かめはめ波を撃とうとしたら、新世界を作ってしまった   作:おこめ大統領

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28、柔道など

 楽しい!

 

 

 楽しい!!

 

 

 目の見える世界が楽しくて仕方がない!

 

 

 

 

 俺は校舎外の道行く人を投げ飛ばした後、そんなことを考えていた。

 

 この世界に来て数日経つが、未だにその楽しさは衰えず、今日もせっせと人を投げ飛ばしまくっていた。無論、女子やひ弱そうな男子には手を出していない。いくらなんでもそれくらいはわきまえている。

 

 最近では俺に近づく一般生徒は減ってきて、代わりに挑戦者的な猛者が増え始めていた。と言っても挑戦者は数少ないので、実感としては、ただ投げ飛ばせる人間が減っただけと言う感じに近い。

 

 そんなことを考えていると、目の前に少し背の低い男子生徒が通りかかった。身長は低いが骨格からは軟弱そうには見えない。投げ飛ばしても問題ないだろう。

 

「たのもー‼」

 

 投げてもOKの判断を脳が下した瞬間には、既に声をかけ、駆けだしていた。男子生徒がこちらを振り向いたと同時に、俺は腕と襟をつかみ投げ技を披露した。

 

 なすすべなく地面に叩きつけられた生徒はというと、……む? ひよこが顔の上を飛んでいるぞ。しかも、目はぐるぐると蚊取り線香のように渦巻いており、なんというか、気絶していることを漫画的に表したような光景がそこにはあった。

 

「一体、どういうことだ?」

 

 俺は自分の目を何度かこすり、再び気絶しているであろう生徒に目を向けるが、やはりひよこが飛んでいる。

 今まで投げ飛ばした生徒にはない症状ということで少し不安になったので、彼を保健室に連れて行ってやることにした。この世界だとこういう場合もあるのだな。

 

 連れていく際に彼をお姫様抱っこしようとしたら、ひよこがどこかへ飛んで行ってしまった。

 

 よく考えたら、ひよこが飛んでいるのはおかしいのではないか?

 鶏ですら飛べないというのに。

 

 保健室に彼を送り届けた後は、投げ飛ばしを再開せず、大人しく寮へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 翌日、いつも通り生徒を投げ飛ばしていると、ある生徒が俺の元へ近づいてきた。

 

「お前か! 俺を投げ飛ばした挙句、かわいいひよこたちに『海のミルク』というタトゥーを彫っちゃった男は! ひよこは生牡蠣じゃないんだぞ!」

 

 どうやら昨日のひよこ気絶の男らしい。起きている状態でちゃんと見るのは初めてだったので、一瞬誰だかわからなかった。それにしてもこの声、どこかで聞いたことがあるような気がするが、気のせいだろうか?

 

 とりあえず、弁明をすることにしよう。

 

「昨日は投げ飛ばしてしまってすまないな。しかし、俺は君のひよこにタトゥーなどいれていないぞ。どこかへ飛んで行ってしまったが」

「ふ、語るに落ちたな! ひよこが飛んで行ったことを知っているのは犯人のみ! つまり、お前が俺を投げ飛ばした犯人に違いない!」

「いや、だからそう言っているのだが……」

 

 一回分無駄な会話ラリーを挟みはしたが、彼が怒っていることには違いない。まぁそれも当然だな。なんの謂れもなく、いきなり投げられたのだから。

 

「しかし、どのみち俺にはこれ以上謝るつもりはない。もしそうさせたいのなら、俺から一本取ってみろ」

「言い度胸だ。この『恐怖の味噌汁』の二つ名をほしいままにする俺に勝負を挑もうとは」

「強いのか弱いのか怖いのか怖くないのか、何もかもわからない名前だな。そんな風に呼ぶ奴には怒ったほうがいいのではないか?」

「問題ない。もう一人の僕からしか呼ばれないからな」

 

 彼の発言にはてなを浮かべていると、彼は金色に光る家の模型を俺に見せてきた。

 

 その洋風な屋根の中央にはなんだか目玉のような模様もある。あれはいったいなんだ?

 

「この千年シルバニアファミリー明かりの灯るおおきなおうちを前にどれだけ戦えるかな? いくぜ! デュエルスタンバぁぁぁあぁあああ!」

 

 なんだかよくわからないことを言っていたので、そのまま投げ飛ばしてしまった。

 

 再び気絶した彼の頭上には鶏が数羽飛んでいた。成長したのか。

 しかも、これでもかってくらい鳴いている。

 

 逆によく気絶していられるな。

 

 

 

 

 

 

 鶏男は翌日も俺の元へ挑戦にきた。懲りないやつだな。

 しかも、よく見ると、昨日までと違って山吹色の道着を着ていた。勝負服と言ったところか。

 

「今日も勝負か? 俺はいつでも受けて立つぞ」

「俺を昨日までの俺と同じに思わないほうがいいぞ。今日はリミッターを外して相手してやる」

 

 そう言って彼は、着けていたリストバンドを外した。

 リストバンドはそのまま重力に従うように落下していき、大きな音と地面に罅を残した。アレは重りと言うわけか。

 

 そして、インナーも同様に脱いで地面に落とした。アレも重りか。どちらも5㎏10㎏程度のものではないだろう。なるほど、なかなかの膂力をしているようだな。

 

「しかし、それではいつもの格好に戻っただけではないのか? 昨日はそんな重りをつけていなかっただろう?」

「何をいうか! 俺は馬小屋に生まれ落ちたその時から重りを付けて生活していたわ! この呪いのアルデンテが!」

「そのネーミングセンスは止めてくれ」

 

 馬小屋に生まれたって、聖徳太子か何かなのか? まぁ、そういうのに憧れる年なのだろう。

 俺は特に気にせず、勝負開始とともに相手を投げ飛ばし、いとも簡単にノックアウトさせた。

 

 気絶した彼の顔の上には、毛が全部抜かれた出荷前の鶏が宙吊り状態で周っていた。次気絶させたら、このトリ達は食品状態になってしまうのだろうか。

 

 俺は、こいつとの戦闘で、食と生きることについて学ぶこととなった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺はまたこの男と戦うことになった。

 

 来るとは思っていたので、俺も今日は誰も投げず、万全の状態で待ち構えていた。なぜ彼はこんなにも俺に挑むのだろうか。

 

 自分で言うのもなんだが、あまり彼から恨まれているような感じはしない。どちらかと言うと近所の兄ちゃんと遊んでいるような感じさえする。俺自身にも似たような経験があるから分かる。

 

「今日は俺の100%を見せてやるぜ」

 

 そう言って彼は深く呼吸をし、目をかッと開くと全身に力を入れた。

 すると、筋肉がみるみる肥大化し、やがて制服がはじけ飛んだ。

 

 急に体が3倍も大きくなったが顔のサイズはそのままなので、なんというか、とてもアンバランスで気色悪いなと思ってしまった。

 

「ふぅう、こうなっちまったらもう俺でも俺を止められないぜ。さぁどこからでもかかってきな」

「確かに、昨日までよりは強そうになったな。ただ、柔道は筋肉だけで戦う武道じゃない。ただでっかくなっただけじゃ、俺には勝てないぞ」

「ふん、御託はいい。さっさとかかって来な」

 

 やたらかかってこさそうとするな。あの身なりでカウンター狙いなのだろうか?

 

 いや、もしくは、もう一つの可能性の方か?

 

「……、お前、まさか動けないわけじゃないよな?」

「ふ、何を言い出すかと思いきや」

 

 俺の質問にかすかに笑って答える男。そうだよな、いくらなんでも肥大化した筋肉が重すぎて動けないなんて言う本末転倒があり得るわけないよな。

 

「上半身だけこんなムキムキにしたので、立ってるのさえやっとなんだ。お前と戦えて、俺は楽しかったぜ」

 

 そう言って、男は大きな音を立てて思いっきりぶっ倒れた。地面には昨日同様に罅が入っていた。重りをつけて動くことは出来るのに、筋肉肥大はダメなのか。基準がわからん。

 

 俺は構えを解除して歩みを進めるが、どうやらまだ気絶はしていないようでこっちを見つめ返してきた。

 少し、こいつの気絶を楽しみにしていたので残念だった。

 

「また、勝負しようや」

「まだ戦ってないぞ」

 

 ウインクしながら一昔前の不良漫画みたいなことをつぶやいて彼は今度こそ意識を手放した。その頭上には軽トラックが数台周回していた。きっと鶏たちが出荷されているのだろう。

 

 全ての小中学生に受けてもらいたいな。食育と言うものを。

 

 

 

 

 

「だから俺はそこで言ってやったんだよ。お前はみすぼらしい火力発電所かって!」

「すまない、何度聞いても話の全容がみえない」

「え~、じゃあもう一回最初から話すよ。俺が色違い6Vのオーキド博士を厳選してた時の話なんだけど、」

「いや、もう話さなくて大丈夫だ。何度聞いても分かりようにないからな」

「そう?」

 

 俺が珍しくきっぱりと断ると、愛上──さっき名前を聞いた──が残念そうな表情を浮かべながら話を打ち切った。

 同じ話を5度聞いても一切意味が分からなかったのはこれが初めてだ。頭の良し悪しではなく、もっと根本的な何かが愛上と俺で違う気がした。

 

 俺たちはいま学食の同じ席でご飯を食べていた。俺がここで素うどんを食べていると、俺を見つけた愛上が笑顔で小走りで駆けつけてきたのが始まりだ。いや、小走りではないな。キャタピラがついていたし。

 

 出会った当初はてっきり話の通じないヤバい奴だと思っていたけど、話してみたらいい奴だった。と思っていたが、今の印象は、最初に思ったのとは違う意味で話の通じないヤバい奴だった。

 やはりファーストコンタクトの印象と言うのは往々にして当たるものだ。

 

 それにしても、やはりこいつの声はどこかで聞いたことがある。

 生前は目が不自由だったこともあって、耳はそれなりに良かったのだが、どうも思い出せない。勘違いだったのか?

 

「なぁ、今日も勝負しよーよ」

「構わないが、今のお前じゃ勝負にならないだろう? どうだ、いっそ柔道を始めるか? 俺が鍛えてやるぞ」

「いや、今日こそは俺の力で勝ってみせる。俺には前回までの対戦データがあるからな」

「全部一撃で終わってるのにか?」

「そう思っていられるのも今のうちだけだぞ!」

「今のは紛れもない事実では……?」

 

 俺たちは食器を片付けて、いつも戦っている場所に来た。お互い軽く準備運動を済ませたあたりで、俺はつい気になっていたことを聞いてしまった。

 

「なぁ、なんでそこまで俺に挑むんだ?」

 

 俺は聞いた後に少し後悔した。

 

 こいつが正式に負けを認めた後、そこまではいかなくても今回の戦いでこいつを負かした後にでも聞けばよかったと思ったからだ。

 

 もし、とんでもない理由があったときに、俺は同情して負けを譲ってしまうことがあるかもしれない。俺に限ってそんなことはしないと思うが、それにしても勝負の前に戦う理由を聞くのは、なんとなく申し訳ないような気がした。

 

 俺の後悔をよそに、愛上は少し笑って空を見上げた。

 

「俺には昔、将来を誓い合った幼馴染がいたんだ」

 

 そして語られる愛上の過去。

 

 幼少期に空母につかまったこと。

 そこにいた適当な通訳のせいで、モノクロのハムスターに命を狙われていると勘違いされたこと。

 空母の人が気を使ってほんとに大量の人造ハムスターを用意したら、巨大な一体のハムスターになってスイミーみたいだなぁって思ったこと。

 その化け物から日本を守るために、彼が氷の鳥に変身して戦ったこと。

 死闘の末、体力を消耗したフリーザーは双子島にて伝説のトレーナーが来るのを今でも待ち続けている。

 

「そして、この度フリーザーをモチーフにした麻雀が出ることになったので、」

「ソイヤッ!!」

 

 話の意味が分からなかったので、とりあえず倒してしまった。大の字で地面に倒れる愛上の頭上には、おいしそうな肉うどんがくるくると回っていた。

 

「……、もう一杯食うか」

 

 俺は肉うどんを食うために、再び食堂へと足を運んだ。

 

 

 俺が高松や死んだ世界戦線のメンバーと会うことになるのは、もう少し後のことだ。

 

 

 

 




前話「スキル開発など」のプロットとどうやって書いたかを活動報告に簡単に書きました。もし参考にしたい人がいればどうぞご覧ください。
もし、こういうのがもっと見たいという人が多ければもっと詳しく書きます。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=233702&uid=137629

【次回予告】
天使と戦線がついに戦います。愛上は見学してます。
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