かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった   作:おこめ大統領

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25、体育祭など

「遊佐さん、次のプログラムは何だったかしら?」

「はい。次は組対抗の応援合戦だそうです。クラスリレーはその次の次ですね」

「ようやくね。椎名さん、後で交渉もあるし、今のうちに準備運動とかしておいてちょうだい」

「了解した」

 

 そう言うと椎名さんはすさまじい速さでどこかへ消えていった。

 あれだけ速いなら準備運動なんて必要ない気がするけど、万が一ということもあるからね。

 

 男子勢はさっきまで向こうで草笛吹いたり、鬼ごっこをして遊んでいたが、今はどこかへ行ったみたいなので、ここにいるのは遊佐さんと私だけになった。なんで男子はあんなにわんぱくなのだろうか?

 

 ギター二人は知らん。きっと今頃どこかの教室で作曲でもしてるに違いないわ。全く協調性というものが無さ過ぎるわね。

 

「にしても、今時体操服がブルマってどうなのよ? これも神が用意したのかと思うと、ちょっと違う危険性を感じるわね」

「だったら着なければいいのでは?」

「雰囲気よ雰囲気。どうせ今後は体操服を着る機会なんてそうそうこないでしょうし、味わっておきたいのよ」

「ツンデレですか?」

「違うわよ‼」

 

 ツンデレなんて現実にいたらただのめんどくさい奴じゃない。私は常に素直に生きてる清廉潔白系女子なのよ。真反対と言ってもいいわ。

 

「今時、と言いましても、この世界にいる人たちは微妙に生きていた年代がちぐはぐなので、人によってはこれがスタンダードなのかもしれませんよ」

「……まぁ、それもそうね」

 

 そう。それがこの世界に対する私の疑問の一つ。

 ここに来た順番と生きていた年代の噛み合わなさだ。

 

 もしこの世界での時間経過と現実世界の時間経過が同じだとしたら、椎名さんの常識が江戸時代前辺りで止まっているように思えるのには矛盾が生じる。

 

 椎名さんはこの世界に来てすぐに地下のダンジョンに潜り、そこで8年程度を過ごした。

 私がこの世界に来てどれくらい経ったかは覚えていないけど、少なくとも私が死ぬ8年前、つまり小学生くらいの頃にくのいちなんていなかった。というか、散切り頭を叩くまでもなく、文明開化なんて当の昔に終わっていた。

 

 これが何を意味するかは今は分からないけど、今後は調査していく必要があるかもね。神や天使にばれないようにやらないと消されるかもしれないから、慎重に進める必要があるけど。

 

「ゆりっぺさん」

「っ! な、なにかしら?」

 

 思考の沼にはまりかけていたところで、隣にいた遊佐さんから声がかかった。

 

「愛上さんが出てきたのですが」

 

 遊佐さんの声に導かれるように校庭に目を向けると、そこには愛上くんがぽつんと一人で突っ立っていた。

 

「なんでよ。各組の応援合戦なんでしょ?」

「先ほどの放送を聞く限りは前座としての余興を行うようです」

「聞き逃していたわ。にしても、体育委員や生徒会は、なんであいつを野放しにしてるのかしら?」

 

 私の疑問に対して返答が来る前に、あたりから音楽が流れてきた。

 どうやら愛上くんの余興が始まるようだ。

 

『桃太郎』

 

 放送で愛上くんの声が流れると同時に校庭に黒子が多数出現し、セットやエキストラの準備が整えられている。

 

 なるほど、桃太郎の演劇をやるのか。

 高校生にもなって見てもなぁ、と言う感じが否めない。

 

 そんなことを考えていると、セットの準備が整ったようだ。あれは、満員電車の中だろうか? でも、桃太郎をやるはずなのに一体なぜ?

 

『俺の名はジョニー。町を守る正義のヒーローだ。今日も悪の組織がどこかで悪さをしていないか、パトロールに出かけるとするか!』

 

 開始数秒で桃太郎要素は消し飛んでしまった。

 

『ジョニー。二丁目に悪の組織が出現した。今すぐ変身して向かってくれ!』

 

 老人のようなしわがれた声がどこからともなく聞こえてきた。博士的な誰かがジョニーと通信をしている、と言う設定なのだろう。

 

『分かったよ博士!』

 

 そう言うと、ジョニーは電車内をなぜか見回した。

 今のところは普通にヒーローものっぽい感じね。なんで満員電車に乗ってパトロールをしてるのかは不明だけど。

 するとジョニーは電車の中の人込みをむりやりかき分けてある男の元へ到着すると、そいつの手を思いっきり掴み声を上げた。

 

『この人、痴漢です!』

 

 その声と共にジョニーは光に包まれた。

 

『説明しよう。ジョニーは痴漢を捕まえることで正義のヒーロー・チカンアカンマンに変身することが出来るのだ!』

 

 痴漢を捕まえることで変身って。

 まぁ正義っぽいと言えばぽいけど、難易度が滅茶苦茶高そうね。

 

『ちなみに、冤罪の人を捕まえると食道が滅茶苦茶細くなり、春巻きが食べられなくなってしまう!』

「罰が重すぎないかしら?」

 

 そんな状態でヒーローを続けてるんだから、ジョニーは本物のヒーローね。演劇だけど。

 あと食道が細くなったら、春巻き以外にももっと食べられないもの出てくるとおもうのだけど。

 

 その後、変身したジョニーは悪の手先の元に行き、無事に倒すことに成功した。瞬殺だった。

 そして、電車に乗り自宅へ帰ろうとしている時だった。

 

『ジョニー! 大変じゃ! ついに悪の大首領が現れた! 奴さえ倒せば世界が救われる! 急いで向かうのじゃ!』

『そんな…! 今は電車内に俺しかいないのに…!』

 

 そう、今ジョニーが乗っている車両には痴漢どころか乗客がそもそもいないのだ。ジョニーが嘆いていると、どこからともなく悪の大首領らしき男の声が響き渡った。

 

『はっはっは、ジョニーよ。お前が痴漢を捕まえないと変身できないことは知っておる。お前が先ほど捕まえた痴漢が、この世で最後の痴漢だ。私達悪の組織が取り締まりを強化したおかげで、もう痴漢は現れない!』

 

 この敵、結果として世界を平和にしていない?

 まぁ、世界征服とかされたらたまったもんじゃないので、やはりぶっ倒してほしいが。

 

『これで私の目標であるダーククレープ屋の開業まで、あと一息だ! ぬわっはっはっは!』

『くっ! そんなことはさせない! この命に代えても!』

 

 ジョニーは拳を握りしめ、最大限に悔しそうな表情を浮かべる。

 

「なんでよ! クレープ屋を開くくらい別にいいじゃない!」

「痴漢を撲滅して、クレープ屋開くとは、なんだか女子の味方みたいな悪の組織ですね」

「そもそもそんなの悪の組織でもなんでもないわよ……」

 

 遊佐さんとやるせないやり取りをしていると、ジョニーが乗客のいる他の車両に移り、電車内を走って痴漢がいないか探し始めた。

 しかし、それでも人は少なく、痴漢なんているはずもなかった。

 

『くそ! 痴漢がどこにもいない! あ、おいきみ、痴漢に興味ないか! 誰でもいいから今すぐしてほしいんだ』

『は? 何を言ってるんだ、君。警察に突き出すぞ』

『この人も洗脳されてるのか…! くそ、俺はどうしたら…!』

 

「いや、常識的な対応をしてるだけでしょ」

「ヒーローだったの、最初の5秒くらいだけでしたね」

 

 やがてジョニーは決意を固めたような表情を浮かべ、自分の尻を自分で触り始めた。

 そして、その手首を自分でつかみ、声を張り上げた。

 

『俺は痴漢だ!!』

 

 すると、ジョニーが黒い光に包まれた。

 予想外の展開に固唾を飲んで見守っていると、光が晴れ、そこには黒い馬に乗った黒い騎士が佇んでいた。

 

『俺の名は悪魔騎士バドルド。俺様こそが地球を支配するにふさわしい』

『お~やおや、ジョニーさん。自分で自分を痴漢してしまったばっかりに悪の心に侵されてしまったようじゃ。こりゃ大変じゃぞ~』

 

「なんでだああああ! 確かに正義の味方とは思えない行動をとっていたけども!」

「抽象的に見れば、かなり熱く危機感もある衝撃展開なのにナレーションのせいで緊張感が皆無ですね。旅番組じゃないんですから」

 

 確かに、ヒーローが闇落ちしたという側面だけを見たらかなりの展開だ。このあとどうやって取り返すのかは見ものではある。

 

 私は意外とこの劇にハマってしまっているという事実から目を背けながらも、劇を見続けた。

 すると、悪魔騎士の元に一人の青年が駆け付けた。味方だろうか?

 

「……ていうか、あの青年野田君じゃない?」

 

 ハルバード持ってるし。

 あと、なぜかフルフェイスのヘルメットを持っている。

 

『現れたな、悪魔騎士! 今日こそは俺がお前を倒してやる! 変身!』

 

 変身の言葉と共に野田君が光に包まれた。やがて発光が収まると、そこにはヘルメットをかぶっただけの野田君がいた。

 

『俺の名は募金仮面・サクリファイスポケットマネー! 募金をしているから、俺は強い!』

「募金をするほど強くなるとかじゃなくて、募金をしているから強いって……。どういう理屈なのかしら」

「野田さんに理屈とかわかるんですかね?」

「遊佐さん、あんた実はあいつらのこと嫌いでしょ?」

「そんなことありませんよ。皆さんとても面白いです。笑わせていただいてます」

 

 そんなこと言いつつも、遊佐さんの表情は微動だにしていない。

 しかも、笑わせていただいてますって、どことなく小ばかにしている感が滲みでているわね。私には冗談だって通じるけど、彼らはバカだから本気で信じてへこみそうな気がする。

 

 自身の注意を、思考から野田君の方へ移すと、案の定悪魔騎士にボコボコにされていた。

 しかし、何度やられても、野田君は立ち上がっている。

 その光景からは、どことなく心にぐっとこみ上げる熱いものを感じざるを得なかった。

 

『ふ、募金をしている俺にとってはその程度の攻撃など、蜂が止まっただけに等しい』

 

 微妙にわかりにくいたとえをしてる野田君だが、ボロボロの姿から繰り出されるその挑発は意外にも効いたようで悪魔騎士は少し動揺していた。

 

『なぜだ! なぜ貴様は倒れない!』

 

 悪魔騎士が耐え兼ねて野田君に問いかける。

 

『ふっ、決まっているだろう、そんなこと。俺が、募金をしているからにきまっているだろうがああああ!』

 

 そう言って再度突撃するがやはり返り討ちにあい、大の字に倒れこんでしまう。

 全身から血が滲み、服もとうにボロボロだ。

 

 観客の中には手を握りしめ、涙を浮かべながら祈っている者もいる。

 気持ちはわからないでもないけど、熱の入り方ハンパないわね。

 

『11万、4991……、これが何の数字かわかるか?』

「募金した額でしょ。どうせ」

 

 野田君が立ち上がりながらも謎の問いかけを始めた。

 にしても、多いんだか少ないんだかわからない額ね。募金のヒーローを名乗るなら100万円単位で募金しておきなさいよ。

 

『募金の額だろ?』

 

 案の定、悪魔騎士も同じ返しをする。こいつ、チカンアカンマンだった時よりもまともになっているように見えるのは気のせいだろうか? 

 

『いや、違う! ただの俺の好きな数字だ! うおおおおおお!!!』

「なんでこのタイミングで言うのよ!! しかもすっごい微妙な数だし!」

 

 野田君は最後の力を振り絞り、悪魔騎士へ駆けていった。

 

『俺は強いんだあああ! なぜなら、募金をいっぱい、しているからあああああ!!』

 

 悪魔騎士と刃が交差する。

 刹那の沈黙の後、倒れたのはなんと悪魔騎士だった。募金仮面・サクリファイスポケットマネーがついに勝ったのだ。

 

 観客から大きな歓声と拍手が巻き起こる。

 野田君も拳を天に掲げ、歓声にこたえる。

 しかし、その時異変が起こった。野田君が苦しみだし、体から黒い煙が出て、やがて大蜘蛛の化け物のような姿に変わってしまったのだ。

 

『ははは、俺の名前は人喰い蜘蛛・モグモグマンチュラ。お前ら全員食ってやる!』

『お~やおや、募金仮面さん。募金の限界を迎えてしまったばっかりに悪の心に侵されてしまったようじゃ。こりゃ大変じゃぞ~』

 

「またこのくだりかい!」

「天丼好きですね」

 

 このやりとりをあと何回見なくてはいけないのだろうか。

 しかし、観客たちはまるで初見のように固唾を見守っていた。中には「募金仮面―!」と叫びながら泣きだしてしまった人までいた。どんだけのめり込んでるのよ!

 

 そんなとこに一人の青年が現れた。

 山吹色の道着を着た日向君だった。

 あなた、ついにそっち側に行ってしまったのね。

 

『やい、モグモグマンチュラ! お前の好きにはさせないぜ! このドラゴンボールマニアたけしが、ドラゴンボールで覚えた技でお前を倒してやるぜ!』

 

 ただの厄介な勘違いオタクみたいな感じの奴だった。変身も特にしないし、観客も少しがっかりしているようだった。

 しかし、愛上が書いたであろう脚本でドラゴンボールの技ときたら、もうアレしかないだろう。私は少しワクワクしていた。

 

 日向君は余裕たっぷりな表情で、まるで岩場での最初のベジータ戦の時のような構えを取った。

 

 風の音だけが周囲に響き渡る。

 

 なぞの緊張感があたりを包み込むと、日向君がゆうに20mはジャンプし、急降下してきた。

 

『喰らえ、第21回天下一武道会の出場者ナムの必殺技! 天空×字拳!!』

「誰が覚えてんのよ! そんなマイナー技!」

 

 腕をクロスしながら落ちてきた日向君の攻撃はそのままモグモグマンチュラに直撃し、見事撃破した。

 先ほどの野田君の時のような熱さは一切なかった。

 観客からの拍手も心なしか少ないように思えた。

 

 日向君が息を吐き、額の汗をぬぐっていると、また新しい人間が現れて日向君に向かって叫んだ。

 またこの展開か。でも、日向君は化け物になってないわよ。

 

『そ、そこにいるのは、流れ的にこのあと魔物に変身しそうなお方! そんなやつはこのぼく、じゃなかった。この私が倒して見せるわ!!』

 

 足の震えた大山君が緊張した面持ちで登場した。

 より正確に言うならば、女装した大山君だが。

 その装いは、光村君に毒おにぎりを盛るために女装した時とほぼ同じ、つまりカツラと女子の制服姿だからこそ私はすぐに分かったが、他の客からしたら普通に女子に見えるのではないか。

 

「大山さんの女装、何度見ても可愛いですね」

「そうね。女子として負けた気になりかけるわ」

「実際になりはしないところがゆりっぺさんらしいです」

 

『今から私が変身して、あなたを木端微塵に消し去ってあげるわ! 覚悟しなさい!』

『はぁ?! ちょっと待てよ大山! 俺はこの後お前と協力して、最後の敵を倒すはずだろ! なんで俺が殺されるんだよ!』

『ごめんね、日向君! 君の台本は偽物だったんだ。最初からこうなる手はずだったんだよ。恨むなら時代を恨んでね』 

 

 日向君がキャラを忘れて抗議している。彼、どこにいてもあんな扱いなのね。不憫には想うけど、不思議と優しくしてあげようという気持ちにはならないわ。

 

 その後大山君が何か呪文を唱えると、大山君の体が発光し、衣装がフリフリのかわいらしいドレスへと変化した。

 

『ま、魔法少女! エシカルジャッカル! あなたが化け物に代わってしまう前に、私のビームを喰らいなさい!』

『そんな展開、納得できるかあああ!』

「遊佐さん、エシカルってどう意味だっけ?」

「倫理的、という意味です」

「倫理的なジャッカル、ねぇ」

 

 全くイメージが湧かない。罪とかは全然犯さないジャッカルということなのか?

 いや、まぁ、考えるだけ無駄だろう。どうせ語呂で適当に付けた名前だろうし。

 

 ぱぁん。

 

 あまりに突然の出来事だった。

 乾いた破裂音があたりに響き、空気を震わせた。

 

 音の出所は大山君の手の中にある銃だ。彼は銃口からあがった煙をふっと吹いて、ポケットに仕舞った。対して日向君は血を流し、ピクリとも動かない。

 

 ふいの出来事に、私含め、観客たちはフリーズしている。

 

 静寂だけが、そこにはあった。

 

「ま、魔法でも少女でも倫理でもジャッカルでもない倒し方すんなああああ!」

 

 私は思わず、大きな声でツッコんでしまった。

 周りからの視線を集めてしまったが、後悔はない。あそこでツッコまなきゃ、私は私でなくなってしまう気がした。てか、普通に意味わからなかった。

 

 しかし、私の雄たけびなど介さずに、物語は進んでいく。

 

『悪は滅んだ』

 

 愛上君の声がスピーカーから流れだした。

 

『しかし、失った代償はあまりにも大きい。エシカルジャッカルは一筋の涙を流した』

「撃った後に銃の先に息を吹きかける奴がそんなんで泣く訳ないでしょ」

 

 実際、大山君は泣いていなかった。

 

『彼女は、悪に落ちてしまったヒーロー達の魂を浄化するために、それらを一つの桃に吹き込み、川へ流した。こうして、後に桃太郎となる存在は、誕生したのであった』

 

 

 そういえば、これ桃太郎だったわ!!!

 

 

 

 




入院回やクイズ回や今回みたく、原作キャラと一緒にコントやってる話をもう少し増やしていきたいなって勝手に思ってます。

ちなみに、次話は今回の続きになります。
日向とかが寸劇に参加した理由などが語られますので、お楽しみください。
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