面に目を戻そう。
言われてみれば、今の質問って結構生前のことに踏み込んだ内容だったしな。言いたくないこともあるんだろう。
『それでは弊社を志望した理由をお聞かせください』
お、ようやくちゃんとした就活面接みたいな質問に移行したな。移行したところで、どうせ愛上はふざけるので意味ないだろうが、なんとなくこちらも少し緊張してしまう。
『志望理由、ですか。そうですね、語るのは簡単ですが、それではつまらないですね。実際にお見せしましょう』
志望理由を見せるってなんだ?
新聞の切り抜きとか、その会社のグッズとか、そんなものでも持ってきているのだろうか?
俺がそんなことを考えていると、いつの間にか白装束に身を包み、手には何らかの植物の枝を持っていた。
愛上は何やらぶつぶつと呪文のようなものを唱えながら室内を一周し、最後は中央で舞のようなものを披露した。
「なんだこれ?」
「祈祷、ですかね? どのみち、志望理由にはならないと思いますが」
面接官二人もどうしていいのかわからないのか、口を挟まず、ただただ傍観していた。
やがて舞を終えると、胸ポケットからカレールーの入った魔法のランプのようなものとチェス盤を出し、盤の上に駒を並べると、その上から思いっきりカレーをかけた。
「なんだこれ?」
「ナン、ですかね? どのみち志望理由にはならないと思いますが」
「いや、そんなうまいこと言われても。さすがにカレーのかかったチェス盤をナンだと認められるほど、俺の懐は深くないんですが!!」
「日向さんの懐がまるで一般基準から見たら深いみたいな言い方ですね」
「辛辣⁉ こんな時くらい優しくしてくれ!」
「それはお互い様ですね」
確かに、状況の意味が分からないのは遊佐も同じだ。アレをカレーやナンだと認めたのは、きっと彼女なりの防衛本能なのかもしれない。だとしたら、深くツッコむのも野暮だろう。
……なんでたかが面接練習をみるだけでこんなに考えなくてはいけないのだろうか。
『……いったい何をしているのですか?』
おお、面接官、ナイスだぜ! 俺らが聞きたかったことに切り込んでくれた!
別に流してくれてもよかったが、これはこれでありだ!
『すみません、ジャングルのカラフル鳥のことを考えてたら意識を失ってしまいました。なんでこんなことしたんですか、俺?』
「こっちが聞いてんだよ!」
「こんなに情報量の無いことを言えるのもすごいですね」
愛上はカレーのかかったチェス盤をまるで鑑定するかのようにじっくり観察し、しばらくすると笑い出した。
『はっはっは、チェス盤にカレーをかけるなんて。してやられたよ。これじゃポーンじゃなくてナーンになっちゃうよ』
『びっくりするほどうまくないね⁈』
「ついに面接官がツッコんだぞ」
「結構的を射たツッコミですね。NPCと言えど侮れません。日向さんもうかうかしてるとその席を奪われますよ」
「俺は別にこの教師と競ってなんていないんですが?!」
愛上のツッコミ役、という席でいいならいくらでも譲ってやるがな。
もちろん、そんな席に一度たりとも自発的に座った覚えなんて皆無だが。
『これじゃナイトじゃなくてカレーナイトになっちゃうよ』
『だからうまくないんだって! なんで同じ過ちを繰り返すの?!』
「おぉ、調子いいですね、この教師。NPCではなく人間なのではないでしょうか?」
生徒以外に人間が来る例なんてあるのか? 俺はこの学校歴も長いわけじゃないから詳しくは知らないが、なんとなくいないんじゃないかなと思ってる。
あと関係ないけど、カレーナイトだと、晩飯にカレーが出た日、みたいな感じがするな。
「一応ゆりっぺに報告するか? 鳩の小話で泣いた教師とツッコミが上手い教師がいたって」
「十中八九殺されるでしょうね」
「だな。理不尽な罰を受ける未来がみえてるぜ」
「日向さんが」
「俺だけなのかよ! ここまで来たら遊佐も道連れだぜ?!」
「私は繊細な女の子なので、大事に扱ってあげてください」
「繊細な女の子はそんな辛辣なことを言わない!」
「そうですね」
「認めちゃった?!」
遊佐とそんな下らないやり取りをしているうちにどうやらいくつか見逃してしまったようだ。愛上が虎の背中に座ってココナッツジュースを飲んでいたことから何となくそんなことを感じ取った。
『えー、では最後の質問です。あなたの尊敬する人を教えてください』
面接官は最初の頃より声が小さくなっていた。
心なしか髪も少し乱れている気がする。よほど愛上とのやり取りに疲労を覚えたのだろう。かわいそうに。絶対に助けないが。
『そうですね。両親と姉はやはり尊敬してます。私だけでなく、いろんな人におせっかいを焼いてしまうとてもやさしい人たちでしたので』
優しい家族、ね。
俺には縁のない話だな。
家族から優しさを感じたことなんて一ミリもない。そもそも、俺を育ててくれたのは本当の家族でもない。俺を置いて家族旅行にいくような人たちだった。そんな奴らから愛を受け取るなんて無理な話だ。
高校入学時に入寮したことや、自分が死んだこともあり、最後に会ったのなんて遠い昔のように思っていたが、よく考えたら俺が死んでまだ1年も経っていないんだよな。
それだけ、こっちでの生活は濃くて、それでいて、俺の中で大事なものになっていたのかもしれないな。
いけない、ガラにもなく感傷に浸ってしまった。
あの時のことなんて、今更考えたってどうしようもない。別に俺にとってはどうでもいい記憶だ。
家族も、何もかも。
俺は頭を軽く振って、
『家族以外には尊敬する人はいますか?』
『そうですね。この学校で言うなら、生徒会長と死んだ世界戦線の人たちは尊敬してます。彼らは自分たちの信念を持ち、そして人のために行動をすることが出来る人たちです。なかなかできることじゃないので、そういう部分は尊敬してますね』
おぉ。
なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
俺は愛上の発言に思わず顔がにやけてしまった。
普段から何を考えているのかわからない愛上にこんなことを言われるのは違和感があるが、それでも普通にありがたいと感じ、素直に嬉しいと思った。
遊佐の方をちらりと見るが、特に表情に変化はない。いつものことだが。
こいつもこいつで何を考えているのかわからないよな。
『あとはそうですね。先生方も尊敬してます。生徒数もさることながら、問題を抱える生徒も多い中で、授業や教育に熱心に取り組む姿勢には感服します。何度でも不良生徒に注意しに行く姿には憧憬を覚えます』
その言葉に教師二人は照れ臭そうに頭をかいていた。
愛上は、NPCにまで尊敬の念を向けているのか。もはやそんなお前に尊敬するぜ。
『他にも、コント部の人たちも尊敬してます。あと学食のメニューも尊敬してます』
お? 風向きが変わったぞ?
俺のその勘は正しく、そのあと30分ほど愛上の尊敬しているものたちが列挙された。
最終的に『雑巾のばってんの縫い目』の尊敬ポイントを述べたところで面接官が泣きながらどこかへ行ってしまったので、愛上はしぶしぶ教室を出ていった。
残された主任の女教師は、愛上の話に出てきた尊敬できるものを紙にまとめ、『これは尊敬できる、これはできない』と自己流の仕分けを開始していた。
遊佐はいつの間にか帰っていた。よくここまで付き合ってくれたと思う。
今度何かをおごろう。
俺はそうだな。
一度窓から飛び降り、記憶のリセットを試みようとしたが勇気が出なかったのでやめた。
その日見た夢は、自分の人生でも稀にみる、たいそうな悪夢だったとさ。
以前没にした話「フビライハンかるたなど」を読み返したら、マジで意味が分からなかった。
書き溜めが無くなって、毎日更新が途絶えそうになったら投稿するかもです。
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これからも楽しんで読んで頂けるよう努めていきますので、今後も応援お願いします。